トリニティ学園、その本館は建造何百年も経つ歴史的建造物だ。そこにはトリニティの権威と誇り、そして血がしみ込んでいると言われる。私はそんなトリニティ学園本館最深部、ティーパーティーが使う部屋の前にいた。
流石に少し緊張してくる。それに、私はこれからあの人物と会うのだ。ちらり、と金色の装飾に映る自分の姿を見る。髪が少し乱れていたので手櫛で整えていると、横にいた先生が話しかけてくる。
「もう大丈夫?」
「っああ、大丈夫だ」
「じゃあ、行こうか」
先生が扉をノックする。しばらくの間を置き、扉の向こうから、少し幼げな、しかしそれ以上に落ち着きを感じさせる声が聞こえてきた。
「入って来てくれたまえ」
扉が先生の手で開かれる。私はためらいつつも、部屋の中へと足を踏み入れた。
「先生、よく来たね、待っていたよ」
「やあセイア、お邪魔するね」
__思っていたよりも、小さいのだな。というのが第一印象だった。百合園セイアがそこにいた。セイアの目線が先生から私へと移る。そんなことはないと分かっているのに、すべてを見透かされたように思い心臓が縮みあがるのを感じた。
「それで……その子が例の子かい?」
「そうだ、百合園セイア、現実では初めましてだな」
……失敗した。私らしくない、冷静さを欠いている。幸いにも、セイアは少し目を細めたが、そのまま会話を続けた。
「……そうだね、とりあえず、お茶はどうだい?話があるのだろう?」
「いただこう」
私はそう返答し、歩き出したセイアに続く。……小さい背だ。セイアが席に付き、私と先生も席に付いた。たくさんのお茶菓子やサンドイッチを眺めていると、待機していたメイドが紅茶を入れていく。紅茶の良い匂いがする。
メイドに感謝を述べ、紅茶を頂こうとカップをもった所で気が付いた。これはマナー的にはどうなのだろう?百合園セイアの方をちらりと見ると、セイアは一瞬不思議そうな顔をしたのち、合点がいったような顔でこう言った。
「ああ、言い忘れていたね。この場は、先生と私の間で個人的に開かれたものだ。公務ではない以上、細かなマナーなどは気にしなくていい。もちろん、常識的なそれは守ってもらうがね」
「……そうか、お気遣い感謝する」
私はそう返し、ありがたく紅茶を口に含む。……とても美味しい。緊張で乾いた口が、紅茶の心地よい苦みで潤っていく。私が紅茶を下ろすとそれを見ていた百合園セイアがこちらに問うてくる。
「お口にあったかな?君は苦めが好きと聞いていたから濃いめにしておいたのだけれど」
「……そうだな、美味しい」
「それは良かった」
私の正直な感想を話すと、百合園セイアは微笑みながらそう返し、こちらにお茶菓子を進めて来る。
「お茶菓子も多くそろえているから、自由に頂いてくれ。もちろん先生も」
「ああ、ありがとう……」
「ありがとう、セイア」
会話も終わり、雰囲気も落ち着いたころ、セイアが本題を切り出してきた。
「それで、話とは何なんだい?ティーパーティーではなく、私個人に話があるとのことだったけれど……」
……話さねば、ならない。にもかかわらず、私の口は開かなかった。その様子を見た先生が話しかけてくる。
「………」
「もしよければ代わりに……」
これは、私が、私でやらねばならない事だ。先生に任せるなんて、私のプライドが許さない。
「いや、先生、私に話させてくれ」
「___百合園セイア、私はあなたが恐ろしい。」
___________
話を聞いたセイアは、困惑とも憐憫とも取れる微妙な顔をしていた。突然こんな事を話されても、彼女は全知ではない以上、そう感じるのも当然だ。
セイアが口を開く。
「……話は分かったよ、しかし現在私は予知の力を失っているわけだが……」
「それでも、怖いんだ……」
そうだ、私は百合園セイアが未だに恐ろしい。この困惑の表情も、先生の対応も、エデン条約も、実は全て彼女の手の平の上では無いかという恐怖が、未だ頭の中に染みついて離れない。恐怖を打ち消すために手を固く握る。
セイアの目が、こちらを見て少し心配げなものになる。そして、私の本意を探るようにこう質問した。
「そうか……それで、君はこの先どうしようと?」
……この時が来てしまった。まずい、落ち着け。心臓が早鐘のように鳴り響く。
「あー…その…んー」
「……?」
「その……だな」
百合園セイアが怪訝そうな顔でこちらを見ている。……くそっ!!言ってしまえ!!
「……いや……ああもう!百合園セイア!」
「……なんだい?」
「私と友達になってくれ!!!」
セイアは瞳を大きく広げ、口をぽかんと開けている。
「……え?」
「いやっ!だってそうだろ?私は、あんたを知らない!だから恐ろしい!ならば、知ればよくて……だから、その、うあーーーーーー!!!」
恥ずかしくてたまらない。この私が、まるで小学生のような……唸っているとセイアの冷静な声が聞こえる。
「……話はわかったからとりあえず落ち着き給えよ」
鼓動をどうにか抑えるため、深呼吸をする。セイアは、どう思っただろうか……?恐れつつも返答を待つ。
「すー……はあ……」
「すまない……恥ずかしい事だが、これまでその…友達と呼べるのはあいつらだけで……あいつらとは自然につるんでたたから……こういうのに慣れて、なくて」
「……それで、どうだろうか……?」
セイアは少し考えるそぶりを見せる。
「私は別に構わないけれど……」
「君こそ、良いのかい?私は君が嫌うトリニティ、そのトップたるティーパーティーの一員だよ?」
自然と口が動いた。
「……?それは、関係ない事だと思うが」
「トリニティの事は確かに嫌いだが、それとあなたは別のものだろう?少なくとも、私はそう思う」
セイアは目を大きくし、驚いたような顔でこちらを見る。
「……そうか、君は……」
「前言撤回だ、やはり、知り合いから始めないかい?」
「えっ……」
……えっ
「……そんな顔をしないでくれ……私は、ティーパーティーの百合園セイアではなく、ただの百合園セイアとして君と付き合うことに決めた」
「正直に言おう、先程友人になることを了承したのは、ティーパーティーの一員として、ゲヘナ学園エデン条約反対派の旗印であった君と友好を結ぶのは理に叶っていたからだ」
「……」
……そういう可能性を考えなかったというと嘘になる。が、そういった事は些細なものに過ぎない”だろう”と考えていた。しかし、ここはゲヘナではなくトリニティだ。私の認識は誤っていたのだろう。だが、何故それをセイアは言い出したのだろう?
セイアは紅茶を一口飲み、続きを話す。
「だが、先程の発言を聞いて考えが変わってね」
「君とは、個人としての私(百合園セイア)として付き合うことにした」
「すまないが私は君に良い印象を持っていない。ティーパーティーとしての立場を抜いて友達になりたいかと問われれば断るだろう」
「だから……知り合いから、始めないかい?」
……!
「もちろん!これからよろしく頼む!セイア!」