リリベル随一のバカ   作:全智一皆

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第三話「仕事への道程」

 

■  ■

 たきなが喫茶店リコリコに左遷されてから、一ヶ月が経過した。

 錦木千束に振り回されて終わった初日は終わり、今日を迎えたたきなは、今日も今日とて振り回される事になるだろう。

 何故? そんなの単純だ。実に簡単な答えである。

 今日は―――千束だけではなく、木蔦も居るのだから。

 

「今日も良い天気だ。うん、くっそ眠い」

「開口一番からそれー? 今から任務なんですけどー、せいよーくん」

 

 晴れ渡る空の下、道路を歩く一人の少年と二人の少女。

 暖かな日に照らされて眠気が出たのか、木蔦は大きく欠伸をした。

 本来ならば決して協力する事のないリリベルとリコリスが、こうして肩を並べて歩いている光景というのは、中々におかしな場面である。

 彼らは今日、とあるハッカーの護衛任務に就く事になっている。何でも、ウォールナットと呼ばれる凄腕のハッカーが命を狙われているのだとか。

 これからそのハッカーと合流する為に、三人は駅に向かっている最中なのだ。

 

「でも眠いもんは眠い。夜更かししちゃったから尚更眠い」

「自業自得じゃないですか」

「そうとも言う。流石賢いな、井ノ上」

「そうとしか言いません。貴方が馬鹿なんです」

「あ゛ぁ!?」

「眠気は覚めましたか?」

「あ、うん。あざっす、井ノ上!」

 

 こういうやり取りも何度目だろうか。

 一ヶ月も時間が経ったのだ、たきなも少しくらいは木蔦の扱いを心得始めてきたらしい。

 まぁ、それはそれとして、やはり馬鹿であると言わずにはいられない。

 

「やっぱり馬鹿ですよね、この人」

「そうなの、せいよーくん馬鹿なの」

「人の事を馬鹿馬鹿言うの止めてもらえます? 女子二人から罵倒されると心が折れるよ泣きますよ?」

「でも知識は豊富なんだよ、それで助けられる時もあるから」

「あーもう最高だよ錦木、お前ナンバーワン」

「チョロいな」

「チョロいですね」

「チョロ過ぎるな」

「急に冷静になるじゃん! そういう所怖いよー、君?」

「今更過ぎるぞ、錦木。つか腹減ったわ、駅弁何食おっかなー」

 

 それなりの距離を歩いて駅に到着して早々、木蔦はすぐに駅弁が売ってあるコーナーへと歩いて行った。

 朝も昼も食べていないのだ、そりゃ腹が減る。千束とたきなの二人も同じである。

 あー、私も食べるー! と、千束は木蔦を追い掛けて並んだ。

 

「生姜焼き美味そうだな…あ、海鮮系もあるぞ。海老載ってるわ、うまそー」

「お、良いねー。でも牛丼もあるよ?」

「牛丼かー、それも捨て難いな。でもなぁ、複数買うのは時間的にあれだしな。かと言って、持っていく訳にもいかんしなぁ…どっちかと言えば生姜焼きの方が、いやでも最近は海鮮系食ってなかったからなぁ……うーん、どうしたもんかな」

「あ、じゃあさ! 私がお肉買うから、せいよーくん海鮮系買おうよ! そしたら二人で半分こ出来るじゃん!」

「お。それナイスアイデアだわ、錦木。じゃそうするか。会計しようぜ」

「りょうかーいっ」

「…………」

 

 距離が、近い。

 たきなはよく思う。あの二人の距離は、些か近過ぎるのではないかと。現に今もほぼ密着していると言っても過言ではないくらいの距離で、隣を歩いている。

 いや、元々千束がかなり距離感がバグった様な接し方をしていたのだが、それでもあれは色々と近過ぎる。男女としての垣根を乗り越えている様な気がする。

 世間で言う所の恋人とも言えそうだが、どちからと言えば家族という表現の方が近しいかもしれない。とても仲の良い兄妹……と言った所だろうか。

 別にそれに対して口出すつもりはないが、しかしああも距離が近いのはどうなのだろうか。

 リコリスが学生の姿をしているのは、それが世を忍ぶ仮の姿となるからだ。

 だが、ああも密着していては忍ぶもクソもない。完全に目立ってしまっている。

 

「ただいまー! いやー、良い買い物した!」

「久々に海鮮系のやつ買ったわ。いやー、楽しみ楽しみ。井ノ上は何か買わねぇの?」

「もう買ってありますので、問題ありません」

「え、マジ? いつの間に買ったんだよ、めっちゃ速ぇな。よし、じゃ電車乗ろうぜー」

「ちょちょ、せいよーくん! そっち違う! 別の電車だからそれ!」

「あれ? こっちじゃなかったけ?」

「本当にバカですよね」

「だからバカって言うんじゃねぇよゴラァ!!!!」

 

 目立つ事に文句の一つでも言おうとしていたものの、しかし木蔦の所為でたきなもまた目立つ者の一人に入ってしまった。

 何やかんやとやっている間に電車が到着し、三人は急いで電車へと乗り込んだ。空いている席を見付け、腰を降ろしてさっそくと弁当を開ける。

 これまた自然な様に、千束と木蔦は並んで座った。

 それからはお分かりの通り。互いに食べたり食べさせたり。ちなみに、たきなもちゃっかり貰っていたりする。

 

「おわ、海鮮うめー。海老めっちゃ美味いんだけど」

「お肉も美味しい! せいよーくん、生姜焼きめっちゃ美味いよこれ!」

「お、くれくれ。じゃ錦木には海老をやろう」

「やったー!」

「……仲良いですよね、二人共」

「ん、そう?」

 

 ゼリーを吸いながら呟くたきなに、二人は口を揃えて首を傾げた。

 

「私から見ても、かなり仲良しだと思います。二人は長い付き合いなんですよね?」

「そうだねー、リコリコが始まって間もないくらいだから……結構長いかも?」

「店長に捕まって店員になってから、ずっと一緒だしな。井ノ上が来るまで、基本的に任務とか仕事も一緒だったし」

「……もしかして、木蔦さんがミス多いのって千さんの所為では?」

 

 たきなは訝しんだ。

 この男、木蔦正耀のバカさ加減が一切として治らないのは、即ち相方である錦木千束がフォローしまくっている所為なのではないのかと。

 少なくともたきなよりも長い間、千束は木蔦の隣に立って共に任務やら仕事やらをこなしてきた。

 木蔦のあまりにもポンなやらかしは、ぶっちゃけて言えば赤字を叩き出していたかもしれないものもチラホラ。その度に全員がフォローするが、特にそれが活発なのは千束である。

 要するに、千束が甘やかすなら全く治らないのでは? という事である。

 

「えぇ、私!? あー、いやでも……あはは、心当たりが無くも無いかも?」

「いや、それは違う。錦木は全然関係ねぇよ、俺の問題だ」

 

 千束としても心当たりがあるのか、あははと苦笑いしたものの、しかしそれを木蔦本人が直ぐさま否定する。

 事実、それに千束は関係ない。いや、一切と言う程に無関係という訳ではないのだが、しかしこれに関しては千束が甘やかしているとかそういう訳ではない。

 木蔦は、元から()()なのだ。()()()()()()だ。

 故に、それに錦木千束という人間が木蔦正耀をどう扱っているかは関与しない。

 これは木蔦正耀という人間が()()()()()()()に過ぎないのだ。

 まぁ、だからこそたきなはジト目で厳しい言葉を吐くのだが。

 

「それが分かっているなら治す様に努力してくださいよ、そのバカさ加減を」

「はいまた言ったバカって! 今日だけで四回も馬鹿って言われてんだぞ俺は! しかもその殆どがお前からだ! 口を開けば一にバカ二にクソザコって、罵詈雑言を容赦なく浴びせて来やがって! なんですか、ちょっと前に店長がお前用に作っといた餡蜜食ったのまだ怒ってんのか!?」

「いえ、別にそれは……今初めて知りました。そんな事してたんですか、木蔦さん。最低ですね、信じられません」

「しまった藪蛇!?」

 

 どうやら墓穴を掘ってしまったらしい。ジト目がさらに深くなった。

 

「あー! じゃあ前に冷蔵庫に入れてあった杏仁豆腐食べたのって、もしかしなくてもせいよーくんでしょ!」

「はぁ!? いや、それは知らん! マジで知らんぞ、俺! 井ノ上じゃねぇの!?」

「……知りません。単に木蔦さんが憶えていないだけでは?」

「おうこっち見てから言えやコラ。俺がアレだからって何でも誤魔化せるとか思うなよ、てめぇ」

「そろそろ着きますよ。準備してください」

「うそマジでっ!? 俺まだ弁当食い終わってねぇんだけど!?」

「私もまだ食べてなーい!」

 

 たきなは深く溜め息を吐いた。今回の依頼、本当に大丈夫だろうか。

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