滅相もない、この様に私は笑顔が素敵な一般ホロウ調査員で…… 作:マジキチスマイル
A:ホロウレイダー、プロキシ、及び
笑顔が素敵な男性です。
ホロウ災害。それは、新エリー都……いや、この世界で暮らすことにおいて、決して避けては通れない災害だ。
突然現れる、ブラックホールのようなドーム状の空間の中に広がる亜空間、ホロウ。
そこは未知のエネルギー、エーテルに満たされており、エーテル適性がなければ、瞬く間にホロウの中の異形の化け物……エーテリアスへと変化してしまう。
それだけでは無く、ホロウは混沌の世界……右へ行ったつもりが上に行ったり、左に行ったつもりが斜め上に行ったりする様な場所だ。
ホロウ内は総じて危険な空間と言われており、そんな場所に出入りする人間は限られてくる。
公的な職業に付く人間……ホロウ調査協会の人間か、或いはホロウレイダーと呼ばれるホロウ内を違法に行き来する人間、或はそれを補佐するプロキシと呼ばれる人間だ。後はちょっとしたアウトローとか。
とは言え、そんな人間達も余程の事情がない限り好き好んでホロウの中に留まったりしない。
目的を終えたりすれば出口を探してホロウからは逃げ出すのだ。
しかし、狂人と言うのは何処の世界にも存在するもので……そんなホロウの中を好き好んで出入りする者が存在する。
インターノットで度々噂になる、時にホロウの中で見当たる人物、ホロウ内のエーテリアスを手に持った大剣で薙ぎ倒していく。
容姿は赤茶色の下ろした髪の毛。ホロウ調査協会の制服を着て、その手には巨大な黒金の大剣が握られており、それを使いひたすらにエーテリアスを薙ぎ倒す姿が確認されておいる。
そして何よりも……笑顔が絶えないのだ。口角を思いっきり上げて、目を細めて笑っているのだ。
その笑顔に『笑顔の素敵な男性』と言う皮肉めいた名称も広がっている。
彼はその制服が示す通り、ホロウ調査協会からホロウ侵入の許可を得た、所謂調査員だと言う。
そのため、故意に人に危害を加えることは無く、むしろホロウに迷い込んだ人間を救助する側なのだが……彼には絶対に近づいてはならないという暗黙の了解がある。
理由は単純……彼のエーテリアス狩りに巻き込まれるからだ。あたりの箱や調査用のデバイスなどをすべて破壊し尽くして、エーテリアスを葬る様は……『デストロイヤー』なんて仰々しい名で呼ばれている事もある。
そんな彼は今日もホロウの中で任務を進めていた。
「ヂェェェェストァァァァ!!」
知恵捨て、なんて意味が込められてたり込められてなかったりすると言われている掛け声を上げながら、その青年は大剣を振り回してエーテリアス達を叩き斬る。
「来やがれエーテリアス共がぁ!バカヤロウコノヤロウ!!!」
……最早ホロウ調査員ではなく、ただのチンピラである。しかし、彼に近づくエーテリアスはその大剣によりまとめて叩き斬斬られる。
上半身と下半身の分かれたエーテリアスの死骸が次々と生み出され消滅していく……どの種類のエーテリアスも彼に近づいた瞬間から斬られるのを見れば、彼の実力が測れるだろう。
と、同時に彼の大剣の一振りによってせっかく起動したデータ収集装置がその余波で火花を上げながら切り倒された。
そう、今回の任務はホロウのデータ収集。『デストロイヤー』『笑顔が素敵な男性』と揶揄され?男――
「て、テルさん困ります!データ収集装置を壊してしまっては!?」
「……あ゛ぁ゛!?……あぁ、そうな悪ぃな!」
「予備のデータ収集装置起動します!」
テルと同じくホロウ調査協会の調査員がテキパキと続いてのデータ収集装置を起動する……その合間にも、人型や獣型のエーテリアスが次々と現れる。
「ひっ、あれだけ倒したのにまだエーテリアスがっ!?」
「……たしか、サークルの中に敵が入るとデータ収集がストップされるんだったな?」
テルがそうつぶやくと、調査員達は一斉に頷いてくる。……その合間にもデータ収集装置の周りには、サークル状の枠が形成されていた。
「……あいよ。んじゃあお前らは装置の周りに固まれ。」
「は、はい!」
調査員達はテルの指示に従い、データ収集装置の周りに固まる。……やはり、ホロウの中にいるのは不安を掻き立てられるのか、皆不安そうな顔をしている。
テルはそっと調査員達の方を振り向いくと、一言呟く。
「笑えよ。」
「えっ……?」
「いや、笑えと言われても……」
「安心しろって意味だ。サークルの中にエーテリアスが入ってくることは無い……俺が全部叩き斬るからな。だから笑えよ?口角あげて、目を細めるんだよ。」
そう言いながら、テルは口角を大きく上げて目を細める……笑顔は笑顔だ。確かに、まごうことなき笑顔だ。
しかし、その表情は恐怖すら掻き立てられる程に恐ろしい笑顔となっていた。その表情をみて、調査員達はゴクリと息を呑む。
「はは……笑え笑え!あーはっはっはっは!!!」
テルは大剣を構えて、エーテリアスの群れへと果敢に駆け寄る……それは、無茶で無謀にみるが、テルの中にある確かな勝利の確信のもとに行われる戦いの始まりでもあった。
後に、その戦いを見たホロウ調査員はこう語った。
「噂は間違いなく本物だった。『デストロイヤー』という異名も『笑顔が素敵な男性』という揶揄もまごうことなき真実だった。」と。
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「みたいな記事がよぉ、この前インターノットに上がってたんだよ。……ヒデェと思わねぇか!?」
「まぁ、妥当な気もするけどね。」
新エリー都住み易い街ランキングに毎度名をのせる街、六分街。その一角にあるカフェ……COFF CAFEに2人の男性がコーヒーを嗜みながら会話に花を咲かせていたいた。
肩方は先程話した『デストロイヤー』こと『笑顔が素敵な男性』こと、テル・ラジーラ。
もう一人の方は、銀髪に少し隈の入った目元をした顔の整った男――近所のレンタルビデオ屋『Random_Play』の店長の一人、アキラだ。
アキラは困惑したような……なんとも言えぬ表情で肩を窄めている。
「それで、実際にはどのくらい真実なんだい?」
「俺は『笑えよ』なんていってねぇ!楽にしろとは言ったが……」
「じゃあデータ収集装置を壊したのは本当なんだ。」
「あれは偶々刃先が当たっただけだ!」
「世間一般では、それを壊したと言うんだよ。」
二人はコーヒーを飲みながら雑談に花を咲かせている。
二人の関係は、友人と言った感じだ……家がご近所で、良く出会う友人で、映画の趣味が合って、たまに一緒にお茶をする、そう言う単純な関係だ。
アキラは、少し誂うような口調で言葉を紡ぐ。
「にしても『笑顔の素敵な人』か……まぁ、言いえて妙だね。」
「んだとコノヤロウ。」
「じゃあ少し笑ってみなよ。」
アキラに言われて、テルは少し困惑しながら数拍置くと、口角を上げて目を細めて笑ってみせる。すると、店の客の一人が「ひっ」と、情けない声を上げる。
その声を聞いて、テルはショックと恥ずかしさが同居したような複雑な表情をする。
アキラはテルの笑顔には慣れてはいるが、普通の人から見たらテルの笑顔は恐ろしいものに映るのだ。
それをみて、アキラは少し笑ってしまう。
「ははっ!」
「笑うんじゃねぇよ誂いやがって……くそっ。爽やかイケメンがよぉ!」
「まぁまぁ、ここは奢るから許してくれよ」
「マジか。許すわ。」
「現金だなぁ。」
アキラはそう言いながらコーヒーを一口飲んで一息つき、男友達とのくだらない会話を楽しむのだった。
……奇しくも、話題のホロウ調査員と伝説のプロキシパエトーンが共にコーヒーを嗜む姿を見て、テルとアキラ二人の事を知る者達は、一体どのような顔をするのだろうか?