滅相もない、この様に私は笑顔が素敵な一般ホロウ調査員で……   作:マジキチスマイル

3 / 8
恥はかかせない。

 

 突如テル達の前に現れたデュラハン。そのデュラハンはテルや縮こまる姉妹、治安官たる朱鳶と青衣を一望すると、なんと、そのデュラハンは高速で少女へと接近してきた。

 

「ひっ!?」

 

 少女たちは次の瞬間、世界がスローに映った。振り上げられるデュラハンの剣、目を見開き顔を青くする朱鳶。三節棍を伸ばす青衣……

 

 しかし、誰よりも早く動いたのは先程遅れを取ったテルだった。テルは剣幅が広いその黒鉄の大剣を盾代わりにして少女たちを守る。

 

 その顔は……口角を思いっきり上げて、目を細めた表情……世にも恐ろしい笑顔だった。どちらかと言えば確実に人に危害を加える側の笑顔だ。

 

「普通のデュラハンじゃねぇ様だが、どれほどのもんか……斬ってみりゃ解るかッ!」

「はっ!?ちょっ……」

 

 朱鳶の静止も一切耳に入っていないようで、テルは大剣を大きく振りかぶって、地面を蹴りつけて突き進む。    

 

 掛け声は一切変わらずに。

 

ヂィィェェストォォォォ!!

 

 満面の笑みを浮かべながら、デュラハンを大剣で押し付ける。青衣は咄嗟に少女たちを守る様に前に出る。

 

 だが、目の前ではテルとデュラハンの剣と剣がぶつかり合い、激しい火花が鳴る……テルはもう一度大剣を振り上げて押し付けると、デュラハンの剣とぶつかり合い鈍い音が鳴る。だが、それだけではテルは止まらない……

 

ヂェェェリァァァァァ!!!!

 

 テルは大剣を振るい上げて、何度も、何度も、何度も叩きつける。まさに猛攻と言って差し支えない……その怒涛の勢いに、朱鳶達は見守ることしか出来ない。

 

 下手な突撃をしては、巻き込まれるのが目に見えているからだ。青衣は、呆れ気味に言葉を漏らす。

 

「まるで獣じゃな。協力すると言う事を考えておらぬ……」

 

 その言葉の通り、テルは共に戦うことを考えていない……只管に突貫し、鉄砲玉としての役割を果たそうとしている。明らかに調査員向けではなく、軍属向きだ。

 

 デュラハンとテルの大剣がぶつかり合い、テルが押し負けて後方へ吹き飛ばされる。テルは大剣を地面に突き刺してブレーキを掛けながら朱鳶達の元へと戻る。

 

 朱鳶が心配の言葉をかけるよりも先に、テルは静かにつぶやく。

 

「駄目だなこりゃ、お前ら先に行け。」

「っ!?何を!?」

 

 朱鳶からすれば、勝手に突貫して勝手に戦って、何を勝手なことを言っているのだと言う話だ。しかし、テルはそんな朱鳶の疑問に答えるように呟く。

 

「このデュラハンは手の掛かる奴だ。倒すまでに時間がかかる……だが、やすやすと逃がしてくれるような奴でもねぇ。俺が抑えるから、お前らはお嬢ちゃん達連れて早く逃げろ。」

 

 喋らせれば喋らせるほど勝手なことを言う奴だ。流石の朱鳶も異議を唱える。

 

「何を勝手なことを言っているんですか!?私達は治安官です、ホロウ調査員とは言え一般人をおいていくことなんで出来ません!」

「へへっ……じゃあよ、こう言うのはどうだ。」

 

 テルはそっと立ち上がって、大剣を肩に託ぎながら歩く……そしてまた一人、好き勝手に喋りだした。

 

「……俺はロクでもねぇ奴でな、このデュラハンをぶった斬りたくてたまんねぇんだよ。」

 

 軽い笑みを込めて、テルはそう言うと、彼は言葉に付け加える。

 

「それに、あんたらは市民を守るのが仕事。俺はホロウ調査員としてエーテリアスをぶっ倒すのが仕事だ。先に行けよ……そのお嬢ちゃん達を外に出して、安心させてやってくれ。」

 

 そう言いながらそっと朱鳶達の方を振り向く。朱鳶はもはや唖然として声が出ない……青衣は片目を瞑りながらテルを見つめる。

 

(まいったの……こりゃ本物のイカレじゃ。)

 

 青衣は洞察力に優れているから解る。この男、適当に合わせようとしているのでもなく…その言葉全てが真実だ。

 

 あのエーテリアス、デュラハンと戦いたいのも事実、この姉妹達を早く外に出して安心させてやりたいのも事実、青衣としてはこんな人間見たことがない。どちらか一方に偏っている人間なら何人か見たことはあるが……

 

 「それに俺もホロウ調査員だ。キャロットならデバイスにインストールされてる…………安心しろ、治安官殿に恥はかかせねぇよ。」

 

 治安官殿に恥は欠かせない……つまり、必ず生き残って帰るということだ。ホロウに入って心の底からのこんな事を堂々と言い放つ様な人間は珍しい。青衣は、益々目の前の男が面白く思えた。

 

「大した男じゃな……朱鳶、行くぞ。」

「っ!?先輩!」

 

 朱鳶は何か言いたげに声を上げるが、それを青衣は首を振るって言葉を引っ込めさせる。

 

「男が誇りを持ってやろうとしてる事じゃ……それに、あの質の輩は一度決めたら止まらんぞ。」

 

ヂィェェストォォォォォ!!

 

 青衣の言葉通り、テルは自身の大剣を持ってデュラハンへと向かう。何度も何度も剣を叩きつけて、デュラハンを抑えようとしていた。

 

 朱鳶は、そんなテルの姿をみて目を思いっきりつむり頭を振るう。葛藤の末、朱鳶は、テルに向かって大声で叫ぶ。

 

「後で……後で必ず応援を連れてきます!!」

 

 そう言って、朱鳶は姉妹の手を引いて青衣と共に先を急ぐ。テルはそれを聞いてまた口角を上げて笑うのだった。

 

 デュラハンは逃げる朱鳶達を見て、彼女達の方へ行こうとするが、それをデュラハンの大剣と鍔迫り合いをして止めるがテルだ。

 

「おいおい、何処行くんだよ。もうちょっと遊んでいこうや!」

 

 テルはそう言うと、黒鉄の大剣を蹴り上げてデュラハンの大剣を思いっきり弾いた。

 

 そして、その隙にテルは大剣を振り被りデュラハンを切り裂く……しかし、デュラハンも咄嗟に身を捩らせて回避する。叩き斬れたのは右腕の大剣だけだ。

 

 それも、辺りのエーテルを吸収してすぐさま再生してしまう。

 

「エーテルを吸収して再生か、なら……エーテリアスのたたきにしてやるよ!」

 

 テルは誰に聞こえるわけでもないその言葉をつぶやいて、目の前のデュラハンに対して大剣を振りかぶる。デュラハンは咄嗟に盾でガードする。

 

 デュラハンは片腕の大剣を振り被り、テルへと叩きつける。

 

「がはぁっ!?」

 

 テルは苦悶の声をあげるが、その手は大剣からは離さない。

 

 それどころか、テルは益々その大剣に力を込める……徐々にデュラハンの盾に大剣が食い込んでいく。やがて……テルが押し勝った。

 

 デュラハンの盾が鈍い音を上げながら分断される。デュラハンはそれに一瞬怯んだ……そして次の瞬間、テルは再度大剣を構えて振りかぶった。

 

ヂィィェェストォォォォ!!

 

 その一撃は、今度はデュラハンの腹を捉える……しかし、デュラハンも、もう一度身を捩らせてダメージを最小限に抑えた。

 

 しかし、そうはいってもやはりその切先が与える斬撃は、しっかりとデュラハンの腹に傷跡を残す。

 

 それだけではテルは止まらない。

 

キィェェイ!!

 

 テルはもう一振り下ろし、何度も、何度も、何度も、何度も……その重い一撃をデュラハンに叩きつけた。

 

 重い鉄の塊たる黒鉄の大剣を持っているとは思えないほどの苛烈で迅速な猛攻。振り被り振り下ろすたびに風圧が当たりの木箱や石ころを転がしていく。

 

 デュラハンは、その猛攻を剣ではいなしきれずにやがてその腹に重い大剣による突きの攻撃を喰らい、大きくふっとばされる。

 

 デュラハンは再度エーテルを吸収して再生しようとするが……そんなデュラハンに大剣を担いで近づく影があった。

 

 デュラハンから見れば、その男――テルの顔には影がかかり、目を細めて、白い歯を剥き出して笑っていた。 

 

 そして、また静かに言葉を呟いた。

 

「まだやるんだろ?安心しろ、こちとらエーテル適性9割だ。そう簡単に()()にはならねぇからよ。」

 

 そう言ってテルは、大剣を振り被って……力のまま、重力による勢いのまま、デュラハンに叩きつけるのだった。

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 ……テルの時間稼ぎのお陰で、姉妹達が異形となる前にホロウから脱出することのできた朱鳶達。

 

 ホロウへ入った時にはまだ日が昇っていたのに、外に出ればもう夕暮れが広がっていた。

 

「ですから、ホロウ調査員が一人取り残されているんです!応援をお願いします!」

 

 朱鳶は、脱出して姉妹を保護するや否や上へ応援の要請を申しつける。

 

 しかし、公務員というのはお役所仕事なもので、正式な応援を呼ぶにはまだ時間がかかりそうだ。

 

 

 朱鳶は、もう一度自分がホロウの中に入るのも視野に入れながら連絡をつける……しかし、青衣はそれを静かに収めさせる。

 

「班長、もういい。応援は必要ないようじゃ。」

「っ!?何を……何を言っているんですか!?彼を見捨てろと言うんですか!?……彼は、私達を逃がすために残ったんです!そんな彼を見捨てることなんて私にはできません!」

 

 思いの丈をぶつける朱鳶……しかし、青衣は表情を変えずに、呟く。

 

「必要ないと言っておろう。」

「……!?」

 

 青衣の言葉に小首を傾げる朱鳶……すると、コツコツと足音が響き渡った。朱鳶は咄嗟に足音の方向を振り向く。

 

 すると、そこには黒鉄の大剣を背負って一人の青年が、全身ボロボロになりながらも勢いよく、確かな足取りで歩を進めていた。

 

「言ったろうが、恥はかかせねぇって。」

 

 その青年は、いつものごとく悪鬼の笑みを浮かべながらそうつぶやくのだった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。