滅相もない、この様に私は笑顔が素敵な一般ホロウ調査員で……   作:マジキチスマイル

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熱燗と烏龍茶で。

 

 テルは、ヤヌス区でのホロウの活躍から数日、調査協会のキャリアセンターにて様々な始末書を書かされた。

 

 もはや慣れたもので、勝手なホロウの侵入からホロウ内での好き勝手について言及され、嫌になるほどの白紙の紙とにらめっこしながらペンを走らせた。

 

 しかし、テルとしてはあのキャリアセンターと言うのはなかなかに居心地が悪い。

 

 あそこに行くと、大抵向けられるのは好奇のか、嫌悪か、畏怖か……いずれかの目線を向けられる。テルとしては、それがなかなかに居心地が悪くて好かないのだ。

 

 まぁ、他の人間からしたらホロウに独断で入ってエーテリアス狩りを行う気狂いで、記録用のデバイスを何度もぶっ壊した経歴のある男だ。

 

 デストロイヤーや笑顔の素敵な男性と揶揄されることもあるそんな人間を、そう言った目で見ないことのほうが無理があるだろう。

 

 

 

 

 テルはそんな始末書を書くのを終えて、キャリアセンターから愛車のジープを走らせて自宅のある六番街へと向かっていたのだが……

 

「動けこのポンコツがっ!動けってんだよ!」

 

 そう言いながらテルは、駐車場に停めた愛車のジープをぶっ叩く。……叩くというか、ほぼ殴りつけると言って良い。 

 

 しかし、ジープはうんともすんとも言わない……大分ご機嫌斜めなようだ。

 

先程急に勢いをなくして止まってからこの調子だ……一度こうなると、しばらくは梃子でも動かなくなる。少し放置すれば治るのが幸いなところか。

 

 しかし、時間はもう肌寒くなってくる夜。このままでは、車内で日をまたぐことになるだろう。テルとしては、それは何としても避けたい。

 

 寝るときくらいは、暖かい布団で安心して寝たいものだ。好きで選んだとは言え、普段の仕事場がホロウなんて底なし沼なんだから……

 

「あぁ?今日ジープで寝泊まりかよ……嫌なんだけど。」

 

 テルはそう言いながら項垂れる……すると、腹が飲む子が鳴るのが響き渡り、本格的に腹も減ってくる。

 

 何処かにいい店はないかと辺りを見回すと、少し先に珍しいことに屋台のおでん屋があるのを見つける。

 

(丁度良いや、暖まらせてもらおう。)

 

 テルは僥倖と言わんばかりに嬉々とした様子でジープから出ると、向う側にある屋台のおでん屋へと向かった。

 

 テルは暖簾を上げて大将らしい人物に声を掛ける。

 

「やってるかい?」

「あいよ、なににする?」

「大根はんぺん、がんもにしらたき。飲み物は烏龍茶。」

 

 テルはこなれた様子でそう言うと、大将はあいよと相槌を打つ。ちなみに、この四種はテルがおでんを食べる時に最初に頼む四種の具だ。

 

 特段好きというわけでもないが、これを食べないとおでんを食べた気がしなくて落ち着かない……そんな具の数々だ。

 

 テルはどんなおでんが出て来るのか楽しそうに笑みを浮かべると、突然声をかけられる。

 

「あ、貴方は……?」

 

 テルが不意に声の方向へ顔を向けると、そこにはいくつかの熱燗の瓶を屋台の机に並べながら、顔を赤くしている女性――以前ホロウで出会った朱鳶という女性と出会った。

 

 テルは嬉しそうに声を上げる。

 

「あんた、朱鳶さんだっけ!いや奇遇だなこんな所で……隣良いかい?」

「えぇ、勿論。」

 

 朱鳶が許可を出すと、テルは嬉々として朱鳶の隣へと座ると、朱鳶が一つ問いかけた。

 

「今日はあの大剣は持っていないんですか?」

「あぁ、ジープん中だ。」

 

テルがそう言いながら駐車場の方を見るは。すると、朱鳶はテルの方を見て小首を傾げながら提案する。

 

「貴方も飲みませんか?」

「今日は(ジープ)でな、飲めねぇや。」

 

 テルにそう言われ断られると、軽い笑みを浮かべながらそうですか。と相槌を打った。少しして、テルの目の前に大将から頼まれた品物の置かれた皿が出される。

 

「あいよ、大根はんぺん、がんもにしらたき。それと、烏龍茶」

「あんがと。」

 

 テルはそう言うと、しっぽりと熱燗を飲み進める朱鳶をみて、一つ問いかける。

 

「今日はオフかい?」

「えぇ、まぁ。」

「そうかい……こんな時に仕事の話もなんだが……あのお嬢ちゃん達どうなった?」

「無事に母親と再会できましたよ。」

「そうかい、良かった。」

 

 テルは心の底からそう言って安堵する……すると、朱鳶はテルを見て少し笑ってつぶやく。

 

「優しいんですね、貴方は。」

「……そうなのか?」

 

 朱鳶のそんな言葉を聞いて、テルはすこし目を見開いて驚く……その様子をみて、朱鳶はまた小首を傾げながら問いかける。

 

「何か?」

「いや……普段は怖い怖いって言われるばかりで、優しいなんて言われることはなくてな。少し面食らった。」

「怖い……あぁ。」

 

 朱鳶は、その怖いがエーテリアスと対峙している時のあの態度なのだと理解して、悔しいことに納得してしまう。

 

「まぁ、あの戦い方を見た人ならば……そう思うのも無理はない……!すいません!口が過ぎましたね。」

「いや……良い。そんなに怖いのか?俺って……」

「……まぁ、戦っている時は、がつきますけど。現に今のあなたは普通の優しい青年に私は見えます。」

 

 朱鳶の言葉に、テルは嘲笑するような笑いを含めてつぶやく。

 

「優しい青年ねぇ……本当にそうかい?」

「しかし、優しいでしょうあなたは?見ず知らずの娘の心配をして、命まで張った。優しい以外の何物でもありませんよ?」

「命張ったなんて大袈裟だよ。ただ俺は自分のしたいこと勝手にしただけの我儘坊主だ。」

 

 テルは嘲笑するような笑みを浮かべながらそう言い放つ。朱鳶は少し酔っているからなのか、顔を少々赤くしながら声を上げる。

 

「そんな事はありません!貴方は立派です!人の為に戦おうとするその姿、あの大剣を担ぐ後ろ姿に……私は治安官として、不覚ですが頼もしさを覚えました!」

「お、おう……ありがとう。」

 

 朱鳶の怒涛の褒め言葉に、テルも言われ慣れていないのだろう。すこし恥ずかしそうに烏龍茶を飲んでおでんをつまむ。

 

「言われ慣れてないこと言われるのって恥ずいな……しかし、あんたらも迷惑したろ?俺に好き勝手されて。」

「そのおかげで少女たちの命が守れたんです、多少振り回されたと言って不満を漏らすようなことではありません!」

「振り回されたのは否定しないのね……まぁ、そうだな。兎に角あの子達が無事で良かった。」

 

 それは心からの言葉だ……特にエーテルの侵食もない普通の生活に戻れたのなら、それは何より喜ばしいことだ。人によっては、エーテルによる侵食で人生に残る疾患を持つ人もいる。

 

 二人はまた熱燗と烏龍茶、おでんをつまみながら言葉を掛け合う。

 

「そういや、あんた特務捜査班の班長なんだって?大変だろ、仕事。」

「えぇ、ですがそれが役目ですから……」

「んじゃ、俺の目に狂いはなかったな。」

「……?」

 

 朱鳶が小首を傾げると、テルは笑みを浮かべながら答える。

 

「ホロウの中で言ったろ。人には役割があるって……俺にゃエーテルを叩き斬る事しか脳がない、だがあんたらは市民を守ることが出来る。いい具合の役割分担だったろ?」

 

 テルがそう言って、まった悪鬼の如く笑ってみせると、朱鳶はその顔に引くでもなく少し暗い面持ちをして呟く。

 

「……正直、私は貴方に謝罪しなければなりません。あの時は貴方を見捨ててしまった。」

「おいおい!生真面目が過ぎるぜ。俺がやれと言ったんだ、それにこうやって戻ってきた。結果オーライだ。」

「しかし!……理屈ではそうでも、私は納得できません。」

 

 朱鳶はそう言って、その表情を益々暗くする。テルはなんとも言えない表情で頭を掻く……この手合は一度こうなるとなかなか抱え込んでしまう。難儀なものだ……するとテルは少し烏龍茶を飲み、一言つぶやいた。

 

「ならよ、少し頼まれてくれねぇか?」

「はい……?」

 

 朱鳶がまたもや小首を傾げると、テルは少し肩をすぼめて烏龍茶の入ったコップを持ち上げてカラカラと鳴らしながらつぶやく。

 

「今宵は月も綺麗でな、烏龍茶だけど飲み相手話し相手が欲しいんだ……付き合ってくれねぇか?」

 

 そう言ってテルはコップを向ける……すると、朱鳶はまた少し微笑んで熱燗の瓶とコップをぶつけて音を鳴らす。

 

「私でよければ、お供しますよ。」

 

 そう言って、二人は寒空の屋台の下お互いのみの話について語り合い、その夜を過ごすのだった。




屋台でしっぽりと飲む朱鳶さんが書きたかった。
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