ホシノの同期になって滅茶苦茶になりたいだけのSS 作:watazakana
……夏の昼だった。
「───すっごいものを埋めたらしいの!」
「すごいもの、ですか?」
「そう!花火なんだけど、希少鉱物が入った花火らしくて……」
この教室には、いや、この学校には3人がいた。底抜けて明るい生徒会長。おっかなくていけ好かないけど、どこか憎めない同級生。そして、私。
夏の日差しは鮮やかで、見えるものすべてを眩しくする。その先輩の淡い碧の長髪、同級生の淡い桃の短髪。そして私の淡い茶の中間。きらりと反射する髪は、一攫千金の眉唾な話に揺れた。
3時間後。大オアシスでは手ごたえのない砂の音が響いていた。
「私たち、どこで間違えちゃったのかなぁ……?」
惨敗である。鮮やかの最果てとも言える黄色と青の世界で、スクール水着で身を包み、熱砂を掻き分け掘り出す虚しく怪しい3人組の出来上がりだった。
「先輩が変な計画を持ち出した時から、じゃないですかね」
「……アンタだってノリノリだったじゃん」
「は?」
ひぃん、と音を上げる先輩。擁護する私、そしてすべてに突っ込む同級生。思い出せる記憶のひとつは、そんな日々だった。
記憶。2年前の記憶は2種類だ。辛く苦しい鮮烈な記憶と、甘く楽しい鮮彩な記憶。
───入道雲を眺めて、思い出すのは後者だった。
後輩たちが借金返済についての会議を開く。ホシノと私を呼ぶ声が聞こえた。ホシノは隣の教室で昼寝をしている頃だろう。私は掃除ついでの感慨から抜け出して、ホシノの居る教室へ向かった。
「ホシノ、いる?会議始まるんだって。早く行かないと、またセリカちゃんに怒られるよ……あ」
私はそう急かしつつ、教室に入ろうとした時。思わず歩みを止めた。
「……ホシノ」
彼女も、夏空を眺めていたから。ただただ、夏空を見ていた。そこには誰も干渉できない雰囲気というものがあった。後輩たちはぶち壊しにするだろうけど。先生もぶち壊すだろうけど。あ、シロコちゃんもかな……ここはキヴォトス。意外と風情を解さない人も多い。
「見つけた先輩……あれ」
「起きてたんだ」
立て続けに来る後輩たちも、珍しいホシノの姿に少し呆けてしまう。流石に気付いたのか、ホシノは私たちへ振り向いて、にへらと笑い、「もうそんな時間かあ、ごめんごめん、おじさん歳だからか最近忘れっぽくて」とこちらに駆け寄った。
いつもと違う雰囲気から一転、いつものホシノが現れた。少しばかり調子が狂うノノミとシロコ。
「はいはい、そんなにノノミちゃんたちと歳変わらないでしょ」
「うへ、可愛い後輩ちゃんたちのツッコミはナシ?」
「そういうのいいから。ほら行くよ。ノノミちゃんたちも」
私はホシノの背中を押して、ノノミたちへ視線で会議室に誘導した。
さあ、会議を始めよう。
「はい、それでは全員揃ったので、会議を始めたいと思います」
開始の合図も堂に入ってきたアヤネは、まず議題にあげられた「アビドス自治区の不自然な動向」について情報共有を始めた。
「ご存知の通り、これまでカイザーコーポレーションは最近までアビドス砂漠で発掘を行っていました。カイザーが何を探しているのか、私たちはわかっていませんでしたが……」
最近のアビドスは色々あった。色々ありすぎた。
「まあ、宝探しというのも強ち間違いってわけじゃなかったね」
宇宙戦艦とは名ばかりの、演算船。それこそ存在が揺らいでいる巨大要塞へ吶喊したりクラッキングしたりすることしか想定されていないエレクトリカル・バトル・シップだった。カイザーとしては面白くない結果だっただろう。
そしてその船の最期も……
「そのお宝も、壊れてしまいましたからね……」
「はい、『ウトナピシュテムの本船』は成層圏で破壊され、その残骸や痕跡は発見さえできていません。カイザーからすれば、船が破壊された時点で占拠する意味がなくなったんだと思います。カイザーは徐々に撤退していき、今はもう廃墟同然です」
「うん。発掘区域から撤退するのを見た」
「本当スッキリしたんだから!もう二度と来ないでよね!」
良いか悪いかで言えば、間違いなく良いだろう。でも、長年の搾取の結果があの船で、目的が果たせないとわかればあっさり撤退して、残るのは廃墟ばかり……というのも、スッキリはしないものだ。荒らすだけ荒らされて、ごめんや補償の一つもないのだから。
「でも、カイザーへの借金がなくなったわけじゃないんですよね……」
「はい……アビドスの借金自体はカイザーが握っているので、私たちの状況は何も変わりません」
アヤネは目を伏せた。
「カイザーコーポレーションのプレジデントは、アビドス砂漠よりも再建中のサンクトゥムタワーに興味を持っているようですし……」
しかし、これは本題ではない。ここまではあらすじ。前提条件のすり合わせに過ぎない。これだけ悩ましい問題が据え置きなことはお構いなしに、新しい厄介事はどかっとアビドスへ殴りこむのだ。
「ここからが本題ですが、カイザーコーポレーションはアビドスの借金を債権に切り替え、債券市場に売ろうとしています」
「債券」
「市場」
「……って何よそれ」
それまで静かに聞いていたホシノが「債権」という言葉に反応する。一から説明を始めるノノミの話をかいつまんだ形だ。
「要は、私たちから借金を受け取る権利を他の人に売るってこと」
「カイザーは『借金については諦めます。他の人どうぞ』ってことだけど……こんなハイリスクな学校の借金、買おうだなんて思う人いないと思うし……不思議な話だね。借金にはどのみち影響ないし」
「あ、でも、借金を返す権利を売ったってことは、私たちでその権利を買っちゃえばよくない!?」
「そうです、債券市場が開かれたら、私たちの貯蓄で買い入れるのはどうかなと」
発想の逆転。債権を安くで買い取って、借金をチャラにする。私は思いつかなかった。
「ナイス発想セリカちゃんとアヤネちゃん!じゃあ早速市場を確認しよう」
手持ちのノートPCを開いて、市場のアプリを開こうとするものの。
「ちょっと待って、先生呼ばない?」
というホシノの一言で、止まる。
「……ええ~」
これを言われたら、私は従わざるを得ない。反対する人はこの場に一人もいないのだから。
「先輩、先生の事まだ苦手なの?」
「強情」
白状すると、そうだ。第一に、これまで私達だけでやってきた3年間を、突然現れた大人がどうにかしてしまう、その構図が気に入らない。
もちろん、先生は良い人だ。信頼できる大人だと思う。
けれども、第二に。二年前の……放っておいて欲しい聖域に、いつ踏み込まれるか。永遠に覚悟のできない領域を侵犯される恐怖。これを先生と接している間ずっと抱えなければならない。その気まずさは避けたいのだ。
「私、大人アレルギーだからね……」
「うへ、それおじさんたちが大人になったらどうするの?」
「はいはいわかりましたよ!じゃ、先生呼んでくる」
そうして、先生立ち合いのもと、競合なしの債権競り落とし一人レースが行われる……はずだった。
画面を見ているアヤネの表情が徐々に曇り、困惑の色が出た。
「どしたのアヤネ」
「あの……債券価格が、暴騰しています……!」
滲み出る困惑の色は、その場で鮮やかに伝染した。
「は?誰が買ってんの!?いやそれよりも……アヤネちゃん、どれだけ買えそう?」
「駄目です……数えきれないくらいの買い手が買いに参加していて…………完売、しました……」
落胆、というよりも、まさに困惑。なぜ?
「その、まず分かったことを共有しますと……派生証券を買い占めたのは、ネフティスグループ、だそうです……」
ホシノと私は、その名前を聞いて驚きはしなかった。元々地元の有力企業だからだ。もうこの土地を捨てたと思っていた。けれどもアビドスに何かしらの縁があって、派生証券の買い占めなんてできる勢力、と言えば。
なるほど言われてみればそうだ。ネフティスしかいない。
……この名前を出されて、後輩たちは思い至るだろう。当事者本人は酷く狼狽えている。
ノノミの実家は、ネフティスだ。