ゼロ・トゥ・ゼロ   作:しづごころなく

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月光が、青を鮮明に反射する。


“朧月、青色の散る頃“

 「柳、気をつけろ。ハルは最早、以前とは別人だ」

 

 雅の警告が柳の顔を顰めさせる。先ほどから周りを飛び続けている赤紫の雷撃。ハルの持つ剣の周りにもその電撃が弾けている。

 

 「やるかい、六課」

 

 一陣の風が髪を揺らす。いつもは希望を持てる明るい青。しかし今は、赤紫の雷撃に囲まれた、絶望の青だった。

 

 対して星見雅も、抜刀の構え。息も凍るような冷気が、星見雅を中心に発生する。雷撃はそれに飲まれれば消え、凍える領域はどんどん広がっていく。

 

 明鏡止水。ただ寒いだけの世界が、完成する。

 

 ハルが攻撃の意図を持った瞬間に抜刀は行われる。無音であるはずがないのに、星見雅の周囲だけが無音に包まれる。凪の世界に、「無尾」が一太刀。

 

 

 2人の緊張を、銃火器の音が亀裂させる。パールマンを狙った弾丸は集中状態の星見雅によって即時切断される。

 

 「誰だよ…!」

 

 ハルはこの場に見えない第三勢力を潰すべく、走り出す。同時に、パイパーの運転する車はリンと邪兎屋を乗せて移動し始めた。その事実だけを確認して、ハルは事後処理を始める。

 

 サクッとその場にいた敵を処理し、トラックを追う。

 

 

 「やべ、迷った」

 

 ホロウに向かってトラックが突入したのを見かけて、僕もホロウに入ったはいいものの。パイパーとアンビーだけが見つかり、彼女らは先んじてホロウから出て貰った。見つかっていないのはリンとパールマン。

 

 探索力のない僕はホロウを歩き回ることしかできなかった。

 

 

 結局リンもパールマンも見つけられず元の場所に戻れば、いつの間にかリンも気絶はしているものの戻ってきていた。

 しかしニコによれば、パールマンはあの傭兵集団によって誘拐されたそうだ。既にいないなら自分の探索が意味をなさなかったのも納得できる。

 

 「六課はパールマンを探す。ハル、お前はどうする?」

 

 「…手伝うよ。でも、その前に休暇をもらってくるね」

 

 

  僕がライカンさんを探し、休暇を貰っている間に、なんとパールマンは見つかった。流れるような捜査速度によって、僕という人間は早々に不要になった。

 

 「…え」

 

 急いで六課と合流しようと思い、雨の中を抜けてきた。雅が見えたかと思えば、雅は手錠を腕にかけられる。

 何故、星見雅?

 六課の弱体化を行ったところでこの程度ではほとんど意味はない。であれば、その他の理由が大きく影響していると考えるのが妥当。

 

 いずれにせよ、助けなきゃ。

 

 高速道路へと乗り込んだ雅を乗せた護送車。

 

 「僕なら、助けられる」

 

 今の僕の立場は曲がりなりにも犯罪者。雅を助けたところで、何の文句も言われない。

 移動手段は少ない。高速道路の行先をある程度断定しながらショートカットする。

 

 街から街へ、屋根から屋根へ。

 

 デッドエンドホロウ近くまで来たかという所で、僕はついに追いついた。

 

 建物の壁を地面にし、跳躍して車の上に乗る。剣を差し込み車の天井に切り込みを入れる。

 

 もう少しで壁が斬れる。あとは雅を助けるだけ。

 

 そこまで考えた時、車の側面が破壊される。青白いオーラを放つ雅の刀。それを抱き抱え、真っ逆さまで落下運動を行う雅。

 

 「…!」

 

 一瞬の僕の不安も掻き消えるような見事な着地。僕もまた、それを追って着地する。

 

 「……雅」

 

 「……」

 

 下を俯く雅。目に意志を感じさせるだけの光はなく、茫然自失の最中。雅は徐に剣を握り、ぐらつく体を整えながら立ち上がる。

 

 周りに集まる人。おかしい。いつもの雅ではない。

 

 雅の体に、紫の炎が宿る。今まで何度も培ってきた、死の香り。それを感じ取り、考えるより先に僕は雅をデッドエンドホロウに向かって突き飛ばした。

 

 スマートフォンを動かし、一番上にあったチャット相手、青衣にヘルプメッセージだけを送り、僕はホロウ内に突入した。

 

 

 

 一秒に三度ほどの太刀筋。それを受け流す青髪の青年。狐の居合は凄まじく、世界すら絶ちうる威力。

 

 「…キッツイ」

 

 汗を拭きながら、集中を伸ばす。

 

 バチバチ、と雷撃が地面に走る。雷はエーテル色で、触ろうとすれば引き込まれるようだ。

 滑りそうな足を整え、剣を構え直す。

 

 目の前にいる星見雅は、その意識を失い、こちらの呼びかけには反応しない。その居合は錆びることもなく、致死の攻撃ばかりが飛来する。

 

 半秒の内に約30本ほどの斬撃。

 

 「うおおおおっ」

 

 間一髪。首の皮一枚。言い方はいくらでもあるが、今のだけでもギリギリだった。

 

 「絶対死んでやるもんか」

 

 今回のハルの勝利条件は普段と違う。

1、雅が正常に戻るまで耐える。

2、雅を殺さない。

3、自分も死なない。

 

 普段のハルではあり得ないはずの、3番。

 

 「これで死に戻って正常に戻ったとして、いつか死に戻りを話すことになった日に、雅は絶対、後悔するから…!!」

 

 思い浮かぶようだ、雅が苦しい顔をしている様が。死に戻りの過程で雅が僕を殺すなどということは、彼女にとって最も堪え難いことのはずだ。自分だって青衣やルーシーを殺すのだけは頂けない。

 

 いつの日か死に戻りについて話しても、雅に「私は…お前を殺したか…?」と問われても、自信を持って、「それはない!!」と言えるように。

 

 死なずに、雅を助けてみせる。

 

 相手は今まででぶっちぎりの最強、当代虚狩り。戦っても戦っても底が見えない星見雅。

 

 上等だ、所詮は最強。時間稼ぎくらいできなくてどうする。

 

 「雅。大丈夫だ。好きなだけ暴れるといい」

 

 星見雅戦、開始。

 

 

×717

 

 寸前まで迫った斬撃をどうにか避ける。ちょっと掠った。どうせこのくらいじゃ死なないだろという信頼感から、撹乱を兼ねて弾丸を撃つ。

 

 「速っ」

 

 抜刀の構えを取ったかと思えば直後には僕の目の前に出現する雅。抜刀の動きに合わせ、剣で刀で弾く。

 軽快な音を鳴らして弾くも、すぐさま次撃。また剣を合わせる。金属の炸裂音。

 

 後ろにブラックホールを放ち、吸い込まれることによって距離を取ろうとする。

 

 目前に迫る斬撃。無理やり剣を合わせ、手のひらに響く衝撃に耐えながら飛んできた斬撃を受け切る。しかし僕を通り過ぎた斬撃はブラックホールを切断する。作戦は無に帰した。

 

 斬撃を受ける。避ける。腕に掠る。ちょっとした衝撃だというのに出血する。

 

 「やば」

 

 驚いている暇はない。容赦なく、間髪入れず飛んでくる斬撃による弾幕。斬撃による余波が少ないところを選び、スライディングで避ける。

 

 僕の方も斬りつけようとしてみた。刀を合わされ、弾かれる。弾かれたことによって僕の上体は無防備になる。僕の目の前に迫る斬撃。

 

 「……ぎりぎりっ!!!」

 

 あと1cm、と言えるほど近い斬撃。咄嗟にしゃがんで避けたが、浮き上がった前髪は見事に切断された。

 

 「あっっぶなぁ…」

 

  しゃがんだ僕の隙を逃さないように、またしても縮地により距離が縮まる。目前まで迫る刀。

 

 「合わせる!!」

 

 手を着いた状態から右手を大きく振り、力に任せて刀に刃を合わせる。鍔迫り合いに発展し、金属音が鳴り響く。

 

 「雅なら捌くでしょ」

 

 エーテルが雷撃に変化し、刀に纏われる。空気は裂け、音は号哭。

 

 刀と剣を合わせた状態から刃を滑らせ、加速と共に振り切る。視界から消失する星見雅。

 

 背中に感じる殺意。刃のぶつかり合いによる力を利用し、宙返りを決めたようだ。

 

 「まだ、まだっ!」

 

 筋肉が悲鳴を上げる。もうやめてくれ、動かすな、と。剣と剣が再びぶつかる。

 

 「死んでたまるか…!!」

 

 数十の斬撃を避ける。見切る。情報を鮮明にし、分解し、危険度順に分類、最適な形で回避する。

 

 「蝕め…!」

 

 避けながらエーテルを放つ。空中で撃ったために体に衝撃が伝わる。逃し切れるように地面に転がって受身を取る。

 

 ブラックホールは刹那、細切れになる。

 

 「くっそ、無敵め……」

 

 こちらも居合の構え。今まで散々見てきた、星見雅の抜刀。

 

 「仕返し……!」

 

 踏み込み、抜刀、切断。

 

 「……嘘だろ?」

 

 首元に迫る凶刃。体が追いつかない。ただ、視界と思考だけが現在の状況を理解する。

 

 積み上げてきた時間が違う。積み上がっている努力が違う。今現在の完成度で、少しでもオリジナルのものに近づけたなどと思っている奴は自惚れにも程があって。

 

 雅は僕の抜刀術など意にも介さず、隙間を抜けて刃を首元に合わせてきたのだ。

 

 疾さも、正確性も、美しさも。一切の迷いがない、直線のような抜刀。

 まるで、斬ったから殺せたのではなく、殺した後に、理由として斬ったが付いてきたような。

 

 空気による慣性を感じない、絶望の一刀。

 

 これは知っている。死ぬやつだ。どうしようもない。ここから逃げようと思ってももう体が動かない。思考が鮮明なのは走馬灯の亜種に過ぎない。

 

 僕の首まで、刃はやってきていた。

 

 

 ×717

 

 刃が、止まった。死んでいない。僕は殺されていない。

 

 「…みや、び…?」

 

 表情は変わらない。それでも、明確に、彼女は意志を持って動きを止めた。これなら触れる、と思い肩を貸し、ホロウ外まで連れてきて寝かせる。

 

 「は、る…」

 

 掠れるような、小さな声を耳が拾う。

 

 「起きた?」

 

 「私は、誰も、傷つけていないか?」

 

 「ああ!僕の名前に賭けて、誰も傷つけてないよ!!」

 

 に、と笑いながら堂々とハルは宣言する。一切の申し訳のなさもない、自信に溢れた声。嘘という可能性など一撃で忘れさせるほどの。

 

 「そうか、良かった……本当に、良かった…!私を止めたのは、お前だろう…?」

 

 隠すように涙を拭う雅。雅にとっての存在意義は、見事に保たれた。

 

 「うん。なんで暴走したのか、なんて事を聞くつもりはないよ。別にこのくらいの迷惑、いくらでも掛けてくれて構わないからさ」

 

 ハルの暖かさが、星見雅の心に沁みる。「伝えなくてもいい」という身近な距離感は、雅にとって心地のいい距離感だった。

 同時に月の光を後ろにしたハルは宝石のようで、安心感を纏っている。

 

 「…やはりハル。私の婿にならないか?」

 

 「急に何???」

 

 「雅!!大丈夫ですか!?」

 

 割り込むように、朱鳶さんが駆けてくる。後ろから青衣も付いてきた。雨に濡れた地面を跳ねる音が心地よく響く。

 

 「あれ、朱鳶さんも来たの?」

 

 「ええ。青衣先輩から連絡をもらいまして、私が近くにいたので。一緒にボンプもいましたが、彼女は六課に預けました」

 

 雅を介助しながら起き上がらせ、背中に背負う朱鳶さん。

 

 「私は彼女を病院に連れて行きます。ハル君は、いい加減、本音を話してください!!」

 

 そうとだけ言って、朱鳶さんは高速でその場を去っていった。

 

 「言われてしまったな、ハル。ほれ、青衣お姉さんが聞いてやるから、話してみるといい」

 

 「お主が何故そこまで、自分を世界の外に位置づけるのか」

 

 

 「……急にそんなこと言われても、さあ」

 

 「急ではないぞ。お主は自分で自分に問うていたはずだ。我らが聞いてしまうのが無粋なほどに」

 

 これは、ハルという人間の最初に由来する。

 何の因果か異世界に落とされ、その後に死亡し、やり直した。

 

 「そっか。……話さなきゃなあ」

 

 ハルが最初に感じたのは、寂しさだった。たった1人、残っている記憶はこの世界とは全く関係のないものばかり。夢だと思いたかった。夢じゃなかった。

 

 「ほら、僕って異世界から来たでしょ?だから……すごく寂しかったんだ、今までの常識は全部通じなくなって、僕が大切にしてきたものも全部崩れ去ってさ」

 

 その後に邪兎屋という友達が出来た。話せば話すたび、この世界がどうなっているかを知れて面白いと思った。

 直後に、また寂しくなった。知識が違う。常識が違う。慣れが違う。自分を襲う、黒波のような異物感。

 

 「自分が除け者で、今、何も持ってないんだなって思った」

 

 この世界に自分のことを知る人はほとんどいない。しかも、幼馴染みたいな、心地の良い関係もなければ、異世界から来たなんて言えば不思議がられるに決まっている。

 除け者にされたくなかった。

 

 前の世界の友達、親はこの世界にいない。人間の歴史を一回洗ったその感覚は、寂寥感そのものだった。

 

 「僕は『空っぽ』だったんだよ。何もなかったから、「誰かを助けたい」とか「死にたくない」とか、原始的な欲求だけで動き続けたんだ」

 

 友達はこの世界でもいっぱいできた。それでも苦しい。いろんな人と関わればこの寂しさなんて消えて無くなると思っていた。

 

 でも、なぜか残り続ける。誰かが、多分心の中の自分が、「結局お前はいなかったはずなんだよ」と現実を叩きつける。

 

 この思考に拍車をかけたのは、死に戻りだった。

 

 「しかも、僕しか知らない会話が沢山あるんだ。仲良くなったと思ったら数分後にはほぼ他人。それが残酷すぎた」

 

 その周回でどれほど仲を深めようと、生き残れなければ全てはパア。典型的な例は、リンの告白が消え去ったことだろう。

 

 特に青衣とRandom Playの2人のことはよく知っている。沢山繰り返すうちに、とても仲良くなれた。と、ハルだけが思っている。

 

 「青衣が外部パーツつけれることとか、パエトーンの2人が旧エリー都の崩壊と深い関わりがあるとかさ。こんなの、知ってちゃいけないんだよ、普通は」

 

 パエトーンのことについては、ハルは多少暈して言ったが、本当はもっと知っている。その事件の犯人と呼ばれている人の弟子であったことも、いまだにその事件を追っていることも。

 

 「やっぱり僕は1人だった。食べ物の中に紛れ込んだ食品サンプルだった。「空っぽ」だった」

 

 「だから、僕は特捜班には入り直せない」

 

 

 「すまぬが、しょうもない悩みであるな」

 

 「えっっっ」

 

 青衣の方もまた、唖然としていた。死に戻りなどという重い物を背負った人間から、どれほどの悩みが飛んでくるのかと身構えていたのだが、予想に反し、飛んできたのは1人の青年としての悩みだった。

 

 寂しい。

 

 笑ってしまいそうになる程等身大で、それでいて17歳らしい真っ当な悩み。

 

 「ハルよ。空っぽなど、当たり前ではないか」

 

 「人はもともと、他人がいなくては生きていけぬ生き物だ。何も持たないから、誰かに埋めてもらうしかないのだ。我も「心」については多くの事を学んできたが、自分1人で成立している人間など見たことがない」

 

 「我もそうであるな。機能としてはただのロボットであるが、自分も知らぬ感情といったものらしきものが芽生えてきておる。これは、お主に教えられたことであるぞ」

 

 青衣は思い出す。ニネヴェを撃退し、縛り付けられるような不安を持ちながらも、ハルが生きていることに安堵し涙という機能が使用されたあの日。

 

 「『人のために泣けるならば既に人である』…この言葉に我がどれほど救われたか」

 

 「故に我は「空っぽ(ゼロ)」だが、空っぽではない。お主や朱鳶、セス坊から沢山の「数字」を貰っている。これは我の解釈であるが…人が空っぽ(ゼロ)なのは、自分の数字を他人に分けるからであろう」

 

 不器用な、何も持たない生き物。それでも、彼らは心を分け与える。であるならば、本人の持つ数字はゼロだとしても。他の人がくれた数字で生きて行ける。

 その生き方を、青衣は、美しいと思った。

 

 「だからお主は、そのままで構わぬ。足りなければ足りない分だけ、我らが数字を分けてやろう」

 

 ハルがゆっくりと、口を開く。

 

 「そ、っか。…そっか。これ、おかしくなかったんだなぁ…」

 

 くしゃりと笑顔が表出する。その表情には安堵と納得が含まれていて、自分の悩みはちっぽけな物だったと笑うような心も含まれていた。

 

 「僕らは皆、空っぽで正解だったんだ。青衣も、僕もそうか」

 

 「うむ。まさしく……」

 

 

 

 

 「ゼロとゼロ(zero to zero)、であるな」

 

 

 

 

 

 「ところでお主。その数字。一体いつ、増やしてきおった…?」

 

 修羅がいる。本来はルーシーに貰うはずだった圧倒的なまでの怒り。

 

 「ルーシーから聞いたぞ、お主、あやつを泣かせたらしいな」

 

 あの2人結構仲がいいんだな、と思いつつ、目の前の存在から目を逸らす。

 

 ああ。でも、青衣は泣かないのか。本当に良かった。もう、ルーシーにあれだけ泣かれて、僕の方も辛かったのだ。もう二度と死にたくないと思わせるだけの熱をルーシーから貰ったんだ。

 

 それを見抜かれてるからなのかな。

 

 でもさ、青衣。

 

 目を潤わせながら僕に説教なんかしなくても、別に良いんだよ。

 

 

 

 結局僕は、雅を手伝うまでもなく、特捜班に再加入する流れとなった。朱鳶さんは「絶対に上層部を黙らせます!!!」と意気込んで行ってくれただけあり、会議中に凄い剣幕を見せて僕の再加入を渋る人々の首を振らせた。

 

 再加入となった大きな原因は僕がホロウレイダーと会話していたとする流出画像がこれまた黒い所から出ていたこと。

 

 ライカンさんにその旨を伝えてみれば、

 

 「気づかないものですね。あなたが最も輝いているのは、人を助けられて安心した時の笑顔ですよ」

 

 とだけ言われ、流れるようにヴィクトリア家政を辞める手続きを進めてくれた。執事服は記念に貰えた。リナさん曰く、

 

 「貴方以外に着れる人もいませんわ」

 

 らしい。本当に一挙手一投足の洒落た人達だ。今後も贔屓にさせてもらおう。

 

 「リン、いる!?ラーメン食べに行かない?」

 

 僕はというと、なんだか凄く元気になった気がしている。今までは自分からお出かけに誘うことなどほぼなかったのだが、それができるようになった。

 

 「行きたい!!お兄ちゃん、ちょっと店番お願いねー!」

 

 僕は1人ではなかったのだ。実にシンプルな結論だが、分かるのと理解するのとでは全くモノが違うのだ。

 ともかく。

 

 もう、僕は空っぽじゃない。ゼロではあるかも、だけど。

 

 

 「朱鳶よ、何だ、これは……」

 

 「……青衣先輩、お力になれずすみません…。私はそういうの、専門外で…」

 

 最近、青衣の様子がおかしいというのに早急に気づいた朱鳶は話を聞いてみれば、出てくるのは惚気のようなものばかり。

 

 「ハルを目で追ってしまう」だの、「ハルとの会話中にのみエラーが多発する」だの。

 

 しかし、朱鳶もまた、その辺りの事情には、完全なるポンコツだった。結局彼女には青衣が何に悩んでいるかなど分からず、議論は煮詰まらなかった。

 

 しかし青衣がそうなるのも仕方がない。以前と比べてさらに明るくなったハルは、最早無差別初恋キラーと化し、「最高の治安官」というノリでインターノットにすら名前が響き始めていた。

 

 人間としての魅力度が上がったことにより、青衣すらも落ちかけていた。

 

 「ハルめ…青女の心を弄びおって…!」

 

 朧の月は消え去って、燦然と輝く太陽に置き換わる。今日も今日とて、美しい青は街中を炸裂していた。

 

 

ゼロ・トゥ・ゼロ第一部 完




このタイトル回収がしたかった。

まずはここまで、本作をお読みいただいた全ての読者様に感謝を述べさせてください。稚拙な文章ながら見守っていただき、返信の返ってこない感想を送っていただきまして、感謝しかありません。
本作の感想欄は150ほどになり、評価数もまた150ほどと、本当に大きな作品となりました。

ハルという人間を最初に書き始めた時はキャラクター造形のカケラもなかったのですが、書いていく内に1人の「ゼンゼロキャラクター」としてすら生き始めたことには驚きを隠せません。これからも彼の成長を見守ってやってください。

本作のタイトル回収についてですが、最初に考えていたのはこちらの方です。
1.居なかったはずの主人公が、居なかったはずのエーテリアスをゼロに戻す
2.0から0へ(死に戻りの暗喩)
3.「ゼロとゼロ(zero to zero)」
この3つの意味を含めていたわけですね。

はてさて、本当に話したいことばかりですが、今回はこの辺りまでとさせていただきます。原作が更新されるまで待つ、というような状況になれば休載することになりますが、一旦は√ルーシーを書くことにしました。書き終わってしまったら、ちゃんと休載になります。
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