東京ユグドラシル ~仲根綾音のロボット冒険譚~ 作:ヌルポ撲滅の使徒
プラモから始まる冒険譚
世界で最初に観測された異変は、一本の木だった。
東京都庁の眼の前に突如出現したそれは、初めは小さな苗木でしかなかった。
だが、入口前のアスファルトを貫いて出現したその木は、僅か1分後には全長5メートルを超える立派な大木に育った。
当時の時間は平日の真っ昼間であり、そんな異常な木の動画は、まだ自身の本能が発する危機感に気づいていない大勢の職員により、あっという間にSNSで拡散された。
……その後に続く、数多くの異常事態も含めて。
無数のスマホのカメラの前で、その木は成長、そして増殖をひたすら続けた。
1時間後には、現場を封鎖するために作られかけていたバリケードを成長する幹に巻き込んで取り込み、翌日には都庁を土台にする形で一体化。最終的な全長は都庁の倍近い500mにも達した。
1週間後にはついに新宿区を樹海に飲み込み、1ヶ月経ってようやく、東京23区内に収まる形で勢力拡大は止まった。
その間、日本政府は必死に樹海の拡大の阻止と、都民の避難を進め、そして避難に関してはほぼ完全な成果を上げた。
例えば樹海の拡大にかかった時間が、1日や1時間であれば不可能だっただろう。
だが樹海の拡大速度は非常識に早くはあったが、同時に避難する猶予が存在する程度には遅かった。
なにせそこは災害大国日本である。台風、洪水、地震、津波の発生から到達までの猶予に比べれば、樹海の進行速度はあくびが出るほど遅かった。
1ヶ月もあれば、臨時本部や避難所を都外に設置し、都心の住人たちを地方に避難させるには十分すぎる。
……ただし、あくまでも「ほぼ」完全ではあった。
何事にも例外、こぼれ落ちる命というのは存在する。
避難指示に従わず、強情に残り続けた都民。安全確保のためにギリギリまで残り続け、行方不明となった自衛隊員。興味半分に樹海に侵入して、そのまま帰還しなかった一般人。樹海を研究するために、外縁部に住み着いたと噂される研究者。避難のドサクサで動物園やペットショップから脱走、野生化した動物たち。そして……。
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その日、その時、仲音綾音はまどろみの中で鐘の音にも似た音を聞いた。
初めは高く小さく、だが次第に低く大きくなる音は、不思議と不快感はなく、ある種の神聖さを感じるもので、同時にひどく現実感をなくさせるものだった。
その音を聞き続けていると、次第に目の前が明るくなってゆく。
そうやってぼんやりとしていて、ようやく綾音は気付いた。
……これは夢に違いない。
綾音は昨日、両足以外の……つまりは目と耳の完治は絶望的だと、聞こえにくい耳で医者から聞かされたばかりだ。
見て感じている光景もふわふわしているし、これはきっと、辛い現実から逃避するために、病院のベッドの中でみている夢なんだろうと断定するのも無理のないことだった。
しかし、そう納得すると同時、ただ曖昧な光だけだった視界がはっきりした。
『病室だ』
昨日まで何も見えない生活をした反動か、見えた物をおもわず口にしてしまう。
しかし、すぐに違和感に気付く。
部屋が全体的に大きいのだ。
単に広い部屋なら違和感は感じない。そもそも綾音はこの病室の光景を今この瞬間まで見たことがないのだから、比較対象が存在しない。
なら何に違和感を感じたかと言えば、
面積が広い。天井が高い。扉が大きい。ベッドが大きい。窓が大きい。見舞いの品が大きい。
まるで、自分以外の全ての物が巨大化したかのようだ。
『……あれ?』
そこで、もう一つの違和感に気づいた。
ベッドの上に眠っている人物がいる。
その人は目や耳を覆うように、頭部が包帯などでぐるぐるまきになっていて、両足はギブス固定されている。左腕には点滴の管がつながっており、まるで今の自分のようだった。
『……違う。あれ、私だ』
たっぷり10秒は観察して、ようやく綾音は、それが自身の姿だと気付いた。
綾音は、毎日鏡に向かう程度には身だしなみを整える習慣はあるが、流石に全身包帯とギブスと布団に覆われている状態で、すぐに自身の姿と一致させることができないのは無理からぬことだった。
『え、なんで? じゃあここにいる私は? ……っは!? まさか幽体離脱!? それともドッペルゲンガー!?』
混乱しながらも、事ここに至って、ようやく綾音は今の自分の
それは、緑色の無機質な体だった。
それは、迷彩柄のシールが貼られた腕だった。
それは、それは……。
『プラモデルだーーーー!?』
そう、見舞いの品の中に埋もれるように直立していた、ロボットのプラモデルだった。
好きなキャストは全パーツを最大にした男性キャストです。