東京ユグドラシル ~仲根綾音のロボット冒険譚~ 作:ヌルポ撲滅の使徒
ベッドの足側には、クローゼットを兼ねた私物入れがあり、その手前に、昨日から放置されたままの綾音の小さな鞄が置いてあった。
『武器になりそうなものはないなあ』
ファスナーを四苦八苦して開けて、中を覗くも、期待した武器の類はなし。
JKらしく制汗剤やらハンドタオルやらポケットティッシュやら、細々としたお出かけセットだけ。
貴重品は両親が家に持って帰ってしまったし、鞄自体も小さい。
というわけで、本命である私物入れを開けることにする。
本来ならプラモの体では開けられないが、寝ている間におきた地震(?)のせいか、半開きになっている扉を押すと、つっかえる感触もなくスムーズに動いた。
どうやらちゃんとレールが掃除されていたらしい。
心のなかで職員さんに感謝しつつ、綾音は私物入れの中を確かめる。
『あった!』
そこにあったのは、宿泊用のお泊りセット。
毎日色々とケアしなくてならないJKに必須の、各種お手入れに使う道具をコンパクトに纏めたものだ。
逸る気持ちを抑えて、開封。
そしてプラスチック製の腕を突っ込んで取り出した。
『ハサミゲット!』
綾音は お手入れハサミ を 手に入れた!
なお、何をお手入れするのかは秘密である。
JKの見えない努力は、誰にも知られてはならないのだ。
『おお、思ったより大きい』
両手で持ってチョキチョキ開閉しながら、意外な重さと大きさに感動する綾音。
お泊りセット同梱のちゃっちなハサミとは言え、1/144プラモから見ると結構な大きさだ。
怪我防止のために先端が丸められているので、刺突には使えないが、丸腰に比べれば大きな前進であることも安心感を助長させる。
『よし、次!』
気が大きくなってきた綾音は、次の目的のブツを見上げる。
そこには、見上げるほどの大きさの巨大なぬいぐるみが鎮座していた。
……と表現すれば、めちゃくちゃ巨大に思えるが、プラモの体だからそう見えるだけで、実際は等身大の、普段抱き枕にしている、まんねんくんというゆるキャラのぬいぐるみである。
企画上のデザインコンセプトが亀と全身甲冑と鉄鋼製品という、全く持ってゆるくないモチーフを足して割ったキャラだ。
なお、実際のデザインやキャラ名は、唯一のゆるキャラ要素の亀を全面に押し出した、デザイナーのファインプレーにより、ちゃんとゆるキャラしている。
一旦ハサミを床においた綾音は、ぬいぐるみに近づいてゆく。
『戻るはだめだったけど、移るのならできるかな?』
そう、私物入れを開けてぬいぐるみを視界に入れた際に、綾音は別の人形に体を変えることを思いついたのだ。
正直今の体は小さすぎて不便だ。
だが、この等身大ぬいぐるみなら、人間の道具がそのまま使えるし、何よりも家具や自分の体を相手に、一々よじ登ったりする必要がない。
試す価値はある。
『とりあえず触ってみよう』
私物の中でもダントツででかいぬいぐるみの足に、ぽんと触れる。
『……およ?』
そして次の瞬間、なんの感慨もなく、肉体が別の人形に移ったことが感覚でわかった。
『ええ……。あっさり成功しすぎて逆に気持ち悪い……』
ぼやく綾音だが、まあ失敗するより良いかと気持ちを切り替え、新しい体のスペックを確かめる。
『目は見えるし、音も聞こえる。五感はさっきまでと変わんない感じかな』
軽く周囲を見回すと、想定通り、ぬいぐるみの視点になっている。
『立つことは……おお、できた!』
続いて、手をついて立ち上がってみる。
ちょっと足腰がふにゃふにゃして頼りないが、どういう原理か、しっかりと二本足で立つことができた。
プラモと違って、ぬいぐるみは基本自立できないのが不安点だったが、嬉しい誤算だ。
『よし、これなら最悪、体を担いで逃げること、も……?』
と、そこで、綾音は目眩のような、無理やり夜ふかしして寝落ちしないように我慢している時ににた感覚を覚えた。
直後、全身の異様な気だるさとともに、光と音が失わた。
『……へ?』
続いて感じたのは、全身を圧迫する布団の感触。
両足首はは固定され、吊るされいるのか若干の浮遊感がある。
そして左腕には点滴の管がつながっている感触。
『うそ、もどっ……ちゃった?』
あまりに唐突な展開についてゆけず、綾音はしばらくフリーズすることしかできなかった。