『鬼殺の刃~鬼と逢うては鬼を斬る、人と逢うては人を斬る~』プレイ実況   作:助亜黒宇

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裏話5

 襖を開けた部屋では、1匹の鬼としのぶさんが戦っていた。一目でわかるほどの劣勢。あのしのぶさんが肩で息をしている。理解した時には大きく、鋭く、踏み込んでいた。

 

 踏み込む最中、まるで天啓が舞い降りてくるかのようだった。呼吸できない、してはいけない、と。なんでそんなことを感じたのか、なぜ天啓が舞い降りてきたのか、俺にはわからない。だけど、間違っていないと理解した。だって、しのぶさんの指文字が息をするなって示しているから。

 

 一呼吸で殺し切らないといけない。一刀は扇に遮られ、他方の扇が襲い掛かってくるのを潜り込むように避ける。キレが違う。あまりに早い。上弦の陸も早いと感じたがそれ以上に早い。つーっと血が垂れてきた。避けきれなかったのか。

 

 おっとおっと、いきなり斬りかからないでおくれよ。

 

 無視する。鬼の発言で行動は変えない。近づいて首を刎ねる。それだけを考えろ。対話なんて必要ない。必要ならしのぶさんがしてくれるだろう。だって息は吸えないから。そんなことより一歩でも深く踏み込む。

 

 寒い。霧のような氷が鬼を取り巻き、蔓のような氷、氷柱、煙幕のような技。どれも恐ろしいキレがありながらも完全に回避なんてできやしない。がむしゃらに踏み込んで、踏み込んで、踏み込んで。

 

 一拍置くように、飛ぶように下がったその鬼は、小さい自らの氷像を生み出した。小さいながらも同じ恐ろしい技の冴え。

 

 身の毛がよだつ。危険だ。あの鬼一体でも死への恐怖を感じているのに、より一層死が近づいてきたような気配。即座に踏み込み一閃、切り壊す。息を、吸いたい。空気を求めて肺が、心臓が弾けそうだ。

 

 鬼が去っていこうとしている。しのぶさんを喰うことをあきらめた、というのだろうか。だが逃がすわけにはいかない。上弦の弐、それだけ強い鬼だ、ここで相手し続ければそれだけほかの隊士が生き延び、無惨に刃を届かせるかもしれないから。

 

 だから突貫することを決めた。この鬼こそがしのぶさんの仇。貼り付けたような笑顔じゃなく、心から笑ってほしいから。多少の犠牲は覚悟して、いざ―

 

■■■

 癸とは思えないほどの動き。彼と任務が重なったことはないから、訓練以外でその動きを見たことはなかった。でも、コイツには届かない。本当に頭にくる。

 

 なんで毒効かないのよコイツ、馬鹿野郎!

 

 一瞬の間、頭に血が上った瞬間の、ほんの僅かな間隙を縫うかのように扇が彼を襲う。ダメだ、あれは避けられない。

 コイツの扇は容赦なく彼の首を寸断するだろう。そして彼の刃はコイツには届かない。肺が痛い、それでも!

 

 蟲の呼吸 蜂牙ノ舞(ほうがのまい)真靡き(まなびき)

 

■■■

 破れかぶれ、そうとも言える突貫の代償は高く付きそうだ。鬼の扇が首に迫ってきた。避け……られない。ならば一太刀……も届かない。

 死がやってくる。絶望の中、風を感じる。藤の香りとともに。そう、しのぶさんの一突き。そのおかげで何とか死からは逃れられた。

 

 えらい、がんばったね!

 

 そう言いながら胸に受けた突きを、しのぶさんの突きを。喰らっていく。文字通りずぶずぶと、胸が飲み込んでいく。鬼がしのぶさんの腕を掴んでは、ずぶずぶと飲み込んでいく。鬼の腕を切り上げるが、飲み込みが止まらない。だから、だから。

 

 しのぶさんの腕を切り落とした。肩口から。同時に蹴り飛ばす。喰われないように、殺されないように。

 

 血が飛び散る。俺に蹴飛ばされて、吹っ飛ぶしのぶさん。誰のせいだ?鬼のせいか?それもある。でも、それだけじゃない。

 

 俺が弱いからだ。あれだけ刀を振るっても、呼吸を研ぎ澄ましても、この鬼の首を刎ねられない、俺の……せいだ。そのことに腹が立つ。血が沸騰する。家族を殺され、父を、母を、兄を、妹まで殺されて。眠れないから刀を振るい続けた。それでも届かない。

 

 絶望の中、自分を救い上げられた。救い上げてくれた(しのぶさん)から腕を奪わなければならなかった。自分の力が届かないから。憎い、憎い憎い、憎い憎い憎い憎い!

 

 血が沸き立つ。体が熱い。憎しみと憎悪と憤怒で心が、体が支配される。噛みしめた歯が砕け散りそうだ。そんな怒りの中、日輪刀が真っ赫に変わる。体が軽い。日輪刀が赫くなったから体が軽いのか、体が軽いから日輪刀が赫くなったのか、わからないが。

 あれだけ苦戦した血鬼術を、豆腐を斬るかのように切り裂く。それでも、首にまで届かない。あと一歩、いや、半歩がどれほど遠いというのか。

 

 途端、鬼の目玉が崩れ落ちる。ドロっと。鬼の動きが止まる。だから踏み込んだ。あれだけ遠く感じた半歩は、崩れた目玉が越えさせてくれた。首に刃が食い込む。鬼の血鬼術が首を凍らせてなお切り裂いていく。赫々とした日輪刀が。

 

 振り切った。頭がごろんと落ちたような音がして、振り返る。残った頭がぶつぶつと何か言っているので、踏みつぶし、しのぶさんの元へ行く。俺が隻腕にした、愛しい人のもとへ。

 

■■■

 切断面からとめどなく溢れる血を、熱した刀で塞ぐ。上弦の弐を討伐し、疲れ果てた俺たちは、つかの間のひと時を過ごした。やがてどちらともなく立ち上がり、討伐に戻る。無惨を討伐せねば終わらないから。

 

 部屋を出てしばらく、まるで地震のように城が揺れ、思わず傍にいるしのぶさんを抱きしめる。気づけば真夜中の、城の外に放り出されていた。

 

 柱としての債務を果たすべく、立ち上がり進もうとするしのぶさんを止める。独りよがりであることはわかっていても。優しく手を払うしのぶさん。

 

 そんなしのぶさんの両肩を抑える。そんな、隻腕で何ができるというのか。

 

「片腕であっても、柱としての責務を果たします。少なくとも、肉壁にはなれますし、もしかしたら隙を作れるかもしれませんから」

 

「いやです。しのぶさんが傷ついたら俺、動揺します。それに答え、まだ聞いてませんから。さっさとやっつけて帰ってきます。俺、しのぶさんとこに帰ってきますから。……俺の帰る場所になってください」

 

「……ぁ、わかったから。必ず、帰ってくるのよ?」

 

 あまりの可愛さに思わず抱きしめてしまった俺は、しのぶさんの耳元に「行ってきます」とささやき、出発した。

 

■■■

■■■

 無惨との戦いは、大きな犠牲を払うことになった。悲鳴嶼さん、伊黒さんや、甘露寺さんといった柱に始まり、多くの隊士が亡くなった。生きていても大けがを負っていたり、片目が見えなくなっていたり、片腕が動かなくなったり、様々な傷跡を残した。

 

「だからって気にしなくてもいいんですよ」

 

 そう言われたって気にする。人の腕を斬ったのだ。それも、この世で一番惚れた人の、だ。どうあがいても責任はとる。俺の傍でなかったとしても、だ。

 そんな俺の心を見透かすように、手を握り締めてくれるしのぶさん。

 

「でも、返事ちゃんと聞いてませんから」

 

 鬼を恐れることがなくなった夜、蝶屋敷の屋根の上で。赤く頬を染めた彼女の笑顔がただただ愛おしい。




これにて終了です。少しでも楽しんでいただけたのであれば幸いです。つたない文章にもかかわらず、貴重な時間をいただきありがとうございました。
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