転生特典に量産型の機体のみという縛りがあったのでジェイアークを選んでやった件 作:友(ユウ)
親父の一件があってからまた少し。
俺達は西インド諸島のグアドループ基地を訪れていた。
一応名目としては熱帯における環境耐久試験だが、半分お遊びみたいなものだ。
更に士気高揚を目的とした広報素材の撮影も行う事になっている。
で、その為にソ連軍の兵士にも協力してもらう事になったのだが、その役目として派遣されたのが、あのクリスカとイーニァだった。
どちらも容姿は抜群だから、広報素材としては適任だろう。
因みにアルゴス小隊からはタリサが選出されている。
理由として、以前にスカーレットツインと一悶着あったので、団結を強固にするために当事者同士が適任という事らしい。
俺としては、男の趣味を幅広くカバーする為なんじゃないかと勘繰っているが。
「う~ん……しかしそそるねぇ………唯依姫のトロピカルアーミー。あれを見れただけで、来た価値はあったよ」
ヴァレリオが篁中尉………唯依の姿を見てそんな事を言う。
アラスカは北極圏に近い為、基本的に寒いので厚着が普通なのだが、南国のこの場所は暑い。
その為、女性軍人は滅多に着ない薄手のノースリーブタイプの軍服を着ていた。
まあ、馬鹿な事を言うヴァレリオは、タリサとブレーメルから白い目で見られているが。
「あんまジロジロ見るな。失礼だぞ」
俺は軽く諫めるつもりでそう言う。
「良いじゃねえか。今回の任務なんて、半分お遊びみたいなもんだろ?」
「それは否定しないが、女性をジロジロ眺めるのはマナー違反だと思っただけだ」
俺はそう注意する。
「まあ、理由はともかく、こんな機会はめったにないんだから、折角だから楽しみましょ?」
ブレーメルがそう言いながらタリサと共にビーチへ向かった。
俺はヴァレリオに誘われたが、その目的が覗きだったので遠慮しておいた。
まあ、その情報をリークするのは当然だったがな。
その夜、親睦を深めるためのバーベキューでは、頬を腫らしたヴァレリオの姿があった。
自業自得だ。
親睦を深める為に行われたバーベキューであるが、タリサの好意をイーニァがふいにしたことで口論に発展。
イブラヒム隊長の説教を受ける羽目になった。
その翌日。
オルソン大尉の発案でビーチバレーとボートレースを行う事になり、ロックペーパーシザーズ………日本ではジャンケンっていうんだったか?
で、班分けを行ったのだが、それによってイーニァがタリサとボートレースに宛がわれた。
しかし、イーニァがクリスカと離れたくない、海が怖いと、なんとも年頃の女の子らしい駄々を捏ね始めてしまい、それを見かねたクリスカと唯依が同時に交代を進言してしまい、これ幸いとばかりにタリサがビーチバレーに行ってしまい、なし崩しでクリスカと唯依がペアでボートレースに出ることになってしまった。
「チクショー。俺もビーチバレーが良かったぜ………」
俺とボートレースでペアになったヴィンセントがぼやく。
「仕方ねーだろ? ロックペーパーシザーズの結果なんだから」
男で唯一ビーチバレーの班になったヴァレリオは、今頃鼻の下を伸ばしている事だろう。
「ん? おい、見てみろよ」
ヴィンセントが何かに気付いて指を指した。
その先には1隻のボート。
「ちょっと様子がおかしくねえ?」
「何?」
遠目で分かりにくいが、あの後ろ姿と水着は唯依か?
「何かトラブってんじゃねえのか?」
ヴィンセントが双眼鏡を覗き込んで様子を伺う。
俺も良く見ると、ペアであるはずのクリスカの姿が見えない事に気付く。
更に、彼女達のボートが潮に流されている。
「くそっ!」
俺は咄嗟に海に飛び込む。
「おいっ、ユウヤ!?」
「お前は島に戻って、この状況を知らせてくれ! 俺は様子を見てくる!」
俺は唯依達のボートに向かって泳ぎ出した。
唯依達のボートに辿り着くと、
「ブリッジス少尉?」
唯依が驚いた顔で俺を見る。
「何があった!?」
俺がボートに這い上がると、クリスカが真っ青な顔で息を荒げて倒れていた。
「クリスカ!?」
俺が声を上げると、
「急に倒れてしまったんだ。沖に出てから顔色が悪くなって………何度か確認したのだが、大丈夫の一点張り………」
「何かの発作か? それとも唯の船酔いか?」
「分からない。だが、すぐに引き返すべきだ」
「同感だ。オールをくれ」
俺がそう言うと、唯依がオールを差し出してくる。
「………すまない………助かる」
「気にするな」
俺はオールを受け取る。
唯依が妹と分かってから、気を許すようにはしているが、唯依の方は俺とどう接していいか戸惑っているようだな。
「俺が前で漕ぐ。中尉は後ろでクリスカを見てやってくれ」
「わかった」
唯依がクリスカを寝かせて頭を膝に乗せる。
それを確認して俺は漕ぎ始めようとして、
「それじゃあ行く………ッ!?」
行くぜと言おうとして、手に落ちた水滴にハッとなった。
空を見れば、積乱雲が発達してきており、今にも嵐になりそうだった。
このまま行けば、岸に着く前に嵐に巻き込まれる可能性が高い。
俺は目の前にあった島を見る。
「ひとまずあの島へ向かうぞ!」
「わかった。急ごう!」
俺はオールを漕ぎだして島へと向かった。
島へ着くころには雨も激しくなり、波も荒れ始めていた。
岸へ向かっていたら危なかっただろう。
「一気に引き上げる! いいな!」
「うん!」
「3,2,1! ふんっ……!」
「ううっ………!」
ゴムボートとはいえ、軍用の物はそれなりに大きく丈夫で、それに伴い重さもある。
それに加えてクリスカも乗っているので2人がかりでも引き上げるのには相当な力が必要だった。
何とか波の届かない位置までボートを引き上げたのだが、
「うっ、うわっ!?」
唯依が足を砂に取られて転んでしまった。
「おい! 大丈夫か!?」
「あ、ああ………」
すぐに身体を起こしたので、大したことは無いと思い、俺はボートのロープを木に括り付ける。
一先ずこれでボートが波に攫われることは無くなった。
俺は一息つく。
「クリスカは? 大丈夫か?」
俺が確認すると、唯依はファーストエイドキッドの鞄の中を探っていたが、
「何か掛けてやりたいが………防寒シートが無くてな………」
「ファーストエイドキッドは、E規定準拠じゃねえのかよ!?」
普通は防寒シートも入っている筈だが………
「とにかく、体温の低下が心配だ。一刻も早く、雨風を凌げる場所へ連れていく必要がある」
「わかった。早速移動しよう。手を貸してくれ、中尉」
「ああ」
2人でクリスカの肩を担ぎ、島の中へと向かった。
しばらく歩いていると、
「うっ!」
唯依が躓いたのかバランスを崩した。
「どうした!? 大丈夫か!?」
「ッ………何でもない………気にするな………」
「本当に平気なのか?」
「少し……疲れただけだ………先を急ごう。彼女が心配だ」
唯依はそう言って立ち上がる。
「………そうだな。じゃあ、行くぞ」
俺達は再び歩き出すが、数歩歩いたところで再び唯依が崩れ落ちる。
「おい!」
「すまない……」
それでも唯依は立ち上がり、再び歩き出そうとするが、
「はうっ!?」
今度は一歩も歩くことなく倒れこんだ。
ここまでくれば、理由は一つ。
「足を痛めたのか!? いつだ!?」
俺は問いかける。
「………さっき……砂に足を取られて…………」
「ッ! あの時か! 何で黙ってたんだ………!?」
「最初は、それほどでも無かったんだ………だが、歩いて行くうちに………」
「チッ! くそっ………! どうしたら………」
流石に2人抱えて移動は出来ない。
すると、
「1人でも行けるか?」
唯依はそう言った。
「貴様の疲労が相当なのは分かっている………勝手を言って済まないが、ここは先に彼女を連れて行ってくれ」
「それじゃあ中尉が………」
「私は後から行く。彼女をこのままにはしてはおけない………頼む………!」
確かに足を痛めただけの唯依と、倒れた原因が分からないクリスカ。
優先するべきはクリスカだろう。
「ッ………! わかった」
俺はクリスカを背負うと、
「すぐに戻る」
俺はそう言ったが、
「駄目だ! 火を起こして彼女の体を温めることを最優先しろ。いいな………!」
そう言う唯依の眼は確固たる決意を持っていた。
言葉ではテコでも動かないだろう。
強情な奴だ。
「…………それをやったら戻ってくるから休んでろ。無理して動き回るなよ」
「…………早く行け」
その言葉に頷くと、俺はクリスカを背負って歩き出した。
運よくさほど遠くない所に洞窟を見つけた。
クリスカを洞窟の中に寝かせると、火を起こす準備をする。
洞窟の中には枯れ木も転がっており、雨に濡れていないため問題なく使えた。
ファーストエイドキッドの中にあった着火装置で火をつけると、息を吹いて火を大きくする。
十数分ほどでしばらく燃え続ける程に安定してくれた。
「よし!」
俺はすぐに立ち上がって唯依の元へと急ぐ。
すると、遠目に唯依の姿が見え、立ち上がろうとしてすぐに倒れこんだのを目撃した。
「おい! 無理すんな!」
俺は唯依に呼び掛ける。
彼女に駆け寄ると、
「待たせて悪かった」
「何をしている……!? ビャーチェノワ少尉は?」
「心配ない」
「心配ない訳が………!」
俺はお叱りの言葉を無視して唯依の足首を確認。
軽く触れてみると、見事に腫れ上がっていた。
「ッ!?」
「腫れちまってるじゃねえか……! だから無理すんなって言ったろ?」
「………そんな事はどうでもいい! それより、意識を失っている人間を放置するとは何事だ……!?」
「説明してる暇は無い」
「彼女の所へ戻れ! 私は自力で行く」
「強がるなよ。まともに動けもしないのに……」
俺がそう言うと唯依は視線を逸らした。
ったく。
何でコイツはこんなにも強情なんだか………
「………ったく。仕方ねえな!」
口で言っても聞かないなら実力行使だ。
俺は彼女を抱き上げる。
「きゃっ!? な、何をするブリッジス少尉!?」
思わず声を上げる唯依。
「こんな時まで気張るな! こういう時は、妹らしく兄貴に頼ってりゃいいんだ!」
「ッ………!?」
俺はそう言って駆け出す。
「ま、待て! 待ってくれ!」
俺の腕の中で唯依が暴れる。
「少し黙っててくれないか? 俺も正直クタクタなんだよ」
まあ、実際のとこはまだ余裕がある。
アクセルの訓練はマジできつかったからな。
この程度で体力が尽きるようなやわな鍛え方はしていない。
そう言ったのは、そっちの方が唯依が大人しくしてると思ったからだ。
「ッ…………!」
思った通り唯依は暴れるのを止める。
「そうだ。少しでも早く終わらせたいなら協力してくれ」
俺はそう言う。
すると、
「……………………」
唯依は恥ずかしそうに俺の首に手を回す。
「ッ………!」
その行動に一瞬驚いたが、
「こちらの方が………負担は少ないでしょう………」
「………あ、ああ………そうしてもらえるとかなり楽だ………」
いきなりしおらしくなった唯依に思わず保護欲が掻き立てられるが、俺は先を急ぐ。
すると、
「……………ありがとう…………ございます……………兄様…………」
『兄』と呼ばれた事に俺は驚く。
その姿を見た俺は、たまに聞く過保護な兄の気持ちが、少なからず分かったような気がした。
洞窟に辿り着くと、唯依はいつもの調子を取り戻していた。
「容体は安定しているようだが、こうなった原因が分からない以上、確かに不安だな………」
クリスカの様子を見て唯依がそう言う。
「おそらくこの島は、ヘリか戦術機なら基地から数十分以内の距離になるはずだ。捜索にそれほどかかるとは思えないが………」
俺はそう言いながらもクリスカを見つめる。
すると、
「その………少尉。1つ確認していいか?」
「何だよ? 改まって………」
「その………プライベートを詮索するつもりは無いのだが………彼女とは、どういう関係だ………?」
「どういう……って?」
「あ、いや………『妹』として兄様の交友関係が気になるというか………彼女をファーストネームで呼ぶことが気になっただけで…………」
「ッ…………他意なんて無い。俺がソ連の施設で捕まった時、一緒に居たソ連の衛士が彼女をそう呼んでいただけだ…………だから、つい『クリスカ』って言っちまうんだ」
「そ、そうか…………一緒に居たソ連の衛士と言うのは………」
「イーニァの事か?」
「ああ………彼女か…………」
唯依は納得したように頷く。
俺は外を見ると、少し雨が弱まっていた。
「雨が弱まった。ボートの様子を見てくる」
俺はそう言って立ち上がる。
「分かった。気を付けてくれ」
俺は洞窟を出て浜辺へと向かう。
するとそこで見たものは、
「ボルフォッグ!」
ボルフォッグがロープが切れて流されそうになっているボートを掴んで支えている姿だった。
「ユウヤ隊員。飛ばされた木の枝でロープが切れてボートが流されそうになっています。結び直してください」
「すまん! 助かった!」
俺は切れたロープの端を手繰り寄せてしっかりと結び直す。
「ふう………」
俺は安堵の息を吐く。
「本当に助かったぞボルフォッグ。お前が居なかったらどうなってたか」
「いえ。それよりも、ビャーチェノワ少尉の容態はいかがでしょうか?」
「今は大丈夫そうだ。最悪はお前に頼んで基地まで連れてってもらう事も考えてたが………そうならないで済んで助かった」
「私の存在は、まだ伏せておいた方が宜しいかと」
「ああ。とにかく助かった。何かあった時はまた頼む!」
「お任せを」
そう言ってボルフォッグはホログラフィックカモフラージュで姿を消した。
【Side Out】
【Side 唯依】
兄様がボートの様子を見に行って程なく、ビャーチェノワ少尉が目を覚ました。
今は私の目の前に腰掛けて顔を合わせている。
現在までの経緯を説明すると、
「そうだったのか………世話になってしまった様だ」
「気にしなくていい。天候の悪化は貴様の所為ではない」
「それで、ブリッジス少尉は?」
「ボートを見に行っている。すぐに戻るだろう」
「そうか………」
「……………………」
「……………………」
少しの間沈黙が流れる。
すると、
「篁中尉」
「何か?」
ビャーチェノワ少尉が声を掛けてきた。
「1つ、聞いても良いか?」
「………ああ」
彼女が私に聞く事とは一体何だろう?
「こんな状況下で、聞く様な話では無いのだが………ごく個人的な質問だ」
「個人的?」
そう見せかけてこちらの機密情報を探ろうとしている可能性も考えたが、
「別に諜報活動に関わるような内容ではないから、心配しなくていい」
ビャーチェノワ少尉は私の懸念を先読みしたかのようにそう言った。
「………なるほど。いいだろう。何が聞きたいんだ?」
「ユウヤ・ブリッジスについて聞きたい」
「えっ?」
兄様に?
「あの男に興味がある」
ま、まさかビャーチェノワ少尉が兄様に興味を!?
そ、それはまさか恋愛的な意味で!?
もしそうならビャーチェノワ少尉が私の義姉になるかもしれないという事で………!?
「…………衛士として」
「ッ!?」
「彼が優秀な衛士だという評判は知っている」
そ、そうか………!
衛士としての興味か………!
「確かにその評判にそぐわない優秀な衛士だ…………いや、
「ああ。その通りだ」
確かに兄様の操縦技術は素晴らしい。
斯衛の一員である私ですら足元にも及ばないだろう。
妹として誇らしくもある。
「しかし、優秀過ぎる」
「優秀過ぎる?」
一瞬その言葉の意味が理解できなかった。
「GNドライブ搭載の戦術機が開発されてまだ一年足らず。どこの国も、手本として供与されたという戦術機の性能を超える物を作り出してはいない。それどころか、GNドライブがどういうものかすら完全には理解出来ていない。あくまで提供されたデータを元に、設計図通りに作っているに過ぎない」
「確かにな。だが、それとブリッジス少尉に何の関係が………」
「………にもかかわらず、ブリッジス少尉はGNドライブの性能を大きく引き出している」
「ッ………」
「GNドライブの特性に合わせた機体操作、操縦テクニック。あのような操縦をする衛士など今まで見た事が無い」
確かに、兄様はユーコン基地に来てからGNドライブ搭載機の常識を覆し続けている。
殆どの衛士がGNドライブをジェット噴射の延長戦で考えていた飛行や短距離跳躍を、『斥力による浮遊』という全く別の概念による機体操作を行い、ビームライフルやビームサーベル、GNフィールドの特性を理解して操縦している。
「私が気になるのは、それほどの操縦技術をどこで学んだのかという事だ」
「ッ!」
「それほどの腕を持ちながら、今まで彼の噂は聞いたことが無い。特殊な環境で訓練していたとしても、そのような操縦をする衛士など、他では聞いたことが無い。あの機体操作をしたのは、私の知る限りブリッジス少尉が初めてという事だ」
「……………私が聞いたのは、ブリッジス少尉はこの2年、とある機密の特殊部隊に居たという事だけだ。今の操縦技術は、その部隊で身に付けたものだとも」
「機密の特殊部隊…………」
「内容は私も知らない。聞いてみたが『機密』だということで教えてはもらえなかった」
「そうか…………」
「それほどまでにブリッジス少尉の事が気になると言うのなら、本人に直接聞いてみればいいだろう? 幸いなことに、彼は今この島に居るぞ?」
ビャーチェノワ少尉の物言いに何故かムカッと来た私は投げやりにそう言ってしまう。
「……………彼に興味を持っているのは私では無い………」
「ッ!? どういう意味だ?」
「…………イーニァなのだ」
「ッ!? シェスチナ少尉が? 彼に興味を………一体何故?」
「…………分からない………それが分からないからあなたに聞いている!」
ビャーチェノワ少尉には珍しく、感情の籠った声のような気がした。
「こんな事初めてだ………! 全部あの男が来てからだ!」
ビャーチェノワ少尉も困惑している様子だ。
「………………シェスチナ少尉は、彼の事を何と?」
「駄目だ………! そんな事は聞けない! あの子は違うんだ………! そんな事………いや、駄目だ……! 駄目だ!」
ビャーチェノワ少尉が取り乱した様子を見せる。
「どうした? 一体………」
私が問いかけると、ビャーチェノワ少尉は両手を顔に当てながら立ち上がり、
「あの子は………! あの子は………!」
次の瞬間、ビャーチェノワ少尉が突然倒れこもうとした。
「あっ!」
私は咄嗟に駆け寄り、ビャーチェノワ少尉を受け止めるが、
「うっ!?」
怪我をした足に痛みが走る。
「落ち着けビャーチェノワ少尉! 一体どうしたんだ?」
それでも私は彼女に問いかけると、
「はぁ……はぁ……すまない………取り乱した………」
荒い息を吐きながら謝罪を口にする。
私は彼女を岩に寄りかからせると、
「気にするな。具合が悪い時には致し方ない」
気にしないように言う。
私が元の場所に座り直そうとした時、
「あの子は………」
ビャーチェノワ少尉が呟く。
「あの子は………繊細なんだ………あの子は……………」
そう言うビャーチェノワ少尉の姿は、酷く怯えた子供のように見えた。
【Side ユウヤ】
洞窟に戻ると、既にクリスカが目覚めており、唯依と向かい合っていた。
「今戻った! 目が覚めたんだなクリスカ。よかった」
「ユウヤ・ブリッジス………貴様にも迷惑を掛けたようだ。謝罪する」
クリスカはいつもの無表情で俺を見上げる。
「そこは感謝の言葉の方が良かったが………気にするな」
俺はそう言うと、
「に……ブリッジス少尉、ボートの様子は?」
「ああ。枝でロープが傷ついて切れそうだったから結び直しておいた。危ない所だったが大丈夫だ」
「そうか…………一先ず雨が止むのを待ち、明るくなったら基地へ向かおう。もしかしたら、救援が先かもしれんが」
「了解だ」
唯依の言葉に俺は頷く。
「今の内に薪を集めてくる」
「待て少尉。私も手伝う」
そんな事を言う唯依。
「無茶するな。まだ動けないだろう? すぐ戻るから」
「ッ…………」
その言葉に不甲斐なさそうにする唯依。
全くこいつは何処まで自分に厳しいんだか。
「私も同行する」
クリスカがそんな事を言い出した。
「お前、まだ本調子じゃ無いだろう? いいから………」
「大丈夫だ。あのような醜態はもう晒さない」
「どうしてそう言い切れるんだよ?」
「自分の体の事だからだ」
「おいおい、どうしてああなったのか、原因が分かっているような口振りだな?」
「………いいだろう? 中尉」
クリスカは唯依を見て許可を求める。
すると、
「……………いいだろう、許可する。ただし、単独行動は禁ずる」
「おい! 本気かよ!?」
「常にブリッジス少尉と行動を共にし、無理はしない事。いいな?」
「え?」
「………わかった」
俺が困惑している間にクリスカは頷いてしまった。
俺が歩く少し後をクリスカは付いてきていた。
「………なあ? 本当に大丈夫なのか?」
俺はクリスカを気に掛ける。
だが、
「しつこいぞ! それに、信じて欲しいと頼んだ覚えはない!」
クリスカから帰ってくるのは冷たい反応ばかりだ。
アルゴス小隊でスカーレットツインの評判が悪いのも、コイツの性格が大半を占めてるんだろうな。
「はぁ」
俺はため息を吐いて先に進もうとした。
「私の事はいい。それよりも貴様、イーニァの事はどう思っているんだ?」
「は? どうって……? どういう意味だよ?」
「そのままの意味以外無い」
クリスカはキッパリとそう言う。
「聞き方を変える。何でお前はその質問を俺にするんだ?」
「理由は分からないが、イーニァはお前を気にかけている。そんな事今まで無かった……私はあの子のパートナーとして、貴様の事をよく知っておく必要がある!」
「ちょ!? 俺はお前達の事は殆ど知らないんだ! それなのに、どう思っているかとか、気にかけられているとか言われても………」
「それは私も同じだ。基地にあるデータベース以外何も知らない………だから篁中尉の命令に従い、こうして尋ねている」
「は? 中尉が何だって?」
「気になる事は本人に聞けと言われた。理に適っている」
……まあ、唯依も俺の事は何も知らないからな。
そう言う以外無いだろう。
「気になる事と言えば、貴様の異常な操縦技術もそうだ。それほどの腕を、一体どこで身に付けた?」
クリスカが更に尋ねてくる。
「俺の操縦技術は、ユーコン基地に来るまでの2年間の間に居た部隊で身に付けたものだ。それ以外に説明のしようがない」
俺はそう言う。
別に嘘は無い。
その部隊がGGGというだけで。
「その部隊とは一体何だ?」
「それは機密だ。おいそれと他人に話せる内容じゃない。お前だって機密を俺に喋るわけにはいかないだろう?」
コイツは忠実な兵士だ。
こう言えば無理に踏み込んでは来ないだろう。
「それは…………うっ!」
クリスカが頭を押さえながらふらつく。
「くっ!」
俺は咄嗟に駆け寄って支えた。
「……………ッ! 触るな!」
俺に抱き留められたことに気付いたクリスカは両手で俺を突き飛ばす。
「お、おい!」
「はぁ……はぁ……」
苦しそうにするクリスカ。
「おい! 大丈夫か!?」
「わ、私に近寄るな………!」
俺を拒絶する言動を口にするが、力を失った様に崩れ落ちようとする。
俺は咄嗟に支え、抱き留めた。
「何でそんなに無理ばっかりするんだよ!?」
「ッ………無理………?」
「お前が昨日ぶっ倒れたのだって、なんかの無理が祟ったから何だろう……!?」
「ッ………!」
「もしもあの時、お前ら2人だけで嵐に巻き込まれたら、どうなっていたと思う? 何で無理してるのか知らねーけど、2人とも、それで死んじまってたのかもしれねーんだぞ?」
「…………………………ッ」
俺の言葉に何か感じたのか、目を伏せた。
「……………私は恐ろしいんだ…………」
「え?」
「私は………海が…………!」
「海が…………?」
海が恐ろしいとはどういう事だろうか?
「恐ろしい…………!」
その姿は本気で怯えているように見えた。
「ッ!」
「私もイーニァも海を………本当の海をこんな近くで見たのは初めてなんだ………」
「えっ………? 見たこと無かったのか、海……」
それは意外だった。
クリスカ程の年齢で海を見た事が無かったなんて………
「み、見るだけなら平気だ………! 戦術機に乗っていれば大丈夫なんだ……! でも、沖に出ると引きずり込まれてしまいそうで…………!」
信じられない事に、クリスカが涙を浮かべていた。
本気を海を恐怖していたのだろう。
倒れたのも精神的ストレスが原因だったのかもしれない。
「クリスカ…………」
その様子が怯える子供の様で、俺は抱きしめながら頭を撫でてやる事位しか出来なかった。
その後、洞窟に戻って程なくした頃、戦術機に乗ったイーニァとアルゴス小隊の面々が救援に来てくれて、俺達は救助された。
尚、基地に戻った後、唯依が遭難騒ぎの責任を取ると言ったのだが、それが広報任務の水着撮影の協力であり、クリスカとイーニァもまた協力することになった。
そして他の兵士達も後学のための視察という名目でその撮影の見学を許可されていたのだが…………
妹の水着姿をまじまじと見る変態になりたくは無いので、俺は何かと理由を付けて辞退したのだった。
はい、マブラヴオルタネイティヴAnother編第9話です。
今回は遭難編でしたが………細かい所に違いはあれど、大まかな流れは原作通りです。
感想の中でGGGの面々の水着姿を期待していた人も居るようですが………
唯のビーチならともかく、軍の施設内にGGGメンバーが居るのは不自然なのでそれはやめときました。
唯依の妹っぽさは少しは出せたかな?
次回はカムチャツカ編になります。
この世界戦で電磁投射砲など骨董品扱いになりそうですが果たして………?
P.S:本日は力尽きたので返信はお休みです。