転生特典に量産型の機体のみという縛りがあったのでジェイアークを選んでやった件   作:友(ユウ)

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第14話 蒼ざめた焔

 

 

【Side ユウヤ】

 

 

 

 

前線基地のBETA侵攻から辛くも撤退し、ユーコン基地に戻ってきた俺達。

そこで不知火弐型は今までのデータを元に、各部を改良、強化されたモジュールに変更した『不知火弐型phase2』として生まれ変わった。

俺の操縦データから殆ど使用していなかった各部スラスターを排し、身軽になったことで更に機動力は向上、運動性能も上がっている。

それから、ラトロワ中佐を始めとしたジャール大隊だが、公式上は光線級吶喊(レーザーヤークト)を敢行し、光線級を全滅させるも消息不明となっていた。

まあ、ボルフォッグから聞いた話では、別の基地に保護され無事らしい。

ソ連の上層部も一枚岩では無い様だ。

そしてユーコン基地では、ある演習が開始されようとしていた。

それは、戦術機総合評価プログラム『ブルーフラッグ演習』だ。

一応名目上は、『閉じた環境は時に成長を妨げる。故に国連軍は互いの力を評価、研鑽するための機会を用意するため』というものだが、要は対人模擬戦トーナメントなので、各メーカーの利権がらみだという事は考えるまでも無い。

まあ、多少は名目上の狙いもあるのだろうが。

それから、少し間が開いたが生還記念パーティーが開かれた。

ぶっちゃけ俺はこういうイベントは苦手だ。

とはいえ、こういう騒げる時間が貴重だという事も分かっている。

ナタリーにドレスに着替えさせられたタリサが騒いだり、VGが女兵士達を口説いたりヴィンセントがそれに便乗したり、各々が楽しんでいる。

すると、

 

「ハァーイ、ユウヤ」

 

ブレーメルが声を掛けてきた。

 

「ああ、ブレーメル」

 

「楽しんでる?」

 

「まあな」

 

俺が答えるが、ブレーメルの格好はお玉片手にエプロンと言う姿だった。

俺がその事を問いかけようとした時、その後ろから別の人物が現れた。

それは、

 

「なっ!? お前……その恰好………」

 

ブレーメルの後ろから現れたのは、鍋を持ったエプロン姿の唯依だった。

唯依は恥ずかしいのか俯いている。

 

「とりあえず座りましょっか」

 

ブレーメルの言葉で開いているテーブルに座ると、

 

「奥の厨房で、一緒に料理してたのよ」

 

「どうしたんだ? 態々料理なんて………」

 

「あら? 料理っていい気分転換になるのよ? ねっ、中尉?」

 

ブレーメルがそう言うと、

 

「うん………」

 

唯依は恥ずかしそうに頷く。

 

「何かを作ったり生み出すのって、とても満たされるの。それを誰かに喜んでもらえたら、余計にね」

 

それは女性特有の感覚だろうか?

 

「じゃあ早速………」

 

ブレーメルの言葉で唯依が鍋の蓋を取る。

すると、湯気と共にいい香りが広がった。

でも、この匂いは………

 

「これは………」

 

「うん………これは肉じゃがといって、日本の伝統的な家庭料理なんだ………」

 

唯依はそう言いながらお玉でジャガイモや肉、糸こんにゃく等を掬い、皿に盛る。

 

「熱いから……気を付けて」

 

「あ、ああ…………」

 

俺は少し呆然としながら受け取った。

何故なら、俺はその料理を知っていた。

この料理は、母さんが良く作ってくれたものだ。

その時はオリジナルだと言っていたが………

そう言わないと、当時の俺は素直に食べないと思ったんだろうな。

今思えば否定は出来ないが。

俺はジャガイモを掬って口に運ぶ。

口の中に懐かしい味が広がった。

 

「…………どうだ?」

 

唯依が少し不安そうに尋ねてくる。

 

「………うまい。うまいよ。参ったぜ………」

 

俺は正直に答える。

 

「そ、そうか! この料理は母から教わったんだ!」

 

唯依は嬉しそうにそう言う。

 

「そうか……中尉のお袋さんの………」

 

「あっ…………す、すまない………」

 

俺の様子を見て突然謝る唯依。

異母兄妹という間柄、『母親』という存在は触れるべきでは無かったと思っているのだろうか?

 

「何謝ってるんだよ? もう一杯良いか?」

 

俺は気にしないと笑いかけながらおかわりを申し出た。

 

「そうか! まだたくさんあるから………」

 

唯依がそう言いかけた時、

 

「ヒュ~ヒュ~!」

 

突然口笛が響いた。

 

「ん?」

 

そちらを向けば、

 

「ったく、どっちも見てらんねーな!」

 

「見せつけてくれるね畜生!」

 

「ユウヤ! お前もうちょっと他に言うことあるだろ?」

 

タリサ、ヴァレリオ、ヴィンセントを始めとした多くの隊員が、俺達に注目していた。

ったく、こいつらは………

 

「勘違いしない様に言っておくが、俺と中尉はそんな関係じゃないからな!」

 

「そ、そうだ! 私とに……ブリッジス少尉は……!」

 

俺がそう言い、唯依も続こうとして、シャランと鈴の音が鳴り響いた。

 

「ッ?」

 

その鈴の音が聞こえた方を向くと、

 

「随分楽しんでるみたいじゃない」

 

女の声が響いた。

 

「私は統一中華戦線の崔 亦菲(ツイ イーフェイ)中尉よ! さっさと出てきなさい! ユウヤ・ブリッジス!」

 

そう名乗ったのは緑の長い髪をツインテールにして鈴の付いたリボンで縛ったアジア系の女だった。

俺は立ち上がると、

 

「ユウヤ・ブリッジスなら俺………」

 

俺が言い切る前に俺の前に駆け寄ってくると、俺の顔を覗き込んだ。

 

「ふうん………アンタが世界記録の英雄………?」

 

ここでもそれを言うのな?

 

「あれは俺だけの力じゃない。99型の威力があって、俺はそれを最大限引き出しただけだ」

 

俺はそう答える。

 

「へぇ………武器の威力に慢心するわけでも謙遜するわけでも無く、『最大限引き出した』………ね。ムカつくけど妥当な評価じゃない。あの混戦で、味方誤射なく敵を殲滅した………間違いなくアンタの腕ね」

 

ほう?

少なくも、武器のお陰と言うだけの節穴の持ち主では無い様だ。

 

「ふうん………調子に乗ってるかと思いきや、あんた、結構いいわね?」

 

「はあ?」

 

「アメリカ軍のエリートだって話だけど、なんで日本の開発部隊に? 元々アンタは何人なの? 見るからにアジア系よね? どこの血を引いてるのかって聞いてるの」

 

崔中尉は疑問を口にする。

 

「俺は、日系アメリカ人だ」

 

既に親父と出会い、母さんの傍に居なかった理由も聞いた今の俺に、日本人の血を引いている事を恥じる理由は何も無い。

真っ直ぐにそう答えた。

 

「ふうん……私達、気が合いそうね?」

 

意味深にそう言う崔中尉。

俺に歩み寄ってくると、頬に手を添え、

 

「いいわ。次の対戦、本気で遊んであげる………! 再見(サイツェン)!」

 

ウインクと共に鈴の音を鳴らし、崔中尉は去っていった。

 

 

 

 

 

それから数日後、今日のテストを終え、基地の敷地内を歩いていると、

 

「ユウヤ・ブリッジス!!」

 

突然声を掛けられた。

この声は………

 

「クリスカ?」

 

そこに居たのはクリスカだった。

クリスカが歩み寄ってくる。

コイツが俺に声を掛けてくるという事は………

 

「ああ。イーニァを探しに来たのか?」

 

いつもの行動パターンから推測してそう尋ねると、

 

「な、何故それを!? まさか貴様、私の思考が見えるのか!?」

 

「は? 思考?」

 

『思考が見える』とは、これまた独特な表現だな。

まさかコイツ………

 

「答えろブリッジス! 何故私の目的が分かった!?」

 

「お前………念動力者か何かか?」

 

GGGの仲間にいる武と純夏。

この2人は『念動力』と呼ばれる特別な力を持っていた。

2人は人の感情を感じ取ることができ、2人の乗機であるグルンガスト参式もその念動力を利用して機体操作や念動フィールド、遠隔操作武器などにも使えるらしい。

クリスカの言動は、その2人に近いものがあると感じたのだ。

 

「ねんどうりょく………? 何だそれは? それよりも、早く私の質問に答えろ!」

 

………にしても、

 

「お前、俺を馬鹿にしてるだろ?」

 

別に思考を読まなくとも普段の行動パターンから簡単に予測は出来るんだが。

 

「馬鹿になどしていない! お前は元々馬鹿だ! 今更馬鹿にする意味など無い!」

 

いや、俺コイツの前でそこまで馬鹿なことやった事あったか?

 

「……ったく、よく考えろよ。お前、イーニァの事でなきゃ普段話しかけてこないじゃないか。それだけだよ」

 

俺がそう言うと、

 

「ッ……! 何だ、意外性は何も無いな………」

 

クリスカはあっさりと納得した。

 

「おいおい。勝手に盛り上がっておいて………」

 

「仕方ないだろ。貴様がもったいぶるから、余計に気になってしまったんだ………」

 

そう言ったクリスカは、小さな笑みを浮かべた。

………クリスカが、笑った…………?

俺は思わずそう思ってしまった。

イーニァに向ける笑み以外で初めて見るクリスカの笑顔だった。

その微笑みはとても綺麗で………

と思った瞬間、その笑みが消えていつもの表情になり、

 

「……で、どうなんだ? ここにイーニァは?」

 

「いや、来てないけど………」

 

「そうか………貴様が一番の心当たりだったのだが………」

 

「俺が? どういうことだ?」

 

「イーニァは、貴様になついているからな………」

 

複雑そうな表情でそう呟くと、

 

「邪魔をした」

 

そう言うと踵を返して歩いて行く。

その背を見て、

 

「ったく、しょうがねえな……」

 

俺は歩き出す。

クリスカと同じ方向へ。

 

 

 

暫く歩き回っていたが、ある時クリスカが立ち止まる。

 

「………何をしている?」

 

振り返って問いかけてきた。

 

「お前こそ。さっきからこの区画を歩き回ってるだけじゃねえか」

 

そう言うと、

 

「あの子は……ユーラシアのハンガーを見て回るのが好きなんだ………」

 

「そういうことか………でももう、この辺は一通り見たろ? 他に心当たりは?」

 

「他には………最悪な事に、ビルフォートの酒場やショーウインドウなんかを………」

 

「ん………? 最悪って……何が?」

 

「ソ連軍では、許可なくあの町に立ち入ることを禁じている……」

 

「なるほど………堂々と軍規違反するとは、イーニァもやるな……」

 

クリスカは俯いて心配そうな表情をしている。

まっ、ホントに2人が特権階級なら、バレても大した問題にはならない筈だ。

だが、軍に全てを捧げているクリスカにとっちゃ、それを裏切るような行為は相当キツイだろうな。

 

「俺がビルフォートを見てくる。お前は残りのハンガーを探せ。2時間後にここで」

 

俺がそう提案する。

 

「ブリッジス? どういうことだ?」

 

「2手に別れた方が効率的だろ?」

 

「何故貴様が………? 一体何を企んでいる?」

 

「何も? 普通の事だろ、こんなの」

 

まあクリスカにとってはそんな『普通』も知らなかったことなんだろうけど。

 

「………………『普通』?」

 

「ああ。ここではな」

 

そう言って歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

2時間後。

既に日が落ち、辺りは暗くなっている。

結局こちらは空振りだった。

クリスカが見つけてくれてると良いんだが………

その時、ふと鼻歌が聞こえて来た。

 

「♪~~~~~~♪~~~~~~~~」

 

その音色は、クリスカが奏でていた。

これは……ロシアの曲か?

何処か物悲しい……だけど、優しい曲だな………

GGGに居るシェリルやランカ、ワルキューレの歌と比べれば上手さでは劣るが、不思議と聞き入っていた。

そして、月明かりに照らされながら歌うクリスカを、俺は美しいと感じていた。

少しして歌が終わると、クリスカは俺に気付く。

 

「ブリッジス………イーニァは?」

 

「その様子じゃ、そっちも空振りか………流石に心配だな。何も無きゃいいが………」

 

「それは大丈夫だ。あの子に何かあれば、私には分かる」

 

ハッキリとそう言い切るクリスカ。

やっぱりコイツ、念動力かそれに準ずる能力を持ってるんじゃねえのか?

 

「………で? ソ連の施設に戻ってるって可能性は?」

 

「こんなことは初めてなんだ。万が一閉門に間に合わなかったら、あの子の唯一の楽しみが制限されてしまう………」

 

哀しそうな表情をするクリスカを見て、

 

「よし、もう一度探そう」

 

俺はそう言う。

 

「ブリッジス……貴様何故そこまで私達に………?」

 

「俺がそうしたいからだ」

 

「馬鹿な! それで貴様に何のメリットがある!?」

 

クリスカがそう問いかけてくる。

 

「………世の中は、損得勘定だけで動く人間だけじゃないって事だ」

 

その筆頭がGGGの奴らなんだがな。

その時、フェンスの向こう側に軍用車が走ってきて急停止した。

 

「もしかして、ユウヤ!?」

 

聞き覚えのある女の声がした。

俺がそちらに振り向くと、

 

「やっぱり! 久しぶりね!」

 

やはり見覚えのあるその女。

 

「シャロン!? 何でお前がここに!? ッ!?」

 

同時に、助手席に座っていた男に目が行った。

 

「お前………」

 

「ハッ! 何だ。生きてたのかユウヤ? どこかで野垂れ死んでるかと思ったぜ!」

 

そう言いながらサングラスを取る青髪のその男。

 

「レオン………!」

 

その男も、俺は知っている。

レオンは車から降りてこちらに歩み寄り、フェンス越しに俺と睨み合う。

 

「ブリッジス………何者だ?」

 

クリスカが問いかけてきた。

 

「レオン・クゼ。俺と同じ日系アメリカ人。かつて、俺と同じ部隊に居た男だ」

 

俺はそう言う。

 

「ああ。昔の話さ」

 

レオンは馬鹿にしたようにそう言うと、辺りがライトに照らされ、突風が起こる。

 

「ッ!?」

 

空を見上げると、そこには1機の戦術機。

 

「あれは………ラプター!」

 

アメリカの最新鋭戦術機。

そしてその機体に描かれているエンブレムは、

 

「アメリカ陸軍第65戦闘教導団、『インフィニティーズ』!!」

 

「遊びの時間は終わりだ、ユウヤ。片付けてやるよ、綺麗にな………!」

 

レオンは不敵な笑みを浮かべながらそう言う。

 

「…………戦術機を単独開発出来るアメリカが、ここに何をしに来た?」

 

俺が問いかけると、

 

「無駄な遊びを終わらせて、ここの連中に金と時間の貴重さを思い出させてやるのさ。アメリカ製戦術機の優位性を、嫌と言うほど思い知らせることによってな」

 

レオンは絶対的な自信を持ってそう答えた。

 

「…………そうか。ご苦労な事だ」

 

俺はその言葉を聞き流した。

確かにアメリカ製戦術機は他の国の戦術機に比べれば優位性はある。

しかしそれは、アメリカの戦術機の開発コンセプトが、対戦術機を中心として想定したものだからだ。

対BETAを念頭に置いた最前線の国の戦術機とやり合えば、有利に戦えるのは間違いないだろう。

とはいえ、俺がテストパイロットを務めていた頃のラプターの最大のアドバンテージだったステルス性は疑似GNドライブの登場によって殆ど無いに等しくなり、対戦術機を想定したものとは言え、そこまで絶対的なものでは無いだろう。

 

「はっ! 言い返すことも出来ねえとは、この2年で随分と腑抜けちまったらしいな!」

 

レオンは更に大きな口を叩いて来るが、

 

「ハッ。最前線の過酷さを知れば、『先を見据えた対戦術機の開発コンセプト』なんてアホらしくて言い返す気にもならねーよ」

 

「なっ!?」

 

元々反りの合わないレオン相手だからか、ついつい余計な事を口走ってしまった。

 

「てめーも日本人の血を引いているなら、こんな諺を聞いたことねえか? 『捕らぬ狸の皮算用』ってな。まさにそれだぜ」

 

「ああっ!?」

 

昔のように口論になりかけた時、

 

「ヘクチッ!」

 

絶妙なタイミングでシャロンがくしゃみをした。

 

「「ッ!」」

 

「ごめんねぇ、アラスカ寒いから我慢できなくて……ああ、私の事は気にしないで。どうぞどうぞ、続きやって」

 

シャロンは笑いながらそう言う。

レオンは一度俺を睨んだが、

 

「フン! 馬鹿らしい………!」

 

興が削がれたのかレオンはサングラスをかけ直すと、助手席に乗り込む。

 

「え? もう良いの? ふ~ん………」

 

シャロンはわざとらしくそう口にする。

俺達の口論を止める為にワザとくしゃみもしたんだろうな。

 

「じゃ、またね!」

 

シャロンが俺に向かって手を振る。

 

「あ、ああ………」

 

「せっかくのデート、邪魔してごめんなさいね♪」

 

ウインクと共にそう言うシャロン。

何がデートだ。

 

「シャロン」

 

レオンが促す様に呼び掛けると、そのまま走り去っていった。

すると、

 

「………でーと…………どういう意味だ?」

 

クリスカが呟く。

 

「あいつの思い込みだ。気にすんな」

 

俺はそう言うが、

 

「いや、そもそも『でーと』とは何だ?」

 

「うぇっ?」

 

「?」

 

俺は変な声を上げてしまう。

クリスカの表情を伺うと、本気で意味が分かってない様だ。

 

「あ、いや……それは…………男と女が…………」

 

説明に困っていると、

 

「クリスカーー! ユウヤーー!」

 

絶妙なタイミングでイーニァの声が聞こえた。

振り向けばイーニァが走ってくる。

 

「イーニァ!」

 

走ってきたイーニァをクリスカが抱き留めた。

 

「よかった。もう間に合わないかと思って心配したのよ?」

 

「うふふ! 今日は色んな所を見てたから!」

 

まるで姉妹のように抱き合う2人。

 

「ったくいい気なもんだぜ。クリスカがどれだけ心配………」

 

「ねえユウヤ?」

 

「ん?」

 

「ユウヤが………居なくなっちゃうの………?」

 

唐突にそんな質問をしてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

結局イーニァにはどういう意味か聞けずじまいのままあの場は別れた。

それから数日後。

ブルーフラッグが開始され、俺達アルゴス小隊の初戦は統一中華戦線の暴風(バオフェン)小隊。

先日宣戦布告してきた崔中尉が率いる小隊だ。

対戦前のブリーフィングでJ-10 殲撃(ジャンジ)10型に対する作戦を練っていた。

 

「今回の対戦に置いて、最も警戒すべき殲撃10型の近接格闘戦能力だ。主要近接戦装備はこの、77式近接戦闘長刀」

 

モニターに長刀のデータが表示される。

 

「へー。日本の74式とは随分形状が違うな」

 

タリサがそう漏らす。

 

「最大の違いは重心位置だ。77式のトップヘビー形状は、遠心力の加重によって、小型機特有の相対的な打撃力不足を補うためのものだ。そのため、この長刀の基本運用は初撃必殺を旨とするものになる」

 

唯依の説明に、

 

「あ~、連中の近接戦が一撃離脱の繰り返しだって理由がよくわかるなぁ………」

 

ヴァレリオがぼやく。

77式は一撃の威力を高めるため重心位置が剣先にある。

その為、戦術機の出力が同じなら一撃の威力は74式よりも高い。

だが、一度振り切ってしまうとその遠心力によって2撃目以降が遅れてしまうため、機動力の高い小型機の運用が適していると言う訳か。

因みに74式は一撃の威力よりも連撃に重きを置いている。

無数のBETAを相手にする場合、一撃の威力よりも手数が重要になる場面も多い。

ただ、突撃級の甲殻などを貫けるかは衛士の技量に掛かってくるため、上級者向けの装備とも言える。

 

「機体の概要は以上だ。では、先の観戦内容を踏まえた貴様たちの意見を聞こう」

 

イブラヒム隊長の言葉に、

 

「セオリー通りなら格闘戦を避けて、高機動砲撃を仕掛ける所だけど………」

 

ブレーメルの言葉に、

 

「それは罠だ。一度相手をセオリーに乗せておいて、あの暴風女が引っ掻き回して混乱させる。巧妙だぜ」

 

俺がそう言う。

 

「やっぱあの女から片付けるべきだろ、絶対」

 

「へ~、何か策でもあんのか?」

 

タリサの言葉にヴァレリオが問いかけると、

 

「簡単だよ。奴らの逆をやるんだ。相手の土俵に乗った振りして崩せばいい」

 

「「「?」」」」

 

タリサの言葉に俺達が首を傾げると、

 

「ユウヤ! お前あの女に決闘を申し込め! あの馬鹿は絶対に乗ってくる! で、お前がやっつけろ! 雑魚は私達が平らげる!」

 

タリサがそう叫んだ。

その言葉に、イブラヒム隊長は呆れたように溜息を吐くと、

 

「念の為確認するが、今のプランで行くか?」

 

そう確認してくる。

却下すると思っているのだろう。

だが、俺は真面目に考えていた。

 

「……………悪くない手だとは思う」

 

「「「「えっ!?」」」」

 

「おおっ!」

 

タリサは嬉しそうに、タリサ以外は驚きの声を漏らす。

 

「先日、崔中尉は態々宣戦布告して来た。その事を考えると、タリサの言う通り決闘に乗ってくる可能性はかなり高い………俺の勘では5割………いや、7割ぐらいの確率で乗ってくるんじゃないかと思う」

 

「おいおい! 本気かユウヤ!?」

 

ヴァレリオがそう言うが、

 

「ああ。だがもう少し確証が欲しい。先ずはセオリー通りに動き、相手の出方を見て判断したい」

 

俺はそう言った。

その時、クリスカ達イーダル小隊の対戦が始まると報告があり、俺達は視聴会場へ向かう事になった。

 

 

 

 

 

演習はシミュレーターによって行われる。

シミュレーターとはいえ、その体感は実機と遜色ないほどだ。

そして、早速演習が開始されたが………

10分足らずでクリスカとイーニァ………スカーレットツインの駆るチェルミナートルがモーターブレードのみで全機撃破した。

4機1小隊の編成ではあるが、スカーレットツイン以外は動かずに終わってしまった。

 

 

 

 

そして、いよいよ俺達の出番となる。

新たに組み上がった不知火弐型の2番機がタリサに与えられたが、組み上がったのがつい先日なので、慣熟無しでのぶっつけ本番の投入だ。

まあ、開発スケジュール優先なので仕方ないだろう。

すると、

 

『ブリッジス少尉』

 

唯依から通信が入る・

 

「ん?」

 

『………頼んだぞ』

 

「フッ、了解!」

 

その言葉に応え、俺は不知火弐型を発進させた。

 

 

 

所定の位置に着き、演習が開始される。

暫く戦っていたが、やはり相手の動きは俺を引っ張り出そうとするものだ。

何より、機体に慣れていないタリサ相手にも、確実に仕留められるタイミングがあったにも関わらず攻撃しない事が何度もあった。

一度間合いが開くと、

 

『あ~も~! まどろっこしい! 日本機の癖、特殊過ぎだよ~!』

 

タリサが思わず叫ぶ。

 

『相手側は完全に遊んでるわね』

 

『こっちは1機お荷物だし、このままじゃジリ貧だぜ?』

 

『誰がお荷物だコラ!?』

 

ブレーメル、ヴァレリオ、タリサの言葉に、

 

「奴らの狙いはやはり俺だ。予定通り、俺が単機で仕掛ける。取り巻きは頼んだ!」

 

俺はそう言うと、単機で敵陣へと向かう。

すると、やはり相手は包囲しようとせずに散開。

崔中尉の機体のみが残った。

 

「やっぱりな………」

 

ビルの合間を進んでいると、ビルを飛び越えて崔中尉の機体が現れ、突撃砲を連射する。

俺は機体制御を行いながら弾丸を躱し、目の前に着地した崔中尉の機体と向かい合う。

すると、崔中尉の機体は突撃砲を手放し、77式長刀を抜き放つ。

更にそれを肩に担ぐと、左手で掛かって来いというジェスチャーをした。

 

「なるほど……近接格闘戦がお望みか………なら、受けて立つ!」

 

俺も突撃砲を手放し、74式長刀を抜き放った。

 

『いいわよアンタ………いいわ!』

 

崔中尉が叫びながら飛び掛かってきた。

その動きは、長刀を大きく振りかぶって全身のハーモニックアクチュエーターを鞭のように使い、連結張力を生み出して長刀の能力以上の威力を生み出している。

 

「………だが!」

 

俺はその一撃に長刀を合わせる。

真面に受け止めれば機体の関節に凄まじい負荷がかかる所だが、馬鹿正直に受け止める必要は無い。

俺は即座に手首を返してその威力を受け流し、崔中尉の機体を後方へと素通りさせる。

 

『何っ!?』

 

崔中尉が驚愕の声を上げる。

 

『このぉっ!!』

 

崔中尉が再び向かってくる。

長刀を大きく振りかぶり、今度は横に薙ぎ払って来た。

俺はGNドライブで僅かに浮遊し、自然な動きで後ろに下がると、紙一重で長刀が空振る。

 

『ッ!? まだまだぁっ!』

 

崔中尉は慣性に逆らわずに一回転。

更なる勢いを付けて振り下ろす。

しかし、

 

「甘ぇ………!」

 

俺は再び受け流す。

長刀が地面を叩き割った。

俺がここまで攻撃を受け流せるのは、偏にシンとのシミュレーターの経験からだ。

シンのデスティニーのアロンダイトに何度真っ二つにされた事か……

因みに俺の乗機がヒュッケバインMk-Ⅲの上での話だ。

あの大振りのアロンダイトを構えたデスティニーが、超高速で突っ込んでくるわ、縦横無尽に飛び回るわ、残像で目測誤るわで今でも回避に苦労する。

挙句の果てには分身してくるし。

それに比べれば真っ直ぐに突っ込んできて斬りかかるだけの攻撃など見切るのはたやすい。

この程度だったら親父との剣術比べの時の方がよほど厄介だった。

俺は一度下がって間合いを開けた。

止めを刺すことは簡単だったが、それではいけないと思ったからだ。

 

『ッ………! 余裕のつもり!? 嘗めないでよねっ!!』

 

崔中尉が再度突っ込んでくる。

 

「崔中尉、確かにアンタの近接格闘技術は大したものだ。機体と長刀の能力を上手く使っている」

 

俺は攻撃を受け流しながら通信でそう伝える。

 

『嫌味!? 涼しい顔して受け流してるくせにふざけないでよ!』

 

「嫌味のつもりはない。純粋な評価だ」

 

俺はそう返す。

 

「確かにアンタは機体と長刀を上手く使っている。だが、使いこなしているわけじゃない」

 

『ッ……! どういう意味!?』

 

再び突っ込んでくる崔中尉に対し、俺は今度は迎え撃つために長刀を構え、こちらからも向かって行く。

互いに長刀を振り被り、

 

『馬鹿ね! データを見てないの!? 打撃力ならこっちの77式の方が………!』

 

その言葉と共に振り下ろされた互いの長刀が激突。

その結果は、

 

『えっ………? きゃぁあああああああああああああっ!?』

 

崔中尉の機体が大きく弾かれて吹き飛ばされ、ビルに激突する。

 

『ど、どうして…………?』

 

崔中尉が困惑した声を漏らす。

確かにデータ上は74式より77式の方が打撃力は上だ。

しかし、それはあくまで長刀のみの重量バランスによる威力のデータでしかない。

 

「中尉。アンタの剣の使い方は、より大きく、より勢いよく剣を振り回すものだ。確かに77式のコンセプトに合った使い方だと言える。だが、その使い方は77式の重量を最大限に発揮するだけで、その威力にはどうしても限界がある」

 

今度はこちらから仕掛け、防ごうとする中尉の剣を大きく弾いた。

 

『きゃああっ!? な、何なのこの重さは!? 明らかにデータ以上の威力じゃない!』

 

「剣を振り回すだけじゃなく、機体の重さも剣に乗せろ! こんな風にな!」

 

力強く踏み出すと共に上段から振り下ろす剣。

崔中尉も使っていた連結張力だけでなく、機体の重さも剣に乗せることでデータを遥かに超える威力を出す。

 

『くあああっ!?』

 

再び大きく吹き飛ばされる崔中尉。

 

「どうした? もう終わりか中尉?」

 

俺がそう問いかけると、

 

『…………舐めないでよね………! この程度!!』

 

再び向かってきて剣を振り下ろしてくる。

 

「ッ………!?」

 

その一撃は、僅かだが先程よりも重くなっていた。

だが、まだ問題なく受け流せる。

 

「まだだっ! 踏み込みが甘い!」

 

受け流した後、即座に追撃で崔中尉の機体を吹き飛ばす。

中尉は何とか防いだが、倒れない様に堪えるので精一杯だった。

しかし、

 

『…………………ッ!』

 

崔中尉はニィッと野性的な笑みを浮かべた。

 

『ッ………あああああああああっ!!』

 

まるで野生動物のような叫び声を上げて向かってくる中尉。

 

「ッ………!」

 

俺は受け流すが、中尉はそんな事は気にせず次々と向かって来た。

更に、一撃ごとに長刀の威力が増している。

野性的でありながら、俺の言ったことを学習し、機体操作に反映させている。

崔中尉の動きは激しさを増し、それに伴って長刀の威力もどんどん増している。

やがて、

 

『はぁああああああああああああっ!!』

 

崔中尉の渾身の一撃が不知火弐型の長刀を弾いた。

回転しながら宙を舞う74式長刀。

 

『これで終わりよ! ユウヤ・ブリッジス!!』

 

止めを刺さんと長刀が振り上げられ、真っ直ぐに振り下ろされた。

 

「………………………………いい一撃だったぜ、中尉」

 

俺は崔中尉を心から賞賛した。

少し指摘しただけで、ここまで一撃の威力を上げるとは思わなかった。

だが、

 

『そんなっ…………!?』

 

崔中尉が信じられない声を漏らした。

何故なら、俺は振り下ろされた中尉の長刀を、不知火弐型の両手で挟み込んで止めていた。

 

『し、真剣白刃取りっ!?』

 

唯依の驚愕の声が通信機から聞こえた。

そして、そのまま腕を捻ると、バキンッと言う音と共に長刀をへし折った。

長刀は構造上縦の力には強いが横からの力には脆い。

 

「今度は、俺の渾身の一撃を見せてやる!」

 

俺は飛び上がると、空中で弾かれた長刀を掴み取ると、両手持ちで剣を上段に振りかぶる。

 

『ッ………!?』

 

崔中尉の息を呑む声が聞こえ、

 

「チェストォォォォォォォッ!!!」

 

急降下と共に剣を振り下ろし、落下スピード、機体重量、連結張力、全てが集約された一撃を放った。

それは、中尉の機体を縦に真っ二つに切り裂く。

そのまま地面まで突き刺さった剣を引き抜くと、背を向けながら血振りのように剣を振った。

その直後に中尉の機体は爆散。

決着となった。

 

 

 

 

 

 

 

対戦の後、

 

「へっへ~ん! 結局アタシの言った通りになったろ~?」

 

タリサが得意げに言う。

 

「だな。残りの3機を墜とせなかったって言うのはしょっぺぇが……まあ勝ちは勝ちだ」

 

ヴァレリオも一応の納得は見せる。

 

「隊長機が墜ちたら後退するなんて、むしろ勝たせてくれたって感じよね?」

 

ブレーメルもやや怪訝に思っているようだ。

 

「連中。勝敗どころかブルーフラッグそのものに興味が無えのかもな」

 

そう話していると、

 

「ブリッジス少尉」

 

唯依が歩み寄ってきた。

 

「中尉?」

 

「見事な太刀筋だった」

 

「ッ!」

 

「貴様は不知火弐型の性能を最大限に………いや、それ以上に引き出してくれた。感謝する。それを伝えようと思ってな」

 

その様子から、本当に感謝しているようだった。

 

「まあ、最後は少しヒヤリとしたがな。崔中尉があそこまで成長するとは思わなかったぜ」

 

俺はやれやれと首を振る。

まあ自業自得なんだが。

 

「ユウヤもユウヤだぜ。態々敵に塩を送る様な真似してさ」

 

タリサが不満げにそう言って来た。

 

「別に衛士の能力が上がるのは悪い事じゃないだろ?」

 

「そうかもしれないけどさぁ………」

 

タリサはまだ不満げの様だ。

その時、

 

「あーーーーっ! ユウヤ発見!!」

 

聞き覚えのある声が聞こえて来た。

 

「「「「ん?」」」」

 

そちらを見れば、先程まで対戦していた崔中尉の姿があった。

 

「崔中尉?」

 

唯依が声を漏らすと、突然こちらに勢いよく向かってくる。

 

「おい! ちょ………んんっ!?」

 

タリサが思わず止めようとしたが、崔中尉はそんなタリサの頭に手を突いて前方宙返りを決めると、俺の後ろに着地。

 

「ユウヤ・ブリッジス!」

 

振り向き様に俺に指を突きつけ、

 

「ッ!?」

 

「私の事を好きになっても良いわよ!」

 

とんでもない爆弾発言を噛ますのだった。

 

 

 

 





はい、マブラヴオルタネイティヴAnother編第14話です。
今回は暴風小隊との戦いまで書きました。
ユウヤ強すぎます?
白刃取りまでさせてしまう無法振り。
いや、何か思いついてしまったんです。
何か崔中尉のユウヤへのぞっこんぶりが加速しそうな………?
はてさてどうなる事やら。




P.S:本日の返信はお休みします。

レオンとシャロン。最終的にユウヤの仲間に?

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