転生特典に量産型の機体のみという縛りがあったのでジェイアークを選んでやった件 作:友(ユウ)
【Side 三人称】
――とある世界のとある時間
――宇宙、火星近郊
そこに、1機の黒い機動兵器が漂っていた。
全高8mから9m程の丸みを帯びたフォルムの人型機動兵器だ。
そのコクピットの中に、1人の黒いバイザーに黒いマントを来た男が、何をするでもなくシートに実を預けていた。
機動兵器の名はブラックサレナ。
男の名はテンカワ・アキト。
かつて彼は火星の後継者と名乗るテロ集団に妻のユリカと共に拉致され、非情な人体実験を受けた末、妻のユリカは『演算ユニット』と呼ばれるボゾンジャンプのシステム中枢と融合させられ、アキト本人は救出されるも人体実験の影響で、五感を失い、補助が無ければ満足に動くことも出来なくなってしまった。
味覚も失ったことで、彼の夢だったコックという道も閉ざされ、元々明るく、活発だった性格も、妻を奪い返し、五感を奪った火星の後継者に復讐することを目的とした、いかなる犠牲も厭わない『復讐鬼』と化した。
壮絶な戦いの末、宿敵北辰を打ち倒し、かつての仲間の活躍で火星の後継者の指導者を逮捕。
妻のユリカも解放された。
しかし、アキトはユリカの下へは帰らなかった。
ナデシコCの艦長であり、以前はユリカと共に家族の様に暮らしていたホシノ・ルリにも、『君の知っているテンカワ・アキトは死んだ』と語ったように、今ここに居る自分は、かつてのコックを目指していたテンカワ・アキトではなく、復讐の為にその手を血で染めてきた殺人鬼だと思っていた。
そんな血まみれの手で、ユリカやルリを抱きしめることなどしてはならない。
アキトはそう思っていたのだ。
故に、ユリカが救い出されたことを確認して、アキトはその場を去った。
そして、アキトがユリカやルリの下を去ったもう一つの理由。
それは、自らの命が長くない事を察していたからだ。
度重なる人体実験でアキトの身体はボロボロであり、延命措置さえしていれば、まだ命を繋ぐことはできたが、アキトはその時間を復讐に費やした。
その結果、アキトの身体は現在の医療技術でも回復不能な段階まで悪化。
手の施しようが無い所まで来てしまった。
それを察したアキトは、自分をサポートしてくれたラピス・ラズリをネルガルのアカツキ、エリナに預け、愛機ブラックサレナで単身ボゾンジャンプ。
火星近くの宙域に現れた。
火星はアキトの生まれ故郷。
アキトは己の最期に故郷の傍を選んだ。
バイザーの補助が無ければ何も見えない視界で火星を眺める。
「火星………か………」
アキトは呟く。
思えばここから始まったのだと。
火星で生まれ育ち、幼馴染だったユリカとの交流。
火星で獲れた野菜は不味かったが、コックの手に掛かれば美味くなる事に感動し、自分もコックを志した事。
テロ(に見せかけた暗殺)で両親を失った。
木星蜥蜴の襲撃。
偶然のボゾンジャンプで地球へ。
ユリカとの再会とナデシコへの乗船。
IFSを持っていたため、コック兼パイロットに。
ナデシコでの日々。
辛いこともあった。
楽しいこともあった。
大切な仲間達が居た。
木星蜥蜴の正体が、昔に追放された地球人だと知った。
色々あって和平に漕ぎつけた。
その後も色々な事があったが、
「…………あの頃は、楽しかったな……………」
柄にもなくそう思ってしまうアキト。
このまま静かに最期の時を迎える。
アキトはそう思った。
だが、アキトは忘れていた。
『彼女』の行動力を。
突如としてブラックサレナの近くに光の収束―――ボゾン粒子が発生する。
何かがボゾンジャンプしてくる前兆だ。
「ッ!?」
アキトがそれに気付いた直後、そこに大型の戦艦がジャンプアウトして来た。
それは、
「ナデシコ!?」
かつて乗った戦艦ナデシコ、その後継機。
ナデシコCだった。
そして、強制的に空間モニターが開き、
『アキト!!!』
懐かしい『彼女』の声が、大音量で聞こえた。
「ユリカ!?」
思わず叫ぶアキト。
「ッ………何をしに来た………?」
動揺しそうになるも、歯を食いしばってそう問いかける。
『もちろん、アキトを迎えに来たの!』
迷いなく言い切るユリカ。
「ッ……………居るんだろ? ルリちゃん」
『はい』
もう1つモニターが開いてルリの姿が映る。
「ユリカに言わなかったのか? 君の知っているテンカワ・アキトは死んだと………」
アキトはそう問いかける。
『言いました。その上でユリカさんはあなたに会いに来たんです』
その問いに、ルリは平然と返した。
「ッ……………」
アキトは一瞬言葉に詰まるが、ユリカの映るモニターに視線を移す。
「…………俺の手は血まみれだ。もうお前達の知っている俺じゃない…………だから………」
そう言うアキト。
『アキトはアキトだよ! だって、アキトだもん!!』
ユリカは言い返す。
『そして私は! アキトのお嫁さんのユリカだよ!』
涙を流しながら叫ぶユリカ。
「ユリカ…………」
ユリカの想いに、アキトは一度決めた覚悟が揺らいでしまう。
『戻ってきてください、アキトさん。私達には、あなたが必要なんです』
ルリも自分の思いを伝えた。
「ルリちゃん………」
アキトの心に温かい思いが広がっていく…………
瞬間、
―――ドゴォォォォォン!
ナデシコCのエンジン近くが爆発した。
『『きゃあっ!?』』
悲鳴を上げるユリカとルリ。
「ユリカ! ルリちゃん!?」
思わず叫ぶアキト。
その時、シャララランと錫杖の音が鳴り響いた。
「ッ!? この音は……!?」
アキトがまさかと思いながら煙が上がるナデシコCのエンジン部分を拡大した。
そこに居たのは、
「夜天光………!? 北辰!?」
血のような赤で染められた機体、夜天光。
そして、
『その通りだ。テンカワ・アキト』
その機体から聞こえてきたのは紛れもない怨敵の声。
「貴様! 生きていたのか!?」
火星での戦いで倒したはずの相手が生きていた事に、アキトは驚きを隠せない。
『然り。どうやら冥府の鬼には嫌われたようでな』
「ぬかせ………! 生きていたのなら、貴様をもう一度地獄に送り返してやる……!」
アキトは北辰を睨みつける。
だが、北辰は余裕の態度を崩さず、
『我にばかり気を取られていていいのかな?』
「何……!?」
アキトが怪訝な声を漏らした瞬間、
『ッ………相転移エンジンの制御が………!?』
ルリの切羽詰まった声が聞こえた。
その声にアキトの気がそれた瞬間、
『さらばだテンカワ・アキト。女たちの最期を見届けるがいい……』
夜天光はボゾンジャンプで姿を消す。
「北辰っ……! くっ………!」
逃がしてしまったことにアキトは歯噛みするが、
『相転移エンジンの出力が下がりません! このままでは爆発します!』
ルリがそう叫ぶ。
「ユリカ! ボゾンジャンプで脱出しろ!」
『駄目! 私は大丈夫でもルリちゃんが!』
「ッ!」
ボゾンジャンプは常人には耐えられない。
アキトやユリカはA級ジャンパーと呼ばれる数少ない単身ポゾンジャンプが出来る人間だが、ルリはそうでは無いのだ。
『ユリカさん! 私に構わず脱出を!』
ルリはそう言うが、
『そんな事出来ないよ!』
ユリカは否定する。
その時、エンジン回りで小爆発が断続的に起こる。
『もう持ちません!』
ルリが切羽詰まった声で報告する。
「……………………」
アキトはそれを聞くと、ブラックサレナをナデシコCのブリッジの近くに寄せた。
『アキト!? 駄目! アキトも巻き込まれちゃう!』
『アキトさん! 離れてください!』
2人がそう叫んだ。
すると、
「……………死ぬのなら、一緒だ」
『アキト………』
『アキトさん…………』
優しいアキトの声に、2人は声を漏らす。
エンジン部の爆発がどんどん多いくなっていき、エンジン本体にも電流が走り始める。
アキトはバイザー越しに2人を見つめ、口元に笑みを浮かべた。
その瞬間、閃光が辺りを包み込み、彼らはこの『世界』から消えたのだった。
【Side Out】
第1話 終わりからの序章
世界を渡る最中に何故か衝突事故が起こり、ジェイアークの艦首上部に黒い機体が横たわっている。
「何だ………!? 黒いロボット……?」
その機体を良く確かめる間もなく視界が光に包まれる。
別の世界への入り口だ。
「くっ………!」
腕で目を庇いながらその光が収まるのを待つ。
光が収まり腕をどけると、そこに広がるのは夜空。
そして眼下には海が広がっている。
「海の上………?」
シンが呟く。
「トモロ、大気成分は?」
『大気成分ハ、チキュウトオナジダ』
俺の問いにトモロが答える。
「呼吸については問題無いか…………トモロ、まずは着水してくれ。それからあの機体を調べる」
『リョウカイ』
ジェイアークが海の上に着水する。
その間も俺は黒い機体を伺っていたが、動く気配はない。
まあ、外が夜な為、その全貌もあまり詳しくは見えないが、大きさは凡そ8m程のMSの半分程度の大きさの機動兵器の様だ。
すると、
『クロイキタイノナイブニ、ビジャクナセイメイハンノウ』
「パイロットか!?」
『ソノヨウダ。シカシ、イシキガナイノカウゴクケハイハナイ』
「生命反応も微弱って事は、もしかして死にかけか?」
「だったら、早く助けないと!」
シンは一目散にそう言う。
「まあ、相手の正体が分からないから注意するべきだが………ほっとくのも後味悪いしな」
俺はそう言って外に出ると、その黒い機体を調べ、胸部にコクピットらしき場所を見つけると、エヴォリュダーのハッキング能力でシステムに介入し、ハッチを開放した。
その中に居たのは、黒尽くめの男だった。
やはり死にかけているのか、意識が無く呼吸も弱弱しい。
それから気になったことは、そのコクピットには操縦桿のようなものが無かった。
とにかく、まずはこの男の治療が最優先だと思い、その男を引っ張り出すと、医療室へ運び、医療ポッドの中に放り込んだ。
そして、モニターに表示されたその男の身体状況を見て、クッソドン引いた。
「何じゃこりゃ!? 以前のステラの状態が可愛く見えるぞ! むしろ何で生きてんだコイツ!?」
モニターに表示される状態は最悪の一言。
とんでもないレベルの薬物投与の跡や、何種類も撃ち込まれたと思われるナノマシン。
更には人体実験なのか、解剖された痕跡まである。
そして表示されるデータには、五感もほぼ不能という結果が出ていた。
「ええい! トモロ! こいつの身体に残ってる害悪と思われるナノマシンを全て除去! 古傷の回復や五感の治療も頼む!」
『リョウカイ』
俺は手っ取り早くトモロにそう指示する。
男の状態も状態なので、しばらく時間がかかる模様。
なので、俺は機動兵器の方を見ることにした。
治療している間に空が白み始め、朝日が顔を出したので、その全貌が露になっていく。
そして、そこに横たわっていた黒い機体は……………
「………………あれ?」
何となく記憶に引っかかる見た目だった。
全長8m。
全身黒い装甲。
しかし腕はショッキングピンク。
「……………………」
もしかしてブラックサレナじゃね、これって。
そしてふと、さっきの男を思い出す。
全身黒尽くめで人体実験されて五感が無い。
…………劇場版のテンカワ・アキトじゃねーか!
テンカワ・アキトとは、機動戦艦ナデシコというアニメに出てくる男で、火星出身で幼馴染のユリカが艦長を務めるナデシコという戦艦に乗ることになり、数奇な運命を辿る男である。
じゃあ、ここってもしかしてナデシコの世界か?
俺は、また厄介な世界に飛ばされたもんだとため息を吐くのだった。
はい、機動戦艦ナデシコ編第一話です。
まあ、ナデシコの逆行あるある相転移エンジン暴走でジャンプシステムが誤作動、時を超えるジャンプとなりました。
因みにアキトは世界に現れる直前でジェイアークと事故った設定です。
その影響で…………?
まだアキトは目覚めてませんが、どうなることやら?
次もお楽しみに。
P.S 本日仕事をしなければいけないので、返信はお休みします。
……………仕事せずに、何で執筆してんだ俺?