チート催眠術師が贖罪の為に生きようとするも催眠した女達が追いかけてくる話 作:
◆-◆-◆
入院して一週間以上経ったが、如月サクラコは毎日見舞いにやってきた。
彼女はどうやらかなりのおしゃべりの様なので、特に話すことがなく黙っている俺と相反して、彼女は一方的に会話を振ってくる。曰く、祖母と二人暮らしだとか、得意科目など当たり障りのない会話ではあるが、俺は適当に相槌を打ちながら話を聞いていた。
「あー……サクラコさん?」
「はい、なんでも聞いてください」
待ってましたと言わんばかりに目を輝かせて俺に顔を近づけるので、思わず顔を引いてしまう。
なんかこの子のパーソナルスペース、バグってないか?
クラスで見ているときはこんな感じではなかったような気がしたが……
「いや、いつも来てくれるけど、サクラコさんも引っ越してきたばっかりで忙しくないのか?」
「今の私に充くんのお見舞い以上に大事な事なんて無いですよ、なにより命の恩人ですから」
「アレは、別に助けようと思ったわけじゃ……」
何というか、善意で行ったわけじゃない事を褒められるとむず痒い感じがするのだ。
そして、なんと言おうか口ごもっている内にサクラコが話を進める。
「それより、退院は明後日ですよね。ご一緒します」
「いや、お昼には退院らしい。学校あるし、来れないでしょ」
初老の医者からは抜糸はまだしていないが、もう命に支障はない。病床を圧迫してるのでさっさと出ていけと言った旨を伝えられ、急遽退院が決まったのであった。
「そう……ですか」
サクラコは一瞬寂しそうな表情になるも、俺の手をそっと包み込むようにつかんだ。
そして、恥ずかしそうに顔を赤らめる。
「……そ、それで次はいつ会えますか?」
「え?」
また会うって何のために?
頭の中で疑問が止まらない。コミュニケーションレベルが低すぎて彼女の意図が全く理解できないのであった。
「……来週にはまぁ、学校に行くと思うから」
「本当ですか!」
「……あ、ああ」
珍しく声を荒げるサクラコ、心なしか目が輝いているように見える。
彼女のおかげで入院生活もそれなりに暇せずに過ごせたし、久しぶりに血の通った会話を楽しんでいたと認めざるおえない。
催眠にかけるという選択肢をとり続けて来た俺がこんなに長期間、能力を使わないというのは奇跡だったのかもしれない。
サクラコと他愛のない雑談を再び再開し、いつも通り門限ギリギリに帰宅した(彼女の自宅は病院にかなり近いらしい)。
◆-◆-◆
「え〜、扇が今日から授業に復帰するようだが、まだ退院したばかりなので無理をさせないように」
やる気のない担任の声から久しぶりの学校が始まった。
とはいっても残り数週間で春休みに突入するので、休んでいても良かった気がするが……
家にいてもやることは無いし、サクラコと約束を結んだような形なので何となくばつが悪く、登校する事にしたのだった。
しかし、またつまらない授業が始まると思いきや、授業中なのにいつもと違ってクラスメイトからやたら視線を感じる。
________そんなに怪我が気になるのか?
と少々疑問に思うが、気にするほどではないので窓際の席だったので外を眺めて気付かないふりをした。
「……」
しかし、暇だ。いつもこの時間、何をしていたんだっけ……
そうだ、毎日どうやって催眠で遊ぼうかと妄想しながら、獲物を探していたのだった。入院中は休養していた為、一回も使っていないが、そろそろ本業も再開としよう。
視線を見渡すように教室中央へ向けると真面目に授業を受けているサクラコが目に入った。
横顔も絵画の如く美しく、彼女は神が手塩に掛けて生み出した芸術品の様だった。
元々は彼女を催眠で手に入れようとして失敗した事を思い出し、再びどういう算段、趣向で彼女を手中に収めるか考えていると、
サクラコと目が合った。
俺がみていることに気づくと、彼女は慎ましく微笑んだ後、教師にバレないよう、控えめに手を振って来た。
すると、先ほどまで考えていた事は脳裏から消え、彼女のことで頭がいっぱいになるのであった。
◆
「授業中は集中しないとダメですよ?」
「アレはたまたま、……てか、そっちも見てたじゃん」
「私はただ……充くんが何してるかなと気になって……」
「それってどういう……」
と会話していると不自然に教室が静まり返っている事に気づく。
そして辺りを見回すと、何事もなかったかのようにまた騒ぎ出した。
______こ、こいつら、めちゃくちゃ聞く耳を立ててんな…・・・・
俺はため息をついて、サクラコの手を握る。
「サクラコさん、ちょっとこっちきて」
「え……あ、はい」
どこか嬉しそうなサクラコは抵抗せずに俺に引かれて教室の外に出た。
廊下に出た途端、ひんやりとして空気が顔に当たり、身震いしそうになるのを堪える。
休み時間だというのに人気がないのも、この寒気のせいだろうか。
サクラコの手がやたら暖かく感じて、離したくなくなるが本題に繋がらなくなるので離して向かい合った。
「サクラコさん、俺達あまりにも目立ってるから教室内で喋るのは良くないかもしれない」
「どうしてですか?」
意図が伝わっていない様で首を傾げて、聞き返して来た。
「どうしてって、そりゃ誤解されるかもしれないし……」
俺の具体性のないレスポンスに対し、彼女は合点がいった様で手を打ち、自信ありげに言った。
「ああ、それに関してはお気遣いなく。既に私達の関係性は伝えています」
「……関係性?」
「_________私が、ヒロインで」
サクラコは彼女自身を指差し、そしてその次に俺を指差した。
「あなたが、ヒーローです」
「え?」
……思考が一瞬完全に停止した。
つまり、朝からやたら視線を感じていたのもそういうことだったらしい。
「だから、私達が仲睦まじく会話を楽しむことは、何もおかしい事ではないという事です」
胸を張るサクラコに俺は空いた口が塞がらないというのはこの事かと、顔を手で覆った。
……め、目立ちたくねぇ〜〜〜
◆
それ以来、サクラコは休み時間の度にわざわざ俺の席まで来て、話しかけてくるようになった。
周りの目を気にしながら彼女と会話するのは陰キャの俺には中々堪えたが、楽しそうなサクラコの表情を見ていると文句を出す気が失せる。だが、男子生徒からの目線がどんどんキツくなっている気がする。
興味ないやつから嫌いなやつに評価が下がったようで、居心地はどんどん悪くなっていく。
だが、彼女はそんな事は露ほども知らず、どんどん会話をしかけてくるので居た堪れなくなって外に出る口実を出す。
「……ちょっと購買にいって飲み物でも買ってくる」
「あ、ではご一緒します。まだ、お話ししたいので……」
正直、一人で行きたいところではあるが、断るのも大変なので何も言わずに席を立つが、それを肯定と取った彼女は俺の腕を強引に腕を取り、腕組みの様な形になる。
「さ、サクラコさん、これは……?」
「……ダメですか?」
「……はぁ、いいけど」
「…… 」
美少女の上目遣いに勝てるわけがなかった。
仲睦まじく、教室から出て行った二人を見て、女子達がコソコソと話を始める。
「なんか如月さんってお淑やかだと思ってたけど……何というか結構エグいゾーニングするタイプなんだね」
「「確かに……」」
男子達が充に殺意を覚えるのと同時に女子達はサクラコに戦慄するのであった。
◆-◆-◆
四月、桜も散り始めており、まだ肌寒いが少し陽の光が暖かく感じる時期。
学生達は春休みを終えて、休みが恋しくなるものの、お互いの再開を喜んでいた。
いつも通り、校長先生のありがたいお話から、新学期が始まる。スピーチ中の全校生徒が集まっている体育館は卒業した3年生の代わりに入って来た新入生がいるからであろう、いつもよりも騒がしく感じた。学生服を着ているだけの小学生なのだから仕方ないが、新入生担当の教員によって幾人かの騒がしかった男子生徒達が叱られている。
そして、スピーチが終わると学年ごとに集まることになり、クラスの振り分けが記された紙が配られたので自分の名を探す。
クラスメイトは前年度と概ね同じメンツで構成されており、担任も同じであった。
自分の名前を見つけ、その下には如月サクラコの名前があった。
「よかった〜同じクラスですよ、充くん」
その時、後ろから鈴が鳴る様な声で話しかけられる。
自分のことを呼ぶ人間など一人しかいない、振り向くと、やはりサクラコであった。
「……おう、よろしく」
「しかも私達が連番です!【か】から始まる名前の方が一人もクラスに居ないなんて珍しいですよね」
「そうかなぁ……」
俺の後ろの番号だった柿崎くんは何故か別のクラスに行ってしまい、俺とサクラコは連番なのであった。
やたらテンションが高い彼女の話を聞きながら、新しい教室へ向かう事になる。
前までは柿崎くんが間に挟まっていたのでこういったクラスの移動で話すことはあまりなかったのだが、彼が無き今はサクラコの歯止めが効いていない。
「三年生になったというのに、なぜ三階まで登らないといけないのでしょうか」
「まあ確かに」
「日本は年功序列社会なので、一年生が努力するべきだと思いませんか?」
「中々、昭和的発想だね」
などとくだらない話をしていると、新しい教室に辿り着いた。
前の生徒に続き、教室に入るとツルツルの床の感触とワックスの匂いが鼻を突いた。
そして黒板に書かれていた通りに着席をする。
「え〜、今年度でこれまでの頑張りがついに評価される年だ。お前ら気を抜くなよ〜」
やる気のない担任の一言で始まる3年目であった。新しいクラスは殆どメンツが入れ替わらず、あまり変化は感じない。
いや、嘘だ。明らかに大きな変化が一つある。
それは、
「同じクラス、隣の席です!春休みは会えなくて残念でしたが、今学期はもっとお喋りができそうでとても嬉しいです」
サクラコが隣の席になったことである。
教室で一番後ろの窓際席が俺の席なのだが、その隣がサクラコの席になった。
これは柿崎くんがいなくなってしまった影響だろう。
「……春休みはLIMEで毎日話してたじゃん」
そう、春休み直前でSNSアプリのIDを交換したのだが、実家に帰っていたというサクラコは暇だったのか俺にメッセージを送って来た。
『充くん、お時間ありますか?』
『充くん、また通話したいです』
『充くん、新学期は同じクラスになれるでしょうか……私、不安です……』
などと四六時中、届くのでこれまで家族としたメッセージの総量を僅か二週間弱で塗り替えたのだった。
「やっぱり、顔を合わせて話すのとは全然違うように感じます。実際、私はとても寂しかったんですから……うぅ」
わざとらしい泣き真似をするサクラコに俺はため息をついた。
「……じゃあ、もう今日から毎晩通話はやめないか」
「それとこれとは話が別です!」
「お前ら、仲がいいのはいいが一応まだホームルーム中だ」
怠そうな担任に中学生活で初めて怒られ、体育館で怒られていた新一年生の男子生徒達をバカにできなくなったが、ただ、どこかサクラコが隣の席になって嬉しい自分もいるのであった。
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「ねぇ」
「ん?」
休み時間中、トイレに行くためにサクラコとの雑談を打ち切って教室から人気の無い廊下に出たのだが、急に呼び止められた。振り向くと、そこに立っていたのは気が強そうな吊り目と色素が薄く、茶髪にも見える様な黒髪の女。
「驚いた、俺のことを無視してると思ったが」
そう、こいつは中学に上がった時に俺を無視し始めた幼馴染。
これまで唯一俺が信頼できると思っていたのに裏切った女、それが
彼女から俺に話しかけてくることはこれが初めてで、何事かと身構えていると、
「……あんた如月さんと付き合ってるって噂があるけど本当?」
「……根も歯もない噂だよ。ただの……友達?」
ゴシップネタで興味が湧いて話しかけて来たという事なのだろうか?
実際に俺とサクラコの関係はわざわざ、口に出したことがないのでわからないが、今の関係性でいえば友達なのかなと思い、そう伝えると、何故か梓は明らかに機嫌が悪そうに貧乏ゆすりを始めた。
「何で自分でいってて疑問系なの?」
「大体、あんたと明らかに釣り合ってないから、あの子のために距離を置いた方がいいんじゃない?」
数年ぶりに矢継ぎ早に喧嘩腰の言葉、そして彼女の理解できない態度に俺も苛立ってきた。
苛立ちを抑えるために黙っていると、更に彼女は制服のネクタイを乱暴に引っ張り、俺の姿勢が崩れそうになる。
「あんた、黙ってることしかできないの?」
「……うるさいな」
俺は彼女の手を叩いて、能力を使う。
「”伏せ”」
「……!?」
彼女は巨大な何者かに押し潰されたかの様に地面に這いつくばる。
何が起こったかわからないといった表情の彼女は立ち上がろうとするが、伏せの姿勢を維持するのが精一杯のようだ。
「な、何を……」
「”犬のくせに言葉を話すのか?”」
「わ、わん♡わん♡」
そうだ、こいつは俺の女だ。
上下関係をわからせた事による支配感が体を駆け巡り、梓の意思を失った瞳をを満足げに見つめる。
初めて催眠能力を使ったのは梓に対してだった。彼女にかけた催眠は”犬”をトリガーに発動する。
彼女にはいくつもの催眠を重ね掛けしており、主に俺をご主人様だと認識する様になっている。
「さて、どうしてやるか」
「……♡」
尻尾を振る様に期待し、うっとりとした表情で俺のことを見つめる梓。
その表情を見て、自分の中で加虐性がどんどん増幅して行くのを感じる。
催眠で相手を支配し、尊厳を奪う。元々、俺はこういった人間だったのだ。何を躊躇する必要がある。
次なる命令を下そうとした時、
「……充くん?」
サクラコが教室の扉を開いて出て来た。
「……」
昂まった衝動が急激に冷めていく。
指を鳴らして、梓の催眠を解くと彼女の表情に正気が戻った。
「……私は何を……って充?」
彼女の声を無視して、トイレへ向かう。
「充くん!少し待ってください!」
呼び止めようとするサクラコの声も振り切って、少し遠いトイレへ向かう。
ある種の高揚感から一転して今は胸糞がただ悪かった。
プロローグもうちょっと続きます……遅筆ですみません。
七尾梓(ななお・あずさ)
充とは幼少期に仲良くしていたが、ある日を境に無視する様になる。
その事で深く恨まれており、催眠術による最初の標的となった。
無視したことには深い理由があったりするのだが、それは別の機会で。
ハッキリとした物言いと態度によって女子に人気があり、男子からも容姿は人気があるが、同時に恐れられている。
催眠によって充との主従関係を結んでいるが、「犬」という単語を充から聞かない限りは発動せず、催眠中のことは忘れているため、本人は気づいてないようだが……?
好きな食べ物はとにかく甘いもの、甘いものは甘ければ甘いほどいいという考え。