【なろう400万pv】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ   作:海凪ととかる

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第60話 7日目①おっさんは怒られる

 漂流生活が始まってすっかり早寝早起きが身に付いてしまった。

 

 自然に目を覚ました時、拠点の中を仄かに明るくしている外の光の感じからして4時頃だろうとあたりをつけ、腕時計でそっと確認してみれば3時55分。

 まだぐっすり眠っている美岬を起こさないようにそろそろと寝床を抜け出し、拠点の外に出て大きく伸びをする。

 

「んんー…………ふぅ」

 

 外はまだ薄暗いが行動に支障は無い程度には明るくなっており、朝独特の湿気を含んだ涼しい空気が肌に心地よい。

 

 見上げた空は群青から浅葱(あさぎ)色にグラデーションしていて、その中に取り残されて弱々しく存在を主張している幾つかの星が見える。日の出はあと1時間後ぐらいかな。雲が少し出ているが、今のところ天気が崩れそうな感じでもない。

 

 昨夜、寝たのは9時頃だったが、夜間に箱庭上空を飛ぶヘリや無人機(ドローン)がいたら気づいてもらえるように、かまどとは別の場所で火を燃やしていた。

 その場所をチェックしてみれば、準備していた薪はほぼ燃え尽きて灰になり、炭化した燃え残りがまだわずかに燻っていた。長く燃え続けるように工夫していたので、かなり長い時間燃えていたと思うが残念ながら意味は無かったようだ。

 まともな捜索がされるのはせいぜい1週間ぐらいだと思うから、その間は、無駄になるのは覚悟の上で夜に空への合図の火は燃やしておこうと思っている。狼煙と違ってそんなに大量に薪を消費するわけでもないからこれぐらいなら許容範囲だ。それに海保が保有するドローンは海上漂流者を体温を頼りに探せるよう、機体下部に熱源を探知する赤外線センサーが付いているから目視が難しいぐらいの小さな火にでも反応するはずだ。

 

 今日は美岬が植え付けの準備として焼き畑をやるといっていたから、その煙を見つけてもらえればいいんだが、この場所からは外海が見えないから、船が近くにいるかどうかもわからないのでタイミングを合わせることができない。

 視認できる距離に船を見つけて合図に狼煙を上げれば効果はかなり期待できるが、逆に近づきすぎればこの島を取り巻く崖が邪魔で煙は見えなくなる。灯台もと暗しというやつだ。

 近すぎず遠すぎない距離から誰かがこの島を見ているタイミングで焼き畑の煙を上げることができればいいが、正直なところそれはよっぽど運が良くないとまず噛み合わないだろう。

 

 とりあえず、まずはトイレに行って用を足し、その後、空のペットボトルを持って小川に行って水を汲み、顔を洗って拠点に戻る。小川の水の安全性は確認できたから、普段使いの水はわざわざ水源地まで汲みにいかなくても洗濯場辺りの水で事足りる。

 燃え残った熾火をかまどの方に移して小枝を使って火を起こし、昨晩の残りのハトムギ茶を温めていく。

 それと同時進行で、昨日のトイレ小屋作りで使わずに残った葦と木の枝を組み合わせてカゴというか干し網を作っていく。以前、筏の上で竹の枝で干し網を作ってそれでジャーキーを干したが、今回作っているのはそれをもっと大きくしたものだ。長さ50㌢ぐらいの枝で四角い枠を作り、葦を平織りで組み込んでいく。

 茹でて剥き身にした貝を干して乾物にしておけば保存食になるし、生薬も保存性を高める為に干して乾燥させる必要があるからいずれにしても干し網は必要になるからな。

 

 

 5時半頃になると空はすっかり明るくなっている。雲が輝いているのですでに朝日は昇っていると思うが、昨日の感じからしてこの箱庭に陽の光が差し始めるのは8時頃になるだろう。

 

 俺がハトムギ茶をちびちび飲みながら作業をしているところに美岬が目を擦りつつ欠伸をしながら起き出してくる。

 

「……ふぁ。ガクさんおはよっす」

 

「おう。おはよう。まだ早いからもうちょっと寝ててもいいぞ」

 

「……んー、疲れは取れてるから起きるっすよー。でもちょっと暖気運転は必要っすー」

 

 そう言いながらとてとてと近づいてきて、座って作業している俺の背中におぶさるように抱きついてきて、そのまま肩越しに頬擦りしてくる。

 

「……えへへ。ガクさん、だいぶヒゲが伸びてるっすねぇ。ブラシみたいっすよ」

 

「……なんだ? 今朝はずいぶん甘えん坊だな」

 

「…………目が覚めたら隣にガクさんがいるのが普通になってたっすから、その……いなくてちょっと驚いたっす」

 

 そう言いながらぎゅっと抱き締める手に力を込める美岬。それを聞いて、ああ、と納得する。あれは確かに不安になるな。

 

「あー……それは不安にさせて悪かった。目が覚めたのはまだ時間も早かったから起こすのは可哀想だと思ってな」

 

「その、ちょっと驚いたっすけど、外から作業してる音は聞こえてたっすから、ガクさんが外にいるのはすぐ分かって安心したっすけどね。……てゆーか、この感じからして、けっこう前から動いてるっぽいっすけど、いつ起きたんすか?」

 

 俺の手元の干し網はほぼ完成間近だ。

 

「4時頃かな。トイレも行きたかったからそのまま起きて干し網作ってた。涼しいうちの方が作業しやすいからな」

 

「うー、確かにそんな早くに起こされるのは嫌っすねぇ。……っていうかガクさん働きすぎじゃないっすか? 昨日も結局ほぼ一日中、全然休憩せずに働き続けてたっすよね? その上、今日もこんなに朝早くから作業してるとか、いくらなんでもやり過ぎっす!」

 

「んー、まあ睡眠時間は十分に取れてるし、作業っつってもこれは体力を使うもんでもないからな」

 

「それでもっす! ガクさんが働き続けてるのにあたしだけ休んでるわけにはいかないじゃないっすか。でも、あたしの体力じゃ昨日のガクさんのペースでずっと働き続けるのは厳しいんすよ。正直、昨日の夜は疲れきってたんすけど、ガクさんはあれだけ一日中働いてて疲れなかったんすか?」

 

「いや……まあ、昨日は俺もけっこう無理はしていたから、かなり疲れてはいたぞ」

 

 美岬のちょっと怒ってる雰囲気が伝わってきて内心冷や汗をかく。美岬の体力の限界をほとんど考慮せずに次から次に仕事を割り振っていたことに今更ながら気付く。

 

「重い荷物を背負って山の中を平気で歩きまわるバックパッカーの体力を基準にされるとちょっと辛いんすけど?」

 

「……う、なんというか、すまん。確かに美岬にかなり無理をさせてたと思い当たる節がありすぎて今更ながら申し訳なく思ってる。……俺も基本的にずっとソロだったから、こんな風にチームで動く経験がほとんどなくて……つい自分を基準に考えてた」

 

 美岬がふぅっとため息をついて柔らかい雰囲気になり、俺を抱き締めている手に少し力を込める。

 

「ガクさんはもう独り(ソロ)じゃないんすから、一人で全部やろうとしないでほしいっす。かといってガクさんが二人いるような働きを期待されても困るっすけど。……二人ならそんなに無理してがむしゃらに動かなくても一人でやるよりずっとたくさんのことが出来ると思うっすから、その、焦らずにぼちぼちでいいんじゃないっすかね?」

 

「そうだな。もう少しゆとりのあるスケジュールにしてもいいよな」

 

「昨日の晩ごはんの後みたいな、二人でくつろいでのんびり過ごす時間が昼間にもあってもいいと思うっす」

 

「じゃあ、これからは昼の食事の後でちょっと長めの休憩を入れるようにするか?」

 

「おぉ、昼寝休憩(シエスタ)っすか! いいっすね! 昼間の一番暑い時間に体力回復できるのは嬉しいっす」

 

「よし。じゃあとりあえず今日はそういう予定でスケジュールを組んでいくか。……美岬が自分の意見をちゃんと言ってくれて助かった。これからも俺への要望があったら遠慮なく言ってくれると助かる」

 

「へへ、それはお互い様っす。ガクさんもあたしへの不満があったら溜め込まずに言ってほしいっす」

 

 こういうのも雨降って地固まる、というのかは分からないが、率直に話し合うことで、また少し美岬との絆が強まったような気がした。

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