【なろう400万pv】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ   作:海凪ととかる

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第71話 7日目⑫おっさんは松ヤニでピッチを作る

 鍬作りの続きといっても、あとは鍬のヘッド部分に石の刃を取り付けて松ヤニ接着剤(ピッチ)で固定するだけだからほぼ仕上げだ。だがこのピッチを作る作業に火を使うので食事が終わってからにしたかったのだ。

 ピッチの作り方そのものは簡単だ。細かく刻んだ松ヤニと炭の粉を混ぜ合わせて、火にかけて溶かすだけだ。熱いうちにそれで接着して、冷えれば硬化プラスチック並みに固くなる。ハンドクラフトでよく使われるグルーガンと原理としては同じだ。

 

 かまどの灰に埋まっている消し炭を幾つか出して、水をかけて冷まし、美岬に石で潰して粉々にしてもらう。消し炭は柔らかいから簡単に潰せる。

 その間に俺はさっき採ってきた白く固まった松ヤニをナイフで細かく刻んでおいた。

 

「炭を粉にしたっすよ」

 

「おう、サンキュ。じゃこの炭の粉と松ヤニを混ぜてお玉に入れて……こぼれないようにちょっと持っててくれ」

 

「あいあい」

 

 美岬にお玉を持たせておいて、かまどのそばに石を環状に並べて小さいかまどを作り、元の大きいかまどの中で今なお燃えている真っ赤な熾火(おきび)を木の枝の箸で摘まんで幾つか小さいかまどに移す。

 

「よし。じゃあここでそのお玉ごと温めていってくれ」

 

「了解っす」

 

 美岬がお玉を火で炙って温めていく。すると、次第に松ヤニが溶け始め、炭の粉と混ざってドロドロのタール状になってくる。

 

「うわぁ。ドロドロっすねぇ。こんなもんっすか?」

 

「いや、これは冷めるとすぐ固まるからもうちょっと熱くした方がいいな。この小枝でかき混ぜて満遍なく炭と松ヤニを混ぜ合わせて温度も平均化するような感じで」

 

「はーい。ガクさんはこれはどこで知ったんすか?」

 

「んー、これはどこだったかな……アマゾンのインディオが矢尻を矢柄と繋げるのに使ってたっけかな。でも、この樹脂と炭で作るピッチそのものはアフリカでもオセアニアでも原住民の間ではわりとよく見かける方法ではあるけどな」

 

「ほー、生活の知恵ってすごいっすねぇ」

 

「そうだな。自給自足の原住民たちの知恵には目を見張るものがあるな。ちなみにこのピッチだが、木に塗りつければ雨でも消えない松明(たいまつ)にもなるんだが、この松明という日本語からして松の明かりと書くことを考えると日本ではすでに廃れたってだけで昔は普通に使ってたんだろうな。……さて、そろそろ温度も良さそうだから固めていこうか」

 

 木製の鍬の柄のヘッド部分の内側に熱いピッチを小枝を使って満遍なく塗りつける。これが皮膚や服に付くと本当に取れなくなるから細心の注意を払う。

 ピッチを塗り終わったら、固まる前に手早く石の刃をセットし、手で押さえてしっかりと固まるのを待つ。

 しばらく待てばピッチが冷えて完全に固まり、びくともしなくなる。松ヤニだけでも固まるが、炭を混ぜることで強度が増すのだ。

 すでにかなりの強度はあると思うが、ピッチがまだ残っているので、鍬のヘッドと刃の繋ぎ目にコーキング材として塗り込んでさらに補強する。

 

「よし、出来たな。どうだ?」

 

 完成した鍬を美岬に渡すと、美岬は軽く振って調子を確かめ、ちょっとその辺の地面を耕してみて満足そうに笑った。

 

「おぉ、いいっすね。これならちゃんと耕せそうっす」

 

「とりあえずこれは試作1号だから不具合が出てきたらその都度改善しながら作り直せばいいからな」

 

「了解っす。このお玉はどうするっすか? ピッチはまだ残ってるっすけど」

 

「これはもう料理には使えないから壊れるまではピッチ専用だな。料理用のお玉はまた新しく作ればいいさ。残ったピッチはこれから使う」

 

 鍬は無事出来たが、まだ眠くないから、せっかくだから今後のクラフトに使う道具(ツール)を作っておこう。特に今ほしいのはハンマーだ。

 元々ハンマーは持っていたが、テントと一緒にバイクに積んでいたので船の沈没時にロストしてしまっている。

 ハンマーがあれば一気にクラフトの幅が広がるから簡易でもいいから作っておこう。

 ハンマーのヘッドとして使えそうな真ん中が(くび)れてヒョウタン型になっている小石はすでに昼間のうちに拾ってある。

 

 まずは小石をダイヤモンド砥石で少し削って成形して、打ち付ける部分が平らになるようにした。

 次に木の柄の部分にするため、薪用に集めてある木の中から太さ5㌢ぐらいの薪を選び、鉈で縦に真っ二つに割る。それから石ヘッドの抉れ部分に合わせて内側をナイフで削って成形していき、二つに割ったそれぞれの内側にピッチを塗って石ヘッドを挟んで固定すればハンマーが大まかな形になる。

 細かい形状はピッチが完全に乾いてからナイフで削って調整して仕上げればいいだろう。いずれにしてもこれ以上は明日だな。

 

「よし。今日はここまでにしておくか」

 

「ふわぁい。さすがに眠くなってきたっすねぇ……ふわぁ」

 

 眠そうにふわふわあくびをしている美岬。これは電池切れ寸前だな。

 

「寝る前に歯みがきは忘れないようにな」

 

「むー、またそうやって子供扱いするぅ……」

 

 ぶーぶーと文句を言う美岬と拠点から歯ブラシを取ってきて歯を磨く。……とそこで何を思ったか美岬が自分の歯ブラシを俺に渡してきてイーと歯を見せる。

 

「なにかな? これは」

 

「お子ちゃまなあたしは上手に歯を磨けないので仕上げをお願いプリーズ」

 

「……斬新というかまた斜め上な甘え方を思いついたな」

 

「……ダメっすか?」

 

「ダメとは言わんが、まあちょっと待て。自分の歯みがき終わらせるから」

 

 とりあえず自分の口の中をゆすいで終わらせてから、美岬の歯みがきを片手に持つ。だが俺と美岬ってけっこう身長差があるから中腰はちょっとキツいんだよな。

 

「……で、どうしたらいいんだこれは?」

 

「それはもうダーリンにおまかせするっす♪」

 

 美岬がダーリンと呼んでくる時は彼女として甘えたい時らしいというのはだんだん分かってきたので、歯を磨くのは建て前で甘やかせばいいな。

 

 ということで、俺は丸太椅子に座り、自分の太ももの上に美岬を横抱きで座らせ、左手で肩を抱いて上を向かせた。

 薄暗い火明かりでも、すぐそばにある美岬の頬が上気しているのが分かる。そのまま唇を奪いたくなる気持ちを抑えて、歯ブラシを持った右手の人差し指でぷにっと美岬の唇に触れる。

 

「ほら、口を開けて。閉じてたら磨けないぞ」

 

「ひゃっ! ひゃいっ!」

 

 顔を真っ赤にしながら口を開ける美岬。そんな美岬の口の中に歯ブラシはをそっと入れ、ゆっくりと動かし始める。

 

――くちゅくちゅ……

 

「あふ……ふっ……あっ……」

 

 自分では磨きにくい奥歯の裏や歯の間を丁寧に擦ってやると美岬がうっとりとした表情を浮かべる。自分の口の中を他人に弄られるなんて歯医者以外じゃそうそう無いし、こんな無防備な姿は心許した相手じゃなきゃ見せられんよな、と思いながら歯みがきを続ける。

 

――くちゃ……くちゅくちゅ……

 

「……ふあ……あっ……や……」

 

 せっかくなので歯ブラシで歯茎を優しく丁寧にマッサージしてやる。最近はあまり固いものを食べてないから、歯と歯茎を強くするためにも歯応えのあるものは意識的に摂らなきゃな。今干しているタコの干物なんかも良さそうだ。

 

「舌を出して」

 

「……んあ……あ……あふ……」

 

 舌の表面もブラシで優しく擦ってやる。やりすぎは良くないがほどほどなら咥内環境も良くなるからな。

 

――くちゅくちゅ……ぺちゃぺちゃ……

 

 口の中に唾液が溜まってきて美岬も気になってきているようなのでこのへんで終わりにしよう。

 

「……はい、終わり。口をゆすいできな」

 

「……んん――――!」

 

 抱き起こすと美岬は飛び下りるように離れていって唾液を地面に吐き捨て、口を水でゆすいで戻ってきたが、顔を真っ赤にしたまま、恨めしげな表情を浮かべている。

 

「どうした? なんか不満げだな」

 

「……ガクさんの歯みがきの仕方は、なんか、すごくエッチだったっす」

 

「エッチって、歯みがきにエッチとかあるか?」

 

「……固い棒状の物をナカに入れられて隅から隅まで弄り回されてびちょびちょに濡らされてしまったっす」

 

「その言い方! 間違ってないけどその表現はかなり字面悪いからな!」

 

「なんかもう徹底的にヤられた感はんぱないっす。もうお嫁に行けないっす」

 

「いやいやいや、そもそもお嫁に行けないようなことはしてないからな! ってゆうか俺が嫁に貰う予定だし」

 

「むぅー、またそういうことをさらっと言う」

 

 とてとてと近づいてきた美岬がさっきと同じように俺の太ももの上に座り、両手を俺の首の後ろに回し、お互いの息がかかるぐらいの至近距離で見つめ合う。美岬がすっと目を閉じ、俺はその頬に手を添えて軽くキスする。

 唇が離れてから、美岬が目を開いて照れくさそうに笑う。

 

「……歯みがき、すごくよかったっす。またお願いするっすねダーリン」

 

「……おう」

 

 俺は美岬の背中に手を回して、この愛しい女性をぎゅっと抱き締めた。

 

 

 

 

 

 

 

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