妹とゆるゆる同棲生活 〜まさかの幼馴染が居候で修羅場の危機?!〜 作:ひざぎ
◇
「初めての高校はどうだったよ」
高校初日が明けて、昼間の飯時、悪戯をするような顔で恭平は俺に話しかけてきた。
俺はまだ食事中なのに、彼は特に気にしないというように片手に煙草をつまんでいる。彼も食事を摂っていないはずだろうに、いつだって喫煙を優先する性格。それにどこか呆れが入るような気持ちがある。別に、人の自由だからよいのだけど。
「なんというか普通でしたよ。時間帯が夜ってこと以外はそこまで違和感を覚えませんでしたね」
「いいじゃねえか。普通の高校生活とやらが送ることできそうならさ」
ははは、と乾いた笑いを返す。それもそうだな、と思ったから。
皐に作ってもらった弁当を食べている。俺の好みについては完全に把握しており、また苦手な野菜に関しても俺が食えるようにきちんと調理がされている。俺は適当に唐揚げを最後の一口にしようと残しておいて、とりあえずそれ以外のおかずを口に含む。美味しい味。
「皐ちゃんは今何やってんだ? お前がいない間、流石に暇なんじゃないか?」
「牛丼屋の面接が通ったみたいで、そこでバイトしているみたいですよ。何やら蕎麦がちゃんとしている牛丼屋だとか」
「ほぇー、いい子だなぁ本当に。俺の彼女だったら、適当に携帯とかいじったり、買い物行って散財してくるぞ」
コメントをしづらいので、俺は、へえ、とだけ返した。
「いや、マジでお前皐ちゃんを大事にしろよ? あんなにいい子を手放したら俺が許さんからな」
「……なんで恭平さんが許さないんすか」
俺が笑いながらそう言うと、恭平は煙草を咥えながらも真剣な表情で俺を見る。
「あのな、お前はあの子に生かされてるんだよ。ほら、お前のその弁当だって見てみろよ。いつも朝五時には出るお前の食事を、きちんと作ってくれてるんだぞ?
一年前の、ほら、お前が働き始めたばかりのことを思い出してみろよ、死にそうな顔しかしていなかったあの頃をさ」
説教のような口調だ。言われなくても分かっている事項だから、耳に五月蠅い感覚がする。
「わかってますよ」とだけ発して、俺は弁当に改めて向き合う。
俺は皐に生かされている。それは俺自身が良く理解している。
きっと、彼女がいなければ俺は何かしらで潰れて、いま歩んでいる未来でさえおぼつかないものになっているだろう。そうなっていないのは、彼女が俺のことを支えてくれているからであり、それ以上の要素は存在しない。
「まあ、わかってるならいいんだけどよ」
恭平は、うんうん、と頷く様子を見せながら、煙草を吸い終わる。吸い終わった拍子に立ち上がり、吸い殻を近くのごみ箱に入れ込むと、どこかへ歩き出して消えていった。今日のあの人は昼飯を食べないのかもしれない。あの人の勝手だから、別にどうでもいいけれど。
「……うん」
俺は恭平の言葉を改めて咀嚼する。
感謝の言葉を恥ずかしくて伝えられないのは、流石にまずいかもしれない。皐がそれで俺から離れる未来は想像することもできないし、想像もしたくないけれど、それをきっかけに彼女が俺と距離を置くのは嫌だ。
何かしらの行動をしなければいけない。何かしら、彼女のためになるような行動を。
──そうしないと、いつかどこかにいなくなりそうで、不安で仕方がないから。
◆
いつまでも不安を拭うことはできない。
彼女から始めた近親愛、ひとつの禁忌というものは、禁忌だからこそ距離を置くきっかけにつながるかもしれない。
俺に魅力なるものがあるのかはわからない。だが、俺以上に魅力的な誰かに出会ったときに、確実に他人であるそんな誰かに、俺は皐が傾いてしまうのか、それが不安で仕方がない。
俺は皐を信頼している。皐を好きだし、皐を好きだからこそ、彼女がそんなことをする想像をすることはできない。
でも、万が一があったら?
万が一があったとして、そうして彼女が俺の手元からいなくなったとして、俺はその時にどうすればいい?
一年前に戻ることは嫌だ。嫌で仕方がない。隣に皐がいてほしい。誰かにとられる想像なんて吐き気がする。皐は俺の所有物ではないはずなのに、それでも俺の手元にいてほしい感覚。ひどく勝手だ、身勝手だ。それが許されていいわけがない。
でも、不安は拭えない。彼女がどんな未来を選択するのかはわからない。だから、心の準備はいつかしておいた方がいいのかもしれない。
考えたくない、考えたくはないけれど、必要なことだから。