妹とゆるゆる同棲生活 〜まさかの幼馴染が居候で修羅場の危機?!〜   作:ひざぎ

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 春の爽やかな風には、湿気がこもりつつあった。そこまで強く吹かないものではあったが、それでも頬を撫でる温もりが確かに存在している。

 

 外に出て感じる眩しい日射について、俺は目をこすって逃げることしかできない。

 

 眩しいということに、未だに慣れることができていない。子供のころから暗がりが好きだった性質が災いして、仕事をしている間でも太陽という存在を覆い隠すことができればいいのに、と無理な願望を抱くことがある。それでも向き合わなければいけないのだけれど。

 

 寝ぼけていた意識を何度も水で洗い流したはずなのに、外の眩しさを視界に入れると、どうもぐったりする感覚が背中をなぞる。やはり、どうやっても日射について慣れることはできそうもなかった。

 

「いやあ、眩しいね」

 

 隣にいる皐は、そんな太陽を見て、空を仰ぎながら間延びした声をあげた。どこか眠たげな台詞と声音だと思ったけれど、俺とは違って彼女の振舞いには、どこか日射に対しての慣れがある。俺はそんな彼女を視界の片隅において、逃げるように家屋の陰に潜んでみる。そんな俺を彼女はくすくすと笑った。

 

 日はまだ昇ったばかりで、覗いてみた携帯の時間は五時を示している。それほどまでに早起きをして仕事に向かう準備をしたというだけなのではあるのだが、それでもこの時間の太陽は傾き始めたばかりで、すべての影を長くのばしていた。

 

「それで、どこに行こうか」

 

 俺は家での彼女の提案を思い出しながら言葉をかける。その言葉に「適当でいいんじゃない?」と皐は言葉を返した。別に、俺もそれいいような気もする。

 

 それじゃあ行こっか、と皐は言葉を吐いて、それこそ適当であることを示すように、らんらんと足を弾ませながら歩みを進める。

 

 どこか楽しんでいる様子の皐の姿。

 

 俺は彼女の後ろについて行くように歩きを同調させながら、今朝のことを振り返った。

 

 

 

 

「休みっすか……」

 

 俺は家から出る直前にかかってきた電話に応対して、そんな言葉を呟いた。

 

 俺の言葉に、食洗を始めている皐が手を止めて振り返る。俺はその仕草を見ないようにして、電話先の返事を待つ。

 

『おう、急遽の休みってやつだな』

 

 電話先で、恭平は言葉を続けた。

 

『ほら、昨日、鉄筋の諸君さんの仕事が遅かったろ。お前が帰った後も残業をして仕事をしたんだそうだが、どうやら終わらなかったらしい。その関係で、俺たちの仕事はそもそも存在しない。だから、今日は家でゆっくりしな』

 

「ええと、応援とかは……」

 

『幸か不幸か、応援とかもないってよ。俺も家で休むしかないみたいだ。どうだ、俺と一緒に遊ぶか?』

 

「いや、それは大丈夫です」

 

 俺がそう返すと、恭平はがはは、と笑って、それならゆっくり休めよ、とだけ言葉をかけて、そうして電話が切れる。

 

 会話が終わって、皐が俺に視線を移して口を開いた。

 

「お休みなの?」

 

 彼女は食洗を止めたまま、俺の言葉を待っている。ただ、蛇口を捻ったままにしているから水は流れ続けており、荷重がぶれた食器が、がたんと音を立てた。彼女はその音にびくりとして、身体を一瞬大きく弾ませる。俺はそれに笑いそうになりながら「どうやらそうらしい」と返した。

 

「よかったじゃん」と皐はにこやかにして、また食洗に戻る。俺はその言葉を咀嚼しようとして、頭の片隅で時間のつぶし方を考えた。

 

 独りで時間をつぶすということについて、俺は億劫になっている。そもそも、急な休みというものに俺は慣れていない。そもそも急という概念なのだから、慣れることもないとは思うのだが。

 

 休みになれば時間が空くのは当たり前の道理である。週に一日だけある日曜の休みについては皐も家にいるから、彼女とを予定を立てて時間を過ごすことがあったり、もしくは体を休めるなどもあるけれど、独りとなると話は別で、何をすればいいのかがわからなくなる。

 

 独りで過ごせば、考えたくないことや、どうでもいいと思える感情が反芻して仕方がない。考えなくていいところまで考えてしまって、適当な不安が心にわだかまってしまうのだ。

 

 自分の趣味というものに時間を費やしてみても、自ずと自分と向き合うことになるのが、冬場にわかってしまった。文章というものに向き合えば向き合うほど、自分のこの文章を形成した過去を思い出してしまって、今となっては皐がいないところでは書けなくなってしまっている。だから、文章というものを書く気にも慣れない。

 

 かといって、近頃の若者らしく動画サイトを見て時間をつぶすということにも、どうしようもなく虚無感を覚えてしまう。

 

 結局のところ、何もやりたいことがないのだ。その上で何も考えたくないのだ。

 

 時刻は今のところ五時前。

 

「皐、アルバイトは何時からなんだ?」

 

「うーん、確か十時だったはず」

 

 彼女の答えを反芻して、そうしてその時間までは適当な時間を過ごせることに安堵をする。でも、それは根本的な解決にはなりえない。

 

「……うーん、でも、翔也が休みかぁ」

 

 皐は食洗を続けながら、悪戯をするような声音で言葉を続ける。俺は、聞き馴染みのある悪戯っぽい声に耳を傾けて、勝手な期待を抱いてしまう。

 

 キュッと、蛇口を捻る音が聞こえた。その音に視線を向けると、にこやかな顔をしている皐がそこにいる。

 

「今日、私は風邪になります」

 

 悪戯っぽい顔を崩さないまま、彼女はそう答えた。俺は、勝手な期待をしただけなのに、その期待以上のことを彼女が返してくれたことに安堵を覚えて、自分という存在のずるさを認識する。

 

「それじゃあ二人とも休みだな」

 

 彼女の意図をきちんと把握して、俺は言葉を吐いた。それに皐も同調して、くすくすと笑った。

 

 

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