妹とゆるゆる同棲生活 〜まさかの幼馴染が居候で修羅場の危機?!〜   作:ひざぎ

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 彼女の一言を聞いて、俺はそれを視界に収めた。

 

 ようやくたどり着くことができた、昔遊んだ一つの公園。一年という距離しか空けていない街並みの中で、そのままで佇むように変わらない公園の風景、樹木の存在。錆びてしまった鉄棒の色、剥がれてしまった塗装の欠片。子供が遊ぶブランコが軋む音。

 

 周囲の樹木には桜の雰囲気を感じさせない。枝には緑の葉がそれぞれついている。

 

 季節がどこにも存在しないような、そんな雰囲気のある公園。昔見ていた光景、そのままであるはずだ。見ていた視線の高さくらいしか異ならないはずなのに、それでも違和感を覚えてしまうのは、自分という存在が変わり過ぎたからなのだろうか。

 

 俺の何が変わったのだろう。いや、変わらなかったものを数えた方が思考の整理については早いはずだ。それほどまでに今までの環境とは異なっているのに、それを考えるのは違う気がする。

 

「なつかしいね」と皐は言葉を吐いた。俺はその言葉に頷く。

 

 土曜日だから、公園にいる子供はそこそこ。滑り台の順番待ちをしていたり、砂場で城を作りながら遊んでいたり。

 

 大人の影は存在しない。でも、そこに違和感を覚えてしまう自分がいることに気づく。どうしてそんな違和感を覚えるのかを振り返ってみれば、昔、家族ともよく公園で遊んでいたからだ。

 

 あれは、いつのことだっただろう。皐が生まれたばかりの頃だったっけ。それとも、まだ生まれていない頃のことだったっけ。

 

 思い出せない。子供のころの記憶は、時間が経てば経つほど風化していく。寂れて、錆びれて、いつかは触ることさえできなくなってしまう。

 

 過去の自分はもうそこにいない。どこにいるのか、どこにもいない。

 

 いろんな経験が新しい自分を生む。新しい自分には過去の自分の要素は存在しない。それは上書きなんていう優しい言葉だけでは表すことができなくて、おそらく自分自身を殺す、という表現が正しい。

 

 成長は、本当に成長と言えるのだろうか。

 

 純粋さを失ったことを、本当に成長と言えるのだろうか。

 

 自分の純粋さを思い出すことはできない。この道を選んだことは、純粋さにはつながらない。

 

 でも、後悔は俺には存在しない。後戻りするつもりもない。たとえ違う世界で、彩る季節を選ぶことができたとしても、俺はこの世界のままで生きることを望むのだろう。

 

 子供しかいない公園、そのまま外の風景に漂うのも悪くはなかったけれど、俺は皐の手をとって、そうして中に入っていく。

 

 場違いな空気。子供は何も感じていないように、各々のことで遊んでいる。だから、きっと場違いということもないんだろうけれど、そんなことを思ってしまう。

 

 公園の隅にあるベンチに腰を掛ける。全体を見渡すことができる、喧騒から少し外れている場所。日射は高く存在していて、日陰は樹木のそばにしか存在しない。

 

 暑いかな、暑いかもしれない。いや、そうでもないかもしれない。いつも通りの空気だ。夏でもなく、そして春でもなく、普遍的な、なんとも言えない空気が介在している。

 

 よく、皐とこの公園で遊んでいたはずだ。皐以外にも皐の友達が一人いて、その子と一緒に遊んだ記憶がある。

 

 彼女らはよく公園の砂場で遊んでいたはずだ。見事な建築物を作り上げて、俺に見せてきたことを思い出す。俺は手先が不器用で、少しだけ不機嫌になりながら、それを傍らで見ていたことだけは覚えている。数少ない幼い頃の思い出。

 

『ここでね、翔くんと一緒に暮らすの!』

 

『えー、やだよー。翔也はここの部屋で私と一緒なの!』

 

『僕は一番高いところがいいなぁ』

 

 そんな幻想的な話を、架空の世界の話を、皐と、皐の友達とで話していた気がする。

 

 詳細な記憶ではない。どこかほころびがあるかもしれない。それを理解することはできない。なにせ、その時の自分は風化してしまっているのだから。

 

 日射の眩しさが幻影を映し出す。砂場で遊んでいる彼らに、自分自身を投影しそうになる、皐を投影しそうになる。

 

 あの時は幸せだったのかもしれない。きっと、不幸せというものがあっても気づかないほどに鈍感で、目を逸らすということもなくて、真剣な眼差しで、純粋な心で、世界を見ることができていたはずだ。

 

 そんなことに、今さらに気づくなんて思わなかった。

 

「今日、ここに来ることができてよかった」

 

 俺は喧噪に紛れるように静かな言葉でそう呟いた。

 

 皐が俺のそんなことを聞いているのかはわからない。でも、彼女の方に視線を向ければ、うん、と頷き返すのが見えた。

 

 ベンチに座って、俺たちは何も言わないまま手を握った。

 

 別に、これでいいじゃないか。

 

 特に気にすることはなく、子供たちのような純粋な心をもって、彼女に向き合えればいい。

 

 考えすぎていた、考えすぎることは悪いわけではないけれど、でも、考えすぎれば毒になることは確かだから、これでいい。

 

 ありがとう、と俺は言葉を吐いた。

 

 その言葉の後に皐の顔は見なかった。

 

 握り返してきた手の熱が、確かに俺には伝わったから。

 

 

 

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