妹とゆるゆる同棲生活 〜まさかの幼馴染が居候で修羅場の危機?!〜   作:ひざぎ

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 彼女は、愛莉は確かにそう言った。俺はその言葉の意味を理解しようとしても、やはり理解することはできなかった。

 

 隣にいる皐に関しても虚を突かれた様な顔をしている。そんなことがあったのか、と俺のことを睨む姿に、俺は思わず目を逸らした。

 

 視線を傍らに逸らしつつ、愛莉の顔をちらと覗く。どこかこちらを懇願するような瞳で見ているような気がするのは気のせいだろうか。俺は彼女のその視線に、ドギマギして、そうして記憶の中を反芻する。

 

 けど、結局答えは見つからない。

 

「……ごめん」

 

 俺は端的に彼女に謝罪をあげる。

 

「いや、いいよ。大丈夫。なんとなくそんな感じというか、余裕なさそうだったから、そうなるのもしょうがないよ」

 

 愛莉は苦笑した。

 

 ……脇腹を皐につままれる。少し痛い。

 

 そんなことをされても、俺の記憶には残っていないのだから、それについてはどうしようもない。思い出そうとして、そうして記憶の欠片のようなものを見つめても、結局それは見当違いで、適当な彼女と過ごした記憶しか残っていない。

 

 そして、中学の三年の頃に至っては、愛莉とはほぼ疎遠のようなものになっていたから、それを思い出す、というのは個人的には難しい感覚だ。

 

「それにしても」と俺は言葉を吐いた。

 

「いつ、ええと、その、……告白、したんだ?」

 

 思い出すことが困難を極めたので、その詳細を思い出すために、彼女の言葉を要求した。

 

「……聞いちゃいます?」

 

 気まずそうに彼女は苦笑を続ける。

 

 俺はその言葉に返すことはできなかったけれど、彼女のように懇願の視線を込めて愛莉を見つめる。そうすると、諦めたような顔をして、ふう、と息を吐いた。

 

「夏休みに、告白したんだ。ほら、三年生の時って、進路の確認で夏休み中にも面談のためだけに登校しなきゃいけない日があったでしょ。その時に、帰り道で、さ」

 

 そう言われると、確かにそんなことがあったような気がしないでもない。

 

「……あっ」

 

 皐は思い出したように声を出した。

 

 俺が訝し気に彼女を見つめると、彼女は俺から視線を逸らす。その動作には気まずさをやはり孕んでいて、俺はそれを追いかけるようなことはしないでおいた。

 

 皐が思い出すようなこと、皐が覚えているようなこと。夏休みの中、そんな時期にあったこと……。

 

「あっ」と俺も声を出した。

 

 思い出した、思い出してしまった。思い出してしまったというか、愛莉のことではないけれど、皐との関係について。皐との始まりについて。

 

 確か、そんな夏休みの時期だった気がする。具体的な日付の詳細を思い出すことはかなわないし、とりあえずそういった事実があることだけを思い出したけれど、俺と皐が関係を結ぶようになった始まりの日は、確かその最中だったはずだ。

 

「思い出した?」と愛莉は聞いてきた。彼女のことについては思い出せなかったけれど、俺はそれに対して頷いた。頷くしかなかった。

 

「ごめん、あの時期、真っ白でさ」

 

「いいのいいの。翔也のお母さんとお父さん、大変だったらしいもんね」

 

 手を大げさに振る愛莉の姿、俺はそれに対して申し訳なさを覚えずにはいられない。

 

「でも、いいんだ」と愛莉は言葉を続ける。

 

 なにが、と返しそうになったけれど、その言葉を呑み込んで、彼女の言葉を待つ。その仕草は、強烈に目に焼き付いた。

 

「始まっていなかったのなら、また始めればいいだけの話だもんね」

 

 確かに、彼女はそう言った。

 

 

 

 

 またね、と間延びした声を彼女は返して、デパートの奥の方へと消えていった。

 

 時間帯についてはもう、昼を過ぎていて、空腹だという不快感が身を包む。ただ、それ以上に安堵感が心を占有していて、ようやく俺は深く息を吸い込むことができた。

 

 愛莉の流れに押されて、俺と皐は彼女と連作の交換をした。

 

 あまり増えないはずの友達欄には彼女の名前が、『竹下 愛莉』という名前が刻まれている。名前のアイコンには、有名な遊園地のキャラクターがサムネイルにされていて、どことなく彼女らしいな、という気持ちが湧く。

 

「……なんか、疲れたな」

 

 俺は愛莉の背中を見送って、そう言葉を呟いた。

 

 デパートの喧騒の中にまみれながらも、それは確かに皐の耳へと届いたらしい。静かに彼女は頷いて、大きなため息をついた。

 

「翔也」と彼女は俺の名前を呼ぶ。俺はその声に目を合わせたが、結局、皐はしばらく沈黙した後、なんでもない、とだけ返して、そうして宙を見つめる。

 

 俺は皐のそんな様子が気になったけれど、とりあえずの安堵感に身を浸した。

 

 空腹が気になるから、皐とどこかで昼食を取らなければいけないな、とか、そんなことを片隅で考えていた。

 

 

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