妹とゆるゆる同棲生活 〜まさかの幼馴染が居候で修羅場の危機?!〜   作:ひざぎ

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 夕焼けはまだ遠ざかっていなかったけれど、それでも行動をしなければいけない時間帯がやってくる。

 

 いつもであれば俺が少し遅れて帰ってきて、ようやく支度を始める頃合いなんだろうけれど、今日に限っては展開が早いもので、支度なんてものはたやすく終わってしまった。皐もいつも以上に時間を余らせていたから、余裕をもって二人で家に佇んでいる。

 

 皐は俺に何かを聞くことはなかった。いつもの彼女ならば、俺が早く家にいることについてを聞いてくるだろうに、今日に限ってはそうすることはなかった。それほどまでに俺はいつも通りじゃないのだろうか。それとも彼女がいつも通りではないのだろうか。それともいつも通りだからこそ触れないのだろうか。俺にはよくわからなかった。

 

 くつろいだ時間の中で、彼女の体は俺に寄りかかる。その感覚を心地よいと感じる自分がいる。そんな心地の中で、そろそろ恭平に未だ返せていないメッセージを打つべきなのではないか、そんな思考がよぎるけれど、結局何かしらの返信をすることはできなかった。明日面と向かって謝罪をするほうがいいだろうから。

 

「そろそろ行くか」

 

 俺は携帯に表示された時間を見つめて、皐にそう声をかけた。彼女は、そうだね、と返して、二人で同時に立ち上がる。

 

 切り替えろ。切り替えなければいけない。いつまでもとらわれてはいけない。夢のことなんて、夢の話でしかないんだから、どうでもいいはずだろ。だから、考える必要なんてない。心を疲弊させる必要はない。倫理を問うことなんて諦めてしまえば楽になる。俺たちは今幸せなんだから。

 

 皐には悟られないように、静かに息を吐く。煙草を吸いたい気持ちはあったけれど、切り替えるということを意識して、喫煙をすることはなかった。

 

 

 

 

 とうとう慣れ親しんだといえる道。いつもより少し早めに出たから、夕焼けの橙色が明るいような気がするけれど、夏が徐々に近づいているだけかもしれない。時間が経過するたびに、きっと太陽は近づいて、そうして夜はゆっくりとやってくるのだろう。

 

「コンビニ寄ってく?」

 

「そうしようかな」

 

 登校の道の中、いつも通りのコンビニへ。そういえば今日は昼飯を食べることができていない。朝早くに皐が弁当を作ってくれているのに、それを食べる気分にならなかった。

 

 仕方ないとは思わない。すべて自分の責任でしかない。自分のせいでしかない。仕方ないなんて言葉で片づけることは違うような気がする。

 

 彼女に少しの後ろめたさをもって、俺はすっぽかしてしまった昼飯についてを考える。空腹を感じてはいるけれど、大量に入るわけじゃない。おにぎりのひとつくらいで十分かもしれない。

 

 コンビニの自動ドアをくぐれば、聞きなじんだメロディーが聞こえてくる。そのメロディーを合図にしたわけではないけれど、俺と皐はそれぞれ別のコーナーに行って、目的物を探す。

 

 皐はいつも通り飲み物のコーナーに向かったのが目に見えた。俺は入り口からまっすぐに行っておにぎりのコーナーへと足を運ぶ。すると、そんなおにぎりのコーナー前で佇んでいる伊万里の姿が目に入った。

 

「……」

 

 彼女を前にして、話しかけるべきかどうか迷ってしまう。

 

 以前、話しかけてしまえばものすごい速度で逃げられた記憶が頭の中に蘇ってくる。今の彼女と俺の親しさならば、そんなことにはならないだろうという推測はできるけれど、やはりいきなり話しかけるというのは伊万里にとって心臓に悪い出来事かもしれない。

 

 だから、しばらく呆然と彼女の様子を見てみる。彼女を気にしないまま、俺の好きなおにぎりをとってもいいかもしれないけれど、なんとなく見ていたくなった。

 

「……」

 

「……」

 

 伊万里は、やはりおにぎりを見つめているだけで、それを手に取ることはしない。彼女は前に店員と話すことができないために、コンビニで物を買うことができないと言っていたけれど、ここまで迷ってしまうのならば、それ以前の問題だろうと思う。もしくはここで既に店員と会話をするための覚悟を決めているのかもしれないけれど、人の心なんて覗けないのだから正解なんてわかりはしない。

 

「……」

 

「……」

 

 沈黙、コンビニ内で様々な音は聞こえてくるけれど、目の前にあるのは沈黙。

 

「……」

 

「……」

 

「……翔也はなにしてるの?」

 

 そんな沈黙に浸っていると、横から皐が話しかけてくる。俺はその声に、うぉ、と小さく声をあげ、伊万里は背中をびくりと弾ませた。というか、俺の声に反応して伊万里はびくついていた。

 

 伊万里は振り返って、俺と皐の顔を見比べるようにした。髪に隠れた眼球が見開いているのがわかる。びっくりしているけれど、言葉にすることができない、という様子だ。

 

「……いや、伊万里にいきなり話しかけるのは悪いかなぁ、って」

 

「まあ、わかるけどね」

 

 皐はくすくすと笑うようにした。俺もそれに便乗するように微笑を浮かべる。伊万里の様子をうかがっていると、「あっあっ」と断続的に同じ声、というか音を発している。

 

「え、えええと」

 

 伊万里は声を出す。以前と比べればだいぶとマシになっている吃音。伸びてしまったり、止まってしまったり、つっかえてしまったり。

 

 でも、今の彼女は違う。

 

「こ、こんにちは! 加登谷さん、高原さん!」

 

 彼女は元気に俺に挨拶をした。

 

 

 

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