妹とゆるゆる同棲生活 〜まさかの幼馴染が居候で修羅場の危機?!〜   作:ひざぎ

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壱/倒錯のような純愛性
1-1


 

 禁忌を犯したのは、いつのことだっただろうか。

 

 そもそも禁忌という意識を持っていたのかすら危ういものだ。俺はそれを受容してしまったから、よくわからない。

 

 幼い頃の距離感というものを言い訳にすることはできるだろうが、それだけで許されるものではない。少なくとも、それが罪であることは禁忌を犯したときにはわかっていたはずだから。

 

 

 

 

 俺の両親は不仲だった。別に、最初から不仲だったわけではない。端的に、父の仕事が忙しくて、そこから喧嘩が増え、居間の空気が冷えるような感覚があるだけだった。

 

 幼い頃に経験する家庭の不和は、幼い子供の精神に影響を及ぼす。それがどんな倫理観を子供に育むのか、大人たちは何も知らなかった。

 

 床下から聞こえてくる怒声は子供の心を殺すものでしかない。その内容が、俺たちに関わるものでなかったとしても、自分の見知っている人間が、両親と言える関係性が口論を繰り返す様子は、精神衛生上よくなかった。

 

 夜中、何度も眠るふりを繰り返した。その成果はなかったけど。

 

 時折聞こえる物音で目を覚ましてしまうからどうしようもなかった。

 

 耳を塞ぐことも億劫になって、そうしてぼうっと布団の中に潜っていた。

 

 そんな時に皐が俺の部屋に入ってきたことを覚えている。

 

 確かノックはなかったはずだ、静かにドアが開いたことを俺は認識した。ドアの外から聞こえてくる喧噪が、扉の開閉によって大きくなったり、小さくなったりした。

 

 皐は静かに俺のベッドに座り込んだ。眠るふりを続けることはしなかった。兄として彼女に何かをしなければいけないと思った。

 

 ゆっくりと起き上がり、そうして彼女の耳を塞いだ。そうすることで、彼女の心が父や母に壊されないことを祈りながら、俺だけが喧噪に浸った。

 

 そんな日常の中に絆されて、互いに距離感を狂わせていく。

 

 いつの日か、皐が部屋に来ることは普遍的な習慣になり、そうして一緒のベッドの上で、布団の中で互いの温度を確かめ合った。

 

 互いに顔を向き合わせて、喧噪が聞こえるたびに彼女の耳を塞いだ。彼女もそれに応えるように、俺の耳を塞いだ。互いに互いを守るようにした、距離感は狂い続けた。

 

 包まった布団の中で、彼女の熱が俺の体に反芻した。きっと、彼女自身も俺の熱を留めていたように思う。

 

 溶け合う感覚に似ている気がした。溶け合う感覚というものがあるのなら、これこそが溶けあうと表現されるべきものだと思った。

 

 そんな日々が続いた末路として、両親は離婚することになった。当たり前の結末ともいえるものであり、帰結ともいえるものだった。

 

 原因は母の不貞であった。忙しく働く父に対して、仇を返すようにして不貞を働いた。

 

 言い訳のような罵詈雑言を母は父に浴びせていた。最終的には、悪びれる様子を一切見せることなく、すべての事柄をいなすようにだけ振舞っていたのが、未だに記憶の中にこびりついている。

 

 離婚する上で、皐の親権は父に、俺の親権は母に渡った。金銭的負担を考えたうえでの結論らしい。父が申し訳なさそうな顔で俺の顔を見ていたことを今でも思い出す。

 

 そんな頃だ、決定的な禁忌を犯してしまったのは。

 

 禁忌の初めは皐からだった。二人を分かつことが決定的になった日の夜、彼女は俺の部屋にやってきた。やってきていた。

 

 俺は眠っていた。瞳を閉じていた。意識を夢の中に浸していた。

 

 いつの間にか、俺は温もりの中にいた。乾いた布団とは違う、湿度のある温もりの中にいた。

 

 呼吸をすることができなかった。代わりに無理に呼吸をさせてくる息遣いが口腔を支配していた。

 

 俺は目を覚ました。

 

 目の前には彼女がいた。皐がいた。切ない表情をしていた。感情が入り混じった顔をしていた。涙がこぼれていた。寂しそうな顔をしていると思った。祈るような視線を感じた。泣きそうな顔をしていた。泣いていた。これから先に行う行為の悪行を身に映すような瞳だった。

 

 現状を把握するのに時間はかからなかった。俺は彼女の中にいた。彼女の温もりの中にいた。心地よさがあった。溶け合うことがそれだと認識せずにはいられなかった。今までのことは偽物でしかない感覚があった。

 

 でも、その心地よさを疑問に思わなければいけない本能があった。倫理観があった。

 

 でも、彼女を拒むことはしたくなかった。無理に離すことはなかった。

 

 どうせ、その日を境に彼女と会うことは少なくなる。だから、彼女を俺は受容した。

 

 長い時間だった。外の世界が明るくなるまで、互いに声を殺しながら身を浸しあった。彼女が声を出しそうになると、皐は誤魔化すように俺の口をふさいだ。

 

 俺の口の中で彼女の声は響いた。俺はそれを受け容れた。絡む舌の感触を確かめた。

 

 それはひとつの愛だった。

 

 俺と彼女は受容しあった。

 

 愛を物理的に表現した。

 

 精神的では見つからないから、それを一つの契りとして、愛と定義することにした。

 

 そうすれば、何もかもが許されるような気がしたから。

 

 それが、一つの終わりと始まりだったのだ。

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