転生したらTSふたなり聖女だった件 作:自給自足日常系異世界ファンタジー作家
「おや?少しお早いお帰りですねドゥトラスさん...ん?
魔物は1匹ですか、それに...何ですかその珍妙なミノムシは。」
ボクからミノムシである、酷い言い草だ涙チョチョ切れるぜ。
「まずなお嬢、あの『ユダの沼地』はダンジョンだった。」
「ダンジョン化の傾向があるにしては魔物の量が少なかったけど既にダンジョンと化していたのね、よく情報を持ち帰ってきてくれたわね。
——それで続きは?」
「イリエがダンジョンボス、沼の主を討ち取った。」
「...は?」
「違いますトドメを刺したのはドゥトラスさん達です」
「オメェが居なかったら俺達全員が血の一粒も残らず啜られていたわ、いい加減諦めろ。」
「いやあの...」
話が通じない、そんな大それた名誉は要らないですって。
——ドゥトラスさんやくめでしょ、ふんたーこちとらまだガキだぞ荷が重いわ。
「ならば真偽確認を致しましょう、司祭を呼びます、少々お待ちください。」
「ああ、あとノコギリも頼む俺達の救世主様がこのザマじゃアレだろ。」
蜘蛛の糸は焼き切るか溶かさないとちぎれません、魔力で強化してもノコギリじゃ先にノコギリの刃が擦り減ります。
「...はあ、分かりました。」
マジで苦労人感が凄いなこの人...
そして初老の司祭らしき人が現れ、魔物に触れてから何かの魔術を使った。
——職員のお姉さんと少し話した後に、彼は杖を持ち口を開いた。
「間違いありません、この魔物は迷宮の主でした。
——個体名ヴォジャノイ、ここにダンジョンの攻略とダンジョンの主を討ち取った栄誉はイリエ・リエンデールのモノと表明する。」
「「「「ウォォォォォォ!!」」」」
周囲から歓声が上がった、正直俺は殺されないか不安で仕方ない。
——どこか悪寒が止まらない、死が纏わりついている感覚だ、希望に溢れていながら未来を見る事ができない異様なこの感覚。
この先、この私に何が起きるのか。
——希望の光、その先が見えない逆光、きっとその先に何かが待ち構えている。
これは罠だ!!
「肉だ」
「肉だな」
「しかもウシだ」
「ニワトリだ」
「ブタだ」
「フルーツだ」
「「「「「「それは肉じゃないぞ変態エルフ」」」」」」
異世界の住民されど貧民の部類に当たる彼ら、それでも魔物の肉は飽きるほど食べてきたが貴族が食べるような高級な肉を食べるのは初めてであった。
——前世で日本に売られたイリエも良質な家畜の肉を食べるのは11年振りである、目の前に置かれた牛のステーキを前に涎もダラダラだ。
「病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、神の恵みに感謝し続けていた我々は、人々を救う救世主の再臨を迎えました。
——ついに蘇ったのです、我々の信じる人々と世界を救う救世主の復活を祝えるこの日は何事にも勝る最高の瞬間と言えましょう。」
色々とツッコミをさせて頂きたい、まず一つ目結婚式みたいな事を言わないで頂きたい、二つ目私は救世主じゃないパチモン魔術師だ、三つ目私は別に世界を救ったりなんかしません、四つ目話が長過ぎてステーキが冷めるからさっさと終わらせろ。
「私は歴史あるこの日を祝う機会を与えられた事を嬉しく思います、皆さん本日は楽しみましょう!!
そして新帝国建国史上初の迷宮攻略その名誉を果たした勇者達に神の祝福を、主の慈しみに感謝を。」
「よっしゃ今日は飲むぞぉぉぉ!!」
「「「「ウォオオオーー!!」」」」
一心不乱に食らいつく戦士達、彼らは臆する事なく強敵に食らいつく。
弾力のある肉に阻まれても彼らは止まらない、彼らはそれを噛み砕き前進し続ける、そう
それに比べ女子組は何とも謙虚な事か、いやまあ一心不乱にバクバク食ってんだけど。
「はーい、イリエ君、あーん。」
「あーん、どれどれモルガンさんにも一口あげるよ。」
「んー食べさせてもらうのも格別ね、どれもう一口どうかしら。」
うむ悪くない、いやぁ本当に顔だけはメチャクチャ整ってるな。
雰囲気も中々に妖艶だしそそるわぁ、綺麗な透き通った目をしているし魅了にかかってしまいそうだよ。
——魅了?
モルガンさんと俺の目線が交わる場所、その間に俺の手を置いて遮る。
「もしかして気付いた?」
「気付いたね」
俗にいう魔眼?みたいなモノを使っていたのだろう、本当に妖精おっかないなと思う、いやまあ人間もその辺同じなんだけど。
——手で遮ると同時に嫌な感覚は静まりはじめた、完全に影響から抜け出すまで時間がかかりそうだ。
モルガンは口を尖らせて文句を言い始める
「人間が抵抗できるなんておかしいー脳に直接作用するのに魅了にかかった状態から抜け出せるなんて人間じゃないー」
「ただ少し魔術の才能があるだけの人間だよ、バンバの世話があるから必要十分に相手できないって言ってるじゃん。」
「いけず、そうやって沢山の妖精達を悲しませたのね。」
その通りなのかもしれないな、ゴブリン達からしたら裏切られた以上の感情はないだろうし。
——復讐すべき対象は易々と死んでしまったからねぇ、如何せんゴブリン達は短命過ぎた、俺が飽きてしまったのだから仕方ない。
「はっはっは」
妖精だしなぁ、純粋過ぎて扱いに困る。
——普段だったらここまで断言した返事はしないけど、妖精相手に日和ったら命なり何なりに危険が及ぶと思ったからかな?会った時から距離を詰めようと思えなかったけど無意識下で何かを重ねていたのかな。
案の定その勘が当たってしまった、多分肉体的に傷つける事以外なら何でもしていいと思っているんだろうな、人間もそれは同じだけど妖精は地力が違うから避けないとヤバい。
「食事中に下品だぞモルガン、何度も言ってるだろイリエもガキだから体の関係を迫るにはまだ早い。」
「魂は人間基準で成熟してるからいいのー」
「おいおい...」
魂の成熟、まあ成年になったとかそういう判断なのだろうか?
——本当に妖精はよく分からない存在だ、人間らしいが非人間的で魅力的、蠱惑的ながら無理矢理人を魅了する力もある。
要素を内包し過ぎて頭がおかしくなりそうだ、人間にモテたい。
——てか自分と妖精は相容れない存在って事を実感するな、やっぱ自我と自意識が強過ぎるんだろうな俺は。
「とりあえずハメるとするじゃん?」
「そうね」
「その後俺バンバの待つ馬小屋に帰るけど許せる?」
「許せない」
だから駄目なんだよなぁ...
何て言うんだろうね女としてのプライドかな、非人間的な存在の癖して変に人間らしくてそこは好きだわ。
「だからナンダヨォ、お付き合いするには時間がないんだよぉ。」
ん~バリウマだ、最高だわこのアメリカンな肉噛めば噛む程うまい。
「む~私も理解はできますよ?
人間が動物を好み家族のように扱う事も知っています、理解した上で誘ってるのです。」
「Noと言っておこう、悪いね俺は自分の快楽より愛馬の命の方が優先度が高いんだ。」
「むー」
いじけているの可愛い、庇護欲を唆る行動を理解していますねあざとい女だ、女に嫌われる女だ。
「メンゴメンゴ、それに関してはまた後で考えよう。
——腹を満たしたあと、酒でも飲んで考えが変わるかもしれないしね。
俺にも酒一杯おねがい!!ナミナミで!!」
「はーい!!少々お待ちを!!」
——度数は10から20ぐらいだろう、あんま濃くないな。
「薄めずに一気とか...結構濃いけど大丈夫?」
「そーかな?葡萄酒だしヘーキヘーキ」
未成年飲酒okなのは流石異世界って感じ、義父さんに咎められてたソレもない...ああ理由もなしに俺を気にかけてくれる人はこの世界に誰も居ないんだな。
——自由って幸せじゃないんだね、常識って役に立たないんだな。
あと一気が云々とよく言われるが10度20度の酒じゃいくら飲んでも一緒だ、てか肉とかフルーツ食って水分を同時に補給すれば一般人でも大した問題はない筈だが。
それはそれとしてたかだか少し強いだけの一体の魔物を倒しただけでこの祭り状態、流石に狂信にも程があるんじゃないか?所詮黒魔術と白魔術が両方使えるだけのガキだぞ。
——いや他者を英雄視するってアレか?しかも子供ときたらそんなモノかね、皆んなゴシップが大好きなフレンズなんだね。
「あの魔術って伝説の『衝撃の魔女』のよね?どうやって覚えたの?」
モルガンさんも第一階梯クラスの黒魔術しか使ってないけど、実際は第二とか第三階梯ぐらいだろう。
...その上で俺みたいに黒白その両方の魔術が使えるでしょ?
それならモルガンさんでも倒せただろうに、マジで俺が崇められているのか意味が分からない。
「あ~魔術書にねぇ魔力の知覚を助ける何かがあってねぇ、それを使ったのよ、ほらこれ。」
魔術書を取り出し、その魔法陣を見せる。
「えっとね、いや何でもない。」
...ゑ?
何か言えよ怖、え怖。
何でもないは何でもよくない定期、どこを見てヨシって言ったんですか?状態にリアルに陥るからガチで駄目なのよ。
「え何よ最後まで教えてよ」
「知りたければ神秘を学ぶことね、その魔法陣は魔力の認識にも使えるモノなの。」
え何それ意味分からん、本来は別の用途として使用されるものとかかな。
——例えば手榴弾に括り付けるワイヤーを戦車の履帯を外す為に使ったりとか、色々とアレだよねうん絶対にそれとは違うわ。
俺の脳内落とし穴かよ...
「——命の危険でもあった?」
「...」
おい目を合わせろ、何だその顔は、てかそんな危険なモノだったのかこれ。
——てか今更考えたら魔術に精通した魔女に魔力の認識を助ける魔法陣なんてモノがあったらおかしいじゃん、うわ本当のこの魔方陣の正体何だよ。
「よく五体満足で生きてるな俺...」
「それがヒトの救世主たる所以ね、本当に運がいいわね。」
「最高の誉め言葉だね感謝するよ、あと救世主はやめてほしいな。」
「...ノリノリじゃないの」
タダ酒は最高だ、食事も進む進む。
「宗教的な事柄なんだから儀式みたいなモノでしょ、でも何か凄い事をやらかしたんだなぁって事は納得した。
——だけどさ魔物を狩るぐらい誰でもできるんだから、徒党組んで適切な装備を用意しておけば魔物の巣ぐらいいくらでも攻め滅ぼせるよ。」
「白魔術の作用は宗教的な因果に大きく左右されるの、それに左右されずに魔術を扱えるのは信仰に囚われない存在だけ、そうじゃなきゃ聖職者以外が白魔術を使う事は基本不可能よ。
——ああ、勿論階梯が上がれば別だけどね、ただそれは贋作の奇跡よ。」
モルガンさん俺にこの世界の事を説明しているのか、非常識か、まあ確かにその通りだな。
「へぇそうなの、階梯もよく分からないんだよねぇ、でも何となく分かったよ
「この世界の、この時代の人間だけで迷宮の主を殺す事はできないの。
——人は神を殺せない、個のヒトはいくら集まっても『主』を殺せない、階梯の差は絶対で最低1階梯差以内じゃないと殺せない、その例外が救世主なの。
そこまで優れた魔術を操る階梯の高い存在は、私達みたいな燻った者達に近い存在じゃない、端的に言えば普通の人間ではないのよ。」
魔術師としての階梯、それは認めらずとも定まるモノらしい。
——そしてこの世界に救世主として認められたら救世主になるんだと、説明を端折った臭いが救世主は低い階梯で上位の階梯の存在を殺せるらしい。
そんで階梯が高い人達は人前に基本出ないんだと...
まあ同感だな力が強大過ぎる訳で、中世に155mmの砲列があって人間関係が拗れない訳がない。
それとは更に別の意味として、普通の人間じゃないと言われてしまって少し悲しい。
「あーつまりそういう事か、俺自身の階梯が上なだけで救世主のガワだけ被せられていると。
——要するに本来救世主のは1階梯魔術師なんだよね?」
超常的な力を持つだけで救世主認定されていたら世界中救世主ばかりになるもんね、となると魔女のお姉さんも救世主扱いになるか、なんだったらあの蜘蛛の魔物も救世主扱いだな。
「断言はできないけど合ってもないし間違ってもないわ、あなたという例外が生まれたせいでややこしい事になってるわね。」
なぁにそれ、ガバガバ制度過ぎるでしょ、宗教というシステムくんは俺というバグ存在に力を与えてしまった訳だ。
——それはともかく階梯かぁ、いまいちよく分かんないや、CPUで言う演算能力の向上による世代交代?みたいな?アナログ計算機からデジタル計算機になってデジタル計算機から量子コンピューターみたいに向上する?みたいな感じだろうか。
それが汎用魔術や洗礼魔術の出力に直結すると、想像以上にこの世界において力関係におけるバランスはブッ壊れているのかもしれないな。
上限が23で全知全能の神、これ中央値なの罠じゃねぇか。
...待てこの下限って変動しないのか?
旧帝国時代の衝撃の魔女は汎用魔術による飛行と衝撃魔術しか使用しなかったらしい、だけど俺が会った時は身体強化に白魔術の行使にその他黒魔術の行使も余裕で並行できていたぞ。
——多分だけど底の値が競り上がっている、もしかしたら今の時代神と人間の階梯差は23もないのではないか。
まあ何でもいいか、だから何だって話だしな。
——そもそも救世主云々が大嘘と彼女は言っているのかもしれない、うぅむ後々から多数の人間の思い込みによって辻褄合わせが行われてる感じか、自分が感じる事も出来ずに世界は変わり続けているんだな。
「どーかん、でも生きていくには問題ナッシング。」
競り上がるなら問題はないな、時代遅れの
「そうね、生きていくにはね。」
そんな事を言っていたらあの人みたいに狂って自殺しちゃうんだろうな、ままならないな。
「まあ暇潰しには丁度いいな、惰性に任せた暮らしが一番幸せだからな、またのんびりやるさ。
おねーさんお代わりちょーだい!!もう一杯ナミナミで!!」
慣れればこれはこれで美味い、毎日は飲まなくていいが暇な日にパーッと浴びる様に飲みたい味だ。
「...飲み過ぎよ」
「そんな事ないよー二杯目三杯目が美味しいんだよー」
「口調が変わってるわよ」
そうして、惰性に任せた楽しい時は過ぎていった。
「どうだ?色々とかっぱらってきたんだ、フルーツとか野菜類とか、ああ安心してくれ玉葱とかそういうのは抜いてるし一応再度水洗いもしてきた。」
俺の手から差し出されたモノから順々に食べていく、何だったら俺の夜食用である牛肉にすら興味を持ち始めた。
おいバンバお前馬だろ
——いやまあ草食動物も一応タンパク質不足の時は虫とか小鳥とか小動物を突いているが、そのガッ付き様はなんだ。
もしかして俺が食ってるから美味しそうだと思ったんかね...
まさか肉を食う様になるとは、半日会えなかったから寂しくて精神状態がおかしいのかね。
普段はあんな凛々しくていい子なのに...
不安でしかない、始めて会った時はかなり大人しい子だったのに、
——てかそんな舌をベロベロ出して危ないぞ、少し暑いんかね、でもそういう時は水分ちゃんと摂ってる筈だが。
...よく見たら水飲んでねぇ、中世の治水環境で齎される泥水じゃ駄目か。
生活レベルを下げられないのは人間だけじゃないらしい、魔術で水を生み出して、それを好きなだけ飲ませる。
「少し散歩でもして帰る前には水浴びでもするか」
それに飯の量も足りなかったのかな?
少し調子が悪いかもしれない、駄目だな明日からの仕事はこいつと運動しながらしようか。
空を飛んで町を出る、窪地に入り土を焼き固め、そこに座り込み水浴びをする。
馬の濁った汗が流れ出す、体温が下がれば勝手に出るのでそれまで腹に寄り掛かるとしよう。
また新しい筋肉がついている、どんどんムキムキになっていく我が愛馬、多分100kgぐらい体重増えてるし10cmぐらい体長も伸びてる。
——それに何か、ナニとは言わんがナニも多分デカくなってるんだよな。
「これからどうなるんかねぇ...」
折角の金稼ぎ場は自分で潰してしまった、その上出費の方がデカい。
褒賞が与えられるとは言うが、そういう時に用意されているのは金じゃなくてよく分からない勲章に書状ばかり、その上で用意されているのは休暇でもなく次の戦場だ。
——上位種の魔物を狩る方法の想定はできたが、だからこそ戦いたくない。
上位種の魔物、それを言うならば万能兵器そのものだ。
万能な兵器ってのはいざ現実にしてみると中途半端な性能なモノばかりなんだ、だが上位種の魔物の場合は万能な癖して異様に水準が高かった、俺達凡人が想像する俺達を何でもかんでも問答無用で殺してくる恐怖そのものだった。
——あの魔物だって衝撃魔術の直撃を受けてヒョロンとしていた、糸と土塊を混ぜた足場も衝撃魔術で破壊できなかった部分の方が多かった。
通常兵器では御しきれない化け物だった、熱核兵器やレールガンの様な超科学兵器相当じゃないと満足に殺せない。
指向性エネルギー兵器もいいモノだが、事実魔術がソレだし出力も中々いいんだが、正直必要十分とは言えないのが本音だ。
リラックスしたら無駄な思考が始まってしまった、いやまあ必要な思考なんだがネガティブな事柄ばかり浮かんできてしまうのが欠点というか何と言うか。
例えるなら歩兵砲兵戦車AFVその全てのいいとこどりをした怪物だった、否それ以上その全てにおいて高過ぎる能力を持っていた。
——更に言えば私と違って魔力切れの心配もなさそうだった、迷宮の主とやらが全部アレ並みだったら命が何個あっても足りんぞ。
でも案外迷宮は作らないモノなのかもしれない、俺も作れるらしいけど作った事ないし。
攻撃手段として衝撃魔術は必要十分ではあるが、それを連続して直撃させられる方法や環境の整理が必要だな。
——罠に嵌めたいところだが上位の魔物を相手にする時は罠を仕掛けられている事を前提として戦わないといけない、ひたすらに厄介な存在だな。
敵地で補給もなしに、確実に敵を殺さないといけないとかどういう無理ゲーだよ...それが俺の常識だったが改めて覆されたな。
——こちらも陣地をそのまま移動できる、偉大な魔女の発明の恩恵に預かれたのが何よりも幸いだったな、これがなきゃ普通の魔物相手にヒイヒイ言ってた事間違いなし。
前回は魔物達が徒党を組んでいたら勝てなかった、主様がノコノコと自分のフィールドを捨て特攻してきたからよかったものの、慎重な性格だったら全滅していた。
敵を拘束する手段、もしくは確実に命中させる手段を用意する必要があるな、もしくはその必要がない超兵器並みの攻撃をするか。
一応不可能ではない筈...
そもそも現代の軍隊は核兵器を生み出せる技術を使って、第二次世界大戦の兵器類を超強化したモノを使っているに過ぎないのだから。
——人間に怪物の一部を継ぎ接ぎしただけ、その結果が155mm砲による砲爆撃と異様に先鋭化した各種兵器群、それを今の俺が再現できるなら
それは全てを灰燼に帰す神の光、到底打破できぬ国家という化け物を易々と討ち果たす異形の怪物が生み出した超兵器。
——それを果たせるのは何階梯の存在だろうか、3階梯で各種兵器群と対等以上なんだ、まあ魔王が居るんならそれを殺す為に習得するのも悪くない。
ただそれは過剰火力過ぎてな、俺が多分巻き添えで死ぬ。
だが俺が道を切り開いたらいけないと誰が規定した?
——速く鋭く衝撃的に、意識外から迫る恐怖をこの世界の怪物達には体験してもらおう。
折角の魔術だ、折角の異世界だ、改めて楽しく戦争しよう。
笑いが止まらんな、お誂え向きのこの異世界、淡泊ながら濃厚な日々が帰ってきた。
それに俺はつくづく運がいい、あの時死ななかったソレもあるが、何せ早速獲物がやってきたのだから。
俺達は何に喧嘩を売ったんだ?
——礼拝協会の話じゃ救世主の偽物が降臨したから殺してこいと...対人戦は素人も当然だとそういう話じゃなかったのか?
だがこいつは何だ?得体の知れない魔術を無数に扱い、人を殺す事に特化した魔術を断続的に使用していた。
捨て身の一撃を喰らわせても奇跡に等しい治療魔術で即座に回復しやがる、救世主っつうより最早魔女だ、魔女っつうより死を超越した人間だ。
——こいつは伝説で語り継がれる魔女だ、否それ以外のナニかだ。
その癖して福音委員共の杖を持っていやがる、魔女の力を扱う救世主だと?救世主は第一階梯程度の魔術しか扱えなかったんじゃないのか?聖書にはそう書かれているんだぞ。
——ああクソったれの伝承に俺達は騙されたんだ、こんな化け物が救世主な訳がねぇ。
只人なれど世界を救う事ができる、そうじゃなきゃ奇跡でも何でもねぇってのによ、コイツは奇跡なんて言葉じゃ全然表せない存在だ。
第一第二第三、階梯関係なしに使える奴は全員連れてきた。
伝説の『衝撃の魔女』でさえこの軍勢は1分と持たないだろう、そもそも人間の限界点は第三階梯といっても過言じゃない、そいつらが束になって勝てない人間なんか居るはずねぇんだ。
——俺含むウチの第三階梯の連中は下位だが、同じ階梯の人間が10人同時に相手できる訳がない。
俺達全員なら第四階梯のヤツでも、全滅覚悟で戦えば差し違える事はできる。
...なのに手も足もでねぇ、階梯差だけじゃないんだ、経験が違う。
——俺達は貴族も悪党も取るに足らない盗賊も数えられない程殺してきた、この世界で一番人を殺してきたのは俺達かもしれない、だがそれ以上圧倒的な数の人間をにコイツは殺してやがる。
初めて町で見た時は死臭どころか人殺しの気配すらしなかった。
——ただのデカくて強そうな馬に守られていただけのガキ、青色の果実の筈だったんだ。
そんな日に、一つの迷宮が踏破され、迷宮の主がソイツに殺されたと聞いた。
——間違いなく対魔物特化、故に俺達は強力な洗礼魔術を扱うだけの第一階梯の雑魚だと驕っていた。
人間の皮でも悪魔が被ってやがるのか?
戦いに入ってから俺達はそう思った、争いを始める瞬間迷宮の主と直接対峙した時と、もしくはそれ以上にドス黒い死臭がした。
...そもそも神が遣わす救世主から、あんなドス黒い死臭がするのがおかしな話なんだ。
だけど今はそう思わないさ、もし悪魔が存在するなら神と比べて相当お優しい存在に違いない、そう断言できる。
面白くねぇ冗談だ、吸血鬼でも悪魔でも魔物でもなく、俺達が人間に殺されるだなんてな。
——いや当然の報いか、力は力に滅ぼされると言う様に人を殺してきた俺達は人に殺されたんだ。
——救世主よ
麗しき主から遣わされた、我々の夢を背負った希望よ。
なぜ自分一人だけの
教えてくれ、どうやったら血塗られた両手と腐り落ちた脳髄で生きていけるのかを。
なぜ狂気の渦の中で正気で居られるのかを、恐怖に囚われずあらゆる敵に抗う事ができるのかを。
——救世主でもないただの人間が何かを為す事ができるのかを、お偉いさんの尻拭いが人生の全てだった私達に、何も為せず何も為さなかった私に教えてくれ。
「つくづく俺は運がいいね、君達中々だったよ。
...礼拝協会とやらからのお客様、またのご出向お待ちしております。
——とでも言っておくべきか?」
第三階梯クラスであろう魔術師が11名にモルガンさん並みの第二階梯が30名ちょいに塵芥が沢山。
きっと『衝撃の魔女』を狩ろうとした時もこんな感じだったんだろう、いい勉強になったよ、そしてこの世界での魔術の使い方がよく分かった。
彼らは汎用魔術か洗礼魔術しか使用しない、使えないのではなく使わない、そもそもそれ以外の魔術を極める事は無駄な事らしい。
——つまり俺や魔女さんはプログラムを書く為に一からPCを組み立てる変態だった事が判明した。
あと俺は特化型ビルドを構築しているが、この世界では汎用型ビルドが流行っている。
人や魔物を殺すには汎用魔術と洗礼魔術で必要十分、どうやら致命傷を与えずとも戦闘不能となった者には洗礼魔術を使用するだけで殺す事ができるみたい。
——圧倒的な総合力で殴り合う戦争をしているらしい、なんてリソースの無駄遣いなんでしょうか。
汎用魔術で致命傷を与えて洗礼魔術で強制昇天、笑い声が出てしまうほど愉快な嵌め技だ。
ただ最も最適化された形に準ずる為なら、専用の魔術を使用した方がいいらしい。
——例えば衝撃魔術なんか最たる例だと思う、投射量という強味を生かす為に汎用魔術を使用するには不足するらしい。
やはり魔女の魔術を覚えておいて正解だった、そして俺が使うべき正しい力その力を表す為の洗礼魔術、これら両方覚えてて大正解だったな。
——洗礼魔術は正しい姿ではない存在を強制的に正しい人の形にして昇天させる魔術だ、普通の人間から逸脱した存在や魔に準ずる存在を強制的に討ち果たす。
救世主、それは人の身でありながら人が為せぬ事を為す。
——人に為せぬ事を為す為に、何度でも立ち上がる為の強力な治癒魔術やその源流である洗礼魔術で対象を問答無用で昇天させる化け物だ。
ただそれだけ救世主様がブッ飛んでる分敵が強い、この世界において悪とされる存在に特攻となる洗礼魔術、それがあっても普通の人間が魔物と相対するには足りないのだから。
——互いの力量差なり何なり、そして洗礼魔術が通用する様になれば問答無用でこの世界の魔術戦は勝ちが決まるらしい。
やっぱ俺は彼らの言う救世主じゃねぇわ、俺の洗礼魔術って問答無用で昇天させるモノじゃないし、ぶっちゃけ効き目も悪いしな。
——衝撃魔術で攪拌する方が性に合っている、これはイメージの問題なのかもしれないが。
本物の救世主様は洗礼魔術でどんな対象でも殺せるらしい、いやはや恐ろしいったらありゃしない。
——つまりそれはこの世界における絶対のルールなんだな、理解したよ。
大事な情報を教えてくれてありがとう、君のおかげで、よりこの世界で上手く生きていく方法を見つけられたよ。
自らが信仰上の存在に成り代わる、これだ。