もし士郎がモルガン化したら? 作:モル士郎
色々考えて今回だけは少し形式を変えた方が良いと判断しました
interval
夢を見た。
人々が笑顔の理想郷。誰もが何も不自由なく暮らし、平和な国。
そんな理想郷をたった1人で作り上げた英雄。そんな人の半生を見た。人々ために尽くし、多くの人を救った。
「戦争を無くしてほしい」「ご飯が欲しい」「戦いたくない」そう求められ、そして、与え続けた。
「目の前で誰かが傷つくのは嫌だ」
英雄はそう笑って、戦い続けた。そして、世界は平和になった。
いや、平和になってしまったのだ。
人間の欲というものは限りがない。満たされれば次が欲しいとなる。そして、その
平和の裏には犠牲がある。いくら英雄でも全てを救う事なんて出来なかった。その恨み辛みが積み重なる。
その結果示された1人の肉塊。
「……………これで、良かったの?」
英雄は言う。
終わらない平和。高みに上り詰めてしまったから見える世界。そして、見えなくなってしまった場所。
本来の
理想はすでにすり替わっている。
◆
ベットから起きて、まず感じたものは
まるで、頭に吊るされたニンジンを追いかける馬だ。
「起きたのね。凛」
聴き慣れた声に
あんな食器、私の家には無かった、どこから調達してきたのだろうか?
「………おはよう、アーチャー。美味しそうな朝食ね♪」
自分でもびっくりするくらいの明るい声が出た。だいぶこの空間に毒されてしまっているのだろう。早くなんとかしないと、せめて……。
布団の下で手を握り締める。
「ありがとう。作った甲斐があるわ」
楽しそうに笑うアーチャーはいつの間にか出現した机にトレイを置いた。何が楽しいのかニコニコと笑う彼女に促さらて、これまた突然現れた椅子に座る。そして箸を持つ。
ふと思う、本来私は朝食は食べない主義だ。だというのに朝食を見た瞬間にお腹が空いてきた。それほどまでにこのご飯が美味しそうなのか、それとも………
「どうしたの?凛、早く食べないと冷めてしまうわ」
アーチャーの顔を見ると不思議そうに小首を傾げる。何を考えているか分からないが、彼女は私にとってよく無い存在だ。
今になって漸く理解し出来た。アーチャーの顔が認識出来ない。違う、厳密には意識ができない。まるでその辺の石ころに意識を向けないように私は、きっと、他のみんなも意識を向けていない。
今は敵意も不信感も
——-何故アーチャーは、衛宮さんと同じ顔なのか?
あのキャスターを倒した時。アーチャーが固有結界から出た時、私は確かに彼女の顔を
おそらくキャスターの悪あがき。理由は分からないが、あの戦いのあと一瞬だけアーチャーの魔術に綻びを生んだのだ。
「ええ、そうね。ごめんなさい。」
敵意を持つことは出来ない。私が向けられるのは信頼と親愛だけだ。そんなふざけた状態だけど、私は思考を止めない。たとえ私が負けたとしても、アーチャーだけは勝たしてなるものか。
だけど、この思考もいつしか無くなるのだろうか?いや、そもそもこの思考自体がアーチャーに誘導されたものなのかもしれない。そう思うと凄く
そんなことを考えていると、電話が鳴った。私の家に電話をかける相手は数えるほどだ。その中でも、こんなに朝早く連絡をよこすのはさらに少ない。綺礼か、学校くらいだろう。
「私が出るわ」
そう言ってアーチャーはその場を後にした。その隙に服を着替える。たまにあのアーチャーの視線がいやらしく感じる事がある。女同士だしむしろ、嫉妬するくらいアーチャーの方がスタイルが良い。
しかし、明らかにアーチャーは私のことを意識してるし、意識して視線をずらし、そして、たまにチラ見する。はじめは面白がっていたが、今になってはなんだか、高揚にも似た変な感情にさせてくる。
明らかに私がアーチャーへと抱く感情は普通では無い。アーチャーに裸を見られ、意識されてることが嬉しくてたまらない。むしろもっと見られ意識されたい。
絶対に何かされている。だから、私は私の感情に逆らう。
学校の制服に着替え、そして、習慣になった父の形見であるペンダントをポケットに入れる。このペンダントには遠坂家が代々魔力を貯めてきたもので、今では私も少しずつ魔力を入れている。
聖杯戦争中だし、護身用に持っていた方が良いだろう。それは兎も角として、穂群原のスカートにはポケットがあって本当に良かった。ポケットの無い服だとかなり不便だっただろう。
「凛、今日も学校は休校だそうよ。」
アーチャーが帰ってきた。その言葉に脳裏に浮かぶのは校庭に倒れる生徒。ズキン、と、頭痛がする。
「………柳洞くんの?」
「ええ、そうね。まだ、その事件が引きずってるみたい。」
その言葉を信じてしまう。既に私の心はアーチャーに対して信頼……、いや依存しつつある。彼女に全てを任せたくてたまらない。
ああ、アーチャーに抱きついて、そのまま眠ってしまえばどんなに幸せなのだろうか?
だが、脳裏に漠然と浮かぶ校庭に倒れる1人の見覚えのない少女。それが誰なのか分からないけれど、頭痛が酷くなる。
冷静に考えろ遠坂凛。私の心は既にアーチャーに支配されつつある。いや、今こうして考えているのも彼女に操られている結果かもしれない………。
それでも、最後まで足掻きなさい。なぜ、彼女は電話に出た?そして、学校は私が一人暮らしだと知っている。
あの脳裏に浮かぶ少女は誰?あの場面を私はいつ見た?
「けど、柳洞くんの事件って尾を引きすぎじゃない?」
あの事件は衝撃的だが、複数日、休校になるのは流石に大袈裟だろう。
「………………。ごめんなさい。実は他にも事件が起きたみたい。とある一家、丸ごと行方不明になったみたい。」
アーチャーは私を見る。
頭が痛い。燃えつきる蟲、崩れ落ちる建物。首を切られる少年。こんなこと知らない。いや、知っている? 私は何をやった?
「でも、それって……」
アーチャーは私の頬に手を添えた。その体温が心地よく、身を委ねてしまう。払いのけなきゃダメなのに……。
心がポカポカして、心地が良い。
安心して、全てを任せてしまいたくなる……。
「ごめんね、凛。私はあなたに心配かけたくなかった。」
アーチャーの顔が私に近づく。彼女の吐息が私の顔にかかる。薄っすら甘い匂いがして、お腹に熱が集まる感じがして、とても心地ちいい。
「心配?」
ダメだ。
これ以上は、頭がおかしくなる。
「ええ、私はあなたのサーヴァントですよ?」
そう言って、アーチャーは私のことを優しく抱きしめてくれた。彼女の熱や、甘くていい匂いが私を包む。お腹がキュンとして、全てを任せたくなる。
「そう……。私が間違えていたわ。」
そうだ。アーチャーが私のことを考えるのは当たり前だ。
そう考える事にして、ポケットの中の宝石を痛いほど握りしめた。
「大丈夫。私に全て任せて」
アーチャーの声が心地よく脳を揺らす。甘くて蕩かす。ああ、もうどうでもいい。この気持ちに全て任せてしまいたい。つい、こくんと頷いてしまい————-。
—————-ああ、これは、だめだ。
だから、黙って俯いた。
アーチャーに全て任せてしまいたい。だけど、左手に握りしめる宝石が、そして、私に刻まれた魔術刻印が焼けるように痛く、心をか細く守っている。
「ええ、そう。やっぱり、
そう言って私から距離を取るアーチャーの声はどうしてか耳に残った。
「マスター。少し席を外すわ」
すっと、霊体化したアーチャーに私はどうしてか残念に思ってしまう。早く何とかしないと本当にまずい。
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