もし士郎がモルガン化したら? 作:モル士郎
HFの映画でアーチャーが士郎は投げ捨てるのにイリヤは丁寧に降ろすシーンが好き
衛宮士郎は学校に登校した瞬間に違和感を覚えた。
全身にかかる怠さにも似た重さ。明らかによく無い結界が空間に張られていた。
「……こんなもの誰が?」
首を傾げたが士郎に思い当たる節はない。切嗣から聞いた話ではこの土地には
(だけど、調査はしないとな)
この結界について士郎は全く分からない。しかし、自分が出来ることはやっておきたい。そう思い調査に乗り出した。調査の開始は放課後、おおよその生徒が帰宅した後だ。
周りに人がいない事を確認すると、教室に座り込んだ。
「
目を瞑る。
魔術の修練は日課だ。しかし、この
集中力はどんどん高まり、まるで深い沼の中にゆっくりと沈んでいく感覚だ。魔術師とは死へと向かう人たちだ、というのは切嗣が士郎に語った事だが、まさにその通りだと"彼女"は思った。
「全工程、完了」
目を開く、そこには鬼の形相をした遠坂凛が人差し指を向けて立っていた。その様は赤い悪魔である。
「「………」」
嫌な静寂が流れる。
凛の人差し指には何やら呪いが込められている。おそらく、いつでも発射出来るだろう。
「何か言ったらどう?」
凛は静かに言う。
その問いに対して士郎は答える。
「……遠坂、よく分からないが、取り敢えず、落ち着いてくれ。多分、誤解だ。話し合おう。」
士郎はなぜ凛が怒っているのか分からないし、凛も魔術師だったことに驚愕しているが、それはそれとして、話し合おうと声をかけた。
「……何が誤解よ……。サーヴァントすら連れてこないで……。人のテリトリーにこんな結界を張ってただで済むと思ってるわけ?」
対して凛の肩は小刻みに震え始める。士郎の気の抜けた返事に、凛は決して高くはない沸点を超えたのだ。
当たり前だが、凛からしてみれが士郎はこの結界を張った犯人にしか見えないし、この時期にこんな行動を取るなんて聖杯戦争の参加者にしか思えない。
凛にとっては目の前にいる士郎は自身のテリトリーで好き勝手した敵なのだ。さらに、サーヴァントすらいない状態で気の抜けた態度をする"彼女"が挑発しているようにしか見えないのだ。そんな状態の凛に士郎は落ち着いて声をかける。
「結界? いや、俺はその結界を調べてたんだ。」
「証拠はあるの?」
「無い……。」
しばらくの沈黙の後、凛は手を下ろして息をついた。
「分かったわ。あんたがこの結界の犯人って証拠もないし。いいわ、犯人を捕まえる協力をしてちょうだい。私があなたを直に見て、犯人かどうかを見極めるわ。」
その言葉はある意味で士郎にとっては都合の良い物だ。彼女"はもとより結界を消そうと考えていたし、犯人も探そうと思っていたのだから、凛の提案は協力できるだけでむしろ、嬉しいものだったのだ。
「……ああ。遠坂が協力してくれるなら、むしろ俺もありがたい。」
その士郎の言葉に凛は目をパチクリさせた。
「呆れた。あんた……まだ、疑われてるってことなのよ?」
「けど、俺は犯人じゃないし。2人でやれば早く犯人は捕まるだろ?悪いことなんてないじゃないか」
「………。まぁ良いわ。それじゃ、結界の調査手伝って貰うわ。少しでもあなたが犯人だって証拠を見つけたら、その時になって後悔しても遅いわよ。」
そこから2人は学校中の結界を潰して回った。士郎が探して、凛が潰す、そんな奇妙な役割分担が自然と生まれ、びっくりするくらいスムーズに進んだ。
(コイツが犯人なんじゃ?)
凛にそんな疑問が生まれそうになるくらい、士郎は結界の呪刻を見つけるのが上手かった。
だが、その凛の疑問は予期せぬ出来事で一瞬で吹き飛んだ。
「なんだ? 消しちまうのか?」
屋上の呪刻を潰しているとそんな声が響いたのだ。学校にある貯水槽の上に座っている男は2人を見ながらそう言った。いや、正確には3人だ。凛の背後に控えるアーチャーの存在に気がついている。
「サーヴァント!」
凛はあたりを見渡し、屋上で戦うのは不利だと判断。しかし、人間以上の存在であるサーヴァントが易々と校庭まで退避させてくれるとは思えない。
「衛宮さん!あなたのサーヴァントは?」
一か八かの質問だ。幾ら共闘しているとはいえ、自分のサーヴァントを晒すことは避けたいだろう。だが、2人が確実にこの場から逃げる為にはもう1騎のサーヴァントが必要だ。
たとえ士郎のサーヴァントもこの場での戦闘が不得手でも2騎でかかれば流石に勝機はあるだろう。
「え?サーヴァント?……使い魔のことか?俺、そんなの持ってないぞ」
「………………へ?」
嫌な沈黙が流れた。
パニックになった頭の中で凛は、十数年間生きてきた中で最も高速で思考を回した。士郎の発言と行動、ああ、確かに辻褄が合う。
「あ、あんた、まさか、聖杯戦争に関係なくたまたま住んでただけの魔術師?」
「聖杯戦争がなんなのか分からないが、冬木に住んでるのは親父が住んでたからだな」
凛の顔が真っ赤に染まる。怒りなのか恥ずかしさなのか分からない表情となった。まるで百面相。そんな愉快な事をしていると男の声が響いた。
「いや、なんだ。嬢ちゃんたちの漫才を見てるのはそれなりに面白いが、こっちもマスターからの命令なんでな。始めて良いか?」
律儀にそう声をかけた男はいつのまにか手に持っていた赤い槍を構えた。その槍を見て凛と士郎は思考を切り替えた。
「槍……ランサーのサーヴァント? 衛宮さん、全力で逃げるわよ。人間が勝てる相手じゃ無い!」
「ランサー? よく分からないが、アイツが強い事は何となく分かる。けど、逃げるってもどうやって?屋上から飛び降りるとか?」
2人の会話を遮るようにランサーは跳んだ。
「行くぜ!」
ランサーの槍は鋭く、速い。2人はギリギリでかわせたが奇跡に等しい。と言うよりも完全に遊んでいるのか、凛の背後に控えるアーチャーを警戒しているのか本気では無い。
「ーーーーー」
凛は呪文を唱え、身体能力を強化、さらに自分にかかる重力を調整した。それで何とかランサーから距離を取る。
だが、ランサーは次に士郎を狙い槍を放つ。高速の突きだ。士郎はギリギリのタイミングで
(けど、これなら!)
ランサーが槍を引いたタイミングで左腕を大きく振り血を撒きながら後ろへ振り返り全力で走った。ランサーはつまらなそうに士郎の背中から槍で狙う。
「
短いスペルを唱える。
瞬間、ランサーの足元から無数の剣が出現した。いや、正確には士郎が撒いた血から出現したのだ。血液を媒介にした心象風景の限定展開。それにより、足元の血から刃がランサーを狙う。
「はっ!面白れぇ!」
ランサーはそう叫びながら出現した剣を槍で薙ぎ払う。その時には既に凛は屋上から飛び降りており、それを追い士郎も飛び降りた。その様子にランサーは案外楽しめそうだと口角をあげた。
◆
アーチャーは凛を両手でお姫様抱っこし、士郎の服を器用に指に引っ掛けて着地した。士郎はバンジージャンプなどで使われている巨大マットを投影しようとした矢先、急に現れたアーチャーにつかまれる形となり首が軽く締まりむせ返った。
「痛っ!」
地面に投げ捨てられ尻餅をついた士郎と対照的に凛は丁寧に地面に下ろされた。何が何だか分からない士郎だが、文句の一つも言う猶予はない。
既にランサーと呼ばれた男は立っており、彼に立ち向かうように赤い外套の女性、アーチャーが立っていた。
「アーチャー、あなたの力、ここで見せて!」
凛の一言でアーチャーは一気に駆け出した。両手には白と黒の中華剣を持っている。対してランサーは赤い槍を振るう。振るうという言葉は正しくない。彼は突いていた。
基本的に槍は振るものだ。その圧倒的なリーチの攻撃範囲を以て槍を振り相手の間合いに入らずに制圧する。それが槍だ。しかし、ランサーは違った。彼は突いた。短く持った槍で怒涛の如く突く、
人外の戦いだ。
「………」
士郎は見惚れていた。いや、夢中になっていた。あの動き、あの戦い方、
「衛宮さん、今のうちに逃げなさい。」
見惚れてる士郎に凛は冷たく話しかけた。その声には感情はなく、ただ、事実だけを訴えていた。
「これは私のミス。あなたはマスターじゃないのなら、今回の戦いには全く関係ないわ。だから、今すぐ逃げて。そして、新都郊外にある冬木教会の言峰神父を頼りなさい。私の名前を出せば悪いようにはしないはずよ。」
冷たい言葉の裏には彼女の優しさがあるように士郎は感じた。それに、学校の異変を調査すると決めて関わってしまった。それを放り投げて逃げるようでは
正義の味方を目指さないのなら、それは
「悪いな遠坂。それはできない。一度関わっちまったんだ。最後まで一緒に戦うよ。」
士郎はそう言って、弓と矢を投影した。
その様子の士郎に凛は食ってかかった。
「元々無関係なんだから関わる必要なんてないって言ってるの!これは私の戦い!邪魔だから素人は引っ込んでなさい!」
凛の返しと同時に空気が変わった。見ると、ランサーが矛先を下に向けた独特な構えを取っていた。それだけではない、大気中のマナを食い尽くす。士郎は以前、切嗣から大気の魔力を集める光景を見せてもらった事がある。士郎もすでにそれくらいの技術は習得してしまったが、しかし、それを上回る。いや、すでに別物だ。
「……いつかは越えなければなりません。いつでもよろしくてよ?」
アーチャーは煽るように言うとランサーはニヤリと口角を上げて跳んだ。そして、アーチャーの足元に突き刺すように槍を放つ。
「
ランサーは叫ぶ。
宝具の真名解放だ。宝具という最高クラスのマジックアイテムの真の力を使おうとしているのだ。
対するアーチャーは両手に持っている中華剣を消し去り、ランサーに背を向けて走り出した。しかし、どう見ても間に合わない。明らかにランサーの攻撃の方が早いはずだ。
だが、急激にアーチャーの動きが速くなる。1人だけ倍速、4倍速で動いているかのようだ。
「
宝具が放たれるが、既にアーチャーは凛を抱えて効果範囲の外だ。さらに、そのまま学校の外へと走り去ってしまっていた。その様子にランサーは舌打ちするとチラリと残された士郎の方を見た。
アーチャーを追うか、それとも残された魔術師を狙うか。一瞬の思考ののち、
「……なんだったんだ?」
残された士郎はそう呟いた。しかし、即座に思考を変える。
(遠坂が心配だ。だが……)
凛の居場所も分からない。追われているのだ真っ直ぐ家には帰らないだろう。あの
そう考え、一度家に向かうことにした。
◇
「なんとか撒けたわね。しつこい男。」
遠坂家のリビングでアーチャーは呟いた。その所作は同性である凛すらも目を奪われてしまうほど一つ一つが美しい。しかし、召喚してから共にいてどこか違和感を感じてしまう。
しかし、今、重要なのはそこではない。
「アーチャー、あなた衛宮さんを見捨てたでしょ。」
「ランサーは私たちを追ってきました。かれ、彼女は助かったはずよ。」
アーチャーのその言葉に凛は言葉を荒げた。
「そういう問題じゃないわ!もしランサーが私たちを追わなかったらどうしてたの? アーチャー、衛宮さんはマスターじゃなかった。無関係なのに巻き込んでピンチになったら見捨てるなんて、そんなこと、私は許さない。」
「……そうね。あなたはそう言うわよね。それでこそ私のマスターよ。けれど、私はあなたのサーヴァントとして、凛、君の命を最優先にする。私は2度と失わない。」
ポケットの外から中にある
「…………もう良いわよ。今回は……。けど、方針は変えないわ。衛宮さんの家に行くわよ。彼女の安全を確かめる。」
◆
士郎は家に着くと既に誰もおらず、恐ろしいほど静かだった。自室にカバンを置き、何か使えそうなものがないか土蔵へと向かおうと縁側へと出た瞬間、家中に鐘の音が響いた。
(っこれは!)
衛宮士郎も魔術師の端くれだ。家に結界は張ってある。誰が入ってきたか?なんて疑問は無い。このタイミングなら間違いなくあの男だろう。
「投影、開始」
竹刀を投影し構える。
学校でわざと斬った場所が痛むが、それは無視する。心臓がバクバクとなり息が早くなる。緊張の糸がどんどんと引っ張られていくようだ。
「っ!」
突如、上から赤い槍が現れた。
士郎はギリギリのタイミングで避ける。
「はっ、やはりなかなかやるな。女だてらに悪くない動きだ。」
ランサーは庭に立ち言う。
遠坂を探す手間は省けたが、士郎にとっては絶体絶命。勝てるわけがない相手だ。
(どうする?)
投影した竹刀では通用するわけがない。そんなことは分かっている。自分の強さが急激に上がるわけがない。だったら、外部で補うのが魔術師だ。
(武器だ。戦うための武器がいる。)
ランサーは槍を構えてひと跳びで士郎の目の前に迫り、槍を心臓目掛けて放つ。その槍を士郎は竹刀でそらすが一瞬で壊れてしまう。瞬間、さっき見た校庭での戦いを思い出した。
目の前の男ではない。赤い外套の女性だ。あの戦い方が脳裏から離れない。
「投影、開始」
魔術回路が今までにないくらい稼働していた。それもそのはずだ。英霊が使っている武器だ。士郎が今日まで投影してきたものとはランクが異なる。
「全工程、完了」
だが、それでも問題ない。
士郎の手には黒と白の中華剣が握られる。
「ほう、驚いた。そりゃアーチャーの……。」
「おりゃぁ!」
士郎はランサーの言葉を無視して中華剣をふるう。しかし、軽く槍で防がれ剣は砕かれる。
(基本骨子の想定が甘い!)
即座に再度投影する。一瞬にして失敗の理由を探し出し修正した。投影した瞬間を狙ったかのようにランサーは槍を振るう。咄嗟に士郎は剣で防いだが、素のパワーが異なりそのまま庭へと吹き飛ばされた。
「……女をいたぶる趣味はねぇが……。悪いな。マスターからの命令なんだ。」
ランサーは余裕そうな態度を崩さない。
「こんだけやり合って無反応じゃあ。本当にマスターじゃねぇみたいだな。じゃあ、死んでくれや。恨むなら、その半端な才能を恨みな。」
ランサーの雰囲気が変わる。鋭い殺気と共に士郎を狙い飛びかかる。今までとは異なり、確実に仕留める為の動きだ。技も、速さも、力も士郎を大きく超えている。まともにやって勝てるわけが無い。
だから、狙えるのは一撃だけだ。
「投影、開始!」
ランサーの攻撃が当たる瞬間に、赤い槍を投影した。それはランサーが振るうゲイボルグと同じものだ。しかし、重要なのはそこではない。士郎は長い槍の間合いをフルに使い、ランサーよりも早く攻撃を仕掛けた。
「なっ!」
ランサーは驚きの声を上げた。
当たり前だ。今まで使ってきていない武器、しかも不完全とはいえ自分の武器と同じなのだ。それだけで大きなスキになる。
はずだった。この程度で倒せるならこの男は英雄になれていない。驚きはしたが、咄嗟に槍を槍で払いのける。
「今のは上手かったな!」
心からの称賛だ。しかし、だからと言って手加減は加えず、士郎を蹴り飛ばす。
「っぐ!」
士郎は二転三転と転がるように吹き飛ばされる。視界に土蔵が見える。あそこなら何か武器があるかもしれないと、走る。
もう手はない。先ほどの不意打ちが今士郎が出来る最後の足掻きだった。だが、それでも諦められる訳ではない。死ぬわけにはいかない。
「もう、詰めか?」
ランサーはつまらなそうに漏らして士郎を追う。ランサーの槍が迫る。目の前には土蔵。咄嗟に投影した中華剣で攻撃を受けて土蔵の中に吹き飛ばされる。
「ま、悪くは無かったな。人間にしちゃあそれなりなんじゃねぇのか?やれやれ、嫌な役回りだぜ。」
そう肩をすくめながら、ランサーは槍を振り上げた。
逃げ道はない。あたりを見渡す。
「投影、開始」
土蔵の棚から無数の剣がマシンガンのようにランサーを襲う。修練用として保管していた自身の血液を媒介に心象風景を限定的に展開したのだ。だが、それらも意味はなく、全て防がれる。
「悪いな。
もう武器は無い。手が無い。思い浮かばない。それでも諦めるわけには行かない。この命は切嗣によって助けられた。多くの命を見送った。
本当の自分を失っても前に進んだんだ。
(だから、こんな場所で終わるわけには行かない!)
ランサーは槍を構え放つ。目の前に切先が迫る。
それでも、
「平気で人を殺すお前みたいなやつに、殺されるわけにはいかない!」
旋風が起きた。
ランサーが突如吹き飛ばされ、1人の少女が現れた。
彼女はゆっくりと士郎に振り返る。その姿は何故か今の士郎とそっくりで、おそらく、中学生くらいの士郎と瓜二つである。
「問おう、あなたが私の……マスター……?」
少女も何か思うところはあるのか、尻すぼみになりながら言った。
デットエンド1
見知らぬ少女
ランサーVSアーチャーで、凛から逃げろと言われて逃げると突入する。
逃亡後、凛に言われた通りに教会に行く途中で幼女とマッチョな大男に殺される。