もし士郎がモルガン化したら? 作:モル士郎
翌日、士郎の目覚めは最悪だった。
人の死、というものには10年前に慣れてしまっているし、切嗣からも魔術を習う時にその手の覚悟は叩き込まれている。しかし、それでも昨日の出来事は士郎に無力感を与えるには十分だった。
布団の中で見慣れた天井を眺めて、改めて聖杯戦争への参加を決意する。無関係な人を巻き込む前に終わらせるため、正義の味方として、ここで腐ってるわけにはいかないと、切り替えて起き上がり、布団を畳む。寝巻きから部屋着へと着替えると寝ぼけていた頭が覚めていく。
何かを忘れている気がする。
「あ、部活だ。」
時計を見ると9時半を回っている。すでにアップを終えて本格的な練習が開始している頃合いだ。今から出発しても練習には間に合うが、それよりも今は聖杯戦争だ。
「悪いな美綴、サボる」
心の中で我らが副主将の頭を下げた。
◆
「セイバー、おは……あれ?」
挨拶をしながら居間に入ったが、そこにはセイバーは居なかった。家中を探した結果。道場に正座していた。異国の見た目であるセイバーだが、不思議と和風の道場が似合っており雰囲気を変えていた。
その空気に飲まれそうになりながら士郎は声をかけた。
「セイバー、おはよう。ここにいたのか。」
「シロ。おはようございます。はい、少し体を休ませていました。」
身体を休ませるのに剣道場を使うのはいかがなものかと士郎の脳裏によぎる。すこし意地悪な思考だが、不思議とセイバーを見ていると虐めたくなってくる。
(…………何を考えているんだ。俺は……)
「それよりもご飯にしよう。サーヴァントも食べられるんだろ?」
その言葉にセイバーは頷いた。
朝食のメニューはナメコの味噌汁とだし巻き卵である。士郎としてはもう一品くらい作りたかったが、それよりもセイバーからの"待ちきれない"という無言の圧力に負けてしまった。
「むっ!」
一口食べた瞬間に輝いたセイバーの目を士郎は満足そうに見た後、士郎も食べ始めた。
そして、朝食が終わると士郎はおもむろに話を振った。
「セイバーは………アーサー王なのか?」
士郎の発言にセイバーは目を丸くした。確かに昨日の凛との会話で思い当たる節があるような事を言っていたが、ここまで度直球に言ってくると思わなかったのだ。
(………やりにくい……)
見た目とのギャップに必要のない足踏みをしつつ、セイバーは話の続きを促す。
「なぜ、そう思ったのですか?」
「俺の身体には、アーサー王ゆかりの聖遺物が埋まっているんだ。昔、死にかけた事があったんだ。親父が聖遺物を埋め込んでくれた影響で助かったんだけど、副作用で俺の身体は聖遺物のもう1人の関係者、モルガンのものに近づいているんだ。」
サーヴァントは触媒を用意すると狙った英霊を呼ぶことができるという。仮に士郎の身体にある聖遺物が触媒になったとすると、アーサー王かモルガンだろう。
セイバーは剣のクラスを与えられた英霊だ。ならば、モルガンでは無く騎士王と有名なアーサー王だと士郎は考えたのだ。
「…………確かに私はアーサー王だ。そして、おそらくシロの中にある聖遺物は聖剣の鞘です。鞘には所有者を治癒する力がある?魔術には明るくありませんが、モルガンも所有者であると拡大解釈も不可能では無い……かと」
そう言いつつ、セイバーは10年前の事を士郎に言うかは悩んだ。士郎を信用しない訳では無いが、衛宮切嗣という人物と目の前の少女の人物像が違いすぎていたのた。
しかし、真名も知られてしまい、さらに
「話は変わりますが……10年前の聖杯戦争にも私は召喚されました。そして、マスターの名はエミヤキリツグ、シロ、あなたの関係者では?」
ここで親と表現しなかったのは、時系列が合わなかったからだ。聖杯戦争後に産んだのであれば年齢が合わない。
「…………切嗣が?ああ、切嗣は俺の親父だ。」
「!」
(シロは10代後半………。アイリスフィールも黙認はしていたようでしたが、あの時すでに……。)
セイバーはひとまず過去の話をする機会があっても舞弥という女性については触れない事、そして、過去の話は出来るだけしないように心に決めた。
「……しかし、今は過去の事よりも。これからの方針です。我々が知っている相手はランサーとアーチャーのみ。まずは敵の情報を集めることが優先かと……」
セイバーは話を逸らそうと話題を変えた。その話題のすり替えに士郎は特に違和感を持たずに、頷いた。そして、学校での結界について話すか悩んだが、それよりも優先的にやりたい事を思い出した。
「その事なんだが、まずは、俺とセイバーのパスってあまり強く無いだろ?まずはそれを強化したい。」
現状、士郎とセイバーはほとんど繋がっておらず、魔力の供給はほぼ出来ていない。これからの戦いを考えると、まずは安定した魔力供給が最優先だ。
「……そんな事が可能なんですか?」
「ああ、今繋がってるパスを元にもっと太いやつを
そこまで話していると電話がなった。士郎はセイバーに断りを入れてから電話に出た。電話の相手は弓道部の副主将である綾子からだった。
「わりぃ、美綴。ちょっと今日急用で部活、無断で休んじまった。」
「いや、それはいつものことだから……。いや、よく無いけど。なに?知らない人の付き添いで救急車でも乗った?」
ふざけた調子で電話越しで言う綾子だが、言葉とは裏腹に背筋が凍るものを士郎は感じ、乾いた笑いしか出なかった。しかし、いつまでも無言でいるわけにも行かないし、と、考えていると何故か自然に言葉が出てきてしまった。
「……妹が訪ねてきていて……。」
言ってからすぐに、やってしまった、と思った。こんな言い訳通用しないし、すぐにバレる。やるなら親戚とか、親父の知り合いとかにするべきだった。なぜ、妹なんて言ってしまったのか?
「妹?衛宮、妹なんていたの?」
「……いや、妹というか……。親戚というか……。」
「……。ふーん。まぁ良いけどさ。いや、部活サボるのは良く無いな。せめて、連絡の一つでもよこしなさいよ。」
「悪い……。それで、電話してきたってことは何かあったのか?」
「いやぁ、アレよ。藤村先生がお弁当忘れてきちゃって、暴れる前に対策を……。」
「あー」
その言葉に士郎は言葉を詰まらせた。あの姉、のような生き物が空腹になったらどうなるのか、なんて想像もしたく無い。
それに、学校には例の結界があるはずだ、おおよその妨害はしたが根本的な解決は出来ていない。休日にも学校には人がいるわけで、先に結界の様子を見に行くのも良いだろう。パスも優先したいが、どちらも重要なことだ。
「じゃあ、何か作って持って行くよ。」
「……悪いな衛宮。妹さん来てるのに」
「……………いや、親戚だよ。丁度冬木の街を案内しようと思ってたんだ。そのついでに寄るよ。」
こうして、士郎はセイバーを連れて学校に行く事にした。セイバーに事情を説明し、急いで弁当を作って家を出た。
事情を説明するとセイバーはすぐに状況を理解し、ついて行く事を了承した。
「セイバー、寒く無いか?」
「ええ、問題ありません。」
並んで歩く2人は本当に姉妹のようだった。士郎は学校の制服の上からピーコートを着ている。セイバーは士郎のお下がりである青いジーンズと無地のグレーのトレーナーを着ており、その上から袖から肩、首周りまでが紺色で胴体は白色のジャケットを着ている。
「ここが学校ですか?……確かに魔力の残滓を感じますが……」
「ああ、起点は大方潰したから暫くは問題ない。……けど、魔力さえ通せばすぐに元通りだ。」
「……なるほど。」
校門を通り校庭へと入る。陸上部の面々の練習風景を横目に見ながらまずは弓道場へと向かう。棒高跳びを見たことないフォームで飛んでる生徒がいるが、あの3人組と絡むと話がややこしくなりそうなので気が付かれる前に士郎は足早に進む。
「ここがシロの弓の練習場ですか……。立派ですね。」
「なんでも、学校の偉い人が弓道が好きなんだとか……。セイバー、さっき話した通り、俺とは遠い親戚ってことにしておいてくれ」
「はい。承知しています。」
そんなことを言いつつ中に入る。中ではまだ午前の練習をしており、いい意味で緊張感がある。靴を脱いで中に入ると丁度、綾子が弓を放ったところだった。放たれた矢は真っ直ぐに的を射抜いた。綾子はそれを見届けつつ、残心を解いた。
「お、衛宮、悪いな。」
作法を一通り終えたのち綾子は士郎の方へやってきた。衛宮の声を聞き数名の男子がざわついたが、ここでは無視だ。
「いや、俺も無断欠席だから、せめてこれくらいはしないと割に合わない。」
「はは、違いないね。主将なんだからせめて報連相はしなさいよね。……で、後ろのが例の妹さん?」
そう言う綾子は士郎の後ろに控えるセイバーを見た。セイバーは綾子に軽く会釈をした。
「……………妹? 私のことはセイバーと呼んでください。シロとは親戚です。」
妹と呼ばれ不服そうなセイバーだが背格好から見ると否定できないところがむず痒い。そんな様子を見て綾子はクスリと笑ってしまった。
「セイバーね。私は美綴綾子。よろしく。」
「アヤコですね。私も弓は、この国のものとは種類は異なりますが多少は触ったことがあります。先ほどの弓術は見事なものでした。」
これはセイバーの心からの言葉だった。さすがにトリスタンなどの本職の騎士と比べれば劣るが、それでも高レベルのものだった。
「ありがとう。けど、そこの我らがボス、衛宮主将はさらにバケモンよ。なんだって外したところなんて一回しか見たことないもの」
「………いやいや、それは……」
魔術の鍛錬がたまたま弓に生かされているだけだと言いたいが、流石に言えずバツの悪そうな顔を浮かべるしか士郎には出来なかった。
と、そんな話をしていると練習を抜け出して桜もやってきた。彼女はセイバーを見ると少し目を見開いた。
「……うわぁ、先輩とそっくりですね……。」
そう口にした後、自己紹介をすると桜は少し暗で「……セイバーさん」と、反芻するようにその名前を呟いた。
そんな話をしていると弓道場の扉を勢いよく開けて大河が入ってきた。
「
そう言いながら入ってきた大河はドタバタと道場に上がり士郎からお弁当を受け取った。おしてくるりとセイバーの方を見た。
「うぉっ!士、しろそっくり!あなたは誰さん?」
大河はオーバーにリアクションしながらもお弁当を大切に抱えてそう言った。その様子に士郎はセイバーよりも先に応えた。
「彼女は……。セイバー。俺の親戚にあたる人で……。会いに来てくれたんだ。」
士郎の言葉に大河は少し考えた後に彼女とは思えないほど、優しく微笑んだ。
「……そう……。セイバーちゃん。私は藤村大河。
大河の言う士郎の名前に少し違和感を覚えたがセイバーは気にせずに頷いた。
セイバーを中心に話は進む。その様子を士郎は罪悪感に頭を抱えながら見ていた。士郎と大河の付き合いは長い、切嗣が亡くなった今、最も家族に近い人だろう。そんな人を
(けど、誰も傷ついてないのならいいじゃ無い)
そんな思考が一瞬流れたが、士郎は気が付かずにセイバーに話しかけた。
「セイバー、そろそろ行こう。練習の邪魔になる。」
こうして逃げるように弓道場を後にした。
◆
士郎はセイバーと学校を見て回った後、冬木市深山町を見て回った。しかし、大きな異変はなく特に聖杯戦争として大きな収穫は無かった。そして夕方、家に戻ると士郎はすぐに夕飯の準備に取り掛った。
「ただいまー」
夕飯が出来るタイミングを見計らったように大河がやってきた。大河はセイバーを見て楽しそうに笑った。
「セイバーちゃんもただいまー。いやー、セイバーちゃんに会いたくて部活はたまたまいた葛木先生に任せて帰ってきちゃった。」
そんな教師として問題しかないセリフに士郎はツッコミを入れた。
「それ、教師としてどうなんだよ……」
「というわけで!それじゃあ、セイバーちゃんの歓迎会をしよー!」
「なにがというわけなのさ!それに今から?」
「うん!士郎!なんか作って!」
「なんでさ!」
そんな2人のやり取りを見ていたセイバーはクスリと笑った。2人の関係はセイバーには分からない。それでも、士郎と大河のやりとりは守らなければならないとても尊い
大河に流されるまま、士郎は料理を作り3人でなんやかんやで盛り上がる歓迎会が始まった。大河曰く桜も誘ったようだが、用事があって来られなかったみたいだ。
そして、大河は騒ぎ疲れて大河の部屋(勝手に占領された)で眠った後、士郎はセイバーを連れて土蔵にやってきた。
「ここがシロの工房ですか?」
「……工房っていうほど大層なものじゃ無いけどな。」
士郎は頭を掻きながらそう言った。実のところその通りで、修理中のストーブなどが散乱しているため、魔術師の工房というよりも機械弄りの工房の方がイメージとして近い。
「それじゃ、パスを繋ぎ直すから背中を向けて座ってくれ」
その言葉にセイバーは頷いて士郎に背を向けて腰を下ろした。士郎はその月明かりに照らされる後ろ姿に邪な思考が過ったが、首を振って魔術に集中する。
これから行うのは英霊とのパスを繋ぎ直すと言うものだ。魔術に詳しければもっとやりようがあるのかもしれないが、士郎には知識がない。そのため、手に入れた才能ベースでゴリ押すしか無いのである。
「始めるぞ」
服越しに背中を掌で押さえる。そして、目を瞑り魔術回路に魔力を通す。
「同調、開始」
短い
—-魔術構造、解析
今あるパスを解析する。
元より士郎は構造を把握する才能だけはあった。その才能はモルガンに近づいた影響で大幅に
だが、それは本来あり得ないものだ。士郎の魔術回路はそんな芸当をするようには出来ていない。その負担は頭痛という形で現れた。
—-魔術理論、模倣
—-不明領域、推測
セイバーとの繋がりを解析し、新たなパスを繋げる。それは本来かなり難しい作業である。契約破棄、再召喚と言った聖杯戦争のシステムを利用すれば別かもしれないが、それをせずに行うには魔術回路の移植など極めて危険な行為が必要だ。
だが、そんな知識は士郎には無い。あるのはただモルガンから引き継ぎかけている才能だけだ。
「-----っ!」
士郎は鼻血を流す。
それでも、新たなパスをセイバーへと伸ばす。
「!」
その時、知らない情報が脳に浮かんでは消える。
白亜の城、13人の騎士、王の血を引くホムンクルス……。1人の女性の黒い感情。
『------------------。』
(………っ!)
激しい頭痛の嫌悪感。まるで自分が潰されるような感覚を覚え、士郎は咄嗟に魔術を辞めた。
(何だ、これ)
知らない情報、感覚で頭が飽和してしまいそうである。視界が歪む。立っていられない。土蔵が別の場所に感じられる。
「シロっ!大丈夫ですか?シロ!マスター!」
「あ、◾️◾️◾️◾️◾️」
士郎の口から知らない単語が発せられた。なんて言ったのか本人すら分からない。しかし、歪む視界、消えゆく意識の中、セイバーの表情が崩れるのだけは覚えていた。
interval
夜のビルの上にアーチャーがいた。ルビーのペンダントを力強く、そして、大切そうに握っている。
「マスター。早かったわね」
背後からマスターである凛の気配を感じると慌ててペンダントをしまった。凛はどこか疲れており、しかし、それ以上に怒っていた。
「って、何が『早かったわね』よ! マスターが骨の怪物と戦ったんだから少しは心配しなさいよ!」
「心配も何も、あなたなら問題ないでしょう?それに『ここは任せなさい!』と、啖呵を切ったのはあなたよ?」
「それでも、置いてくことないじゃない!」
「けど、あなたが負けるわけ無いでしょ?」
と、口論をする。凛は怒っているがアーチャーは楽しげだ。そんな様子の相棒に更に凛はため息を吐く。このサーヴァント相手にムキになっても仕方が無いと分かっていた。
「………まぁ、いいわよ。ここのやつらは全て倒したわ。」
「流石ね。私もあらかた目星はついたわ。この街の地脈の流れを弄って魔力を集めているサーヴァントがいる。」
「………キャスターね。」
「その通り。あのお寺にはキャスターがいるわ。魔力を溜め込んだ魔術師は厄介よ。もし神殿クラスの工房でも作られたら、いくら私でも勝てるか分からない。」
「分かってるわ。」
「いいえ、分かっていません。聖杯戦争は魔術師が作った魔術儀式。規格外な魔術師ならばシステムに介入くらいやってしまえるかもね。」
アーチャーのその言葉に凛は驚いて目を見開いた。確かに高レベルの魔術師ならばそれくらいやってしまいそうだ。だが、それはあまりにもルール違反だ。
「……けど……」
「ええ、どんな願いでも叶えられる。ルールなんて守ってられない、そう考える人がいてもおかしくないわ。」
まずはキャスターを狙う。そう方針を決めた凛にアーチャーはニヤリと嫌な笑いを浮かべるが、凛は気がつくことは出来ない。
「……………?」
「どうしたのマスター。」
「何でもないわ。行きましょう。」
凛はビルから飛び降り、それにアーチャーも続いた。
interval out
デットエンドNo.虎
美綴の頼みを断った場合に分岐する。デットエンド名では無くフローチャート上のエピソードタイトルである。
空腹の虎に衛宮家は襲撃される。士郎は迎撃しようとしたが突破される。せめて腹を満たせば命だけは助かるだらうと頑張るが無念にも士郎とセイバーは散ってしまった……………。
大河とバーサーカーのマスターが出る不思議な夢を見た後、士郎はセイバーに起こされるのだった。
弓兵としての実力
この世界のアーチャーは原作のエミヤよりも弓は下手ですし、千里眼のスキルもありません。(それでもアーチャーとして成立するくらいには上手い)士郎も同様に弓の技量は原作よりも劣る。