名もなきルビコニアン   作:ぶたたけ

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3月2日『兄と戦士』

今回は兄と共に戦う戦士の話をしようと思う。

兄の話の続きになるので、読んでない御仁はそちらを先に読んで欲しい。

 

数年前、この店に帥淑が若い青年を一人連れて訪ねて来られた事があった。

その青年が何か重大な任務に出るらしく、その餞として花を買いに来たらしい。

 

「お前の好きなものを選ぶといい、ラスティ。」

 

並べられた花を漠然と眺める青年に帥叔が父親のように優しく促す。

 

「言ったはずだフラットウェル。このラスティに花は要らない。」

 

「気持ちは理解する。だが、お前に任せる任務が酷烈であるからこそ、お前の業を背負う人間が居る証を送りたいのだ。」

 

花を探すにしては険悪な空気だ。

 

「探したいのなら探せばいい。尤も、私に合う花があるとは思えないがな。」

「おい、ラスティ。」

 

青年は花を眺めるのを止めて、入口横の壁に凭れかかってしまった。

 

私は考える。

花は人との絆の証、愛の具象。

だからこそ花の模様は繊細で柔らかい。

業の証とするには確かに不釣り合いだ。

 

しかし、こんな辺境の小さな花屋に帥淑が来て下さったのだ。

何も提案しないまま返すのは敬遠したい。

 

何か良い花は無いか。

そう悩んでいたその時、ダンと音がしてレジ横の戸棚が揺れた。

掃除用のドローンが戸棚に当たった様で、床にドローンと棚に入っていた私物が散乱してしまっている。

 

「あぁ、お騒がせして申し訳ない。」

二人に謝ってドローンと棚から落ちたものを拾い上げていると、一つ、あるものがあった。

 

レザーで出来た飾りもないシンプルなブレスレット。

私の兄の形見だ。

そうだ、これがあった。

 

「失礼、花では無いのだが君にちょうどいいものがある。」

私は青年に話しかける。

 

「それはどんなモノかな、亭主。」

「ブレスレットだよ。ただ、モノを見せる前に一つ話を聞いてくれないか。」

 

私は彼に兄のことを話す。

彼は相槌も打たず、ただ、じっと耳を傾けていた。

床をじっと見つめながらーーきっと彼は脳裏で坑の中で焼かれる坑夫達を目の当たりにしているのだろう。

瞼を震わせて、時折目頭を指の関節で擦ったりしていた。

 

「貴方は、貴方の兄のことを悪人だと思うか?」

「いいや、寧ろ誇らしく思うよ。」

「何故だ?」

「兄は、多くを救う為に悪人になることを背負った。罪はあれども、背負う背景の重みは罪で消される物ではない。」

 

私が答えると彼は顔を綻ばせた。

憑き物が落ちたかのようだ。

私は続けて話す。

 

「このブレスレットは兄が死んでから、箱の中に入れてずっと戸棚に入れたままにしていたんだ。それが君が来て戸棚から落ちてきた。兄は君について行きたいと行っているんだろう。」

 

私は兄のブレスレットを彼に差し出す。

 

「もし良いのなら、兄を一緒に連れて行ってくれないだろうか?」

 

「……頼もしい友が側に居てくれるのは有り難い。わかった、連れて行こう。」

 

彼は私の手を握り込むように包んで、ブレスレットを受け取った。

 

「御仁、譲ってくれるのは有り難いが、大事な形見を戴いても宜しいのか?」

帥淑が私に尋ねる。

「あぁ、その代わりとしては何だが、彼の任務が終わったら兄を連れてこの店に来てくれ。兄を労いたい。」

「良いか?ラスティ。」

「問題ない。」

 

ラスティと呼ばれた青年が私に目を合わせ、胸を張る。

「このラスティ、必ず貴方の兄を此処に連れ帰ろう。約束する。」

兄のブレスレットと共に彼らは戦場へ帰っていった。

 

今にも死が迫り来るルビコンに私が留まり続けるのは、兄と共に戦う青年が居るからだ。

彼と交わした約束があるからだ。

蜘蛛の糸のように細いこの希望を私は信じている。

それが私が背負える唯一の背景だ。

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