名もなきルビコニアン   作:ぶたたけ

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2月23日『縁』 ・3月10日『殉教』

2月23日『縁』

 

花屋という仕事はこのルビコンにおいて最も不要な仕事である。

 

食料を生産するわけでもなく、戦地に赴くでもない。生きることすら危ういこの惑星に於いて、花を織ることはただの徒消でしかない。

 

それでも花織りの文化が消えず今尚生き残り続けるのは、ルビコンがあまりにも孤独な惑星であるからだ。

 

荒涼とした岩山とストラクチャーだけの世界で

人々は寂しさの中、人との繋がりだけを縁にして生きる。

 

花は人との縁を残す為の依代だ。

 

花を形作る模様、その一つ一つに送る人間の想いが宿る。

 

孤独の惑星の中で寂しさに凍えぬように、愛という燈火を紡ぐ。

 

それが私の仕事である。

 

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3月10日『殉教』

 

この頃ドーザー達が怪しげな宗教を作っている。

半年前だろうか。

私の店がある町の外れの廃工場を占拠して、十数人のドーザー達が宣教を始めた。

なんでもコーラルは生物で、我々よりも高等な知識を持っているそうな。

今までコーラル漬けだった連中が逆に断食を始めている。

 

断食し始めはコーラルを消費するな、知性ある者を殺すのかと事あるごとに騒ぎ立てていたのだが

今は生きるのも無理だったようで、拠点の外には干からびた死体がいくつか転がってる。

 

煩いのが居なくなるのは嬉しいが、死んだ人間を供養しないのも気が引ける。

売れ残って店の肥やしになっている花を持ってドーザー達の元へ行く。

廃工場のトタンの壁にもたれかかるようにして、皆目を開けたまま死んでいる。

 

気味が悪い。

 

作業と思って葦の茎のように細い手首に花を結ぶ。

あらかた作業がおわり、最後の1体の腕を掴むと、腕が動いた。

 

私は思わずぎゃあと叫んで、尻もちをついてしまった。

尻がコンクリートに当たって、大変に痛い。

一方、私のことを意に介すこと無く死にかけのドーザーは中空を見たまま息だけをしている。

 

私は息を呑んだ。

 

その瞳は確実に何かを捉えていて、そして愛おしげだった。

中空をまっすぐに捉えて、笑みを浮かべ

その瞳は爛々と輝き、充足していた。

手が伸び切って、何かを優しく撫でて……。

私にはこの光景が、恐ろしく幸福に見えた。

 

怖い。それと同時に羨ましいと思ってしまった。

信奉とはこれ程までに幸せなのだろうか。

私も彼らと同様になれば、幸福になれるだろうか。

そういう考えが脳裏を過ぎる。

 

私が死の淵に立つ、聖者の姿に見惚れていたその時。

彼の体が傾いて、バンと音を立てて体が地面に当たった。

さっきまで生きてた“ソレ”が干からびた死体になっていた。

美しさの欠片も無い、ただの干からびだ醜い死体に。

 

干からびて死ぬのは嫌だな。

私はそのまま家に帰った。

 

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