人はいつだって綺麗に死ねる訳ではない。
このルビコンに居るならば、綺麗に死ねることは幸運とも言える。
戦場に出た兵士達が死ぬ時は大概悲惨なことになっている。
そういう死体を綺麗にして、最後を彩る。
その際にも花屋には仕事があるのだ。
今日の葬儀は大変に辛かった。
損傷が激しいのもあったが、亡くなっていたのが歳若い少女だったからだ。
葬儀が始まる数時間前に死体を見た時、彼女の身体は上だけしか無く、頭蓋も右半分が陥没していた。
身体の血抜きと防腐剤の注入自体は終わっているようで、エンバーマーが死体の横で下半身をプリントアウトしていた。
「花屋さん、今日の仕事は大変だよ。女の子のお客さんなの。」
素朴で温和な雰囲気漂う婦人が肉の見える死体の横で微笑む。
「可愛くしてあげてね。」
「勿論だ。この娘のパーソナルデータは有るかい?」
「あるよ、いっぱい。今そっちのデバイスに送るね。」
エンバーマーが自身の手に付けているデバイスを操作する。
私の視野に彼女の情報が展開される。
ツイィー、この子は五本指の一人らしい。
帥父や帥淑らと一緒に撮ったであろう写真にこの娘の姿があった。
生きているこの娘は快活そうで、笑窪が可愛らしい少女のようだった。
幾つか画像データを見ていると、見覚えのある姿があった。
褐色肌の解放戦線の兵士。
かつて私の店に来た、ストレリチアの花を買って行った兵士だ。
無骨なACを背に二人で並んで写真に写っている。
花を贈りたいと言っていた相手はこの娘だったのか。
そう思っていると私は有ることに気付いた。
無いのだ。
あの兵士が渡した筈のストレリチアの花が。
「すまない、ご婦人。彼女の首に花は無かったか?黄色と青の花飾りなんだが。」
「見てないね。ここに運ばれて来た時には何も付いてなかったよ。」
「そうか、ありがとう。」
『君も彼女も、明日にも死ぬかもしれない。伝えるなら早くしたほうがいい。』
そう忠告したのだが、もしかしたら彼は聞かなかったのかもしれない。
ならば、彼の悔いが残らぬようにしてやらねば。
エンバーミングにあたって、花屋がする仕事が2つある。
一つは破損した箇所を『誤魔化す』こと。
もう一つは誤魔化した部分に違和感が出ないよう全体を『装飾』することだ。
通常の葬儀の場合、基本棺の中はクッション材のみが入っており、弔問者達が花を棺に飾りつけていく。
しかし今回のような顔と身体の大きな欠損がある場合は、欠損部分を隠す花の装飾飾りつけ、棺を花で埋めて損傷を隠す。
幸いと言うのは余りにも不謹慎ではあるが、花を贈ることが出来なかった彼に対し、私が演出をすることが出来るのだ。
私はプリンターで花を出力していく。
棺全体と足下は白の布製の造花で覆い、顔の陥没箇所は黄色に青色のアクセントが入った造花で隠す。
白のワンピースと造花に包まれた彼女の棺の中で顔だけに色彩が有る。
彼が渡そうとしたストレリチアの色だ。
「かわいい、この娘に似合ってるよ。流石花屋だね。センスが良いよ。」
「私が選んだんじゃない、彼女を愛していた男が選んだんだ。」
「ツーショットで写ってた彼かな?あんた彼と知り合いだったの?」
「知り合いと言う程でもない、客として1回来ただけだ。彼女に贈るプレゼントを選びに来てたんで思い出したんだ。」
「……そうかい。それは、悲しいね。」
エンバーマーが最期の化粧を施して、棺は皆の元へと行く。
愛する者の涙に触れて、そして旅立って行くのだ。
私は仕事を終えた後、ストレリチアの彼が気になって葬儀場の棺に近い隅に立って彼を目で探した。
彼は棺の前で座り込んで泣いていた。
「こんな筈じゃ無かったのに。笑顔の君に渡すつもりだったんだ……!」
手にはあのストレリチアの首飾りを握り込んでいた。
死は人を選ばない。
平等故に、残酷だ。
出棺の時、彼はストレリチアの首飾りを彼女の首に付けて彼女を頬にキスをしていた。
こういうのは辛い。若者の死は見たくない。