残った少女と残らなかった少女   作:息抜きのもなか

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初投稿です。よろしくお願いします。


プロローグ いつもとはちょっと違う朝

 朝、というにはもう日が昇り切った時間に(いろどり)ワタバは目を覚ます。

 起き抜けに枕元に置いてあるタブレットを確認し、普通の学校であれば大遅刻だなと息を漏らした。

 

 一つ伸びをして、その伸ばした腕で乱暴にカーテンを端へ追いやる。強制的に陽を浴びてホワイトアウトする視界を慣らしながら、首や肩を回して体の調子を整える。

 

 ふと自分の体に目を落とす。また着替えるのを忘れて制服のまま寝ていたようで、あちこちにしわがついてしまっていた。それに気付いた彼女は自身の制服の端を摘み、そこに自身の神秘を流し込む。

 すると段々と制服が新品と見紛う状態に戻っていき、先ほどまでのしわが見当たらない状態になっていた。

 

「神秘の無駄遣いをしてしまったな」

 

 女性にしてはやや低めの、落ち着いた声音が零れる。

 制服でパンツスタイルを選択したことに加え、そのすらっとした長身の容姿も相まって時には男性と間違えられることもある。

 

 それを欠片も気にすることなく生きてきた彼女は、しかし見てくれには気を使うのか、ベッドから降りると鏡台の前へ向かう。置かれていた白いヘアクリップを拾い上げて前髪を左に持って行って雑に固定して、それから後頭部に浮かぶヘイローを確認する。

 そこにはいつも通り王冠を白で枠取りしたようなヘイローが浮いている。ゲヘナの風紀委員長から色を落としたようだと言われることもあるそのヘイローを確認することが、彼女が朝起きてからまず初めに行う習慣だった。

 

「うん、問題なさそうだね」

 

 そう安堵の息を漏らすと、彼女は扉を開けて()()()()()へ出ていく。

 それからいつもと同じルートで問題がないか確認をして、やがて「()()()」と書かれた自室へと戻ってきた。

 

 備え付けの小さなコンロに火を入れ、傍の冷蔵庫から食材を取り出す。さすがにずっと続けていれば慣れるもので、始めは使いづらいと思っていた環境でももう慣れている。3hと表示された炊飯器の保温を切って、棚から食器を取り出して盛り付けていく。

 見慣れた備品の長机での食事を無言のまま終えると、さっと片づけをして施錠した。

 その足で職員室へ行って鍵を戻すのは半分習慣のようなものであり、既に管理者が居なくなった部屋に鍵を預ける意味はない。

 

 一年前の時点では、ここには少ないが何人か教師が残っていた。

 しかし、彼女が3年に上がるタイミングで全員が去った。

 最後に彼女が言葉を交わしたロボット教師曰く、「教えることが無いなら我々がここにいる意味はない」。

 

 ワタバは2年次で既に卒業資格を入手しており、そういう風に(誰もいなくなるように)仕向けたワタバとしても異論はない。脳裏によぎる成績で叱られる生徒や非行を注意してもヘラヘラと笑っている後輩たちを懐かしく思いつつも、自分のした選択が間違っていたとは思っていない。

 コルニリア連合学園を終わらせると決意した自分の選択は正しかったと、彩ワタバは疑っていなかった。

 

 職員室を出て、そのまま校舎の外へ。眼下に広がる街を見下ろしながら、澄んだ空気を堪能する。

 ワタバはこの学校から見える景色が好きだ。キヴォトスの中でも随一だと自負している。沿岸部に位置する学校はその絶景を売り文句にしているところが多いが、彼女からしてみればどこもここに比べれば団栗の背比べのようなものだと彼女は笑う。

 街と学校の調和、海と山の調和。その両方が果たされているからこそ、この学園を最後に残したのだから。

 

「おや」

 

 持っていたタブレットから通知を受け、画面を確認する。

 それはこの地に珍しく侵入者が来たことを示しており、その熱の動きを見るに何かから逃げているような動きをする者とそれを捕まえようとする集団の構図になっているようだった。

 

 ワタバは少しの逡巡の後、荒らされては堪ったものではないなと判断し、反応の有った列車駅の方へ向かう。

 動きを見る限り線路の上を駆けてきたようで、あのトンネルの中をわざわざご苦労なことだと嘆息する。

 

「ほう、なるほど」

 

 追われている人間をカメラの映像から確認して、思わずといった様子でそう零したワタバはひどく愉快そうに口角を上げた。

 トンネルの出口の横に陣取り、足音を聞きながらタブレットに目を落とす。もう少しで先頭の人間がトンネルの出口にたどり着きそうなことを確認してから、()が飛び出してくるのを待つ。

 外の眩しさに散々なフォームで飛び出してきた()()に向けて、彼女は落ち着いた様子で問う。

 

「手を貸そうか? シャーレの人」

「"っ!? 頼む!"」

 

 第三勢力の存在に驚いた()()――先生は、すぐさま判断を下す。

 その決断の速さに舌を巻きながら、先生を護っていた生徒がトンネルを飛び出してきたのを見て、ワタバはタブレットを操作してトンネルの防衛機構をオンにする。

 

 トンネル内から聞こえる叫び声を聞きながらタブレットを覗き、全ての熱が沈黙したことを確認して、来訪者へ向き直る。

 

「やあ、初めましてだね。こんなところまではるばるご苦労」

 

 少し格好つけすぎかもしれないなと思いながらワタバは先生へ近づく。

 彼女にとって先生がここを訪れたことは都合がよかったのである。

 

 なにせ、この僻地からシャーレまで行くには骨が折れる。連邦生徒会の手がほぼ届かない僻地とはいえ、着任した先生だしいつか挨拶した方が良いかと思って動かぬこと9か月。本当はもう年も明けてしまったので逃げ切りを図るつもりでいたのだが、向こうからやってきたであれば話は別。

 要はただ挨拶に行くつもりが遠くて面倒だったから行かなかっただけ。そんな怠惰な姿勢を隠しつつ、「よろしく」と先生に握手を求める。

 

 寝坊をし、外に行くのは面倒。彩ワタバとは、そういう人間である。

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