残った少女と残らなかった少女   作:息抜きのもなか

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好奇心は猫をも殺す

 両の手に銃を構え、ゴーレムの動きを見る。

 向こうからは動くつもりがないのか、戦闘態勢を取ってはいるもののこちらに対して攻撃する予備動作のような動きは見せていない。

 

 しばらく見合って、メリサが真っ正面から愛銃を撃つ。ゴーレムに命が宿っていないことを考えて、頭でなく心臓部へ狙いを定める。

 彼女の発砲がトリガーとなったのか、ゴーレムもこちらに対して発砲を始めた。

 身をかがめて頭を低くしたままゴーレムの持つ盾側の方向へ回り込み、発砲しずらい位置に移動する。

 

 メリサはその動きへの対応を見て、旧型のマシンだな、と分析を進めていた。

 少なくとも昨年出たモデルになると、この程度の動きには反応して咎める動きをする。楽に戦わせてはくれなかったはずだと考えて、次の疑問が浮かんでくる。

 

 それはなぜこんな型のゴーレムをこの時期にこんな場所に置く装置の防衛機構として利用しているのかということ。

 このぐらいの機体であれば彼女が所属する風紀委員会のメンバーなら容易に制圧できる。隊長クラスである必要さえない。数がいれば話は違っただろうが、今ここにいるのは目の前の一機だけ。

 辺鄙な場所だからだろうか、などと考えつつ放った弾はゴーレムのアームの付け根に命中し、その接合部を砕いた。

 

「……弱い」

 

 こんな場所にこれに勝てる実力のある人が来る予定がなかったのか? 否、観光地として開けているのだ。今回こそ来れなかったがヒナみたいな強者も訪れる可能性は十分に存在しているはず。

 それとも、ここが教会だから武装を持った人は入り込まないと思っていたのか? それも否だろう。シスターフッドのように武力介入を行うことが可能な教会関係者も存在しているはずだ。

 では、何故?

 もしかすると、複製(ミメシス)はただの脅しで、目的は別にある?

 

 その考えに至った瞬間、メリサの放った銃弾はゴーレムの腹部に吸い込まれ、当たり所が悪かったのかその機体の爆発を起こした。

 相手の状態を見て戦闘終了だと判断したメリサは二丁の銃を腰のホルスターへしまう。

 念のためゴーレム(ミメシス)の姿が揺らいで消えるのを確認してから、先ほど装置が埋まっていたベンチの方を向く。

 

「は?」

 

 そこで見たのは先ほどの装置がなぜか腰ぐらいの高さに浮かび、静止している姿だった。

 状況が飲み込めないまま固まっていると、突然装置が移動を始め教会の窓を破って外へ飛び出して行ってしまう。

 

「え、ちょっと!」

 

 慌てて教会を出てその行く先を追いかける。

 幸いあまりスピードは速くはないものの、かなり高度を持って飛んでいるが故にメリサの銃では撃ち落とせそうにない。あの高さとなるとスナイパーライフルが必要だろうし、加えて上方への狙撃となるので難易度は跳ね上がる。

 

 このままだと貴重な手掛かりをみすみす逃がすことになってしまう。

 そんなことを考えて走っていれば、目の前に見知った人物が飛び出してきた。

 

「わっ、メリサ? 一体そんな焦ってどうしたのかしら?」

「アルさん、ムツキさんいいところに」

 

 メリサが二人に事情を説明すると、アルはすぐにカヨコに連絡を入れるわと言い、狙撃するために高台の方に向かっていく。メリサはと言えば、ムツキと共に撃ち落とされた装置を回収するために装置の落下地点へと向かっていた。

 走っている最中であるから連絡が行ったのか、ムツキのスマホあてにカヨコから連絡が届いた。ムツキが状況を軽く説明し、私にそのスマホを渡してきた。

 

『社長とムツキから話は何となく聞いたけど、戦ったのはほんとに複製(ミメシス)だったの?』

「同じ気配がしたので、間違いないと思います。幸い旧型のマシンがベースだったのでそこまで苦戦はしませんでしたが、あれは間違いなく複製(ミメシス)でした」

『もし本当なら、正直あんまり手は貸したくないんだけど、まあ装置の回収ぐらいならいいか』

「すみません。世話を掛けます」

『いいよ、別に。装置は回収したら先生に渡して、それから考えよう』

 

 走りながら状況を話しているうちに、パァンという乾いた音が街に響く。アルの狙撃の音だ。

 その腕はやはり確かなようで、狙撃が命中した機械は先ほどまでの勢いを失くし、糸が切れたように落下を開始した。

 

『さすがは社長だね。私と社長も一応落下地点に向かうよ』

「はい、ありがとうございます!」

『じゃあまた後で』

 

 通話が切れたので、ムツキへとスマートフォンを返す。通信でなく通話だった理由を聞けば、金欠が理由で今月は通信のオプションを切っているとのこと。

 便利屋の経済事情が少しばかり不安になったものの、今は目の前のことに集中である。

 

 既に装置が落下したのを確認しているため、他の人や持ち主よりも先にするために速度を上げる。ムツキと手分けしてカヨコに送ってもらった予想落下地点付近とこちらで見た落下場所の相違もなさそうので、屋根の上に乗っていたりしない限りはすぐに見つかるだろう。

 落下地点の手前で連絡を受けたハルカとも合流し、三人で落下した装置を捜索する。

 

「どこでしょう。この辺りのはずなんですけど」

「そこまで遠くには行ってないはずだよー。その辺に引っ掛かったりしてないかな?」

「あ、あの! もしかして……これでしょうか?」

 

 ハルカが何かを見つけたようで、メリサとムツキはハルカがいる植込みに向かう。

 こちらに見えるようにスマホのライトで照らしている物体は、先程メリサが教会で見つけたものと同じものに見えた。

 

「これで合ってる? モップちゃん」

「誰がモップですか!? でも、はい。こちらで間違いないと思います。見つけて下さりありがとうございます、ハルカさん」

「え、あ、お礼なんて……いらないです。こんなところに連れてきてもらったのに、このぐらいできないと……申し訳ないですし」

 

 お礼を固辞するハルカにもう一度お礼を言ってから、メリサは装置に手を伸ばす。

 まだ神秘のバリアのようなものに拒絶されるかと思えば、今度は何に阻まれることもなく装置に触れることができた。

 

 拾い上げて、街灯の明かりのある所に移動する。

 よく見てみるとアンテナが付いており、トランシーバーぐらいの大きさなのだが、中に何かを入れられそうな空間があるようだ。

 

「なんだろうねこれ? アンテナみたいのもついてるけど」

(ふた)みたいなものもついていますし、中に何かを入れて持ち運ぶためのものでしょうか……」

「ハルカさんの意見も尤もなんですが、これベンチの下に置いてあったんですよね……」

 

 持ち運ぶと言うよりは、何かを受け渡すための入れ物と言った方がしっくりくる気がする。

 しかしそれだとアンテナが付いている理由がよくわからない。単純にこの装置の場所を発信したり、逆に受け取って音を出せたりするためのものの可能性もあるが、全て想像の範囲を出ないもので確証はない。

 それよりも気になることは別にある。

 

「……重い」

「ほんと? どれどれ……って何これ!? 見た目に反してすごい重たい!」

「こ、これだけ重いってことは、中に何か入っているんじゃ……」

 

 ハルカの言う通り、この装置の重さは明らかに何かが入れられている重さだった。元々のパーツが重いものという可能性もないわけではないが、明らかに見た目と重量が釣り合っていない。

 ムツキが軽く振ったみたが音はしないようで、電池みたいにぴったりハマる重たいものが入っているんじゃないか、とムツキは自身の考えを口にする。

 

「あ、これ……前扉が普通に開けられそうです」

「え~! 開くの!? 何が入ってるか見てみたーい!」

「ムツキさん、さすがに危険だと思います。皆の到着を待った方が」

 

 何かないかと装置を触っていたハルカがそう言った途端、ムツキはハルカからヒョイと装置を取り上げて、「あ、確かに開きそう!」とガチャガチャと装置を触り始める。何か変なことが起こってはいけないと取り上げようとしたメリサが手を伸ばすが、ムツキにそれを拒むように身をよじって避けられてしまった。

 すかさずもう一回、もう一回と手を伸ばすも、踊るようなステップと身のこなしでムツキに遊ばれてしまう。

 

「いいじゃん! 開けるからほら一緒に見よ?」

「……わかりました」

 

 ムツキの手から装置を回収することを諦めたメリサは、ムツキの向かいで装置の前扉が開けられるのを覗き込む。

 ハルカは二人の装置の取り合いに参加していなかったため、少し離れた位置から心配そうにそれを見守っていた。

 

「はーい、じゃあ、オープン! ……って、あれ?」

「……?」

 

 扉が開いた瞬間、微妙な表情をするメリサとムツキ。

 その反応を見たハルカが近づいて何が入っていたのか声を掛けようとする前に、

 

「ムツキ室長!? メリサさん!?」

 

 二人の体が地面に崩れ、カランと装置が地面に落ちる()()()がする。

 すぐに駆け寄ってハルカが見た装置の中には、何も入っていなかった。




さりげなく複製(ミメシス)の話を入れちゃってますけど、わからない人へ簡単な説明を。
その名の通りコピー品、複製体を作る能力です。これぐらいならネタバレにはならないよね?
今回はなぜか二年以上前の型落ち品が複製されて装置の盗難防止機構として組み込まれていました。どこの誰が作ったものなんやろうなぁ(すっとぼけ)
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