風紀委員会が所有する会議室に招かれた便利屋68のメンバーは、初めて入る風紀委員の会議室に目を奪われていた。
「うわーすごいよアルちゃん、こんなきれいな所で作戦会議なんて初めてじゃない?」
「そもそも牢屋じゃなくてこっちに通されるのが初めてだしね」
「わ、私がこんなところにいていいんでしょうか?」
三者三様の反応をする部下たちが有能過ぎて引き抜かれたりしないかと内心おかしなことを考えつつも、アルは余裕の姿勢を崩さない。社長であるアルはこういった少し良い応接室のような場所に通されることも多くはないが経験があったし、この会議室自体にはあまり驚いていないのだ。
しかし、こうして風紀委員会の根城に来てしまったこと自体に問題があることを今更ながらに気が付いて、社長としてどうやって三人を逃がそうかと内心は白目を剥いていた。
「(指名手配されているのにノコノコと風紀委員の建物の中に入っちゃったけど、話が終わったら即投獄、みたいになったりしないわよね!?)」
不用意に足を踏み入れてしまったことに後悔しながらも、澄ました顔は維持し続ける。
そうしていれば勝手にハルカに「流石アル様です」と持ち上げられたり、ムツキに「カッコつけてる~!」といじられたりし始めて、しまいには部屋に入ってきたヒナにまで「いくら呼ばれたとはいえ風紀委員の施設に入ってその態度なんて大したものね」と言われてしまった。
段々とアルの精神中でのやせ我慢が決壊しそうになってきたその寸前で、部屋に入ってきたメリサが便利屋の面々を見つけて近付いて来る。
「便利屋の皆さん、ご足労頂きありがとうございます! 今回は正式に依頼ということで報酬もお支払いいたしますので、またよろしくお願いします!」
「え、ええ! たとえ依頼主が風紀委員会だろうと依頼を受けたからには遂行するわ!」
取り繕いながらの自分にも普通に接してくれるメリサにアルが安堵したのも知らぬまま、メリサは平然とアルと挨拶を交わす。
後ろでカヨコやムツキが苦笑しているのを見て首を傾げながら、メリサは机に地図を広げて考え込んでいたヒナのところにも挨拶に向かった。
「空崎委員長。今回は動員の許可及び作戦へのご同行、ありがとうございます」
「報告にあった
ワタバ先輩が組んでいるのは、あのゲマトリアだ。
先生からは解散していると聞いていたが、ここで問題を起こしてきた以上はもう再結成が行われているのだろう。
エデン条約調印式でのユスティナ生徒会クラスの
先日、わざわざシャーレにアポを取って訪れたという話も先生から聞いているが、そこまでしたということはワタバ先輩は手段を選ぶ気がないということだ。何を使ってきても驚かない。
「揃ったようね。始めましょう」
メリサが考え込んでいる間にアコ行政官をはじめとした風紀委員の幹部クラスやアビドスの面々が到着していたようで、ヒナから声がかかって中央の机に作戦の主要メンバーが集まってくる。
そこから作戦目標として彩ワタバの確保とその裏にいるゲマトリアの戦力の殲滅・無力化が告げられ、細かい作戦詳細についてを私が引き継いで机に広げられた地図を指さしながら作戦会議を進める。
「彩ワタバがいるのは、5つの街の一番奥の街、リオマッジョーレになります。この街への侵入手段は2つ。電車か陸路のどちらかなのですが、現在は双方塞がれているものの、偵察班からの情報では実際には塞がれておらず認識阻害のようなものが掛かっていると連絡を受けていますので、突入できる前提で話を進めます。しかし、電車の方はトンネルを越えなければならず、何か罠や防衛装置がある可能性が高く、最悪崩落の危険性もあるため、ここからの侵入はお勧めできません」
「でも、そこを開けてたらそこから逃げられてしまいませんか?」
「はい、なのでこのトンネルには別動隊を使用してトンネルの両入口を塞ぐつもりです。あわよくばトンネル内の様子を確認して突破し、街での挟撃を行いたいところですが、あまり無理もさせられないので、陸路で侵入した後に街の内側からも逃げ道を塞ぐことに留めたいと思います」
アビドスの奥空アヤネからの疑問に対して、現在考えている対策を告げる。
ヒナからこの内側の封鎖部隊をイオリの部隊に任せるつもりだと言われ、イオリはあんまりその重要性を理解していないようだったが二つ返事で引き受けていた。
「基本的には陸路での侵入を考えていますが、役割分担をしておきたいと思います。基本的にヒナ委員長とアビドスの皆さんには彩ワタバ確保の本隊として動いていただく予定です。接近しすぎると記憶を消されて無力化される危険がありますので、ある程度距離を取ったまま戦闘をお願いします」
「質問なんだけどさー。その記憶を消す力ってどのぐらいの距離まで通じるのかな? あんまり距離が必要ならそこの便利屋のスナイパーちゃんとかをメインに置いたほうがよくない?」
「そこは、あまり神経質にならなくても問題ないと思います。いまのホシノさんと入口までの距離ぐらい取っていれば問題ありません」
「おっけーじゃあ大丈夫そうかな。この距離で弾を外すようなメンバーはおじさんの学校にはいないからね」
ワタバ先輩が持つ記憶の消去の能力について、メリサはその詳細を知らない。
しかし、黒服との話に割り込んだ時に記憶を消されなかったことを考えれば、ある程度接近する必要があるのは間違いないはずである。なので、本体のメンバーにはその距離を維持しつつ戦ってもらうことになる。
「メリサの隊には、別の入り口から奇襲を仕掛けてもらう。ここに隣の村と繋がる崖際の道があって、そこから彼女の小隊だけ突入させるつもりよ」
「勝手なことを言ってすみません。こちらは私の希望で、要望を出しました。今も少し地盤が緩いみたいなので、土地を理解している私が先行して、厳しそうなら陸路から遅れて合流します」
「他の風紀委員は、出て来るであろう
ヒナからメリサの隊と他の風紀委員会の役割について説明が行われる。各隊長の配置、行動指針などを確認し、隊長たちからの質問を回答していく。
「で、私たちはどうすればいいの? 本隊側のサポートに回ればいい?」
「便利屋の皆さんには、遊撃隊として状況を見て双方のサポートを頂ければと思います。相手の戦力が未知数なので、強敵の数が多い場合には私の隊や便利屋の皆さんで引きうけていただくこともあるかと思います」
「問題ないわ。私たちは傭兵みたいなこともしてきたのよ。瞬時に戦況を判断してサポートするなんて朝飯前だわ」
「ん、これで全員の役割は整理できた。じゃあ次。相手の戦力で分かっていることは?」
大きい方のシロコから聞かれ、風紀委員での偵察ではまだ相手の戦力が見えていないことを共有する。まだ配置していないだけなのか、到着が遅れているのか。それすらも不明な現状では臨機応変に対応できる作戦を立案するしかなかった。
「ワタバ先輩の性格を考えると、ギリギリまで戦力を隠しているのかもしれません。あの人は頭が切れるので、何か策を用意している可能性もあります。十分に注意してください、としか言えないですね」
「うん。わかった。本人の戦闘スタイルの方は?」
「ワタバ先輩は、以前はドローンを使用して戦うタイプで、手元のタブレットでその操作を行っています。ただ……」
「"うん。シャーレにワタバが来たときには、ドローンは連れてなかったよ"」
これは、シャーレを先輩が訪れた後に先生から聞いた話だが、タブレットこそ持っていたもののドローンは使用していなかったとのことだ。もともと銃を持つ人ではなかったから、もしシャーレにドローンなしで来ていたとしたら、武装せずにあの土地からシャーレまで来たことになる。
当日は当番の生徒に念のため知っている情報を共有して保険をかけておいたらしいのだが、確認してみたら記憶の齟齬もなく、その日記憶の消去は使用されていないらしい。
「別の攻撃・防衛手段を手に入れた可能性もありますが、詳細は分かりません。私は先輩があそこで何をしようとしているのか、なんにも……」
「ん、問題ない。私たちは記憶を消した彩ワタバに逆襲する」
「ええ。捕まえてメッてして、反省してもらえばいいんですよ☆」
小さい方の砂狼シロコと十六夜ノノミの言葉に少しだけ励まされ、合図や連絡手段など細かい作戦の調整に進んでいく。
コルニリア連合学園での作戦行動まで、あと少し。
最初はアルちゃんたちはワタバサイドに立ってもらおうかなと思ったんですけど、ムツキの件もあったのでメリササイドになりました。
じゃあワタバサイドは誰が残ってるのかって?
まあ次のお話で分かるのでしばしお待ちを。