「待てやオラぁ!」
「身ぐるみ剥がすだけだから! 先ッちょだけだから!」
「うへ~、意味わかんなくておじさん混乱しちゃうな」
追剥のような不良たちに追いかけられ、ホシノと二人線路の上を走る。
"どうしてこんなことになったんだっけ。"
「いやーごめんね、先生。おじさんが誘わなければこんなことにならなかったのに」
そんなことないよ、とホシノに返す。
だって悪いのは襲ってきた不良たちの方だ。
攻撃を弾いてくれているホシノに背中を預けて全力で走りつつ、先週ホシノから届いたモモトークを思い返す。
『先生、一緒に旅行に行かない?』
唐突に届いた大胆な誘いにびっくりしたことを思い出す。
話を聞いてみれば、いろいろ迷惑を掛けた後輩たちにお詫びとして慰安旅行をプレゼントしたいということだった。変なところだと慰安旅行にならないし、実際に行って味わってからじゃないとわからないということで、下見についてきてほしいというのが今回の話だった。
思えば二人きりというのはあまり良くなかった気がするな、とこんな状況ながら考えてしまう。
それをホシノに伝えればまず「今!?」という反応が、次に「いまさら~?」という二段のツッコミが返ってきた。
「あんまりあっさり通ったから、その辺りも全然問題ないんだとおじさん思ってたよー」
会話中ではあるものの、ホシノはしっかりと盾で攻撃をいなしてくれる。
慰安旅行ということで生徒がいない最近観光地として売り出し中の海沿いの街を選んだのだが、生徒不在の街だとしても滞在している不良たちの略奪からは逃げられないらしい。
そんなことを考えていたら、気付けばすぐ先で線路が途切れている。先にあるのは大きな絶壁で、とてもじゃないが上って逃げるのは難しそうだ。
回避しようにも線路を囲う外壁をどうにかしなければならず、その間に叩かれればひとたまりもない。
「"ごめんホシノ、行き止まりだ!"」
「うへ? ほんとだ、こりゃまいったねー」
どうしようかと考えていたら、抱えているタブレットからプラナが声を上げた。
《先生、目視では見えてないと思いますが、線路の先に空間があります。恐らく電車が通るためのトンネルだと思われます。》
「"プラナ、本当? こちらからだと、壁しか見えないんだけど"」
《先生! 大丈夫です! 私も確認しましたが見た目だけで空間としては開いているようです! 全力で飛び込んじゃってください!》
何度見ても車止めがあって、その先に穴が開いているようには見えない。
しかし、プラナだけでなくアロナもそう言っているのであれば、きっとそういうことなのだろう。
周囲を解析して言っている二人なのだから問題ないとは思うのだが、やはり見た目が壁なのが心配だ。
二人にもしものためにガードを頼むとお願いして、壁に飛び込む意を決する。
「"ホシノ、壁に突っ込むよ! そこに空間があるみたい!"」
「先生!? なに言ってんのー?」
動揺するホシノが見ていることを確認してそのまま壁に体当たりする。
衝撃に身構えて目を瞑って前へ進んでいたが、いつまで経っても激突の衝撃は来ない。
足を緩めながら恐る恐る目を開ければ、そこにはプラナの言う通り電車のトンネルが広がっていた。
「"こんな空間が……"」
「うへ~、先生が壁の中にすり抜けてびっくりしたよ」
遅れてトンネルに飛び込んできたホシノにもやはり出入り口が壁に見えていたようで、中に空間があったことに驚いた様子だ。
ひとまずここへ逃げ込めば、不良生徒たちは戸惑って追ってこないはず。
と思っていたのだが。
「うわっ! この壁すり抜けれるぞ!」
「先っちょだけ入ったけど問題なさそう!」
入口を見れば不良たちが続々とトンネルに侵入してきていて。
「オラぁ! こんなとこに入って振り切れると思ってんなよ!」
「そうだそうだ! ズップリ入っていくところを見てたんだからな!」
あっという間に、全員が壁をすり抜けてトンネルの中へ。
再び攻撃を開始した不良たちから逃げるため、私たちもまたトンネルの中を走り出す。
「ま、そりゃそうだよね~。おじさんたちが入ったとこ見られてたし」
「"とりあえず、このトンネルの出口まで逃げよう!"」
ホシノにまた応戦してもらいながら、トンネルの出口を目指す。
途中で迷ったり行き止まりに辿り着いたら大変だが、そこはアロナたちのサポートがあれば問題だろう。
トンネルの構造を二人に聞けば、次の駅みたいなところまで一本道とのこと。
「せんせぇ~、まだトンネル抜けない感じ~?」
3分ぐらい走っていると、盾を構えながら後ろ向きに走るホシノが疲れを訴えてくる。
プラナに聞けばもうすぐ出口とのことで、顔を上げれば明るい外の光が少し先に見えていた。
「"出口が見えたよ! ホシノ、頑張って!"」
「りょーかい、先生。じゃあちょっと引き離すために前に出るねー」
そう言って速度を落としたホシノに感謝を残して、トンネルの出口を目指す。
外に出たタイミングでその眩しさに少しよろけてしまう。目を慣らしつつ周囲を見回せば、どうやらアロナたちの言う通り次の駅まで来てしまったようだ。
そんなことを考えていたら、トンネルの入り口付近から知らない声が聞こえた。
「手を貸そうか? シャーレの人」
「"っ!?"」
パッと振り返り、その姿を見やれば駅のトンネルに近いホームの端に背の高い男性――いや、制服がパンツスタイルなだけで
信用できるのかと少し考えたが、その位置に構えていたのであればトンネルを出てきたときに狙っていたはず。
「"頼む!"」
その人物は私の言葉に満足そうに笑うと、ホシノがいることもわかっているのか手元のタブレットに目を落とし、ホシノが飛び出してきたタイミングで何か操作をした。
次の瞬間、トンネルの中に光が奔る。あのタブレットを操作して防衛機構を作動させたのだ。中から叫び声が聞こえたが、ホシノはまだトンネルの方を見て警戒を続けていたし、彼女もまたタブレットから視線を動かさない。
少しして制圧したのを確認したのか、こちらを向いて近づいてきた。
「やあ、初めましてだね。こんなところまではるばるご苦労」
そう言って彼女が伸ばしてきた手を迷わず取り、握手を交わす。
改めて彼女を見る。背は私よりも少し高く、ジャケットは腕を通さず羽織っているだけ。髪がそこそこ短いことも相まって、男装の麗人と言う表現がよく似合う。
警戒してくれていたホシノの方を向けば、トンネル内の気配がなくなったのか警戒を解いたようでこちらを向かってきていた。
「ええと、お姉さん? ……でいいんだよね?」
「"……君の名前は?"」
ホシノの質問に首肯している彼女に名前を問うと、彼女は一度ホシノにも目を向けて少し驚いた顔を見せる。
その反応に気付いたホシノが首を傾げるよりも早くこちらに向き直るときには、先ほどまでの穏やかな笑顔に戻っていた。
「ああ、自己紹介がまだだったね。私は彩ワタバ。このコルニリア連合学園、唯一の生徒だよ」
こうして私は、コルニリア連合学院と意図せず接触した。
彼女の背後に見える街を見やって、ここを学校だというワタバを前に私とホシノは顔を見合わせた。
先生たちがここに来た経緯を書きたかっただけ。
先生のエミュって意外と難しいですね。なるべく書きたくないのでオリキャラの登場を急がせなければ。