残った少女と残らなかった少女   作:息抜きのもなか

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今作唯一のヒナ視点です。


衝突

 隣町から三十分程度曲がりくねった山道を進み、ようやく次の街の陰が見えてきた。

 ここまでの行軍でも士気が高いのは、普段無法者たちと戦っている影響からか、それとも戦闘民族故の高揚感か。

 

 街の前に人影を捉えたヒナは、隊列に一時停止を伝え、アビドスと便利屋の面々を前へ呼ぶ。

 

「これより作戦に入るわ。皆、合図があるまでは勝手な行動はとらないように」

 

 先ほど電車の線路隊から届いた連絡によれば、隠されていたものの電車のトンネルは発見。中は防衛機構が作動していて解除・突破共に難しいとのこと。

 想定していたことなので予定通り出口付近で待機させ、入り口を囲んで逃がさない体制を取る。

 

「メリサ、そっちはどう? 通れそう?」

『部隊全員でというのは難しそうです。ヒナ委員長の方はもう接敵しそうですか?』

「ええ、これから作戦開始するところ」

 

 メリサの方はやはり崩落がひどいのか、陸路で合流することになった。後ろを任せることができる分、こちらが挟撃を考えなくていいのは良いことかもしれない。ここは森も多いし伏兵が居ても不思議じゃないし。

 先生や部隊長にそのことを伝えて状況を整理したあと、進軍を再開する。

 

 街が近づいてきて街の前に立っていた人間が良く見えるようになってくる。

 データで見た、彩ワタバだ。一人でタブレットを携えて街の前に立っているだけで、他に人影は見られない。

 

「皆、伏兵に注意して」

 

 周囲の警戒をさせるが、何の気配も感じられない。部下から何かを見つけたという報告もない。

 そして、向こうもこちらに気付いていたようでタブレットから顔を上げ、こちらの軍勢を見るなり嫌そうな顔を見せた。

 

「あなたが、彩ワタバね?」

「ああ、コルニリア連合学園へようこそ。君がゲヘナ学園の風紀委員長の空崎ヒナであってる?」

「そうよ。こちらも手荒なことはしたくないから、大人しくゲヘナについてきてくれる?」

「それはできない。私はゲヘナに行ったら死んでしまうからね。牢獄で寝ている間に爆死なんて笑えないし」

 

 温泉開発部のことを言っているのだろうか。確かに牢屋を爆破して逃げ出すことも少なくはないけれど、キヴォトスに住む人間ならその程度は特に問題にならないはずだ。

 ゲヘナのことを馬鹿にされているようで少し気分が悪かったけれど、キヴォトス随一の治安の悪さであることは否定できないので、少し顔を顰めるだけに留めておく。

 

「こちらにも戦闘の意思はないよ。話し合いで解決できるならそれが良い。こちらの学校でお互いの認識を合わせよう。質問にも何でも答える。出せるのは、紅茶ぐらいだけど」

「何があるかわからないそっちのホームに飛び込むほどおじさんたちもバカじゃないよー」

 

 ヒナの代わりにホシノが応じた。

 元より大人しく付いて来るとは思っていなかったので、やるしかない。皆に構えの合図を出して臨戦態勢を取らせる。

 そこまでしても彩ワタバはまだ、変わらぬ姿勢を取り続けていた。こちらが臨戦態勢を取ったのにも関わらず、どこにも合図を見せた様子がない。タブレットの操作すらしていない。

 そこに違和感を覚えた私は、彩ワタバに向けて問いかけた。

 

「他の戦力はどうしたの? てっきり、大量の複製(ミメシス)を準備しているものだと思っていたのだけど」

「ミメシス? ああ、あのよくわからない複製兵のことだね。そんなものを生徒同士の喧嘩に持ってくるなんて馬鹿じゃないの?」

 

 他の戦力については言及していない。だが、この言い方では他の戦力も用意していなさそうだ。

 この話し方、この態度。

 私たちは何か、致命的な勘違いをしているんじゃないか?

 

「あなた、ゲマトリアと交流があるって聞いた。間違いない?」

 

 私がそんなことを考えていると、もう一人の砂狼シロコが彩ワタバに向かって問う。

 彼女が「うん。間違いないよ」と答えた直後に、もう一人の砂狼シロコの姿が消えた。

 

 銃声。すぐに、ドサリという音。

 

「ふぅ。いきなり攻撃とは容赦ないね。黒服が逃げ出すのも理解できる」

 

 倒れたのは、もう一人の砂狼シロコの方。

 彼女はどういう手段かわからないが一瞬で彩ワタバの背後に回って発砲した。それを少し遅れて回避したかと思うと、もう一人の砂狼シロコの方に手を振るって、それだけだった。

 それだけで、あの砂狼シロコが無力化された。キヴォトスを追い込んだあの規格外が。

 

「よくもシロコちゃんを!」

「ん、倒す」

 

「うわぁ! 化け物だ!」

 

 恐怖が広がっていくのが分かった。

 まだ合図を出していないのに、恐慌に陥った誰かが発砲した。それに釣られるようにまた誰かが発砲して、連鎖していく。

 

 私がそれに反応するよりも早くアビドスの五人が動く。

 相手が一人の時点で役割分担などなくなったも同然だったが、もう作戦など機能しなくなる程度には恐怖と混乱が広がっていく。

 

「ちょっと、皆――」

「うわあああああ!」

「撃て! 撃てぇ!」

 

 それほどまでに、こちらで一二を争う実力者があっさりと下されたのが衝撃だったのだろう。こちらの声も、もう届きそうにない。

 

「アコ!」

『ヒナ委員長、すみません! これは……』

 

 後方で指揮に当たっているアコと通信を繋げるが、どこから話すべきかわからない。

 彷徨った視線が、彩ワタバと交差する。

 同情とも諦めとも取れるその視線に、私は息を飲んでしまう。

 そして、気付いてしまう。

 

「この作戦は、間違いだった……。もっと慎重に、話し合いから入るべきだった」

『委員長?』

 

 先生のことを突っぱねたのだから、話し合いなどできないと思っていた。

 だが、先ほどの彩ワタバのあの目は、明らかに()との対話を望んでいた。先生ではなく私なら話が通じると思っている眼だった。

 この銃弾の嵐の中では、もうそれは叶わない。

 

 彩ワタバの方を確認して、ヒナは目を瞬く。

 あれだけ銃弾を撃ち込まれて、傷一つ付いていないのだ。

 

「……違う」

 

 彩ワタバに銃弾が当たっているのならば、跳弾はいろいろな方向に飛んでいくはず。

 だが、彼女に迫る弾丸は()()()()()()()()()()()。ホローポイント弾が開かれないまま落下しているのが良い証拠だ。

 

 小鳥遊ホシノもそれに気が付いたのか、盾を携えて突撃していく。

 近付くのは危険だというのは分かっているのか、アビドスの面々のサポートも苛烈になった。

 

「覚悟を決めるしかないようね」

 

 銃を構える。

 この戦いで背負いきれない十字架を背負うことになったとしても、早々にこの事態を収拾するにはそれ以外に手はないのだろう。

 

「ごめんなさい」

 

 自己満足の謝罪を呟いて、小鳥遊ホシノのサポートに向かう。

 この戦いの結末が後味が悪いものにならないことを願いながら。




シロコテラーは少し厄介なので早々にご退場いただきました。
次回、ホシノwithアビドス&ヒナVSワタバ。
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