残った少女と残らなかった少女   作:息抜きのもなか

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予告通りメリサ視点です。


望まない結末

 ワタバ先輩を最初に見たのは、私の暮らしていたヴェルナッツァの町で行われた復興計画と売却計画の説明会でのことだった。

 最初は何を言っているんだとしか思わなかったその計画は、その中身の説明が続く毎に現実味を帯びていく。

 当時中学3年生だった私は自分の通う学校がヴェルナッツァからコルニリアに変わることに違和感を覚えなかったが、既に学校に通う生徒はそうも行かない。子供ながらに難航するだろうと思ったことを覚えている。

 そんな私の予想は裏切られ、停滞していた復興はあっという間に進み、私が高校へ上がるときにはヴェルナッツァの町は売却が完了していた。

 

 進学して生徒会を一人で回していたワタバ先輩に実際に会って、先輩がひとつ上の代だったことを知った。

 去年のあれを一年生ながらやっていたというのだから、そのときは本当に驚いた。

 ワタバ先輩とはいろんな話をした。先輩が高校進学を機にキヴォトスの外からここへ来たことや現在の学校および自治区の状況などなど、普通の高校生らしい会話もそれなりにしていたと思う。

 憧れだった。そんな彼女の力になりたくて、密かに自警団を組んで不良たちを裏で倒したりしていた。

 

 だから、先輩から転校の話をされたときは抵抗した。

 ずっと一緒にいたかった。私にも背負わせて欲しかった。

 結局押しきられる形で私はゲヘナに転校した。風紀委員として活躍できると太鼓判を押してくれたワタバ先輩の目に間違いはなかったようで、あっという間に小隊長に昇格することができた。

 

 でも、それだけだった。

 エデン条約のとき、私は瓦礫の下で気絶していることしかできなかった。

 アビドスの皆さんが助けてくれるまで、ずっと暗い聖堂の瓦礫の下で、上で何が行われているのかも知らないまま文字通り地に伏していた。

 部下たちを泣かせてしまった。聞けば、私がいないと寝る間も惜しんで探してくれていたらしい。他の人たちが病院に運ばれて復活するまでずっと瓦礫の下だった私は役立たずでしかなく、皆は私の体調を心配してくれたが、それ以上に大事な時に何もできなかった自分が嫌だった。

 私が見たのはユスティナ聖徒会の複製(ミメシス)の残党が倒されていく姿だけ。

 先輩の期待を裏切ってしまったと思った。

 

 先日の温泉開発部の一件もそうだ。

 自分一人で突っ込んで罠にはまって、下手すれば死んでいた。

 結局取り締まるべき相手の便利屋の方々に助けられるだけで、また部下を心配させてしまった。

 数日復帰に時間が掛かって迷惑をかけてしまった。

 全部、私が弱いから。

 こんな事では全然、ワタバ先輩から掛けてもらった期待に応えられない。

 

 そんなことを考えていた矢先、故郷で何か企まれているかもしれないとなれば、今度こそと思ってしまうのも仕方がないことだったように思う。

 記憶こそないが、自分がどうして先輩を疑ったのかは予想がつく。

 この地でワタバ先輩に知られずに事を起こすことなど不可能だと思ったからだ。逆に考えれば何かが起こっているのなら、ワタバ先輩が関わっている可能性が高い。

 狸のような企業の社長たちと交渉を繰り広げてきた先輩が騙されているはずがない。だから導き出されるのは先輩が手を貸しているという悲しい現実だった。

 

 失望はしていない。

 ただただ悲しかったし、話して欲しかった。

 先輩がこの地を売ったのも、最初からこの計画のためだったのではないかと思った。そうなれば、私が先輩を初めて見たときから、先輩は皆を騙していたことになるわけで。

 ふつふつと怒りが湧いてきた。

 皆の大切な場所を奪った先輩が許せなかった。

 あのゲマトリアと交流があったのを見て、過去の自分から受け取った仮説は私の中で事実に昇華されてしまった。

 

 ――皆がこの地よりも活躍できる場所に送ってくれていたのを、一番近くで見ていたはずなのに。

 

 ヒナ委員長の力を借りる以上は、失態を取り返さないといけないと思って作戦から何から意見を出し続けた。

 今度は成果を出したかった。私が、私が何とかするんだと思っていた。

 こんな結末を、望んだわけじゃない。

 

 崩れそうな小道を一人で抜けたとき、ワタバ先輩が用意したセンサーが見えたので、死角から時限式の爆弾をセットした。

 街で戦闘が起きていない以上は道路側の入口が戦場になっているのは分かったし、奇襲できる確率は高めた方がいい。

 センサーに掛からないように山の斜面を登り、街の上部にある道路の方を目指す。私が風紀委員の部隊を捉えたときにはまだ煙が舞っていて何も見えなかった。

 近くの木に身を隠しながら機会をうかがう。ここまで話し声は聞こえないが、先生と話しているのだろう。

 先生はきっと先輩の事を生徒だと思おうと必死だから、ワタバ先輩の嘘を信じようとするかもしれない。そういう人だから仕方がないけれど、そんなことは私がさせない。

 

『頭だ。頭を狙え』

 

 うるさい。邪魔だ。そんなことは分かっている。

 私の頭から出ていけ。お前がどんなものかは分かっている。

 

 気絶を狙う。先程見ていた限りでは誰も先輩の守りを突破できていなかったから、私の取っておきを使うことにしよう。

 貫通力だけに特化した、キヴォトスの人間だろうが問答無用で破壊する凶弾。危険過ぎて普段は人の頭には狙いをつけないが、それぐらいしなければ先輩のあれは突破できないだろう。

 

『いいぞ、そうだ。破壊するのだ』

 

 ガンガンとなるような耳鳴りが私に囁く。

 先生に勘づかれることで嫌なやり方をするようになったのだろうか。

 私はお前を知っている。

 トリニティの生徒会(ティーパーティー)のホストを蝕んだ光、アビドスのシロコさんが手を伸ばしかけた破滅への誘い。

 私は色彩(オマエ)には屈しない。

 

 そんなことを考えているとワタバ先輩が急に街の方に振り返った。センサーに仕掛けた爆弾が起爆されたのだろう。

 今しかない。

 私は神秘をギリギリまで込めてから木の影を飛び出し、ぶれないように両手でワタバ先輩の頭を狙って引き金を引く。

 

 外した。

 ギリギリ当たったようだが、意識を刈り取るほどの効果はなかったようだ。

 そのはずなのに。

 

「え?」

 

 私の奇襲を見ていた風紀委員の誰かの声が聞こえる。

 気が付いた。

 ワタバ先輩のヘイローが消えている。どういうことだ。直撃は避けていたはず。回避が間に合って、弾が通り過ぎていったのは見えている。掠ったのか血が垂れているのは見えているが、死ぬようなダメージにはならないはず。

 混乱している私の耳に、求めていた声が飛び込んでくる。

 

「その撃ち方、人に向けてはしないんじゃなかったのか」

 

 先輩は出血している部分が痛むのか顔をしかめていた。それだけではなく、無意識かもしれないがその刺すような視線に咎められたような気持ちになってしまう。

 違う。そんなことはどうでもいい。恨まれるのは分かってここに来ているのだから。

 

 先輩のヘイローは消失した。なのに先輩が動けているのは、どうしてだろう。いや、そもそも致命傷ではないから動けるのは理解できるのだが、問題はヘイローが消えてしまった点だ。

 まさか、キヴォトスの外から来たということは。

 元からヘイローなど持っていなかった?

 あのヘイローは偽物だった?

 

「え、先輩、どうして……」

 

 ワタバ先輩と目があった。

 先輩は悲しそうな眼をしていた。それは先輩がたまに見せる、こちらを心配するときの眼差しで。

 

「話していないことばっかりで、ごめ――」

「ば、化け物!」

 

 先輩の謝罪を遮るような銃声が聞こえた。

 それは、先輩の胸に突き刺さり、紅い花を咲かせていて。

 私と同じ型の銃を構えた風紀委員の子は、まだ何が起こったか分かっていない様子。

 

『やった、やったな! オマエがやったのだ!』

 

 違う。重要なのはそこじゃない。

 さっきの予想が正しいなら、先輩は先生と同じ普通の人間なのだ。銃で撃たれたら、ただでは済まない――

 

「先輩っ!!」

「ワタバ!」

 

 私と先生、どちらが速かったか。

 どちらでもいい、どうでもいい。

 

「血が止まらない! ヒナ委員長、救護班を!」

「ワタバ、しっかりするんだ!」

「先輩っ! ワタバ先輩! ダメダメっ、死んじゃ嫌です!」

 

 ああ、どうしよう。

 私がやった。私がやってしまった。

 

 死んで欲しかったわけじゃない。

 大好きな先輩にこんな目に遭って欲しかった訳じゃないのに。

 

 止血しようと傷口を押さえる手が、染まっていく。

 皆が私を非難するような目で向けられている気がする。

 

「ちがっ、私、そんなつもりじゃ……」

 

 先輩の優しげな瞳が、一瞬だけ私の方を捉えた。

 そんな気がした。




次回もメリサ視点。
クライマックスが近付いてきましたね。
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