風紀委員は撤収した。
アビドスと便利屋の皆さんも状況が状況なだけに引いてくれた。
私と先生、それと救急医学部のセナさんたちだけがこの地に残っている状態だ。
「あとで始末書よ。付き合うから、逃げずに帰ってきなさい」
ヒナ委員長がこの地を去る前に残した言葉が私の中に残り続けている。
先生がワタバ先輩から聞いたことをまとめた今回の件の見解を聞いて、色々と納得させられた。先輩と過ごしてきた日々の中で浮かんでいた疑問も解消した。
私は凝り固まった見方しかできずに、判断を誤った。
先生は責任は自分が負うから気にしないでいいと言ってくれたが、今回はどう考えても私の責任だ。先生はずっと悩んでいたし、途中でその過ちに気付いて先輩を信じることを選んだ。私は最後まで間違えたままだった。
どこでボタンを掛け間違えたのだろうと思った。
「教えて差し上げましょうか?」
最悪なことに、ワタバ先輩が命を繋ぎ留めたのはこいつのおかげだった。処置中にいつの間にか現れた
先生が問い詰めれば、身体が傷付いたことを忘れさせるという指向性で採取した先輩の神秘の残り物らしい。
実験は先輩ではなく動物で試したもののうまくいかず、先輩にしか効かないという予想が立って実験を中止した際に残っていた最後の一本だという。
無茶苦茶だ、と思う。
危険な力であることに疑いようはない。発想次第では、持ち主次第ではもっと危険なことに使われていてもおかしくなかった。
「教えるって、何を」
「又鳩メリサさん、あなたが先ほど言っていた、どこで間違えたか、ですよ」
聞いてはいけないと分かっている。相手にしたら利用されて壊される。私はワタバ先輩みたいに賢くないし、上手く転がされて酷い目に遭うのがオチだ。
そんなことは分かっていた。けれどもう、
「一番最初からあなたは間違えていたのです。先生とホシノさんの件にあなたが首を突っ込まなければ、今回の一件は不思議な出来事で終わっていたはずです。記憶にはないと思いますが、実際にホシノさんはそこまで気にしていない様子でした」
そんなことは分かっている。けれど、それは私が私である以上止められないことだ。
「また、それが分かった時点でワタバさんへ連絡して入れば、ワタバさんが先生から軽いお叱りを受ける程度で終わったはずです。ワタバさんは正直に打ち明けるでしょうから」
「じゃあ、なんで私たち全員の記憶を消したんですか?」
「クックックッ。それも順番にお話ししますよ」
不敵な笑みを浮かべているはずの目の前の男の声音が、こちらを責め立てるように聞こえる。
友人だと言っていたし、怒っているのだろうか。ゲマトリアが、ワタバ先輩のことに?
「教会での一件はポイントが複数あります。まずあの装置を見つけた時に皆に報告をしていれば、もう少し事態は穏便に進んだでしょう。また、
「それでも先輩はこっちの記憶を消してくると思うけど」
「いえいえ、本来であればその時点で先生が
確かに、先生なら言いそうな気がする。
「あの事故で記憶が消えた時点で危険だと判断して中止していても、同じ結末でしょう。ワタバさんが不憫ではありますが、彼女が私に小言を言うぐらいで終わる話だったと思います。しかし現実はあなたの言葉で加速してしまった。我々の技術サポートの品々を皆さんが躍起になった結果見つけてしまった。ありもしないエネルギーの利用を考えていると発展させてしまった」
——お前が悪い。お前が全部間違えた。
今思えば、どうして過去の自分たちがそれを盲信できたのかわからない。ライブ感で盛り上がってしまっていたのだろうか。
「あなたは随分と疑心暗鬼になっていたようですね。ワタバさんも残念がっていましたよ。後輩から全然信用されていなかった、と。ですがそれは余談でしかなく、あなたが自分の信念を曲げるようなやり方で記憶が消えた時の対策をしようとしなければ、あそこで間違いなく物語は終わっていたんです。だってあなたの中にもあるでしょう? 皆と一緒に回った楽しい旅の思い出が」
「わた、しが……」
「ええ、あなたです。ワタバさんがあなたや他の皆さんの記憶を丁寧に完璧に消したのも、全てはあなたが思い込みの状態になってしまったからです。彼女はあなたを憐れみ、その痛みと苦しみを消し去ろうとして一片の疑いも生まれないような完璧な忘却を完成させた。それはあなたの信念を信じての行動でした。あなたが信念を曲げなければ、皆が幸せなままで終われたのです」
——
これ以降はあなたも分かっているでしょう、と黒服は嘲るような声で言う。
「自分からの手紙を受け取ったとき、
「怒鳴り込むのではなく、冷静に話し合いの場を設けていればまた結果も違ったでしょう」
「風紀委員のみんなの力を借りようとしなければ……」
「あんな作戦を立てなければ、このようなことにはならなかったでしょう」
「奇襲なんてしなければよかったんだ。頭を狙わなければよかったんだ。もっと早く先輩のヘイローが偽物だって気付いていたら、先輩も神秘のことを気付いていれば、もっと先輩のことを知って先輩のことを信じていれば、取り返したいなんて思わなければ」
——そもそも、私がいなければ。
部屋に入ってきた先生と目が合った。
ガンガンと鳴る頭が殺せ壊せと叫んでいる。
そうだ。私がいなければこんなことにはならなかった。私がいたからこんなことになった。
どれか一つさえ正解すればよかった選択肢を、全て間違えた愚か者。
だったら結論は決まっている。
色彩。
「先生……ごめんなさい……」
銃を構える。全力で神秘を込める。
一瞬だけ少し躊躇して。
私は銃口を
痛みは感じなかった。たぶん本当に、一瞬だったから。
間違いだらけの私だった。迷惑をかけてばかりの私だった。
だから最期ぐらいは、せめてみんなに迷惑をかけないように。
昏い光の中で一人、ずっと耐えることになったとしても。
メリサは作者とか言う悪魔のせいで作中ファンブルを引きまくっただけで正義の子なんです。
後輩や部下たちが慕うくらいには性格も良いし、率先して動ける頼もしい存在です。でも、ファンクラブが本人にバレていないように、あんまり周りが彼女に直接伝えなかったこともあって彼女の自己評価は「役立たず」なんです。あまりにも会話不足。この作品どころかブルアカ本編にも言えることですが。
とはいえ、曇らせはここまで。
あとは頼れる先生と先輩にお願いしましょう。
何話か箸休めを挟んでフィナーレへ続きます。