残った少女と残らなかった少女   作:息抜きのもなか

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ワタバ先輩の昔話、その1。


むかしばなし・はじめて

 なぜか友達が出来なかった。

 明確にそれに気付いたのは小学校三年生ぐらいのときだったか。

 

 声を掛けてくれた子が、次の日には私と遊んだことを忘れていた。当時から私はまあそんなものかと流してしまう性質(たち)だったので――もしかすると私の自覚がないだけで同じようなことを既に何回か経験した後だったのかもしれないが――あまり気にしていなかったのだが、そのことを話した母が激怒して相手に電話をして、相手が本当に覚えていないことがわかった。

 イタズラか、引くに引けなくなったか。そう判断してもいいはずなのに、私は自分の状況を受け入れていた。直感で相手の子が嘘をついていないことが分かっていたから。

 

 それが数回続いたある日、私は事故を起こした。

 正確に言えばあれが事故であったことに気が付いたのは黒服と出会ってからなので、当時は何が起こったか分からなかった。

 

「お父さんのことなんか知らない!」

 

 自分の能力を理解した今ではその発言がどれだけ危険なのかわかる。

 幼い子供の癇癪。コントロールの効かない感情の爆発。

 おそらく私は感情のままに忘却の神秘を暴走させ、母から父の記憶を、父から私の記憶を丸ごと奪った。

 訳が分からなかった。

 知らない男の人が家にいると言う母、誰の子供なんだと詰める父。

 そんな状態でまともに話し合いができるわけもなく、親戚を呼んで仲裁に入ってもらったものの結論は出ず、私は母に引き取られる形で家を出た。

 

 子供ながらに自分が我儘(あんなこと)を言ってしまったから起こったことだけは理解できた。でも何が原因だったかまでは理解できていなかった過去の私は、我儘を言わないいい子になることしかできなかった。

 友達ができないのも、家族がバラバラになってしまったのも自分のせい。

 そう考えた私が取れる方法はただただ我慢することだった。

 

 我慢して受け入れてしまえば簡単だった。

 誰かの手を借りずともどうにかなった。一人でやった方が気楽だと気付いた。全ての責任は自分が負うだけで良いし、失敗するなら自分の能力不足が原因だ。

 理由が明確で清々しい。

 ペアワークは全部相手の手柄になる。チームプレーは私以外の誰かの成果になる。

 あまり気にならなかった。自分一人でいろいろやってきたことで、自分の能力以上のことを要求される大変さが身に染みていたから。どうせ気にしないのだからと逆に伸び伸びできるのも快適だった。

 

 この神秘が発現する前から自発的に友達を作ろうとしたことは多くなかったように思う。

 どちらかといえば、神秘の影響で元々の気質が顕在化しただけなのだろう。生きやすくなったのは事実だったし、実際楽しく困ることも少なかった。

 たまにハグしてきた母の記憶が飛ぶ以外で大きなハプニングも起きなかった。

 

 中学二年生のある日、家に帰ると異形の姿をした男がリビングで母と話していた。

 どうやら普通の人間に見えるように偽装していたようだったが、神秘を持つ私には通じなかった。元々そうやって神秘持ちを炙り出す用途なので問題ないらしい。

 

「はじめまして、彩ワタバさん。私はあなたの能力に興味がありまして」

 

 胡散臭い大人だと思った。だが話を聞くうちに自分の中でいろいろと腑に落ちる部分があり、一度キヴォトスというところに連れて行ってもらうことにした。

 母は自分たちが行くには危険な都市だからと反対したが、私が珍しく我儘を言ったことで押し切られてくれた。

 

 何本か電車を乗り継いで、学園都市(キヴォトス)の門をくぐる。その最初の中継駅で■■■と待ち合わせた私は、彼の案内に従って電車に乗った。

 窓から見える景色は世界でも最先端の技術の宝庫。もしかすると、■■■が言っていた『神秘』とやらでしか動かせない機械もあるのかもしれない。未知の世界に来た気分だった。それだけでも、彼の話に乗ったことに後悔はない。

 その一瞬だけでも私の人生に計り知れない刺激をもたらしたのだから。

 

 目的の場所まで移動するまで、私は■■■といろいろな話をした。このキヴォトスについて、自治区について、神秘について。この世界(キヴォトス)を彩る世界を構成している物事について私が知っているのは彼から得た情報がほとんどだ。

 ■■■は自分たちのことにはあまり話をしてくれない様子だった。大人の専売特許だと言わんばかりに巧みに話題をずらされてしまう。悪い大人だと思った。

 ■■■は私が周囲から一緒に過ごした記憶を忘れられてしまうのは私が垂れ流してしまっている神秘に触れたからだと言う。

 私の神秘は■■■から見ても随分と特殊なようで、キヴォトスに来て自分たちの研究を手伝ってほしいというのが今回私に話を持ってきた理由らしい。であれば研究所のようなところに連れて行けばよいのでは、と聞いたが、母がそれを許さなかったらしい。当然だろう、聞いてみただけで私も嫌だ。

 

 ■■■はこの都市に来て私に神秘をコントロールできるようになってほしいらしい。

 どうやら相手の記憶から自分の存在を消すという効果以外にも使い道がないか、何か役に立つ使い方はできないか研究したいとのことだ。

 正直気は進まないが、今までの話を聞いていた限りではこの人の言っていることは正しい。

 母には言わず私に話をしているところを見るに完全に信じていいのかは微妙だけれど、研究者としての熱意というのは感じられるし、手伝ってあげてもいいのかもしれない。

 そんなことを考えながら電車に乗っていた私は、この後何も考えずにキヴォトスに来ることを決めることを知らない。今思えば本当に愚かだったけれど、それも大切な私の青春の一ページだ。

 

「ここです。チンクエテッレという地方になります」

 

 電車を降りてまず見えて来たのは、災害の跡が生々しく残った惨状。

 水害なのか水の跡があちこちに見えるし、木の枝や泥がそこら中に広がっている。電車だけ動くようにその付近だけは整理したようだが、まだまだ復旧したとは言えない状態のように見えた。

 街を歩きながら、■■■からこの地方の説明を受ける。五つの街から構成されていること。通うなら真ん中のコルニリア連合学園の本校になること。学園生活の補助をするから何をしてもらっても構わないこと。

 

「どうしてここなんですか?」

 

 私は訊いた。

 移動中にキヴォトスには数千の学校があると聞いた。それなのに災害の起きたここを選んだ意味が分からない。

 ■■■はここの治安が他と比べてずっといいからだと答えた。生身の人間である私がキヴォトスで生活するのなら、安全な場所であることに越したことはないと。

 

 しかし、災害が起きた場所は少し治安が悪化するものだ。今のここより治安がいいところなどそれこそもっとあるはずだ、と問い詰める。

 私の勢いに押されたのか、■■■は少し声のトーンを落として、この地を推す理由を告げた。

 

「正直に言うと、ここは私のお気に入りなのですよ。ここは本来はもっときれいな景色が見えるスポットだったのですが、復興するまではお預けですかね。海、山、そしてそれと調和した街並み。こんな素晴らしい場所でワタバさんに生活してほしいと思うのは、押し付けでしかありませんね」

 

 それが私をその気にさせるための嘘だったのかどうか、私は知らない。

 それでも効果はてきめんだったことを、私が一番知っている。傷痕が残った街が(いろ)づいて見えるようになってしまったから。好きになってしまったから。

 

 その日私は、生まれてはじめて恋をした。




■■■(黒服の本名)書きすぎて途中からハナコのセリフに見えてきて大変でした。
はい。ワタバ(中学二年生)がキヴォトスに来た理由をご紹介しました。あくまでも決定打になったのがこれというだけで、たぶんこれがなくてもワタバはキヴォトスに来ています。ただこの学校には入っていなかったと思うし、黒服の言う通りテキトーに三年間を過ごしてキヴォトスから去っていったはずです。
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