残った少女と残らなかった少女   作:息抜きのもなか

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本日2話目。前回の続き。


むかしばなし・あこがれ

 自分の気持ちを自覚してからは早かった。

 ■■■の役に立ちたいと思って、キヴォトスをその場で決めた私は、高校進学のタイミングでキヴォトスへ移ることになった。

 

 それからはずっと、背伸びをする可愛らしい子供だったように思う。

 賢く見られたいと適当にやっていた勉強を頑張った。■■■がお気に入りだったと言う街を取り戻したくて復興のやり方についても勉強した。

 真面目にやってみれば私は才能というか適正みたいなものがあったのだろう、新しい知識を得ることが楽しかった。

 

 少しずつ、自分を変えた。

 口調を変えた。私が人気者なら嬉しいだろうと思い、もっと接しやすいような人間になりたかった。

 髪型を変えた。昔から憧れていたものに自分を重ねて、服装も段々とそれに寄って行く。

 中学三年の夏――■■■にヘイローを強請った時期にはもうほとんど今の私は完成されていた。

 

 調べるうちに、あの街のことも好きになっていった。

 全ての街を自分の足で回った。人に触れ、歴史に触れ、活気あるこの地を取り戻したいと心から思った。

 そのころには■■■への気持ちとは別に、ただこの土地のために動きたいと思うようになった。

 

 入学前に連絡を取ってコルニリア連合学園の生徒会の人たちと顔を合わせた。街の復興プランを提案したのをきっかけに、定期的にオンラインミーティングをするような仲になった。

 そんな中で、コルニリア連合学園に借金があることを知った。

 この地へのアクセスが取りづらいからか中々業者を呼んでも来てくれず、復興も難航している様子で、足元を見られて法外な値段を吹っ掛けられたらしい。もともと人数がいない自治区だったこともあって借金をせざるを得なかったようだ。

 

 そのときぐらいからだろう。■■■が言っていたような、観光地としての運用ができないかと考え始めたのは。

 学校として運営している以上、観光地にするにはいろいろとハードルが必要そうだったので、いっそ学校の運営形態を観光地の運営をするような商業高校的なものにできないか考えた。しかしそれは反発が考えられることもさることながら、現状の生徒全員にそれを求めることになるのは少し酷だと思って提案しなかった。ただこの街が好きだけど、人の前に出て接客したりお金の計算をしたりするのが得意ではない人も多いはずだから。

 

 何回か調査のためにキヴォトスに出入りしている中で、段々と自分の神秘の輪郭があることに気が付いた。生徒会の人と交流するときにはその輪郭に相手が触れないように精一杯自分に寄せることがギリギリだったが、いろいろと誤魔化しながらお話して次回以降はオンラインでやることで事なきを得ていた。

 神秘の輪郭に気が付いてからは修行だった。■■■のためにも全力で制御の練習をした。結局高校に入学するまでにできたのは外に広がっていこうとする神秘を引き寄せて自分の周りに留めておく程度のことだけで、自分の周りを囲う神秘をどうにかすることはできなかった。

 

 当時の私の周りを纏っていた神秘は私のことを忘れるという基本的な性質だけで、一緒に遊べるぐらいなので気絶等はしない程度の影響力だ。

 だから制服の採寸をしに行った翌日に確認の電話が掛かってきたり、面接の試験に出なかった扱いになっていたりする程度のハプニングはあったものの、無事コルニリア連合学園へ進学することができた。

 

 キヴォトスで暮らすようになってからは都市自体が神秘の塊だからか神秘のコントロールがどんどんできるようになっていって、■■■から貰ったタブレットやドローンの操作の練習を含めても一か月経たないたないうちに慣れた。

 ■■■は自分を黒服と呼んでほしいと言うようになって少し残念ではあるが、これから彼の本名を知っているのが自分だけだと思うと少し頬が緩む。小鳥遊ホシノとかいう生徒のことは気に食わないけれど。

 神秘のコントロールができるようになって、黒服と契約をした。勉強したおかげで書類の抽象的な部分が気になってしまい、いろいろと指摘をして条件を付けてしまった。

 心証を悪くしてしまったかと思ったが、黒服の反応は思ったものと違っていた。

 

「クックックッ。まさかあなたがこの一年半でここまで変わるとは思ってもみませんでした。人間の可能性というものを感じますね。……いいでしょう。あなたの言う内容で契約をしましょう」

 

 なんだか楽しそうだった。

 私が固まっているのを見て黒服は私に言う。

 

「今回は我々にも利があるのでこのまま進めさせていただきますが、本当ならこのような契約を出されたら断るべきですよ、ワタバさん」

「でも、私、黒服の役に立ちたいよ?」

「それはありがたいのですが、世の中にはその気持ちを利用しようとする悪い大人もいるのです。あなたがキヴォトスを離れた後、そういう方々に騙されないか心配です」

 

 とても子ども扱いされているな、と思った。

 それでもやっぱり黒服は私の中で真っ当な大人だと思う。今まで見てきた学校の先生なんかは理不尽を要求してきた。やる意味が分からないことをさせられた。

 黒服は解りやすい。いや、回りくどく自分の思い通りにしようとしているから意図を汲むのに時間が掛かりはするのだが、目的がはっきりしているのだ。自分の気持ちを押し付けて理不尽を強要するより、目的を達成するために手段を選ばない方が、大人のやり方って感じがする。

 

 ああ、だからか。

 私はその時、自分がどうして黒服のことが好きになったのかを知った。

 良くも悪くも真っすぐなのだ。自分のやりたいことに対して、目的を達するために策を練って行動する。手札をあれこれ組み合わせるから複雑に見えるかもしれないが、目的達成という一点において一貫している。

 その人間の芯と呼ぶような部分に対して、私は彼に好感を抱いていたのだと自覚した。

 

 ゲマトリアは私にとって分かりやすい大人の見本だった。

 自分の目標を達するために手段を選ばない研究者、芸術家、開発者、求道者。方向性は違えど自分の目的に向かって手を尽くす大人たち。

 それが倫理的には良くないことだと教えてくれたのもまた彼らだった。

 

「善を基調とする少女が混沌へ足を踏み入れるのは選択的であるべきだ。無垢な少女が我々を手本とし無知なまま混沌へ下っていくのは本意ではない」

 

 芸術家(マエストロ)の言うことは難しくて当時分からなかったが、まあたぶん気に入られていたからこそ止められたのだろう。先生と会った時の話を聞く限り、いつか私にゲマトリアと敵対して欲しいようにも聞こえた。

 

 悪い大人がいれば善い大人もいる。土地の売却に踏み切った私が出逢った人たちは利益や採算は求めるものの、そこに何かの犠牲が伴ってはならないと言う姿勢だった。

 こちらは大人としての責任を行動を持って証明していた。犠牲は容認できないという理想と採算が取れないのなら実行に移すべきではないという現実の境目で苦悩しつつも行動する姿を見せていて、なるほど確かに悪い大人(ゲマトリア)よりちゃんとしている。

 カイザーのような自分たち優先の会社とも商談を行ったが、強引なやり方と搾取する姿勢が気に入らなくてこちらのことを忘れてもらった。ハンコを押すまで返さないように武装集団で銃を突きつけるのは良くないと思った。

 そういう大人がいることを知っていたから、今の会社と契約できて良かったと思う。

 

 商談を進める時期には、住民たちへの説明会も終えていて、私も黒服からの研究報告も相まって神秘の使い方の応用ができるようになっていた。神秘での防御運用を始めたのもこのぐらいから。

 体に纏う神秘を記憶の忘却ではなく速度の忘却とすることで人と触れ合えるようになって、それを安定して維持することができるようになってからは安心して外に出歩けるようになった。防御の練習に根気良く付き合ってくれた生徒会の先輩には頭が上がらない。

 

 土地の売却を進める中で、生徒が転校していくようになった。縮小するこの学校にいるよりはほかの地区に行った方が良いと判断したようだ。

 最初はあまり気にしていなかった。出ていくのは勝手だと思っていたから。

 状況が変わったのは少し経ってから。

 

 初めに転校していった何人かが転校先でいじめを受けていると言う話を聞いた。

 憧れの学校に転校すると言って笑顔で出ていったはずの人たちがそんな目に遭ったという事実は計画を進めていた私の足を重くした。




Q.憧れの学校ってどこ?
A.トリニティ! キラキラしてるし私もあそこの生徒になりたい!
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