残った少女と残らなかった少女   作:息抜きのもなか

3 / 36
ちょっと学校のお話を。
退屈だったらごめんなさい。


コルニリア連合学園の閉校事情

 自己紹介を終えたワタバは小鳥遊ホシノの姿を認めて動揺していた。

 特に因縁があるわけではない。顔見知りだったわけでもない。

 ただ『アビドス』にいる現3年生であろう人間を彼女が一方的に認知していただけの話である。

 

「そういえば、さっきおじさんの顔見て変な顔してたけど、どっかで会ったことあったっけ?」

 

 加えてすぐにそんなことを聞かれてしまえば、流石に隠すことは難しい。ワタバは観念して、一方的にホシノの存在を知っていたことを告げる。

 それを聞いてホシノの目が細められたが、空崎ヒナがホシノのことを一方的に認知していたように、1年のときのホシノはキヴォトスでも有名である。それをホシノも自覚していたが故か、ワタバが1年のときにホシノのことを知ったと聞くや否や恥ずかしそうに頭を掻き警戒を解いた。

 

「いや~、若い頃のおじさんはやんちゃだったからね。こんなところまで届いてたかー」

 

 ワタバが仕入れた情報は戦闘力に関するものではない。故にホシノの『やんちゃしてた』発言も相まって、元々の動揺に武力面での不安が加わってしまう。

 しかし、そこに先生がいること、そしてホシノ自身がこちらに敵意を向けてきていないことからすぐに警戒の必要はないと平静な精神状態に戻る。元より戦闘になれば敵わないことは分かり切っているというのもある。

 図太いだけともいうが、その判断能力と感情コントロール能力は間違いなくワタバの強みである。

 

「"ここは学校なんだよね? さっき唯一の生徒と言っていたけど、他の人も全然いないし"」

 

 校舎に向かいながら、先生からそんな質問が飛んでくる。

 

「いまは私ひとりだ。去年までは教員も何人かいたんだが、今年度に入ってからはずっと一人でここにいるよ」

 

 それを聞いて、二人が息を呑む音が聞こえる。

 アビドスの状況と重ねたのか、あるいはただの憐憫か。

 

「ずっと一人なの? 寂しくない?」

 

 あの砂に塗れた地で一人で戦っているのであろう人間から問われ、ワタバは考える。

 自分に寂しいという感情はあっただろうか。

 

 キヴォトスに来る前から、彼女は交友関係が広くなかった。

 原因は明確なのだが、それに気づいて制御できるようになったのが15歳の秋。高校進学を期にこのキヴォトスへ来た彼女からしてみれば孤独は当たり前のもので。

 それを明確に自覚して突き付けられてもなお、彼女はそれが自身の心を疵つける要因になり得ることがないと断じることができる。

 

 孤独に耐性が付いた? 否。

 孤独に対する感情が抜け落ちた? 否

 

 元々一人であることを問題にしない性質(たち)であったからこそ、かの神秘が彼女に宿ったのだ。

 

「特には気にならないかな。送り出した同輩たちから連絡が来るし、たまにここを訪れる友人もいる。ああ、身の回りの全てを自分でやるのが多少面倒だね。でも、それぐらいだよ。慣れたものだ」

 

 言ってから、強がりに聞こえないでもないな、と彼女は眉を寄せた。もう少し良い表現があったかもしれないなと頭を悩ませていれば、こちらを向いて微妙な表情をしている二人が目に映る。

 ワタバとしては言葉通りの意味でしかないのだが、案の定二人は、特に先生は本気でこちらを案じているようだった。『先生は生徒の言葉を曲解して捉えるきらいがある』。不定期で様子を見に来る友人からそんなことを言われたことを思い出した彼女は、より深刻そうな顔をする先生に向けて言葉を続ける。

 

「そんな顔をするなよ。この孤城を作ったのは私の意思だ。自分一人で自由にできる空間が欲しかったから、他の生徒や教師を追い出したんだ。こんなこと、この立地、この学生という時間にしか得られないだろう?」

「"追い出した?"」

「そう。生徒には適した場所への紹介をして。教師は去年のうちに卒業試験に合格して存在意義を奪って。この景色、この景観を私が独り占めできるようにしたんだ」

 

 そこまで言ってなお、先生はワタバに疑いの目を向けている。悪ぶった子供の強がりだとでも思っているのだろうか。

 先生は自身が"生徒"だと判断した人間に対してはひどく甘く、そして過保護になるとはどこかで聞いた話。本人が望んでいようがいまいが絶対に助けようとする、とも。

 はた迷惑な話である。

 

 これは埒が明かないと判断して、ワタバはさらなる情報開示を行うことにする。

 

「学校の規模を縮小した理由は外部要因だが、本校をここに移したのは半分ほど個人的な理由だよ」

「へ~、何だか親近感を感じちゃうなぁ。おじさんのところも似たような感じでさー」

「アビドスのことは知っているよ。一年のときに、同じような状況になっている学校について調べていたからね」

 

 それを聞いて、ホシノと先生が顔を見合わせる。

 二人の疑問に対して、「お察しの通りだよ」と肯定してワカバは話を続ける。

 

 ワカバがコルニリア連合学園に入学した当時、学園は多大な借金を背負っていた。そのことを知った上で入学した彼女はその返済方法を同じような状況にある学校やそこから復活した学校を調べ上げ、その中でアビドス高等学校のことも把握していた。

 学生の身分では到底返しきれない借金と、その利率や月々の返済額、現在の返済状況や延滞状況などをそれなりに詳しく調べて分析したのだ。

 

 ホシノについて知ったのもその際で、青色の胸の大きいのとピンクのちっこいのが馬鹿やっているということを耳に挟んでいた。日々宝探しや依頼を受けて凌いでいるという話を聞いて、行くとこまで行ってるなと感じたことを覚えている。

 ホシノの姿を見た時の動揺は、一方的にそれを知っていたことに加え、似たような状況から()()()()()しまっている自分の現状に対する申し訳なさからのものである。

 

「へ? じゃあ借金返しきったの? どうやって?」

「どうどう……、それも説明するよ。ちゃんと」

 

 さて、どうするか。

 ワタバは迷う。彼女が取った選択は、後発故のズルみたいなものだ。少なくとも彼女はそう認識している。バカ正直に話してもいいが、それでは初めから手の打ちようがなかったホシノにはあまりにも酷な話ではないか。

 

 少し考えた後に、ワタバはそのまま正直に話すことを決める。

 それは、考えるのが面倒になったためである。正確に言うのならば、取り繕うと取り繕わなくてもどうせ傷つくから。ならば事実を話して、自分の取った手法を伝えた方がホシノにとって何か気付きを与えられるかもしれないと判断したのだ。

 

「まあアビドスの君が目の前にいるのにこの手段だと伝えるのは良心が咎めるんだが……」

 

 ちらりと二人を見て、その視線に期待と緊張が入り混じっていることを認めたワタバは、わざと大げさに悪ぶって見せることで少しでも深刻にならないように配慮する。

 

「土地を売った。ここ以外の土地を全部な。法外な値段でふっかけてやったよ」

 

 ホシノと先生が目を瞬く。

 自分へ向けられる憐憫や心配の情など居心地が悪いだけ。ワカバは二人からその類の情が抜け落ちたことに気が付き、これでようやく気を遣わずに話が出来ると穏やかに微笑んだ。

 




ワタバは最近のアビドスを知りません。
状況的に後輩の入学はないだろうと思ってたので、いまも一人で戦っていると誤解をしています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。