残った少女と残らなかった少女   作:息抜きのもなか

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今日はもうないと思ったか? 本日3話目です。


むかしばなし・みちびき

 生徒会の人たちと一緒に転校した人たちの調査をしたところ、巧妙に隠そうとはしていたもののいじめが起きているのは事実のようだった。加えて、学校の文化にもあまり馴染めていないようで苦労しているようだ。

 憧れが先行してあんまり内部の情報を調べなかったのかもね、と先輩は言う。

 この一件があってから私は他の学校について全然知らなかったことに気が付いて、他の学校を調べてみることにした。いろんな学校があることは知っていたが、思っていたよりも個性豊かで特色も多種多様。

 調べてみた後であれば、転校していった人たちも別の学校なら上手く馴染めたんじゃないかと思ってしまった。

 

 借金の返済方法として私たちが取ったのは、街を復興させてから高値で観光地としてプレゼンして売る方法だ。

 そのためにはまず街を修復して観光用に整備する必要がある。その整備の期間は現地の確認が主な仕事なのだが、あまりそこには時間が掛からない。

 街の人たちとの関係もあるから私はそこの部分は先輩たちに任せて、生徒のメンタルケアに回ることにした。先の転校した生徒たちの一件で、転校を躊躇する生徒が増えてしまっていたから。

 

 一人一人から話を聞いた。得意なこと、やりたいこと、好きなこと、苦手なこと。

 転校するときの不安などをヒアリングしただけだったが、それだけでもこの子にはあの学校が合うだろうな、とかいろいろ思いついてしまった。

 それでも本人の希望を優先して特に口を出すことはしていなかった。

 

 ある日、相談に乗った生徒は私が調べた限り彼女が向いていないであろう学校に行きたがっていた。止めてあげたかったが、本人の熱量があまりにも高かったので止めるに止められず、私と話して気持ちの整理ができたのか彼女はその後すぐに転校してしまった。

 後日、彼女が案の定上手く馴染めずに自室に引きこもってしまったという話を聞いた。

 そこからだ。私がやり方を変えたのは。

 

 企業相手にプレゼンしたのと同様に、資料を準備することにした。

 幸い黒服から貰ったタブレットが合ったので、その画面を見せたりプロジェクターにつないだりしていろいろ学校の説明が可能だった。

 相談しに来た子の話を聞きながら、その子に合いそうな学校を紹介した。あまり大きくない学校を紹介するとみんな少し嫌な顔をする。やはり有名な大きな学校に行きたいという願望があるようだったけど、それでも少しずつ説得して、行ってみて合わなかったら恨んでいいとまで言えば渋々従ってくれる子も出始めた。

 

「まさか、自分にそんな才能があるとは思っていなかった」

 

 久々にこの地を訪れた黒服に、そんな話をした。

 私が紹介した学校に行った生徒たちは、転校して一月もしない間に頭角を現し始めた。環境が合うのか、文化が合うのか、ここでは満足にできなかったことで活躍を始めた子がいた。私が想定していなかった方面で才能を開花させた子もいた。

 

「私は自分の神秘の影響もあるけど、相手をあんまり見てなかったって気付かされたよ」

 

 どうせ忘れられてしまうから。

 そんな風に思っていたから、相手がどんな人間かなんて考えたことがなかった。実際に話してその人のことを知っていけば、ルーツも違うし考え方も違って、十人十色で面白い。

 

「ワタバさん、随分と表情が柔らかくなったように思います。さぞ充実しているのでしょうね」

「うん。とっても。皆が報告してくれるんだ。私を信じてくれた子も信じていなかった子も、転校して良かったって、毎日が楽しいって言ってくれるんだ」

 

 そんな自分がいるなんて知らなかった。

 ここに来なければ、きっとそんな自分を知ることもなかった。

 

「いろんな人と話すようになって、つい、考えてしまうんだ。あの子にはこの学校が合うだろうなとか、あの子はこれをやったらすごい才能を発揮するだろうな、とか」

 

 皆が一番輝ける場所に行ってほしいと思うようになるのに、時間はかからなかった。

 この学校を終わらせる決断をしたのは、そのタイミングだ。人が一番輝ける場所があるように、この土地は観光地として使うのが適していると思った。

 そう多くない五つの学校の生徒全員と話して、それぞれの最適な学校を見繕い、提示する。

 動きたくない、頑張りたくないという子を騙して送り出すときに悪い大人(ゲマトリア)がやっていた言葉の選び方も役に立った。ここよりもっといい場所があると確信していたから、本人には悪いけど私は手段を選ばなかった。本人から「騙されたー!」と連絡を受けたけれど、声が明るく楽しそうで安心した。

 

 学年が上がって、転校した人たちの中に生活費や研究費などで困っている子がいることを知った。借金返済の見込みが立ってきたこともあって転校した生徒に資金援助も始めた。さすがにミレニアムに行った子は桁が違いすぎて難しかったが、できる限り卒業まで困らないぐらいの援助を行った。

 皆が楽しそうにしてくれていて嬉しかった。

 ずっとこれがやれればいいと思った。皆を導きたいと思った。

 

 ああ、そうだ。思い出した。

 私は生徒を導く教師になりたいと思ったんだ。

 だからシャーレの先生が気に食わなかったんだ。私が成りたかったものになっているくせに、中途半端なことしかしないあの大人が。

 実際にシャーレで話をして気付いた。先生は『自分に責任を取らせてくれる子供』のことを『生徒』だと認識していることを。そしてそれを疑っていないのが癪に障った。

 

 だけどそれはやっぱり、私と先生のスタンスの違いでしかないわけで。

 私は責任は自分で負うべきだと思う。少なくとも私は責任を自分以外の誰かに押し付けることなんてしたくない。それすらも全部私のもので、渡したくなんてなかったから。

 でも、先生が相手にしているのは責任(それ)が重荷になってしまう生徒なのだろう。

 私が皆にその子にとって最適な環境になるだろうところを案内していたから、自分の器以上のものを背負ってしまう人が居ることを忘れかけていた。そういう生徒に先生のスタンスは合うし、自分で責任を取れる生徒に先生が不要なのは分かりきっている。

 先生はたぶん、あれでいい。だから敬意をこめて、先生のことを先生と呼ぼう。

 

 戦場で話したとき、先生が私を見る眼は生徒を見るそれだった。先生に話した情報と又鳩から渡ったであろう情報を考えると、大方私がキヴォトスのやり方を知らないとでも思っていたんだろう。

 そのぐらいは心得ているとも。どれだけ学校のことを調べたと思ってるのか。

 その中には自分たちで自治する中で起こった問題やクーデター何かの話も出てきた。どうしてキヴォトスが『学園()()』と呼ばれているのか、その意味をちゃんと理解したものだ。

 私が戦場に出向いたのは大人のやり方でことを収めるため――代表者との交渉と対話によって解決する必要があると思ったからだ。戦闘は想定していたし、それで死ぬ可能性は考えたが、別に死のうと思って戦場に行ったわけじゃない。

 

 私は教師とは、生徒に方向性を示して導くものだと思っている。よりその生徒に適した方向に向かわせるものだと思っている。先生はどちらかというと生徒が向かいたい方向に行くのを応援するタイプだ。たとえそれが本人の才能と合致しない物でも、先生はそれに否とは言わないだろう。

 だから又鳩のことを止めるのを先生にお願いしたのは、今思えばお門違いだったと思う。

 先生は必要なら喧嘩しろというタイプだ。ぶつかり合うことも時には必要だというタイプだ。私とぶつかり合おうとしていた又鳩のことを止めるはずもなかった。

 私にとっての最適解は、先生にコンタクトを取らないことだったのだと思う。

 どうせ先生はこの戦場についてきただろうし、私が事前に先生と話そうとしなかった場合、戦う前にまず会話したいとか何とか言って最初に話をする算段にしたんじゃないかと思う。

 そうすれば私と先生、大人のやり方(会話と交渉)で丸く収まったのかもしれない。

 

 なにか、頭に引っ掛かった。

 ああ、そうだ。戦場だ。さっきから平然と語っていたけれど、撃たれたことを忘れていた。

 

 又鳩と話をしなければいけないんだった。

 懐かしい夢の中で浸っている場合じゃない。先生の惚気ばっかりで千年の恋も冷めたなんてどうでもいい回想をする必要なんかない。

 

 

目を開ける。▼

 

 

 先生は先生のやり方をすればいい。

 私は違うやり方で皆を助ける。

 それでいい。私たちは、そうあるべきだ。

 

 

身体を起こす。▼

 

 

「まずは色彩に捕まった可愛い後輩を、助けに行かないとね」

 

 私の青春の物語に、君は要らない。

 けれど君の、先生と生徒の物語(ブルーアーカイブ)であるならば、ハッピーエンドで終わるべきだろう?




ワタバ回想編終わり。
本当はもう少し黒服との会話や最終編のときの防衛とか書こうと思ってたんですけど、話の流れ的におさまりが良いので割愛。あんまりお話の中で重要じゃないしね。
とはいえ、ワタバのルーツは十分書けたと思います。
目を覚ましたみたいなので、頑張ってもらいましょう。
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