残った少女と残らなかった少女   作:息抜きのもなか

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先生視点の物語の終わり。


アポ

 メリサの()()は成功した。

 意識が途切れる前に大人のカードを使ったことが功を奏したのか、メリサはすぐに意識を取り戻して周りとちゃんと話してほしいと説教した。

 それから一命を取り留めた()()()()()()にメリサと一緒に頭を下げて、何とか許してもらうことができた。

 

 結局、メリサが助けたがっていた彩ワタバという生徒は一年前に売買契約を締結した段階でこの街から姿を消していたらしい。

 ヴェリタスの皆に防犯カメラを調べてもらって行先を確認したけれど、電車も陸路も映っておらず、改竄された形跡もないらしい。本当にある日突然姿を消した形だ。

 黒服が連れ去ったのではないかと思っていたのだが、ある日契約を終了すると一方的に告げてゲマトリアが複製した彼女の神秘をすべて回収して去っていったので心配をしていたと言う。彼女の神秘は忘却の神秘というもので、私たちの記憶が消えたのは彼女がこの街に来た当初垂れ流していた神秘の残滓に触れてしまったからではないかと言っていた。

 正直黒服の言葉がどこまで信用できるのかわからないし、今のこの状態もワタバによって記憶を消されているだけで、あの日だけ帰ってきていたかもしれないという可能性も捨てきれない。詳しいことが分かるまで結論は出さないことにした。

 

 アビドスのみんなの慰安旅行は、楽しいままの思い出の方を信じることにした。

 結果的に何の企みも行われていなかったのだから、楽しかった記憶のままでも何ら問題ない。整合性も取れているようで、実際の観光スポットにメリサの案内で行ってみても記憶と同じ景色が広がっていた。

 きっと問題ないのだと思う。

 

 

 三年生の卒業が近付いてきたある日、一通のメールが届いた。

 来年度から連邦生徒会に外部顧問を雇って、新部門を創設するという旨のメールである。

 

「"進路相談室?"」

『連邦生徒会所属とは言うものの、その外部顧問の方以外に特に人員を配置するわけではないみたいですね。行政室ではなく別の括りのようで、立ち位置的にはシャーレと同列のような扱いみたいです』

 

 アロナの説明を聞いても、いまいちピンとこない。

 進路相談室という名前だから生徒から進路に関する相談を受けるところだというのは解るのだが、わざわざそれを連邦生徒会が外部顧問を雇ってまでやることなのか分からなかった。

 

「"ひとまずリンちゃんに聞いてみようか"」

 

 サンクトゥムタワーに出向いて、リンちゃんを訪ねる。

 アポなしの訪問にリンちゃんはすごい目でこちらを睨んできたが、引継ぎもほとんど終わっているようで次期主席行政官に仕事を任せると私と話す時間を取ってくれた。

 

「それで、今日はどのような用件でしょうか」

「"新しい部門を作るって聞いたんだけど"」

 

 それで何の話か伝わったようで、「ああ、進路相談室の件ですね」とリンちゃんは納得した。

 席を立ったリンちゃんは近くの引き出しから何やら資料を探しているようで、「ありました」と資料を引っ張り出してきたリンちゃんは私の前にその資料を置いた。

 手に取ってみれば、それはプレゼン資料のように見える。

 

「先日、この資料を持って連邦生徒会に籍を置かせてほしいと熱弁されまして」

「"結構しっかりした資料だね"」

「ええ、よくできています。進路相談室とはいうものの、実際は学校に上手く馴染めない生徒のケアをすることが目的としています。普通の進路相談にも乗ってもらう予定ですが、メインは生徒に適した学校への転校支援です」

 

 聞けば、キヴォトスの中にも環境が合わなかったり文化が肌に合わなかったり、はたまた人間関係の拗れだったりで学校に馴染めずに休学や引きこもりになる生徒は少なくないとのこと。

 そこに対するケアが必要なことは分かっていたのだが、どこも万年人手不足でそこまで手が回らない。加えて自分の学校に関する知識はあっても他校に関する知識は偏見レベルということが日常茶飯事なので、公平にそれを行える人材がいなかった。

 それを実現できる実力を示した人材が湧いてきたのだから、即決したのも頷ける話ではある。

 

「まずはお試しで三か月運営してみて、生徒からの評判を見て継続の可否を決めていいとのことでしたので、次期生徒会長の一声で採用が決まりました」

「"なるほど、確かに必要な人材かもしれないね"」

 

 パラパラと資料を捲ってみるが、過去の実績には三大校ではないところで最近名前を上げた子やミレニアムに突然現れて結果を示した子を案内したと書いてあった。

 流石に誇張しているのではないか、と思ってよく見てみれば、転校前の高校はどちらもコルニリア連合学園となっている。

 もしかして、と思う。

 

「"その人と話してみたいんだけど、どこに行けば会えるかな"」

「あの人も先生同様にフットワークは軽いですからね。会おうと思ったら、アポを取った方が良いと思います」

 

 自分も確かに結構フラッと出掛ける方なので、それを想えばアポなしだと会えないというのは何となく想像がつく。

 私はアロナに明日のどこかでアポが取れないかお願いする。

 

『すごい返信が早いです! 明日の10時でOKだそうです!』

「"アポ取れたみたい。明日会ってくるね"」

「ええ、あの人も生徒想いの方なので、きっとお話が合うと思いますよ」

 

 それは楽しみだ。

 どんな人なんだろうといろんな想像をしながら、翌日を迎える。

 

 私を出迎えたのは、私より少しだけ背の高い、連邦生徒会のパンツスタイルの制服を着こなした男装の麗人。黒の髪に白いヘアクリップがよく映えている。

 その後頭部にヘイローは見当たらない。

 

「今回はちゃんとアポを取ってくれてよかったよ。ここにいることはほとんどないからね」

「"……?"」

「ああ、こっちの話だよ。はじめまして、シャーレの先生。連邦生徒会進路指導室所属、外部顧問の彩ワタバだ。よろしく」

 

 穏やかな笑みを浮かべる彼女が差し出された手を取る。

 共に生徒を導く者として、彼女はとても頼もしく見えた。




残り2話。メリサ視点とワタバ視点で本編終了です。
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