残った少女と残らなかった少女   作:息抜きのもなか

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エピローグ 残った少女

 あの日から、何かが変わった。

 死の淵を経験したからなのかは分からないが、憑き物が落ちたように心が軽くなった。いろいろ疑心暗鬼に陥っていたのが嘘のようになくなって、自己肯定感も戻ってきた。

 

 ふと思う。

 あれは夢だったのだろうか、と。

 

 記憶の中には先生に助けてもらって説教された記憶がある。

 それなのに、あの時から度々見る夢がずっと私の心を掴んで離さない。

 

 ワタバ先輩に告白して、断られて、先輩が色彩に挑んで、消えた。

 

 あれが夢か現かは分からないけれど、その夢があったおかげで私の中で燻っていたワタバ先輩への気持ちを整理できたのは幸いだった。

 夢の中で最後に思ったずるい人、という感想は変わらない。

 それでもきっといつか、この気持ちすら思い出に昇華できるはず。それを信じて、前を向く。

 

 先生(夢が現実ならワタバ先輩)に言われたように、周りの人たちと話をした。

 足手まといで役立たずだと思っていた私は、どうやら皆からはそうでもなかったようで。

 

「エデン条約のときはあなたが行方不明になっていたことで、皆がメリサさんを探さなきゃ、と折れそうな心を奮起させる理由になっていたみたいですよ」

 

 最初、アコ行政官から言われたその言葉の意味が分からなかった。

 それでもエデン条約のときの話を皆に聞いて行けば、私の知らない惨状は思った以上のもので、ヒナ委員長が一度折れてしまうような異常事態だったと知った。

 

「現場の惨状を見て、みんな戦意を喪失していました。巡航ミサイルに加えて、あの幽霊みたいなユスティナ生徒会です。何度でも復活する化け物に、心が折れそうになりました」

「でもここで諦めたら二度と小隊長に会えないと思ったらやっぱりそれは嫌で、みんなで小隊長を見つけるまでは頑張ろうって思えたんです」

「少し言い方は悪いけど先輩が埋まっててくれたおかげです。私たちのメンタルが保ったのは」

 

 知らなかった。私があそこで気絶していたことがそんな影響を与えていただなんて。

 話を聞くうちにそれが私の小隊だけでなく他の小隊のメンバーすらもそれをモチベーションにしていた人が少なくないようで、心配はかけてしまったものの慕われていたことを知る。

 あの時以外でも私の存在を風紀委員としての活動のモチベーションにしている子もいるようで、ヒナ委員長に言わせれば私はいるだけで仕事をしているらしい。

 

 皆と話す中で知った。私のファンクラブって何!? どういう団体? 何やってるの?

 どうやら私の髪の毛のモフモフ権を管理しているらしい。意味が分からない。管理ってどういうことだろう。そもそも共有財産みたいに扱われているけど私の髪だよ? 誰に触らせるかは私次第だよね?

 そう思ったら、私が自分から触らせる分にはノーカウントらしい。

 しかし一度でも私の髪でモフったらファンクラブへの入会を促しているらしく、先生もいつの間にか会員になっているという。そういえば、触らせたことがあったような気がする。

 何やら私を不快にさせないためのモフり方ルールみたいなものもあるらしいが、それ以上聞くのはやめておいた。何やら闇が深そうで、自分のこととはいえ正直ちょっと怖い。

 それでも害はなさそうなので、好きにやらせることにした。そう伝えたらとても喜んでいた。

 複雑。

 

 温泉開発部と戦った件も、別に特にみんな気にしていないらしい。

 逆に、あれとエデン条約以外の任務で救急医学部に運びこまれずに風紀委員をやっているのが異常だとまで言われてしまった。イオリさんですら月に一回以上のペースで運ばれているらしい。

 

「あなたは完璧を求めすぎているわ。私もアコも、他の風紀委員だって、今でも十分あなたを信頼しているんだから」

 

 ヒナ委員長が先日の作戦に参加してくれた理由がようやくわかった。

 大義名分があるというのは建前で、単に私に力を貸したかっただけらしい。もっと言えば、珍しく我儘を言ってくれたことで皆喜んでいたのだとか。それはそれで気恥ずかしい。

 ともあれワタバ先輩の言葉は事実だったようだ。あれ、先生だったか。どちらでも同じことだけれど、私は自分に望み過ぎていたようだ。いろいろ考えすぎていたが故に基準を高く持ちすぎていたらしい。

 

「あの、頼み事をしてもいいですか?」

 

 あれから少しずつ、周囲を頼ることを覚えた。

 私の言葉を迷惑がるどころか目を輝かせる人たちにこちらが驚いてしまったこともあるけれど、少しずつ私も変わっている。

 責任があるからといって、全部が全部私がやる必要はないのだ。

 

 ある日、私と同じ銃を使っている子を見かけて、一緒に訓練に参加した。

 流石に反動が大きいからか両手持ちだが、綺麗なフォームで命中率も安定している。片手で扱うにはまだまだだが、両手で構えるのであれば十分に実戦レベルだと言えるだろう。

 

「あんまり神秘を込めすぎないで。そう、そのぐらいです。この型は威力が高すぎるのでキヴォトスの人間と言えど結構危ないんです。これ以上神秘を込めた攻撃をするなら、手足にしておいてくださいね」

「は、はい! 分かりました!」

 

 その子は案の定私のファンクラブ会員だったようで、私の銃を真似してくれていることもあってモフモフさせてあげた。なんか恍惚とした表情をしていてヤバかった。ちょっと怖い。

 

 温泉開発部へのリベンジにも成功した。

 以前私を陥れてくれた鬼怒川カスミさんをはじめとした部員の首根っこを掴んで引き摺れば、情けない顔で涙をこぼしていた。

 

「うぅ……ヒナならばまだしも、ミドリモップにまで捕まるなんて……」

「ミドリモップじゃありません! 以前ちゃんと名前で呼んでいたでしょう!」

 

 牢屋に入れる間に持ち物検査をしたら、口では言えないところまで爆弾を仕込んでいた。捕まってもいいように準備している周到さに舌を巻きつつも、念入りにチェックしてから牢に放り込む。

 その結果カスミさんは隣の牢屋で爆発が起こって逃げ出すまで一週間近く牢に入れられていたようで、その後顔を合わせるたびに全力で逃走されるようになった。曰く、適当に放り込むヒナより質が悪いと。

 持ち物検査がちょっとした拷問だったと言いふらされて、ちょっとした噂になってしまったりはしたが、些事なことである。噂の影響か何故か私の前で規則違反をしてわざと捕まる生徒も一時的に増えたが、持ち物検査を全部私が担当するわけじゃないと知られるとその数は減っていった。

 

 便利屋の皆さんには結局迷惑を掛けてしまってばかりだったので、先生を通じて保存のきく食べ物を送らせてもらった。偽りの記憶の中に旅行も楽しいけれど食べ物の方が助かるとカヨコさんから話をしてもらった記憶があったからだ。

 そうしたらモモトークで物凄い勢いで感謝されてしまってびっくりした。

 詳しく聞いたら今月はアルさんの使いすぎで雀の涙ほどしか運転資金が残っていなかったらしく、カップラーメンを四人で分け合うぐらいの状況だったらしい。定期的に先生から弁当を差し入れて貰わないと立ち行かない状況に陥っているのはどうかと思うが、喜んでもらえて嬉しかった。

 

 ある日、引継ぎ中のヒナ委員長から、風紀委員全員に通達があった。

 連邦生徒会で新たに「進路相談室」という部門が設立されたという話で、進路とは言うものの実際は引きこもりの生徒などに対する支援を行う部署のようだった。

 その理念の『生徒自身が一番輝ける場所に向かうのを支援します』という一文を見て、私はもしかしたら、と思う。

 

 ちゃんと伝えなきゃ。もしあれが夢だったのだとしても。

 私がゲヘナ(ここ)に残って楽しく過ごしていることを。私が今、幸せであることを。




というわけでメリサのエンディング。
夢という形でワタバとのやり取りを覚えていたおかげでいろいろと吹っ切れています。色彩さえ外れれば彼女は真っすぐ言葉を受け止められるいい子なのです。

皆さん混乱していると思いますが何が起こったかは次のワタバの視点でお伝えします。
次回、本編最終話です。
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