残った少女と残らなかった少女   作:息抜きのもなか

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また説明回になっちゃった。
この先はほとんどないから許して。


コルニリア連合学園は観光地?

「あのトンネルを抜けてきたってことは、他の街を見てきたんだろう?」

 

 学校のある高台に移動しながら、ワタバは先生とホシノの二人にそう問いを投げる。

 二人は階段を上がりながら海の方を見て感嘆の声を上げてこそいたものの、隣町でもう似た光景を見てきたからか反応が薄く、返事がなくともわかりやすい。

 

「見てわかる通りここは景色がいい。観光には持って来いの街だ」

 

 不良生徒の排除は完璧ではなかったようだが、と付け加えながら苦笑する。

 治安維持の方面でもう少し管理会社へ口を出しておくかとタブレットのTodoリストにタスクを加え、ガランゴロンと重低音を響かせる学校の門を横へ流していく。

 

「"随分と古い学校だね。修繕工事とかはしないの?"」

 

 先生のその指摘を受けて校舎を改めて確認してみれば、確かに少し耐久面で不安が見える。外壁の傷や汚れに関しては年季の入った味があると言うことで済ませられるが、所々ひびが入っていたり板が外れかけていたりする。

 加えて今開けた門の重さも加味すれば、観光地としての安全面や快適さから見ても手を加えなければならないだろう。

 

「倒壊の危険は現状はないよ。とはいえ観光地として使用してもらうには改修工事は不可欠かな」

 

 ここはいっそ展望台にするのを提案してもいいかもしれない。何せこの学校から見える景色がこの街の中では一番いい眺めなのだから。

 そんなことを考えながらタブレットに思いついたアイデアを記入して保存する。

 

「"ここも観光地に……って、ここも売るの!?"」

「そうだよ。既に売却契約は完了済みで、今年度末で引き渡しが決まってる」

「じゃあこの学校は廃校が決まってるんだー」

 

 二人の問いに肯定を返し、タブレットを操って売却契約の証拠を表示して共有する。

 

 コルニリア連合学園はワタバの言葉通り、今年度で廃校が決まっている。向こう10年は新入学生がいないことと、土地の売却が既に終わっているためだ。

 元々5つの街に一つずつ存在した校舎を、ワタバが2年に進級するタイミングでコルニリア本校とリオマッジョーレ分校のみに縮小。今年に入ってからはリオマッジョーレ分校にコルニリア連合学園の本校を移動しているため、ワタバが居住しているコルニリア連合学園本校の校舎は正確にいうなれば元リオマッジョーレ分校の校舎である。

 

「本校をここに移したのは単純にここが5つの街の中で一番奥に位置していることと、私が一番気に入っているからだね」

「……廃校にするのに反対する人はいなかったの? おじさんの可愛い後輩たちはアビドスをなくしたくなーい! って躍起になってくれてるから、おかあさん涙が出そうになったこともあったんだよ……」

 

 ワタバはそのホシノの言葉でようやくアビドスに新入生が加わっていることを認識する。それを聞いて雰囲気が仕入れた情報より軟化していたのはそういうことだったのかと合点がいった。

 それと同時に目の前の生徒が孤独ではないという事実に安堵する気持ちもある。今こうやって話していても一人が得意なタイプではなさそうだし、年度半ばでの悲劇はワタバの耳にも入っていたから。

 

 また、ホシノが言うように生徒の反対が全くいなかったわけではない。ワタバの脳裏に最後まで廃校にしたくないと駄々を捏ねていた後輩の顔が容易に思い浮かぶのがその最たる証拠である。

 年度が切り替わるギリギリまで粘られて転校手続きと年度末処理とが重なってしまったため、当時は随分とバタバタする羽目になった。

 

「反対派もいたけど、元々人数は多くないからね。何とか丸め込んで転校させたよ」

「おじさんそういうのはあんまり良くないと思うなー」

 

 非難の視線を浴びて逃がすように先生の方に目をやれば、先生の方もワタバの行いに良い印象を抱いていない様子である。

 ワタバは肩を竦めておどけて見せながら、満足して出ていった彼らのことを思い返す。

 

「ちゃんと納得はしてもらっているよ。金を出せばいいってもんではないけれど、新しい場所で上手くやっていけるように困らないぐらいは渡したしね」

「"そんなに余裕が生まれるぐらい高く売りつけたの?"」

「相場よりは高いだろうね。でも、付加価値があるうえに使い物になるように改修してから引き渡しているんだ。その費用分の回収ぐらいは許されるだろう?」

 

 だから実際のところは適正価格だと思っているよ、とワタバは悪びれずに言う。

 

 元々沿岸部の僻地ということもあり、学校より観光地として活用するほうが適切な使い方とまで言える土地である。そこに既に構築されていた学園都市としての機能を観光地として活かせるような改良を行い、今すぐにでも人を呼べば観光地として機能するような状態にしてから売ったのだから、これからの開拓が不要な分土地自体の価格も上がるというもの。

 その状態でこれから観光業をサブ事業としてスタートしようとしているお金に余裕のある大企業にアプローチし、活用方法から観光収益の予測まで詰め込んだ提案書を叩きつけた結果、彼女の想定より高い金額で売却することができたのだ。

 

 諸々の理由であまり金額が伸びないだろうと考えていたヴェルナッツァの土地は最初の街を買った企業がワタバの顔を立てて色を付けた価格で購入。数か月後に観光地としてオープンしたモンテロッソ・ヴェルナッツァの2つの街の評判が良かった影響により、当時の本校の位置するコルニリアの街を購入したいという声が他の会社からも入り、価格が吊り上がっていった結果として最初の街を購入した企業に当初の数倍の金額での売却が決定。

 この時点で学校の借金がほぼ完済するような状況だったために、ワタバは4つ目の街の売却金を転校する生徒の支援強化に充てる方向に舵を切った。

 

「"あれ、じゃあなんで最後のこの街まで売っちゃうの?"」

「他の街の売却で借金は返せてたんでしょ?」

 

 二人の指摘通り、借金問題は4つ目のマナローラの街を売った時点で解決しており、その時点で廃校にする必要はなくなっている。

 実際のところ、後輩の最後の一人がギリギリまで学校を離れなかったのもそれが原因である。

 

「さっきも言ったけれど、ここは学校として利用するよりも観光地として利用する方が有効活用できると思うんだ」

 

 というのが、表向きの理由。

 最後に残った後輩にも自分たちの母校を管理する者がいなくなって人知れず荒れ果てるより、観光地として綺麗なまま残る方が嬉しいでしょ、という理論で押し通した。

 

 しかしワタバにも自覚があるように、それを理由にするのであれば街を残して人を入れておけば済む話で、最後の街まで売却する理由には物足りない。

 最後の街まで売る最大の理由は、ワタバの個人的で自己中心的な理由である。

 

「まあ本当の理由は、卒業後にここを売ったお金で働かずに悠々自適に暮らすためなんだけどね」

 

 キヴォトスは物騒なので、街の外に家でも買ってダラダラと過ごそうかなと卒業後の生活を夢想する。彩ワタバとは、そういう人間である。




お気付きの方もいるかもしれませんが、本作の舞台はイタリアのチンクエテッレという地域がモデルです。
作中に影響する要素は正直もうほぼないんですが、あと2つか3つぐらいの要素は入れていければなと思います。
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