残った少女と残らなかった少女   作:息抜きのもなか

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さて、役者は揃った。
あとは最後まで突き進むだけです。


合流

「――と、そんな形で便利屋の皆さんに危ないところを助けていただいたので、こうして観光地として新しくなった故郷にご招待したというわけです!」

「”なるほど、大変だったんだね”」

 

 便利屋68の四人にお礼を兼ねて最近オープンした故郷の観光地への三泊四日の旅行へと案内していたメリサは、アビドスの面々を連れて同じくこの地を訪れていた先生を発見し、一緒に居る理由を説明していた。

 

「"便利屋の皆も、メリサを助けてくれてありがとう"」

「べ、別に私たちはその子を助けたんじゃないわよ? ただ私たちの居るビルで温泉開発部が好き放題やってたから、そのけじめをつけただけで……」

「”うん、それでもありがとう”」

 

 先生の言葉にむず痒そうな反応をしたアルを弄ることで盛り上がる便利屋の横目に見ながら、メリサはアビドスの面々へと向き直る。

 その中に誰かと似ているような気がする、先生よりも背の高い女性を見つけ、はじめましてと手を伸ばした。

 

「はじめまして。メリサといいます。アビドスの皆さんとは、エデン条約の時以来ですね。あの後はゲヘナ内でいろいろと対応に当たっていたもので全然お会いできませんでしたが、元気そうでよかったです」

「ん、私はシロコ。そっちのよわシロコの成長した姿。……よろしく」

「はい、よろしくお願いします!」

「おー、メリサちゃんの方も随分とモフモフ度がグレードアップしたね~。おじさんここに住んじゃおっかなー」

「ん、ホシノ先輩、ちょっと気持ち悪い」

 

 変わらないアビドスの面々に安堵しつつ、シロコさんの成長した姿ってなんだ? と遅れてきた疑問を受け流す。考えたところで答えが出ずややこしそうだという直感を信じ受け流したメリサの判断は、戦場で磨かれた判断能力の賜物だろう。

 頭に浮かんだ疑問をアビドスの面々が彼女の髪を堪能している間に一つずつ消去していく。

 そして残った疑問を口に出せば、ホシノがヘラヘラと笑いながらこの地へアビドスの面々と来た理由の説明を始めた。

 

「いやー実はね、お世話になった人たちに慰安旅行をプレゼントしたくて先週末に旅行の下見に行ってきたんだけどさ、おじさんたちは全然違うリゾートに行ったつもりだったんだけど、シロコちゃんたちにおじさんたちはここに来てたはずだって言われちゃったんだよねー」

「ん、ホシノ先輩が変なことをしないように予定と行き先はいつもチェックしてる」

「おかしいよねー。下見には先生と一緒に行ったんだけど、先生もおじさんも全然違うところに行った記憶しかなくてさ。うへーやっぱり歳かな?」

 

 茶化しながら言うが、起きた事象はなかなかおかしな事象である。一人だけなら記憶違いで済むが、二人とも同じ記憶違いをすることがありえるのだろうか? 確立を考えればゼロではないのかもしれないが、到底それが起きたとは考えにくい。

 そんなことを考えていれば、便利屋と先生の話が終わったのかこちらに近づいてきた便利屋68の四人へ今の話を共有する。

 

「え、どういうこと? 普通に勘違いとかじゃないのかしら?」

「社長。確かに一人だったらそうかもしれないけど、二人とも同じ記憶違いっていうのは考えづらくない?」

「え? あ、確かにそうね。とっても不思議だわ!」

 

 カヨコがメリサの考えていたと同じ内容を口に出す。

 それは当時二人きりで旅行に行ったホシノを詰めた時のアビドスの面々も同じ考えだったようで、どうせここに来た記憶がないのならもう一回行っても楽しめるだろうということで、記憶違いの原因調査も兼ねて今度はアビドス全員でこの地域に来たらしい。

 

「にしてもやっぱりきれいな景色だよねー。ほんとはお世話になった人への慰安旅行の予定だったから、ヒナちゃんとかも呼びたかったんだけど、予定が合わなかったみたいでねー。これじゃ私とおっきいシロコちゃんの卒業旅行みたいになっちゃったね」

「……卒業旅行。ん、良い響きだね。先輩や皆と来れて嬉しい」

 

 せっかく合流したので、今日は一日一緒に回ることに。

 メリサがここの出身であることもあり、お決まりの場所からちょっとした穴場まで案内はお手の物で、各々その景色と街並みを余すことなく堪能していた。

 

 一通りコルニリアの街の案内を終えて、メリサは楽しそうに話している皆を見て笑みが零れる。

 ふと視界の端にあったものに目が留まって、メリサの足が止まった。

 

「あれ、どうしたのモップちゃん」

 

 メリサの足が止まったことに気が付いたムツキが声を掛ける。

 反応のないメリサの顔を覗き込んでその視線の先を追っていけば、先ほどまで皆と一緒にいた展望台が見える。先ほどあそこにいたときは特に何も気にせず話していた様子だったが、今そこを見る表情は何とも言えない微妙な表情である。

 

「モップちゃんが見てるのって展望台だよね? あそこに何か嫌な思い出でもあった?」

「誰がモップですか! ……いえ、実はあそこは、去年まで私が通っていた学校があった場所なんです。いつの間にかもう展望台になっていて、いえ、聞いていた話の通りなんですけど何とも言えない気持ちになってしまって」

「……そっか。自分の学校があれになっちゃったんだ。私たちは学校に行ってないからあんまり学校には愛着ないけど、よく使ってた場所が別のものになっちゃうとちょっと寂しいっていうのは分かるかな」

 

 いつの間に隣に来ていたカヨコがメリサの寂寥に同意する。どうやら立ち止まっていた二人に気が付いて、何事かと様子を見に戻ってきたようだ。

 ムツキが「わかるー!」と同意したことで少し笑みを取り戻したメリサは、ポツリポツリと胸の内に詰め込んであった感情を言語化して放出する。

 

「私が転校する前からそういう話があって、最終的には納得はしてゲヘナに転校したんですけど、いざこうなったのを見るとやっぱりちょっと後悔してるところもあって。先輩を一人残してきちゃったっていうのもあるんですけど」

 

 この地に残した先輩が元気にやっていることは、メリサも把握している事実ではある。今回の便利屋68と自分含めた観光チケットを準備してもらうための連絡をしたし、それ以前にもそれなりの頻度でモモトークでのやり取りを行っているから。

 

「三人とも大丈夫ー? ここの地方の限定スイーツがあるから入るみたいよー!」

 

 先生やアルに呼ばれ、カヨコとムツキにも促されて小走りで前を歩く皆を追う。

 

 ――それでも。

 あの一人で何でもこなしてしまうあの先輩と、この地で最後まで一緒に過ごす仮定(イフ)を想像して。

 

「……きっと、楽しかっただろうなぁ、…………なんて」

 

 少女の声は誰に届くこともなく、同行者(みんな)の話し声の中に溶けていった。




テラーの方のシロコってどう判別すればいいんでしょうね。中身はシロコなのであんま変わらないので塩梅が難しいところ。一応この作品中ではしっとりしててホシノを『先輩』と呼ぶ方がテラーの方で、2年生の方はラフな口調でホシノのことを『ホシノ先輩』と呼ぶように書き分けて判別できるようにしてるつもりです。
また、来れなかったヒナちゃんには後ろの方で少し出番を用意しています。
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