朝、アラームのけたたましい音と共に目が覚める。
肩まで届きそうな髪の毛をブンブン振り回して意識を回復させる。
二度寝の誘惑に打ち勝ち、長いあくびを出しながら布団から脱出する。
蛇口を捻って出てきたお湯で顔を洗い、服を着替える。朝はお腹が空かないから何も食べない。そのまま荷物をまとめて家を出る。今日はバイトがあるから…
…といつものように1日を始めようとしたのだが、
道に人が倒れていた。
…誰だろう?何か黒いドレスも着ているし、パーティーの帰りかな?うーん。とにかく声をかけてみないことには始まらないか。いや、でも大丈夫かな?危ない人だったりしないよね?最近物騒だってバイト先の先輩も言ってたしな。『この前なんか大変だったんだぞ?べつのバイトの飲食店でさ、お客さんに料理だしたらさ、なんだっけ、あの、美色研?だったか?に店爆破されてさ。その後風紀委員会も飛んできたんだけどさー。店のもん全部無くなっちゃってさー!w』
あと確か‥『あのエデンジョウヤク?だかの調印式があった日にさ。わたしトリニティのコーヒーショップでバイト入れてたんだけどさ。空からミサイル飛んできたらしくて、わたし吹っ飛ばされちゃってさー!目が覚めた後慌てて救急部のとこに駆け込んだから大丈夫だったけどさ、いやーあれは死ぬと思ったわw』
あと…『だいぶ前になっちゃうんだけどさ。わたしここに来る前にアドビスの「柴崎ラーメン」ってとこでバイトしてたのね。でさ、いつもみたいにラーメン出したんだけど、便利屋88?みたいな人たちが来てたときにラーメン屋全部吹き飛んだよねwあとでそれが風紀委員会の仕業ってことがわかったんだけどお店無くなっちゃって。大将、元気してるかな…』
…まあ大丈夫でしょ。あれは運悪くあそこにいた先輩のせいな気もするし…
「えーと。大丈夫ですか?」
「…ん?誰?」
案外すぐに起きたな。
…自分でも気づかないうちに意識を失ってたみたい。アトラハシースの一件があってからずっとキヴォトスを彷徨っていたから当然かもしれないけど。
「僕は二藍ツバタって言うけど、あなたは?」
この紫の髪をした人はそう言う名前らしい。
「シ…クロコ。砂狼クロコ。」
思わず自分の名前を出しそうになってしまった。でもこの世界のわたしに迷惑はかけられない。
「クロコさんって言うんだ。倒れてたけど大丈夫?」
「大丈夫。よくあること。」
「よくあっちゃダメだと思うけど…何かあった?」
「気にしないで。自分でなんとか「グー」…なる」
「…お腹、空いてるんだね。もしよかったら、うちで食べてく?」
「…じゃあ、お言葉に甘える。」
…これは大丈夫なはず。だって緊張事態だし。
「上がって、靴はそこでいいから」
「ん。お邪魔します。」
…いきなり知らない人を家にあげてしまった。大丈夫かな?強盗とかされないよね?口ではああ言ってたけど実際結構困ってそうだしな…あ、あとでバイト遅れるって連絡しないとな
「何か食べたいものある?」
「…食べさせてくれれば何でもいい。」
「そう?僕も食べたいしチャーハンでも作ろうかな」
「!」
そう決めたらまず冷蔵庫から冷凍しておいた昨日のご飯と卵を取り出してちょっと置いて置く。卵は室温に戻しておくと上手に作れるってお婆ちゃんが言ってた。その後はネギを刻んで、フライパンに油をしく。ネギを炒めたらご飯をいれてどんどん炒める。
「…いい匂い」
作ってるのを見に来たのかクロコさんがキッチンに近づいて来た。
「ちょっと待ってね。もうちょっとで出来るから」
ある程度炒め終わったら卵を入れて火力を上げる。あとは好きな調味料を入れて完成。
「はい。出来たよ」
「ありがとう。いただきます。」
よほどお腹が空いていたのか勢いよく食べ進めるクロコさん。お気に召したようでよかった。
思えばこんなちゃんとしたものを食べたのは久しぶりかもしれない。あっちの世界ではそれどころじゃなかったし。あ、もう無くなっちゃった。
「…」
「よかったら僕のも食べる?」
「!…いいの?」
「うん。僕はほら、朝ごはん食べたし」
「じゃあもらう。」
わたしがしょんぼりしてたのがわかったのか残りの分を分けてくれた。優しい。
「ご馳走様でした」
「お粗末様でした」
「今日はありがとう。このお礼はまた今度する。」
「気にしなくていいよ。困ったときはお互い様。」
彼は本当に優しい。だけど…
「じゃあそうする。わたし、もう行くね。」
ずっとそれに甘えるわけにはいかない。でも彼は…
「えっと。それで聞きたいことがあるんだけど…」
「?」
「クロコさん。家あるの?」
「!」
「自分でも失礼なこと聞いてるつもりだけど、クロコさんの様子見てると色々心配になって。さっきのこともそうだけど、行き倒れてたから家あるのかなって…」
「…そうだよ。わたし家ない。」
「そっか…その、よかったらでいいんだけどさ。」
「?」
「一緒に暮らさない?ちょうど部屋も余ってたし、僕もシェアハウスしてみたかったからさ。どう?」
正直、ありがたい誘いではある。このままではまた同じことを繰り返してしまうだろう。でも、ほんとにそれでいいのだろうか?あんなことをしたわたしが…
「…いいの?」
「僕が頼んでるんだよ?いいも何もないよ。問題はクロコさんがそうしたいかどうか。」
「……」
「いやだった?」
「いや、じゃない。すごいありがたい。でも、そんなに甘えちゃっていいのかなって」
「甘えじゃないよ。」
「?」
「クロコさん。すごく寂しそうな顔してる。聞かないけど、何かあったんでしょ?」
「…うん」
「だったらさ。もっと誰かと一緒にいてもいいんじゃない?大丈夫だよ。それは甘えじゃない、必要なことだよ。」
「…じゃあ、お願い。」
「だから、頼んでるのは僕だってば。」
「…そうだったね。じゃあ、いいよ。一緒に暮らしてあげる。」
「ありがと。じゃあ明日必要なもの買いにいこっか。」
「明日でいいの?」
「今日はバイトもあるし、クロコさんも疲れてるでしょ?今日は休みなよ。」
「わかった。今日は休む。」
「そうしな。じゃあ僕はバイト行ってくるから」
「ん。いってらっしゃい。早く帰ってきて。」
「わかったー!」
「…先生。わたし、幸せになれそうだよ。」
ちょうど2500文字。
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