この度は、この物語を手に取って頂きありがとうございます。
もしよろしければ、楽しんでいただければ、幸いです。
それでは。
序章「雪の軌跡」
◆
埃っぽい匂い。
書斎に入るのは久しぶりで、掃除を疎かにしてしまったからだろう。
「けほっ。……くそ、あまり入らないようにしてたのが災いしたか」
しかし、頼まれてしまったものは仕方がない。
後で何か、ご褒美を貰おうと心に決めて、言われた通り、書類整理に取り掛かる。
その時、恐らく本を取り出した時だろう
……ぱさ、と。
とても本とは思えない、しかしチラシほどは軽くない何かが落ちる音。
何かと思い、焦点を合わせればそれは日記だった。
「……これ」
いや、日記というにはあまりにも少ない僅か13ページだけの紙のかたまり。
表紙には2020年、と書かれている。
「懐かしいな」
別に、そう大したことは書いてない。
ただの事実と、3行ばかりの感想が書かれただけの簡素なもの。
しかし、それは思い出すには十分な時間だった。
年代と代物は否が応でも記憶を逆行させる。
「………」
気づけば僕は、その場に腰掛けてゆっくりそのページをめくっていった。
未だに鮮明に思い出せる日々。
あの日以来、忘れたことなんて1度もない。
忘れるはずもない。
忘れるべきではない、忘れることなんてできない記憶。
だというのに、この短い日記の存在はすっかりと記憶から抜け落ちていた。
「そうか」
喉が渇いて、コーヒーを飲む。
1枚1枚、確認するように丁寧にめくっていく。
そのどれもに間違いはないことは分かる。
でも、これを見なければきっともう、思い出すことはなかったのであろう、ということも分かってしまう。
きっと、人はこういう風に忘れていくのだろう。
それは僕も例外ではなく、あれだけの悲劇を、罪ですらも、僕はいつか忘れてしまうのだろうと思う。
◇
虫の声が響く道。
真っ直ぐに歩けば、夜風が体を通り抜けて思わず背筋が震えた。
「……寒い」
冬の入口も、通って久しい12月。
夜はすっかりと冷気を帯びていて、両の手をコートのポケットに隠す。
時刻も既に、深夜の0時を回っている。
都会と田舎を無理やり継ぎ合わせたようなこの街も、昼間の賑やかさを忘れ、すっかり眠りについていた。
……かっ、かっ、と。
冷たい足音がいやに響く。
街灯なんて気の利いたものはない。
遠くで光る集合住宅と、月明かりだけが頼りの夜道。
静かで、寂しい夜。
そんな夜。
僕がこうして、歩くようになったのはどうしてだっけかと、その理由を探してみる。
「もう、2年前か」
それもすぐに、あたりがついた。
というより、元より知っていた。知らないふりをしていただけで。
僕はただ、この行為が彼女に影響されたものだと認めたくなかっただけだろう。
何せ彼女は歩くのが好きだった。
こうして歩く景色全てに彼女の面影を感じてしまう程度には、僕らは、暇があればよく歩いた。
ーー『シヲリ』
だというのに、今となっては彼女の声が上手く思い出せない。
だから。
きっと、僕がこうして歩くのは彼女を忘れないようになのだと思う。
……それとも、僕が彼女を忘れたくないからだろうか。
いずれにしても、あまり変わりはない。
彼女と交わした約束を守るために、僕はこうしてみっともなく足掻いているのだと思う。
……ふわり。
白が肌に落ちる。
見れば、空からは雪が降りてきていた。
ならば。これを機に彼女との軌跡をなぞろうか。
忘れもしない。
2年前ーー2020年12月15日の出会い。
そこから20日からの、たった13日間の物語。
誰も幸せにならない物語。
そして、誰も報われない物語。
「そういえば、あの日も雪が降っていた」
僕はあの日。
魔法使いの少女に出会ったんだ。
◆
ここまで読んでいただきありがとうございます。
序章、これにて閉幕です。
もしよろしければ、ご趣味に合いましたら続きも読んでいただけるうれしいです。
……それと。
恐悦至極に存じますが、可能であれば評価や感想を頂けると私、大変喜びます。
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