朝。いつの間にか居たルシャに驚きながらも、ゆったりとした時間を過ごした2人はそのまま遊園地へと足を運んだ。
◆
見渡す限りの人、乱立する巨大な建築物。
耳を圧迫するような大音量で愉快な音楽。
時刻はようやく10時になろうかというというところ、冬という季節もあって外気は冷たく、せめてものお詫びにと言わんばかりに空は綺麗に晴れ渡っていたが、今はそれすらも憎たらしい。
そして
「うわぁ、凄いわねシヲリ!なんだか楽しそうなところね!早く列に並びましょう。」
僕の横に子供のように目を光らせる、銀髪白眼のお姫様の形をした悪魔が、さらに僕の気を滅入らせていた。
体を後ろに倒して、少女の勢いを止めようとするも勢い止まらず、ゲートの方へと向かう。
「ちょ、そんなに慌てても遊園地は逃げないって。ここまで来たら、もう行くしかないんだから、せめてゆっくり行こう。」
「何を言っているのよ?確かに遊園地は逃げないけど、こうしている間に刻一刻と時間は逃げていいているわ。」
満面の笑み。すきのない反論に僕はもはや黙るほかない。
――2020年12月21日。
あまりにも乗り気ではなかったし、集合場所も集合時間も知らされてはいなかったので、それを理由に当日バックレようとしたところ、どうしてかルシャに家を特定されていたせいで朝からたたき起こされ、こうして遊園地に来る羽目になっていた。
「さ、行くわよシヲリ!」
元々朝が弱い、僕は未だ働かない頭と鈍い体をルシャに引っ張られながら、非日常を売りとするスポットへと足を踏み入れる。
「なにあれ、シヲリ!なんかすごい回っているわ!最初はあれに乗りましょう!」
「っとよっしゃあ!いくか!!!」
突然、声を張り上げる僕にルシャはびくりと肩を震わせる。
「な、なによ急に。」
「え、いや、どうせならもう、最大限楽しもうかなって思ったんだけど。」
もうこうなってしまった以上、何を言っても現状を変わらない。それならば、もういっそ楽しんでしまおうと思ったのだが、どうやらスイッチの入れ方を間違えてしまったみたいだ。
しかしそんな僕を見て、ルシャはおかしそうに笑う。
「やっぱりあなたって変わっているわ。そうね!そうと決まれば早く行きましょう!」
して。
殺してだの殺すだの、物騒なことを言っていた2人は現在、どういう経緯でかテーマパークを楽しむことになった。
それにしても、何がムカつくって、この時間を少し楽しい、と思ってしまっている自分がいることが何よりもムカつくのであった。
◆
「シヲリ、これは何?」
「これは、コーヒーカップだね。あの中に座って真ん中のレバーを回すと乗り物が回るんだよ。」
「はぁ……。それって楽しいの?」
「さぁ?僕もこういうところ来たのは初めてだし、乗ってみる?」
「そうね、何事も経験よね。」
「ちょ、ちょちょ、ルシャ、ストップ!ストップ!もう少し速度ゆるめて。」
「あははははっはははは!これ、凄いわねシヲリ!案外面白いわ!」
右へ左へと、どこにそんな力があるんだという細腕とばかみたいに回したおかげで三半規管をぐちゃぐちゃにされた僕は見事に時間が終ったあと、地面を歩くことはままならず、こけ続ける僕にルシャは大変楽しそうに笑っていた。
「何やっているのよシヲリ、ふざけているの?」
「バカが、お前が無茶苦茶するからだろ、というかなんでお前はそんな平気でぴんぴんしてんだ。」
僕はそう言って、他に調子に乗っていた違う高校の制服を着た男子高校生らしき3人組を指さす、彼らも彼らで3者三様に楽しそうに笑いながら地面をのたうち回っていた。
「本当ね、普通はあーなっちゃうんだ。」
「まぁ、フィギアスケーターとか三半規管が異様に強い人はならないらしいけど……、おぇ、僕らみたいな一般人は気持ち悪くなるまであるんだよ。」
「あははは、シヲリは面白い冗談を言うのね。」
◆
「ここは、あんまりおもしろくないわね。」
入り組んだ使用になっている屋内。
彼女の声に、肩がはねる。
外の愉快な雰囲気とは違って、おどろおどろしい雰囲気が流れるお化け屋敷にもはいった。
「うぉぉぉぉぉおおお!?」
「あははは!!なに?怖いのシヲリ?」
急に出てきた、白装束の女に思わず驚いてルシャにぶつかる。
ここは国内でも有数のホラースポットらしく、
「別に怖くはない!ただ驚いただけだよ、いやぁ、本当にたまにいるんだよな、誰でも急にでてきたらびっくりするだろ?なのにびっくりしただけで、怖がりだとかいうやつ、別に幽霊なんて非科学的だし、幽霊だと騒がれている現象のほとんどが科学で説明できているんだから、怖がるわけないじゃないか?」
「良く喋るわね。」
「うるせぇ。」
人は、追い詰められるとどうやら語彙力失われるらしい。
そしてそんな僕を見て、ルシャは終始、心底楽しそうに笑っていた。
◆
昼ご飯を食べたあと、僕たちは遊園地内でもひと際長蛇に並んだ居る列に入った。
僕は待つということがあまり苦にならないタイプだが、ただでさえそそっかしい彼女の事である、途中でどこかふらふらと消えないかと心配ではあったが、それは杞憂に終わった。
「ねぇねぇ、シヲリ――」
あらゆることに興味を示す猫みたいな彼女は、それこそ、黙ったら死ぬんじゃないかというレベルで会話をふってくれた。
その話のネタの中では、常識ともいえるようなことを聞かれたりと、彼女の新しい一面をしることもできて個人的にもかなり面白かった。
そんな彼女の様子がおかしくなってきたもは列に並んで30分がしたところ。もうあと数回待てば自分たちの番というところで突如として
「ね、ねぇシヲリ?やっぱりあっちの乗り物の方が面白そうだわ。」
なんて言い始めたのだ。
「そう?まぁ確かにあっちも楽しそうだし、これ終ったあとはあれいこうか。」
「…………え。いや、そういうことじゃ。」
乗り物が近づいてきて、かなり上の方からガラガラとけたたましくレールを下る音と甲高い悲鳴が聞こえてくる。
先まで凄い楽しそうにしていたのに、一体なにがあったというのか。しかしここまできて、別の場所にいくのはなんだかもったいないので、そのまま列を進んでいく。
次第に彼女の顔色はどんどん悪くなっていき、いよいよ次にはのれるだろう、というところで、彼女はキャストさんに話しかけられる。
「あ、ごめんささいお客様。ジェットコースター中、もし万が一ということがあるので、こちらのゴムで髪の毛を縛ってもらっても大丈夫ですか?」
「……あの、この乗り物本当にだいじょうぶなのかしら?」
突如として変なことを聞くルシャに、キャストさんもぽかんと口を開く。
「だって、あんな高いところから、こんな重い乗り物が、あんなに早く、宙に放り出されたらさすがの私でも、死ぬわよ?い、いやよ、わたしこんな死に方。」
「え、あ、あぁ、大丈夫ですよお客様。このテーマパークが始まって以来、当ジェットコースターは事故どころが不具合もでたことがございませんので、安心してスリルを楽しんでくださいませ。」
キャストさんも、忙しいのだろう。ゴムだけ渡して、持ち場に戻っていってしまった。
「一度も事故もないって、それってただの前例がないってだけよね?安全性の保障になってないじゃない。だって、所詮は物体よ?なにがあるかもわからないし、見るところ魔術的な付与をも強化もされていないし……。」
ぶつくさぶつくさと、先までの元気はどこへやら。ずっと何かを呟くルシャに僕は、ようやく合点がいく。
「あぁ、怖いのか。」
そういう僕に、ルシャはすごい剣幕でこちらを振り向く。
「そうよ怖いわよ!?悪い!?だっておかしいじゃない、こんなの人が乗る乗り物じゃないわ!スリルが味わいたいというなら、後でいくらでも味合わせてあげるからこの乗り物は止めましょ?」
ね、シヲリ?
とこちらを見るルシャは、どうみても女の子のそれで、非常に可愛らしく映った。
出会ってから首を閉めさせられたり、殺すと脅されたり、血まみれになっていたりと、そんな姿しか見てこなかったから、違う生き物かのようにおもっていたが、こうしてみるとただの人間の女の子なのかと安心する。
そして、これまでのことを思い出し僕は髪をくくる僕に、優しくいってあげた。
「うん、無理。」
順番はいつの間にか僕たちの番になっていて、一番後ろの席へと案内される。もちろん無理なのは順番が来たというのもあるが、これは僕からの少しの仕返しで、それが主な理由であるというのはもちろん内緒だ。
しかし、それが後に後悔することになるとは、この時の僕は知る由も無かった。
◇
がっしりと、安全シートを掴むルシャを横目に笑う。
「いってらしゃーい」
というキャストの合図と共に、動き出した乗り物はそのままに、間もなく頂上かというところまで等速運動を続けていた。
がらがらと不穏な音を立て、ゆっくりと、しかし確実に。そして頂点まで達しようかというときに、その動きを一度止める。
「む、無理よ、やっぱり無理。こんなの絶対死んじゃう。お、降りる!やっぱり私降りるわ、ねぇ、シヲリこの拘束どうやってとるの!?ぇシヲリってば!!!」
「あはは、無理だよ、もう無理。それ絶対に取れないようになってるから。」
「じゃあ、壊すわーー」
なんて、不穏な声が横から聞こえてきて一瞬冷や汗をかいたが、タイミングよくガコン、と何かを外す音が耳に届く。
次第にゆっくりと車体は傾き
「むり、むりむりむりむりむりりむりぃぃぃぃいいいいいい!」
ひときわ甲高い叫び声が僕の横で響いた。
◆
どうも藍間です。こんにちは。
遊園地回、読んでいただきありがとうございます。
お化けが苦手なシヲリ君、ジェットコースター苦手なルシャ。どちらも可愛くていいですね。ところでシヲリ君はかなりいい性格をしているようです。
閑話休題。
もしこのお話が『面白い』『続きが気になる』と思っていただけました、是非とも感想や評価をください。
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