蒼雪の魔術姫   作:藍間道逸

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◆前回までのあらすじ
 遊園地に来た二人は、15日の夜のことも、魔術だの、契約だの、そんなことを忘れて思う存分遊園地を楽しんでいた。


第2章 3日目「非日常」 急節「帰り道。」

◆

 

「ねぇ、あの男……」「うわぁ、女の子可哀そう。」「わざわざなんでこういう楽しいところきて彼女泣かせるんだろ。」「助けに行った方がいいかな。」

 

 ジェットコースターが終りすぐ横のベンチにて、周りの眼が突き刺さる中、僕は必死にルシャをなだめる。

 

「ご、ごめんてルシャ?まさか、そんなに怖がるとは思ってなかったんだ。」

「わたし、嫌って言ったのに、乗る前に嫌って言ったのにぃ。」

 

 両手を手で覆い、悲しそうに泣き続けルシャ。

 確かに、明らかに言われていたのでこちらとしてはぐぅの音もでない。

 しかし、まさかここまで号泣するとは思っていなかったのだ。こちらとしては今までの仕返しくらいのつもりだったのだが、こんなことにならなら大人しくやめておけばよかったと後悔する。

 

「お、落ち着いた?ご、ごめんよ?大丈夫そ?」

 

 こういう時、一体どういう対応が正解なのか分からず、客観的に見て滑稽にみえるほどうろたえながら背中をさする。

 ルシャはずぶ、と鼻をすすりながら

 

「うん。」

 

 とだけ答えた。

 

「もう、あの乗り物には絶対に乗らないわ。」

「そ、そうだな。もうやめような。……あ、あれだ、喉乾いただろ?僕何か飲み物買ってくるよ、ルシャはここで待っててくれ」

 

 確か、ここから3分ほど歩いたところに売店があったのを思い出し、僕は便利から腰を上げる。

 

「私も行くわ。」

「いや、いいよ、すぐに帰ってくるから。ほら、ちょうどそこに看板があるから、次どの乗り物に乗るか考えて休んでてくれ。」

「…………分かったわ。」

 

 とりあえず、空気のリセットをしたっかた僕はそうルシャに言い聞かせ、いったんその場をはなれることにした。

 

◆

 

 両手に、飲み物をもらってルシャの元へと急ぐ、元気な店員さんの「ありがとうございましたー」という声が背中に届く。

 ルシャが何を好きかは分からないので、無難にコーラを選んだ。僕は甘いものが苦手なのでいつも通りコーヒーを。

 

「……しっかし、まさか普通に遊園地を楽しむことになるとはな。」

 

 先程のルシャの泣き顔を思い出し、申し訳ない気持ちになりながらも少しだけ笑える。

 魔術士という、異色な世界にすむ人間も当たり前だがジェットコースターに乗って涙するのが、少し新鮮で面白かったからだ。

 

 ――針が動く音がする。

 

 時刻はもう3時を回ろうかというところ、あともう1時間もすれば夕暮れが顔をのぞかせるころだろう。暖かさのピークは既にこえ、厚着をしてもなお、少しだけ肌寒い。

 しかし、遊園地はまだ眠気を覚えることはなく、今も尚、縦横無尽に、それこそ隙間なく不規則に、無秩序に人が入り乱れている。

 

「……君か。」

 

 レンガを模した石畳を踏む中、耳元で小さく確かにそう聞こえた。

 いつか、感じたような怖気が背中にはしり、後ろを振り返るもそこにあるのは必然、人の波だけで何もない。

 

 ――かち、かち。

 ゆっくりと、それでも確かに。

 

 僕はこの時、忘れていたのだろう。彼女に関わるというその意味を。いや、それはあまりに無責任な言い方か、僕はこの時、彼女が魔術士であるということを意識するのを避けていたんだ。

 それほどまでに、僕はこの時間が楽しい、とそう思ってしまっていたから。

 

◆

 

 それから遊園地の閉園時間まで、僕らは目いっぱいに遊びつくした。

 僕とルシャはあまり相性が良くないのか、すぐに何かと言い合いにある。それでも、時折笑いながら……、いや、今思い返すと逆か、ほとんどが笑っていた気もする。

 最後にはルシャがどうしても、というので観覧車に乗り、そして終わるころには退園願いのアナウンスが流れ始め、僕たちは帰路についた。

 

「そういえばシヲリ。」

 

 帰りの電車、人は思ったよりいなくて余裕のある座席に二人で腰を下ろし、電車に揺られる。

 

「何さ。」

「私とシヲリが出会った時のこと、覚えてる?」

「忘れるわけないだろうあんな最悪でおかしな出会い、まさか初対面の君に、あんなことを言われるとは思ってもいなかったから。」

 

 すいているとはいえ、電車内あまり過激なことを言うと注目を集めると思い、言葉を濁す。

 しかし、どうにも話が噛み合ってなかったらしくルシャからは違うと否定される。

 

「そうじゃなくて、本当に最初も最初よ、私を初めて見たときのあなた。」

「え、あぁ。まぁ、そうだね怖くて逃げだしたけど、あれも同じく忘れることは出来ないよ。」

「ずっと、気になってたことがあるの。」

 

 電車は何個かの駅を通過して、ずっと揺れている。

 僕らはただ静かにお互い前を見た状態で、お互いが聞こえる程度の音量で話していた。

 

「え?」

 

 だから、それは聞き間違いだと思ったんだ。

 

「だから、あの時、どうしてあなたは泣いていたの?」

 

 それは身に覚えがないことだった。何せ、あの時は本当に感覚がなくなるほど外は冷たくて、頭がどうにかなってしまいそうなほど僕は、何かに侵されていた。

 でも、そうか、あの時僕は泣いていたのか。きっと彼女は嘘をついてはいない。見ていないけど、それは分かる。

 あの時、本当に僕は涙を流したのだろう。

 

「……さぁね」

 

 しかし、その涙の理由は僕には分からない。

 それでもそれは嘘偽りない僕の本心だった。僕らは間違いなく初対面のはずだった。顔も知らない、声も聞いたことない、どんな人間かも知らない。それどころか、あの時僕はルシャをみて人間かすら疑ったほどだ。

 隣に座るルシャがそれを聞いて何を思ったかは知らない。依然としてルシャもただ前を向いたまま、もしかしたら目を瞑っているのかもしれない。

 ただ一言

 

「そう。」

 

 とだけ、返した。

 

◆

 

 帰り際、駅から降りたところで、ルシャは僕に言う。

 

「今日は、楽しかったわ。」

「そうか、それならよかった。」

 

 契約とはいえ、その事実を忘れてしまうほどには、いつの間にか僕もルシャとの時間をこの時に気づく。

 

「また、明日ね。」

「明日も来るのか?」

 

 そういうと、ルシャはムッと眉を寄せる。

 

「当り前じゃない。契約は契約よ。いやだというなら――」

 

 ゆっくりと近づいてくる、ルシャ。

 ルシャは僕の手を取って、自身の胸に当てる。

 生唾を飲む。

 

「今すぐにでも、私を殺してくれてもいいのだけれど。」

 

 ――トク、トク。

 心臓が揺れているのがわかる。

 

 それは、当初の夜から変わらない彼女の願い。

 そうだった。彼女の願いは最初からそれだけだった。

 でも、

 

「それは、出来ないって言ってるだろう。」

 

 それだけは、したくない。

 

「僕が悪かった、ちゃんと契約を果たせるように頑張るよ。」

「ふふ、わかればよろしい。」

 

 語尾に音符でもついてそうな軽快な調子。

 この日は、この会話を最後にルシャと別れた。

 

◆

 




 どうも藍間です。こんばんは。
 第二章三日目、これにて終了です。読んでいただきありがとうございます。
 シヲリ君は、やっぱ少し変ですね。

 閑話休題。 
 もしよろしければ、感想評価、その他、ここよく意味わからないとか、そういった意見もございました、私にいただける大変うれしく思います。
 良ければお願いします。

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