ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
最近は投稿頻度が落ちておりますが、ところどころ修正しているためです。物語自体は既に完結しているので、安心してください。
それでは。
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「ここ、は?」
激痛が走る体を我慢して、私は何とか上体を起こす。
知らない部屋。
頭を抑えて、どうしてここに居るのかを思い出す。
「確か、私は先輩を追って、それで」
それで……。
そこで完全に記憶が途切れていた。
覚えている最後の光景は、氷のように冷たい少女が先輩に手をかけているところまで、
「痛ぅ……。」
少し動かすだけで、全身を刺すような痛みが走る。
それでも、痛みに呻きながらもベットから下りて、部屋の外を出る。
冷たい空気。
音沙汰のない空間。
下手のところに触れないように、私はこの屋敷の主人を探して、長い廊下を抜け、中央の階段を降りる。
幸い、コーヒーの香りがここまで漂ってきているため、目的の部屋はすぐにわかった。
そして、足を引きずりながら私は部屋の扉を開く。
「やはり、貴方でしたか……。」
噂には聞いたことがある。
逆にいえばそれくらいしか記録が残っていない、詳細不明、指名手配中の魔術師。
それが、どうしてこんなところに、とは思うが今はそれどころではない。
「む。もう、起きたのか、やはり回復が早いな、流石怜染家。相変わらず気色の悪いことをしている。」
いくつかの選択肢が、脳内をよぎる。
さて、このムカつく嘲笑を浮かべた女をどうしてやろうかという鬱憤を余らせて、あまりの自分の置かれた状況の悪さに思わず冷や汗がでた。
◆
目の前に置かれたコップを一瞥して、私は呑気にコーヒーに口をつけている魔女に目を向ける。
「おや、飲まないのかい?心配しなくても毒なんて入ってないぞ?」
「でしょうね。毒なんて盛る必要がないですから。」
「人聞きの悪い。じゃあ何か?コーヒーが口に合わないか?砂糖やシロップならそこのバケットに入ってるから好きに使うと良い。」
「単刀直入に聞きます。私の体に何かしましたか?」
「会話をしよう怜染家の娘。それで生憎、私は珈琲党でね。紅茶は持ち合わせていないんだ。他のものでよければ冷蔵庫に入ってるから好きなものを持ってくるといい。」
あくまで飄々とした態度を崩さない女。
「結構です。私はそんなことをしてる場合じゃーー」
「聞こえなかったのか?私は、何か飲みながらゆっくり話そうと、そう言ったんだ。」
傲慢な態度。
有無を言わさない言動。
ギリ、と歯を噛み締める音が口内で響く。
……これだから、魔術師は嫌いなんです。
◆
「それで、私の体に何か細工はしましたか?」
用意し終えたお茶をテーブルに置いて、私は本題を切り出す。
「……はぁ。君、友だちいないだろう。」
「余計なお世話です。」
「否定しないんだな。」
「いないんじゃなくて、いらないんです。友だちなんて必要ありませんから、作らないだけです。」
「いない人は、皆そう言うんだな。」
どことなく人を馬鹿にしてるような口調に、思わず暴れ出しそうになったが、決死の思いでグッと堪える。
半年前までの私だったら多分堪えることができなかっただろう。
「ていうか、そんなことどうでも良いんです――」
「あぁ、分かったわかった。全くせっかちだね、最近の若者は。いや、若者は得てしてせっかちなものだっけか。……まぁいいか。分かった。君の質問に答えるよ。」
やれやれと、頭を振る魔女。
ようやく本題に、という疲労感と、どうして私が呆れられなければいけないのかという納得のいかなさに、よけい腹が立つ。
魔女はゆっくりとした所作で、コーヒーを注ぐ。
私も私で、起き抜けで何も飲んでいなかったため、湯呑に口をつける。
「……それで。」
一体何度目かの質問。
しつこいとは、自分でも思うが何をしでかすかわからない人間の所に一晩寝ていて、自分の身が心配ではない人ななんていないだろう。
「君の体に細工をしたかどうか、だっけか。」
「はい。」
「それに関して、私は答えることは出来ない。」
「は?」
「だから、その問いに対して私は答えることはできないと言っているんだ。君の体に、何かしたかもしれないし、何もしてないかもしれない。」
「そんなふざけた……」
回答は許容できない、と言いかけたところで、私は思わず口をつぐむ。
「ふざけた?」
それは目の前の存在に、私が恐怖を覚えたからだ。
「君が今、私にふざけたといったのか?」
「それが、何か?イエスかノーで答えてくださいと聞いている中で、沈黙を選ぶ人間をふざけたといわず、なんといいますか。」
「人の子に馴れ馴れしく近づいておいて、害を及ぼして、挙句の果てに殺そうとしていた人間に、それを言われ筋合いが、どこにある?」
顔から血の気が引いていく。
喉が水分を欲しているが、ここで臆した態度をとるわけにはいかない。
「もとはと言えば、あなたがあの遺産を横取りしたからでしょう?あれは、元あるべき場所に返す必要があります。」
それが、私の使命。
私だって、殺したくて殺そうとわけではない。それが先輩なら猶更だ。
だから、私はこの人が嫌いだ。
私に先輩を殺す理由を作ったこの人が、私は許せない。
……もちろん。
その命令に逆らうことのない自分はもっと嫌いなのは、言うまでもないが。
「元あるところに返す、ね。」
私の言葉を、反芻して繰り返す魔女。
「何か、間違いが?」
「いーや?その言葉自体に間違いはないよ。あれは、元来は別の目的で作られたものだ。もっとも今となっては、その役割だけが残っているわけだが。」
「一体、何を。」
「だから、そこだけは間違いってないと言っているんだ。」
それは、どこからか生まれた勘違いか。
「はい?」
「はぁ。これも日ごろの行いかな。私も少しは反省するところがあるかもしれないね。」
「一体何を。」
「だから、あれを盗んだのは私ではないと言っているんだ。」
◆
「盗んだのは貴方じゃないって……どういうこと?」
「どうもこうもない。言葉のままの意味だ。君は私がアレを盗んだ犯人だと思っているが、犯人は私ではない。」
視界が、ぐらり揺れる。
それはおかしい。それだと辻褄が合わなくなってしまう。
「それをどうやって信じろと言うんですか。」
「ま、それもそうだな。私が君の立場でも信じることはしないだろうよ。」
「潔白を証明できますか?」
「悪魔の証明だな。それなら、先に君が盗んでないことを証明してみろ。」
「屁理屈です。」
「だが事実だ。」
認めがたい現実に、思わず頭を抱える。
じゃあ何か、ここまで、この町で起きている全てが偶然だとでも、この人は言いたいのか。
そして何より…
「……じゃあ何でアレが先輩と一緒にいるんですか?」
「だから、それを私に聞かれても困る。むしろ私が知りたいまであるよ。君に分かるか?形だけとはいえ、家出したと思った一人息子が何の連絡もなく帰ってきたと思えば、都市破壊レベルのものを持ってきた私の気持ちが、」
魔女は、こめかみに手を当てため息をはく。
私に、人の真実を見抜く力はないものの、それは嘘をついているようには見えなかった。
「すべてが偶然だとでも言うつもりですか?」
真っ直ぐに私は魔女を見る。
魔女は魔女で
「はぁ、」
と。
二度目のため息をついて私を見る。
「まぁ、言いたいことはわかる。
偶然というにはあまりに出来過ぎで、しかし、必然というにはあまりに非現実的だ。」
言っていることはわかる。
それと、嘘くさい喋り方ではあるが、その内容に偽りがないことも。
その認め難い事実に私は思わず頭を抱える。
「私に、どうしろと言うんですか。」
気づけば私の口からは、弱音が零れていた。
上からは、殺してでも奪えと言われ。
しかし奪うにはアレの所有者が見つからない。
そして、直接行くのは、あまりに相手が悪い。だから何としても所有権をこちらにうつす必要があったのだが、どうやらそれも無理らしい。
「何もしなくていい。心配しなくても、年が明ける頃には全てが終わるさ。」
「何を根拠にそんなこと。」
「これに関しては、私を根拠にしていいいぞ。もしそうならなかったときは……そうだな。この私が、君の願いを1つだけ無償で受けるとでもしよう。」
魔女はゆっくりと、紫煙を燻らせて席を立つ。
もう終わりだ、と言外に伝えて
「だから、君はこれ以上シヲリ君に何もするな。
これが、君を助けた対価だ。」
最後にそれだけ行って、部屋を出た。
◆
自分の部屋。
遠くの方で玄関の開く音と、次いで、閉まる音。
席について、タバコを練り消す。
「はぁ、まったくシヲリ君は……。」
あれは、彼の性格故なのか、それとも行動が原因なのか、ともかく彼は厄介なものに目をつけられやすい。
「あぁいう子が、好みなのかねぇ。」
だとしたらそれは、自分の教育ミスだったかもしれないと、降りかかるストレスを消すように、また煙草に火をつけた。
◆
マミさん、可愛い。
マミさん素敵。
マミさんと結婚したい。
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