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夢を見るときは、決まって同じ夢だった。
蒼くて綺麗で、寂しい夢。
この夢をみるようになったのは、いつからだっただろうか。
そう、記憶を逡巡させれば、明確な日にちまではもう思い出せないが、間違いなく10年前――マミさんに拾われる前後だったことは今でも覚えている。
忘れもしない。
忘れたくとも忘れられないあの地獄のような1ヶ月。
今から10年前、あれは暑い夏の日だった。
僕は、僕という自我をその時初めて認識した。
……記憶が、なかったのだ。
どうしてここにいるのか、今が何時で、ここが何処なのか……自分の名前すらも、思い出せなかったあの夏の日。
苦しかった。
辛かった。
亡くした記憶が、もう戻ることはないと言われたときは少しだけ、寂しかった。
だけど、そこまで頓着していない自分に、もっと寂しく感じた。
だって、そうだ。
僕にあるのはどうやら記憶があったらしいという情報だけ。
僕は僕だ。
でもどうやらこれまで、僕じゃないボクがこの世界にはいたらしく。それが当たり前らしくて、それこそが自然であったずで。
そう思うと、自分がどうしようもなく不必要な存在に思えて――。
そんな、夏の日だ。
僕の前にマミさんが現れたのは。
『やぁ、君がシヲリ君かい?……随分虚っぽなんだね』
なんて。
人の神経を逆なでするような声は、今でも忘れない。
『誰ですか?貴方は。』
『私?私は――魔法使いだよ。』
にやりと笑みを顔に張り付けた女性。
しかし僕は。
そんな胡散臭い女性に、魔法使いにあの夏、救われ、拾われた。
夢を見るようになったのは、その時くらいからだ。
あの日々以来、僕はいつもこの夢を見る。
――トン、と足元から波紋が広がっていく。
この青すぎるほどに蒼い、この夢を
マミさんは言っていた。
『夢を脳が記憶の整理のために作る映像作品だ』と。
なれば、これは記憶か。失われた記憶の一部か。
どれだけ荒唐無稽な世界だろうと、いくら支離滅裂な展開だろうとそれは夢であるから当たり前といえば当たり前で、それは脳内に存在する雑多な情報や知識をちぐはぐにくっつけているからであると。
しかし夢であるなら確実に元はないといけない。
いくらつぎはぎだらけであろうと、そのピースは既知のものでなければいけない。
見たことがないものは見れない。
聞いたことがない声は聴けない。
経験したことがないことは行えない。
それが絶対不変の夢のルールだとも。
でも。
それでも、どうしてか僕にはこの光景を見たことがないという確信があった。
この声を、僕は聞いたことがないはずなのだ。
この肌に、僕は触れたことはない。
断言できる、これは僕の記憶の外に在るものだ。
なのに。
それなのに、どうして僕はこんなにも……
「シヲリ、私を■■て。」
……こんなにも、悲しいと感じるのだろう。
歯車は、この時噛み合った。
ぐるぐると動き始める。
ゆっくりと、しかし確実に、もう止めたままにすることは出来ない。
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